終わりが見えない
扉を閉められ、一人だけになった。第10エリアの騒音が一気に消えた。前を見ると、生まれてから一度も見たことがない光景が広がっていた。
辺り一面が緑に覆われている。左も右、見渡す限り緑だ。横一列に綺麗に植物が並んでいる。ケンが立っている道の両脇に柵が備え付けられている。柵には看板が等間隔に貼り付いている。看板にはこう書かれていた。
「侵入厳禁」
道はまっすぐ伸びており、道に沿って植物の集団も伸びている。空は快晴だ。緑と青のコントラストが美しい。第10エリアでは灰色と青しか見たことがなかった。緑といえば、ゴミの隙間に生えている雑草ぐらいだ。
人は一人も見当たらない。建物もない。街と思わしきものも見えない。美しさに見とれていたケンの頭は突如、不安に襲われた。
「このまま何日も街がなかったらどうしよう」
「食い物はどう確保する」
「畑のものは食べられるのか」
「何日歩かないといけないんだ」
額から汗が滴り落ちる。呼吸が荒くなる。衛兵の不気味な笑顔はこれを見越してのことだったのだろうか。ケンは突然、走り出した。視界に入っている一番遠い道の先端を目指して駆け出す。道は平坦だ。地面も整えられているのだろう。凹凸がなく走りやすい。空気も澄んでいて、走ることが心地よく感じるほどだ。
しかしどれだけ行っても同じ景色だった。後ろを見ると第10エリアと第9エリアを分断する壁と関所が小さくなっている。ただ前を見ると最初に見た光景と一緒だ。
そこから日が暮れるまで歩いた。夜が訪れても歩みを止めなかった。獣が出る様子もなく、あたりは静まり返っている。ためしに大声で叫んでも、なんの反応もない。第9エリアに人は住んでいないのか。そうした疑問が常に頭によぎる。それでも歩き続けた。
朝が来た。太陽が地面を照らすとき、期待を込めた。少しでも希望が見えてくれたらいい。小さな街、一軒の小屋、人が1人。なんでもいい。何か新しい景色が広がっていてほしい。ただ光は無情にも同じ景色を照らしたに過ぎなかった。
5日経った。頭が狂いそうだった。痩せこけた体に長距離移動は堪える。視界が霞んでいる。ケンは生死を彷徨っていた。特に夜中は孤独に押しつぶされそうになる。
「次、太陽が出ても同じ景色だったら諦めて死のう」
そう誓った。目の前から太陽が現れた。少しずつ世界が見えてくる。ケンは手を合わせた。力強く。そうすると小さく煙が見えた。
走り出す。あとのことは気にしない。全速力だ。必死に走った。命が尽きかける状態にもかかわらず、懸命に走り続けた。煙がどんどん大きくなる。発生源は植物に隠れて見えない。それでも走り続けた。
そうして煙の出所まで着いた時、ケンが目の当たりにしたのは燃え盛る死体の山だった。永遠と続くと思われた景色に終わりが見え、安堵したケンは力尽きて倒れ込んだ。




