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2-13 まさかの仲間外れ




「おい待てじーさん、なんだその手にしてる本は」

 リラ嬢と連れ立って食堂にやってきた和馬は、紅茶と共に読み物を楽しんでいたグウェンに微妙な顔を向けた。

「なんだね、その顔は」

「いや、取り合わせが。あと意図が読めない」

「読めないことはないだろう」

 グウェンは表紙を二人の方に向ける。



「ただ犬の本を読んでいただけではないか」



「かわいい!」

 さっそくリラ嬢が目を輝かせて反応したので、手招いて膝に乗せる。

 知識が先行するからか大抵のものには冷めた反応を見せる彼女だが、どうやらきゅるきゅる輝かせた瞳を向ける犬には興味があるらしい。

「色んな犬種がいて迷うね。リラ嬢はどういう犬が好みかね?」

「いや、だからどうして迷うんだ?」

「飼ってみようかと思っていて。リラ嬢の情操教育にも良いかと思わんかね」

 訊かれたので答えてみたら、また随分渋い顔をされた。



「動物を飼うってそんなに簡単なことじゃないぞ。面倒見るの大変だし、暮らしに制約も出るし、最後まで責任持って看取るところまでがセットなんだぞ。かわい~なんてミーハー心で無計画に手を出していいジャンルじゃないんだぞ」



 さすが和馬。しっかり者である。

 しかしグウェンとてその辺りはきちんと考えている。テーブルの上に置いた、「犬の飼い方」、「飼い主の心得」、「わんちゃんあれこれQ&A」などを示してみると、和馬は更に複雑そうな顔をした。



「俺の契約内容に犬の世話は含まれてないからな」

 と言い足される。



「それに、ウチにはもういるだろ」



 この発言にはリラ嬢の方が食い付いた。



「なにがいるって言うのよ」

「蝙蝠がいるだろ」



 今度はグウェンとリラ嬢が渋い顔をした。



「こうもりってもう見飽きてるのよね。それからペットでもないし」

 そう、蝙蝠はペットではない。断じてない。

「イザックが聞いたら泣きそうだな」

 そうは思うが。

「アイツ、泣いたりするの?」

 相変わらず和馬とイザックはあまり馬が合わないらしい。ドライな反応を示される。

「でもじーさん、家にいない時もあるだろ。オレだって日中は学校があるし」

「それこそイザックがいるではないか」

「…………蝙蝠が、犬の世話をするのか?」

「そこは深く考えなくて宜しい」

「そういうもんかぁ……? ってそうじゃない、別にすることがあるんだった。リラ」

 和馬が呼びかけると、あっさりとリラ嬢はグウェンの膝から飛び降りてしまう。惜しい、と思っていると、和馬が何か布の塊を彼女に差し向け、彼女は両手をピンと張ってそれに答えた。

「うん……?」

 そしてあれよあれよと言う間に白のフリルのあしらわれた子ども用エプロンを身に纏ったリラ嬢がお披露目される。

「!」

 グウェンは素早く胸ポケットからスマホを取り出して、連射モードを起動させた。



「可愛い! 可愛すぎる! 犯罪的な可愛さだ! こんなキュートな存在、危険すぎてこの世には公表できないな。誰もがメロメロになってしまう。リラ嬢、目線をもう少しこちらに!」

「可愛いことは認めるけど、その勢いは引くわ……」



 怒涛の勢いで数百枚の写真が追加されるが、これは幸せなメモリーだ。ついでに動画でくるっと回ってるシーンも撮らせてもらおう、そうしよう。



「ということで、じーさん」

「何だね、今とても忙しいのだが」

「いや、暇だろ……今日はリラと一緒に夕食を作ることにしようと思う」



 その言葉に、思わずシャッターボタンを押そうとしていた手が止まる。



「リラ嬢が? 自ら?」

 あまりに意外すぎて、グウェンはまじまじと彼女の顔を見た。

 無理矢理させられているのではないか、と思ってしまう。だって彼女は調理中のキッチンにはいつも近寄りもしない。

「しょうじき、キッチンで食べ物のにおいにかこまれるのはなかなかの苦行だけれど、ちょっと思うところがあるからがんばるわ」

 けれど眉を寄せながらも、彼女は自らの意思でそう言い切った。



 いや、喜ばしい進歩だとは思うが一体彼女に何があった?

 和馬はどう言い聞かせたのだろうか?



「まぁ、リラ嬢がその気だと言うのなら止めないが……」

 だが、心配でもある。

「では私も全力でサポートさせてもらうかね」

 小さな彼女では不便だらけのはずだ。そう思っての発言だったが。



「それはダメ!」



 思いの外強い拒絶が返って来た。ショックである。



「グウェンはいいの! 私がするの!」

「だが……」



 背丈は足りないし、火は危ないし、包丁なんて子ども用でもまだ持たせられない。



「大丈夫だよ。オレが付いてて、リラをキッチンで危ない目になんて遭わせない」

 和馬はそう言うが、料理は工程が多いし、あちこちに気を向けなくてはならないこともある。

 だが、その僅かに気が逸れる瞬間に何が起こるかは分からない。

 そこに更に加勢する声が加わった。



「そうです。それにリラお嬢様のサポートなら私が致します」



「うおっ!?」

 視線を遣ると、和馬の斜め後ろにイザックが姿を現していた。

「お前気配もなく急に現れるのホントやめろよ、心臓に悪いだろ……」

「なんだ、人間というのは本当に柔い生き物だな」

「そっちが配慮に欠けてるって話なんですけど」

 のっけからこの険悪さである。

「しょーもないことでけんかしないで!」

 サポートと言うが、逆に取り合わせが悪くてトラブルが起きるのではと心配しか起きないが、リラ嬢が仲裁に入ると二人は一応ピタリと口論を止めた。

「これはお見苦しいところを……申し訳ありません」

「まぁあれだ、そういう訳でイザックにも手伝ってもらうから、それで十分だ。じーさんはここで犬の本でも読んで待っててくれ。な?」

 一方的にそう言い置かれて、三人はキッチンへ向かってしまう。



 疎外感が半端ない。仲間外れにされた気分である。

 どうしてイザックは良くて自分は駄目なのだ、と小さな背中に心の中で語りかけるが、当然リラ嬢からの返事はなかった。



 仕方がないので言われた通り、犬の本に目を落とす。





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