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東奔西走  作者: 皐月
幸せの国、第9エリア

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5/11

死体と間違えるな!

「あれぇ〜、なんでこの死体だけ燃えてないのよ!汚ったないわ。さっさと燃やすわよ」

遠くから微かに声が聞こえる。女の声だ。甲高い声で元気に満ち溢れている。第10エリアではまず聞かない声音だ。姿を見ようにも力が出ず、指一本も動かせない。


「お嬢様、こちらの死体は他のものとは様子が違いますよ」

こっちはドスのきいた男の低音だ。

「なんだっていいわよ。さっさと火をつけてやりなさい」

「しかし、、、服が全然違います。着ている服は布切れ一枚ですよ。体もこんなに痩せている」

「ほんとね。気味が悪いわ。いずれにしても死んでるに違いないわ」

女は声をどんどん張り上げていく。

「これは何かしら事件かもしれません。燃やさずに報告したほうがいいのでは」

「ダメよ!仕事が増えるだけだわ。死体にこれ以上仕事を増やされるのはまっぴらごめんなの。もう貸しなさい!私が燃やすから」


体に向かって熱源が近づいてくる。

「息をしているんだぞ。体が動いているだろう。もっと観察しろよ。いやいや流石にわかるだろう。これは俺の様子を見るための演技だろう。そろそろ助けてくれてもいいはずだ。ほらさっさと俺の体をゆすって声をかけてくれよ」とケンは心の中で呟く。


するとその熱源はスピードアップして、うつ伏せに倒れているケンの背中へ一直線に直撃した。


「あッつつつつつつつつつつつつつぅぅぅぅ!!!!」

力尽きたはずのケンは絶叫していた。

「お前、ありえねぇだろう!普通に息してるだろ。よく見ろよ。背中にモロ火つけるやつがあるか!」

反射的に起き上がった。まだこんな元気が残っている自分に驚きだ。

「知らないわよ!そんなところで寝ているあんたが悪いんでしょ。気持ち悪いから話しかけるな、カス!」


そこにいたのは黒髪短髪、吊り目でいかにも気の強そうな女がいた。女にしては身長は高く、ケンと170センチ近くある。第10エリアでは見たことがないデザインの服を着ている。布もケンが身につけているものに比べて厚さがある。ズボンは黒。手には松明を持っている。年齢はケンよりも3つほど上だろうか。

隣には身長190センチで筋肉隆々の巨漢が立っている。白髪混じりで手には杖を持っている。と言っても杖がなくても何不自由なく歩けるだろう。体格が良く、姿勢もいい。差し詰め、隣の女の教育係だろう。


「お嬢様が失礼しました。お身体は大丈夫でしょうか?ところであなたはここでは見かけない格好をしていますが、どこからきたのですか」と巨漢がいう。

「まともな人がいてよかった。まぁ体は大事には至ってないです」

女を睨みながら大声で言ってやった。

「私は第10エリアから来ました。もう5日も飲まず食わずで歩き、力尽きていたのです」

「何よ!第10エリアなんてあるわけないじゃない。ホラ吹き!」

女が喚き散らす。

「うるさいなぁ。お前に話しかけてねぇんだよ」

「第10エリアとは。本当にあるのですね」

「えぇ、ありますよ。あれ、みなさんご存知ないんですか?」

「噂話程度かと思っていました。何せ、ここから先は畑が延々と続きますから。誰もこの先にはいきません」

「そうよ!あなたみたいな人間に会うことはまずないわ。仕事の邪魔だからとっとと失せなさい」

「お前なぁ。『燃やしてごめなさい』とかないのか?隣の方から頂いたが、まだお前から聞いていないんだが」

「死ね!!」

そういうと女はそっぽむいて、歩いて死体の方へ行った。


「申し訳ありません。私のお嬢様が失礼なことをしました。親を失い、荒れておるのです。どうかご勘弁を」

「おじさんに免じて許します」

ここで争いをしても意味がない。何も知らない土地だ。情報収集が必要だ。こんなところで敵を作ってはこの先詰む。

「ところで貴方達のお仕事とは何でしょう」

巨漢の顔に一瞬ためらいの表情が出た。ただ彼もまた「ここで争っても仕方がない」と言わんばかりに顔の表情を整え、口を開いた。


「我々は罪人です。ここでは罪を犯した罰として、死体の処理をしております」

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