2-12 小細工は、していないので
「……けっきょく最後はだましうちみたいなものじゃない?」
一通り話を聞き終えて、まずリラ嬢はそう感想を口にした。
「自分が吸血鬼だってはなしはどこでしたのよ」
「噛み付く寸前、かな」
ケロリとした顔で、グウェンはその問いに答える。
「じっしつ、はなせてなくないかしら?」
「まぁそうとも言えるね」
けどそんなものよね、と彼女はグウェンを咎めるようなことはなかったが。
「だってさすがに悪いやつらをけしかけるようなこざいくは、してないでしょ?」
「していないとも」
そんなことまでするくらいなら、強めの幻覚でも見せてどうにかする方がずっと容易い。リラ嬢の言う通り、そこまで酷いことはしていない。
「状況をりようしただけなのよね」
まさに、その通りだった。
「ほんとうは、もっと早くに和馬をたすけることもできたんでしょうけど」
それももちろんその通り。
「でもそれじゃあ和馬をカンタンにウチにはひっぱれないし。グウェンはべつに正義のミカタではないんだし、わるいのはからんできた方だし、和馬の不運は和馬のものだし」
あどけない顔をして、すっぱりと言い切る。
今はまだ見た目は幼く、手足も短く、体力も子ども仕様だが、情だけに振り回された考えはせずきっぱりとしているところや、凛とした強さを持つ瞳は、グウェンの知る遠い過去のものとよく似ている。
「でも、和馬の幸運も和馬のものだわ」
そうして、時に厳しく冷たいように感じることがあっても、その奥に優しく柔らかなところがあることも。
和馬がグウェンに目を付けられたことは、ただの不運ではない。
不良連中に絡まれたことは不運だったが、彼は新しい職場を見つけた。雇い主の正体は人ならざるものではあるが、条件は良く、将来に繋がる環境でもある。グウェンとの出会いを幸運に変えることはできる。
そして、リラ嬢は同時にグウェンにも言う。騙し討ちみたいな形だったけど、貴方のしたことはきっと結果的に悪いことではないわと、と。和馬にとって幸運なことになるわよと。
「少し眠くなってきたかね」
瞼が少し重くなってきたようだ。問いかけると、大層愛らしい声が返って来た。
「うーん……グウェンもおひるねしていいのよ?」
「そうだね、私も一緒に午睡をたっぷり摂るとするか」
そうこう言っているうちに、彼女の方は呼吸がすーっと深くなっていく。
「リラ嬢、寝てしまったかね?」
一定のリズムで繰り返される呼吸音。上下する胸。生きている証。
彼女は生きている。今を、生きている。
艶やかな髪をひと撫でしたい衝動を、起こしてはいけないと押し殺しながら、そっとグウェンは囁いた。
小さな小さな声で。誰にも聞かれぬように。
「良い夢を。――――カミラ」




