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2-8 おはなしを聞かせて




「ねぇ、グウェン」

「うん?」



 腕に感じる少しの重み。青い瞳はぱっちりと開いたまま、グウェンを真っ直ぐ見上げる。



 洋室に置いた大きなソファの上で二人ごろりとなっていた。

 日課の昼寝の時間と称してはいるが、今日のリラ嬢は全く眠気が訪れていないらしい。



「グウェンが、あんなわかい子、それも男の子を隷属のけいやくまでして手元にとどめておくとは思わなかったわ」

「和馬のことかね」

 幼い彼女が“若い子”なんて言うのはおかしな感じもしたが、彼女の感覚としては和馬はそう言い表されてしまうらしい。

「ほかにだれがいるのよ」

「まぁ他はいないな」

 グウェンは比較的他種族との交流を厭わない方だが、自分の巣である屋敷の内にまで他を入れるほど門戸を開いてもいない。一つ屋根の下、出会ったばかりの異種族を住まわせているというのは、確かにかなり珍しく思われることかもしれない。



「だって和馬は“そういうの”じゃないでしょ」



 そうだ、グウェンの腹を真に満たすための存在ではない。そんな役割を彼は和馬に求めていない。



「グウェンは人間をきらってはいないけれど、それほどちかくに在る必要もないと、そう思っているのだとにんしきしていたけれど」

 いきものの考えって変わるものね、と言われたので、私が変わったのではないよとグウェンは優しい声音で言う。

 グウェンと違って彼女は古の記憶をぽんと思い出しただけだ。現代に至るまでのその推移を見ていない。それは遠い未来へタイムスリップしてしまったような感覚で、あまりに大きすぎる変化を目の当たりにして、人知れず孤独や疎外感を抱えているのではないだろうか。そんな心配が過る。

「まぁだがこの時代、地球上のほとんどを牛耳っている人間抜きには生活は語れないものだ。どんな種族だろうとね。寄り添い馴染むか、隙間を見つけるか、何にしろ何某かの変化をしない限りは、それらは滅ぶ」

「それはそうでしょうけど」

 時代が、変わった。人間と言う生き物が恐ろしいスピードで変わった。けれどそれとは別にグウェンは彼女を置いて変わったりはしていない。

「人間の数、ふえたものね」

 そうだ、あの時代に比べて、人間は驚くほどの勢いでその母数を増やした。そうして時代時代に様々な工夫を凝らし、発明を重ねてきた。

「びっくりするくらい進歩してるわ。よのなか、よくわからないキカイや仕組みであふれかえってる。人間たちは、よくもあれだけのものにかこまれて、こんらんしないものね」

「リラ嬢だって触れていけば段々と慣れ、使いこなしていくさ。これから先、きっと人間はもっと見たこともないものを山のように生み出していく」

 今は不思議でたまらなくとも、その内にそれが普通になる。グウェンでさえ、人間の世に紛れるのに今はスマホすら使いこなしてみせる。



「眠くならないかね」

 そう訊ねると、

「おはなしが、ききたいわ」

 あどけない表情でそうねだられる。

「さて、何を話してみせようか」

 こういう顔をされると弱い。



「今日は和馬のはなしがききたいの。グウェンが和馬をここにつれて来るまでのはなし」



 “彼女”はここまで素直な表情は見せなかったと思う。これは、リラ嬢だから見せる顔。



「きかせてくれるでしょう?」



 だからグウェンも知りたい。彼女が自分の知らない過去の話をねだるように、グウェンもまだ見ぬ彼女の表情を、心を、歩み行く未来を知りたい。





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