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4-6 親子の会話




「そうだよ」

 どうなのだろうと思っていたが、さすがに息子の年次を忘れてはいなかったらしい。

「…………そうか、受験生なのか」

 ぽつりと落とされた呟き。それは有難い呟きだった。これで取っ掛かりができた。

「その話を、一応ちゃんとしておきたくて」

 今日はこのことを話したくて帰って来たのだ。

 さすがにここは親子で認識を合わせておきたいところである。自分は未成年なのだ。割と好き勝手に自分のことは決めていると言っても、権利がないこと、責任が取り切れないことというのは確かにある。目の前にいるのは、確かに和馬の保護者なのだから。

「希望の進路があるのか」



 希望の、進路。



「受験となれば、塾に通ったりも必要だろう。俺はそこら辺あまり詳しくないから、大手の名前くらいしか知らないが、まぁそう高くなければ月謝くらいは、多分」



 例えば、何に興味があってどこの学部に行きたいとか。そういうことはまるで分からないだろう。和馬も話してみせたことはない。

 否定はされないだろうとは思っている。興味がないだろうから。実現可能なのか? とは訊いて来るだろうが、可能だと言えばそれで納得してみせる。



 いつだってそうだ。

 過去のバイトに関しても、数や種類をそれほど気にはしなかった。いつでも保護者の同意欄に簡単に捺印してくれた。この家を出て、住み込みで働くと言った時でさえ。

 普通、反対するものではないだろうか。住み込みで働く必要はないのではないかとか、危険ではないのかとか、少なくとも職場の確認を行うとか。

 けれど一瞬だけ考える素振りを見せはしたものの、やはり翌日には捺印済みの書類がテーブルに置かれていた。



「調理師免許が欲しいと思ってる。そのための専門学校に行きたい」

 けれどそう言ったら、ちょっと驚いた様子を見せてきた。予想していたものではなかったのだろう。

「専門学校というのは、その」

「学費はバイト代溜めてるから大丈夫。それでどうにかする。足りない分は、奨学金とかも視野に入れて」

 グウェンとの契約は、リラの偏食を改善してみせることだ。全く何の成果も出ていないとは思わないが、正直微々たるもので改善とは言えないと思う。最近リラは食べては見せるが、あれは二人も認識を同じくしている通り、無理に食べてあぁなっているのだ。だから、あれは和馬の成果ではない。



 グウェンの提案が魅力的だったのは事実だ。けれど、来年の春までに間に合うとは限らない。その場合のこともちゃんと考えて、いや、むしろそちらを主として考えておいた方が良いだろう。



「いやお前、年間の授業料とかは知らないが、さすがに全部お前に背負わせる気はないぞ。そりゃ贅沢な暮らしではないが貯金がない訳でもあるまいし、例え奨学金を借りるにしても将来的に返す時にお前に全てを負担しろとも」

「いや、でもそのお金は老後の資金に回した方がいいんじゃないか。自助努力が要求されてる時代な訳だし」

「いや…………」

 生活に困る程ではないが、だからと言って裕福でもない。

 今言った通り、将来の見通しはそれほど良くない。国を当てにできる時代ではないのだ。親の貯金がいくらあるなんて知らないが、長く暮らしていると何となく見えてくるものはある。これ以上だとキツイだろな、というラインが。

「……そもそもなんだが」

 頑なな雰囲気を感じたのか、話の矛先を変えられる。

「調理師に、なりたいのか」

 そうだ、和馬はこの父親とそう言い争いになったことがない。二三言ヒートアップすることはあっても、そこで向こうがスッと話をやめてしまうのが常だった。

「今の時点でもう専門学校って決めてるってことは、将来的に資格が活かせる職種、料理関係に進みたいってことなんだろ」

「まぁね」

 取り敢えず、不毛な言い争いは和馬もしたくないので、訊かれたことにはそのまま答えておく。



 正直、例えば三ツ星レストランのシェフになりたいとか、そんなことは思っていない。有名になりたいという訳でもない。自分の店を持ちたいかすら、まだ自分には未確定の未来すぎて夢としても抱けていなかった。

 こだわりは、そんなにないと思う。自分の店がなくとも、今は出張料理人だったりSNSを利用したり、色々な関わり方がある。和馬は自分にSNSを使いこなす技量があるとは思っていないが、そういう方法もあるのだと選択肢として頭の隅には置いてある。



 ただ、自分の心が一番落ち着くものが料理だから。

 作るだけでなく、食べるところまで含めて好きだから。

 それを他人が同じように受け取ってくれたら嬉しいから。



 多分これは、数少ない自分に出来ることの一つなのだ。

 できることと、やりたいこと、そして将来に繋がりそうなこと。この三つが揃った唯一のものなのだ。



「……料理が、好きなのか」

「好きだよ」

「そうなのか」



 やはり意外そうな顔をされる。




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