身支度
託されたお金。それは全部で1万2000Zほどだ。第10エリアでの生活費は月100Zほどだ。ほとんどの人間が食事は自給自足で賄っている。第9エリアへつながる関所には売店もあるが、法外な金額を取られる。第9エリアの住民からしたら大したことがない品でも、ここでは貴重な品だ。かなり割高な金額を設定しても、買える人は飛びつくっていうことだ。
全部で9つある関所は通行料を徴収している。上から下に降りてくる分には無料だが、下から上に向かうにはそれぞれかなりの額を取られる。第10エリアから第9エリアへ向かうには一人当たり1万Z。仕事もなく、稼ぐ手段が限られている俺たちにとってはとてもじゃないが、払える金額ではない。そんなお金が今包みに詰まっている。
「どうしたもんですかねぇ。これを安全に関所まで持っていくにも一苦労ですよ」
「ちゃんと俺たちもついていくから、心配するな。それより必要なものを揃えて、やり残したことがないようにしろよ」。タケがウインクしながら、肩を叩く。こういうところはキザを気取っていて、気に入らない。
「ついていくったて、タケさんより強い俺を守れるんですか?」
「いうようになったじゃねえか」
集会所を抜け出して、自宅に戻る。思い返してみれば、妹を失ってからは火も炊かず過ごしていた。妹のベッドもそのままにしている。当時愛でていたぬいぐるみ、履いていた草履、全てがそのままだ。何も悪いことはしていない。この土地に生まれてしまっただけだ。それだけでこれほどの理不尽を背負わされている。この第10エリアが世界の全てならまだ受け入れられる。だがそうではない。この世界は異質で、他の大多数が俺たちよりも豊かな生活をしているのだ。怒り頭の先から自分の顔を覆うのが感じられる。
「ケン、ここでそんなに激憤しても何も始まらない。それにお前、手は大切な武器なんだ。血が出るほど拳を握るな」。タケは家の外から心配そうにケンを眺めていた。手には木刀がある。
「これをお前に渡す。入行料以外にほとんど用意できない俺だ。あとお前にあげられるのはこれしかない」
「これを失ったらどう生きていくんだよ、タケさん」
「何、心配するな。そのうち新しいのを作る。それに俺には両手がある。この住民で両手を持っているだけで幸運なんだぞ。お前はまぁ、さらに運に恵まれているから。なんていったって神からのご加護があるからな」
「こんなもの、なんの役にも立ちませんよ」
この世界には道理に合わないことが多い。その一つが俺が授かった力だ。この力は妹を取られ時に身につけた。神に祈った。
「西の奴らを一撃で殺せる力をください」
強く、強く、彼らが苦悶に満ちた表情を見せる光景を思い浮かべた。自分の全てを捧げる覚悟を固めて、頭を地面につけて。
その日の晩、高熱にうなされた。皆、妹を攫われたショックのストレスから出たものと考えていた。意識が朦朧とする中、神らしきものが俺に囁いたのだ。
「君に力を与える。一撃で倒せる力を。ただし、攻撃は一度しか使えない。通用しなければ、その攻撃は二度と効かない」と。
まだ試したこともない力だ。それに本当かどうかもわからない。ただタケをはじめ、レイもこの話を信じきっている。
「そんなはずはない。神が与えた力は絶対だ。たとえ俺たちの体が貧相でも、必要な時にその力を行使すると必ず発動する。だから木剣を渡すんだ。これは俺が持っていてもお前の力を使った一撃には遠く及ばない。これを持って西から妹を奪い返すんだ。わかったか」
木剣を腰に備え、お金と僅かながらの荷物の準備ができたケンはタケに頭を下げた。そして振り返り、ケンと妹の思い出が残るバラック古屋を眺め、これから降り掛かる難題に立ち向かう覚悟を固めて家を出た。




