4-9 歪な努力
やはり、お肉というものはあまり好かないらしい。
リラの食の進みは遅い。直径五センチほどの小さなハンバーグを三つ。端からちまちまとフォークで切り分けながら口に入れるが、そのひと口があまりに小さいのでなかなか皿の上の料理は減らない。
「合わないのか」
と訊いても、
「べつに」
と表情の死んだ顔で返されるだけ。
「マズいのか」
「ふつーよ」
「無理して食べなくてもいいんだぞ」
「そうだよ、リラ嬢。無理をして、気分が悪くなってもいけない」
気遣うように和馬とグウェンの声が重なったが、それを聞いたリラは次の瞬間小さな拳をだん! とテーブルに叩き付けてみせた。
「もう! めちゃくちゃなこと言わないで! 食べなかったら食べなかったで、からだにわるいとか言うクセに!」
「いや、それは……」
あぁ、ダメだ。完全にご立腹だ。機嫌を損ねてしまった。
和馬とグウェンは目配せをして、どうしようかと相談し合う。
「リラ嬢、しかし我々は心配しているのだよ。最近とんと好みを言わなくなってしまったじゃないか。黙々と出されたものを食べている」
「それのなにが悪いのよ。ふつうのことだし、よろこんでもいいところじゃないの」
「だが、美味しそうに食べている訳ではない」
グウェンがそう言うと、リラの眉間にはぎゅっと深い皺が刻まれた。
「リラ嬢」
グウェンの声音はとても優しい。柔らかく、丸く、とげとげしたところはどこにもない。
「食事は楽しいかね? 和馬の夕飯は、美味しいかい?」
「……むずかしいことを言わないで」
けれどリラの心は頑なに閉ざされていて、その優しい声音を跳ね返してしまう。
「和馬のごはんは“おいしい”んでしょ」
少し考えてから発された言葉には、どこにもリラ自身の感覚は反映されていないと和馬は思った。
「一般的にどうという話じゃない。リラ嬢がどう感じているかを訊いている」
「私は“まずい”のきじゅんは知ってるわ。それとくらべたら、和馬のごはんは“おいしい”にぶんるいされるわよ」
「そうではなく……」
こちらの言いたいことが上手く伝わらない。グウェンが困り顔で、けれどめげずに問いを重ねる。
「和馬のごはんを食べたいかい」
「そりゃ、しらないだれかのものより信用できるわ」
「……例えば。リラ嬢が食事を必要のない身体になったとして。けれど害という訳でもないから食事は摂れるよと言われて、その時に和馬の料理を食べたいと思うかね」
必要としているのは身体だけか、心もか。リラは無理なく食事というルーティンをこなしているのか。
「身体の問題がなくても食べたいと、思えるかね」
そう問われて、リラはしばらく黙り込んでしまった。素直に答えが出て来ないことこそ、答えなのだ。
「…………なってみないとわからないわ」
やがて、苦し紛れにそう呟かれる。
「本当は食べたくないんだろ。美味しくないんだろ」
「どうであろうと食べなきゃいけないでしょ」
和馬が言うと、リラは即座に返してきた。眉間の皺が、また深まる。
「和馬はよくやっているわ。私はそれにこたえたいと思ってる。なにがわるいの」
フォークを握り込んだ小さな拳が微かに震えている。
「大体、あれもイヤ、これもイヤって、せけんではそういうのをワガママと言うんでしょ」
皿の上のハンバーグを親の仇みたいに睨みつけながら、リラは己を客観的にそう評価してみせた。
「否定はしないわ」
事情を鑑みずに判断すれば、そうなるのかもしれない。けれどリラにはリラの事情がある。前世が吸血鬼だから~なんて、そりゃ普通はまともに受け取らないかもしれない。信じないかもしれない。
でも和馬はもう知っているし受け止めている。リラのその事情は、十分に考慮されるべきものだ。我儘の一言で切り捨てるものではない。
「だからかいぜんしようとしてるんでしょ」
だが、リラ自身はそう思っていないのだ。
いつからだろうか。リラにとって“吸血鬼だから”が正当な理由でなくなってしまったのは。
「リラ、改善しようとするのはすごいことだと思う。でも、人には適切なペースってものがあるし、お前が無理をしてるのを見るのは、じーさんもオレも辛い」
何故、そんなに急に改善が必要などと思ったのだろうか。
「ゆうちょうなのよ!」
ここで、リラの怒りが、ままならない感情が爆発した。




