死体と間違えるな!
「あれぇ〜、なんでこの死体だけ燃えてないのよ!汚ったないわ。さっさと燃やすわよ」
遠くから微かに声が聞こえる。女の声だ。甲高い声で元気に満ち溢れている。第10エリアではまず聞かない声音だ。姿を見ようにも力が出ず、指一本も動かせない。
「お嬢様、こちらの死体は他のものとは様子が違いますよ」
こっちはドスのきいた男の低音だ。
「なんだっていいわよ。さっさと火をつけてやりなさい」
「しかし、、、服が全然違います。着ている服は布切れ一枚ですよ。体もこんなに痩せている」
「ほんとね。気味が悪いわ。いずれにしても死んでるに違いないわ」
女は声をどんどん張り上げていく。
「これは何かしら事件かもしれません。燃やさずに報告したほうがいいのでは」
「ダメよ!仕事が増えるだけだわ。死体にこれ以上仕事を増やされるのはまっぴらごめんなの。もう貸しなさい!私が燃やすから」
体に向かって熱源が近づいてくる。
「息をしているんだぞ。体が動いているだろう。もっと観察しろよ。いやいや流石にわかるだろう。これは俺の様子を見るための演技だろう。そろそろ助けてくれてもいいはずだ。ほらさっさと俺の体をゆすって声をかけてくれよ」とケンは心の中で呟く。
するとその熱源はスピードアップして、うつ伏せに倒れているケンの背中へ一直線に直撃した。
「あッつつつつつつつつつつつつつぅぅぅぅ!!!!」
力尽きたはずのケンは絶叫していた。
「お前、ありえねぇだろう!普通に息してるだろ。よく見ろよ。背中にモロ火つけるやつがあるか!」
反射的に起き上がった。まだこんな元気が残っている自分に驚きだ。
「知らないわよ!そんなところで寝ているあんたが悪いんでしょ。気持ち悪いから話しかけるな、カス!」
そこにいたのは黒髪短髪、吊り目でいかにも気の強そうな女がいた。女にしては身長は高く、ケンと170センチ近くある。第10エリアでは見たことがないデザインの服を着ている。布もケンが身につけているものに比べて厚さがある。ズボンは黒。手には松明を持っている。年齢はケンよりも3つほど上だろうか。
隣には身長190センチで筋肉隆々の巨漢が立っている。白髪混じりで手には杖を持っている。と言っても杖がなくても何不自由なく歩けるだろう。体格が良く、姿勢もいい。差し詰め、隣の女の教育係だろう。
「お嬢様が失礼しました。お身体は大丈夫でしょうか?ところであなたはここでは見かけない格好をしていますが、どこからきたのですか」と巨漢がいう。
「まともな人がいてよかった。まぁ体は大事には至ってないです」
女を睨みながら大声で言ってやった。
「私は第10エリアから来ました。もう5日も飲まず食わずで歩き、力尽きていたのです」
「何よ!第10エリアなんてあるわけないじゃない。ホラ吹き!」
女が喚き散らす。
「うるさいなぁ。お前に話しかけてねぇんだよ」
「第10エリアとは。本当にあるのですね」
「えぇ、ありますよ。あれ、みなさんご存知ないんですか?」
「噂話程度かと思っていました。何せ、ここから先は畑が延々と続きますから。誰もこの先にはいきません」
「そうよ!あなたみたいな人間に会うことはまずないわ。仕事の邪魔だからとっとと失せなさい」
「お前なぁ。『燃やしてごめなさい』とかないのか?隣の方から頂いたが、まだお前から聞いていないんだが」
「死ね!!」
そういうと女はそっぽむいて、歩いて死体の方へ行った。
「申し訳ありません。私のお嬢様が失礼なことをしました。親を失い、荒れておるのです。どうかご勘弁を」
「おじさんに免じて許します」
ここで争いをしても意味がない。何も知らない土地だ。情報収集が必要だ。こんなところで敵を作ってはこの先詰む。
「ところで貴方達のお仕事とは何でしょう」
巨漢の顔に一瞬ためらいの表情が出た。ただ彼もまた「ここで争っても仕方がない」と言わんばかりに顔の表情を整え、口を開いた。
「我々は罪人です。ここでは罪を犯した罰として、死体の処理をしております」




