38
3つの騎士団が駐屯する場所にきたのだが、ケイには何も起こらなかった。それはもう、ビックリするくらい何も無いのだ。駐屯地に着いてそうそうにカルナが兵に用件を告げた。その際に騎士ベルトランからの感状と礼状も渡した。その後はカルナとカノンは別の場所へ。ケイは「その辺に座っとけ」で放置。戻ってきた兵士は「書状は必ず将軍に届けるとの事だ。恩賞は宿まで届けるから帰っていいぞ。」と告げられて終わった。カルナとカノンの2人は今夜は駐屯地に泊まるという事で荷馬車で送ってもらえた。
本当にイベントも無く、騎士団長はおろか騎士とすら話す事なく帰還。・・・。普通、何かイベントがあるんじゃないの?ねぇ、それがお約束じゃないの?団長が出て来て労ったり、ライバルとかイベントフラグとか・・・。現実は何にもないんかねぇ。
1人寂しく宿へと戻った時には日も落ちていた。夕食を取ってすぐに寝るには早い時間だ。今夜はカルナ達と同室の部屋にはケイしかいない。今だ。今ならスキルを使ってもバレない。
スキル『万能教室』を起動し、教室内へと移動する。3つあるドアのうち、『試練』だけは今は使う事はない。残るは『学習』と『実戦』。『学習』はスキル等について学ぶ場である。使用しないと分からないが急激に強くなったりはできないはずだ。それに対して『実戦』は本当に戦う事になる。レベルが上がれば能力値も上がる。それにケイは1度も自分自身で戦った事がない。自分が戦えるのか確認する必要もあった。
「戦えなかったら生産職決定だね。街から出ないようにしないと。」
5つある戦場は『ゴブリンの城塞群』、『天空の狩場』、『四源の楽園』、『強者の戦場』、『死者の王国』。
モニターには簡単な説明もある。いずれの戦場も今の世界からは切り離された場所であるそうだ。いわゆる閉塞世界である。これらの戦場は入ったらスタート位置は毎回同じとなる。条件を満たせば中継地を作れるようだが、条件の説明はまったくなかった。
パネルから『死者の王国』を選択する。第2分隊の敵は聞いていない。考えられるのは討伐目標である水蛇か遭遇した幽霊船だろう。死者の王国で修行すれば役立てるかも知れない。そう思って扉を開いた。
扉の向こうも夜だった。月すら隠す黒い霧、枯れ果てた木々が悲鳴をあげるかつて森だった場所。そして鼻をつく死臭。吐き気がする。
(黒く澱んで熟成された瘴気。重なり合った悲鳴に籠められた絶望という負の感情。お父様、素晴らしいですわ。)
ケイの頭の中に声が響く。周辺の黒い霧がケイに吸い込まれていく。
(あぁ、こんなに御馳走が。まだあるのね。ふふふ。いただきます。)
王国中の瘴気が怯え、そして一気に消えた。全ての瘴気がケイの中のモノに吸い込まれたのだった。そしてケイの意識もそこで途絶えた。
倒れていたケイが人形のように立ち上がった。手はブランと下がったままであり、顔も下を向いたままである。その顔がガクンと上がる。
「お父様の身体って脆いのね。気を付けないと。」
それはケイの声ではなかった。ケイの身体がフワリと上昇を始める。
「あそこね。」
そしてケイの身体が消えた。ケイの身体が現れたのは山上にある城。そこには蠢く者達がいた。ケイが手を横に払う。たったそれだけの事でゴースト達が霧散する。手を振り下ろす。動いていた鎧やゾンビ達が潰れていく。
「新鮮な瘴気も悪くないわ。」
何の感情もないケイの顔。何も映さぬ瞳。ケイとアンデッド、いったいどちらが人間らしいのか。突き当たった先は大広間。そこにはドレスで着飾った6人の美女達。皆が闇の中で瞳を紅く光らせている。
「不粋な客かと思えばエサか。」
ケイの背後にタキシード姿の男が現れ、ケイの首もとに噛みつこうとした。だが、そこまで。男の動きは止まり、そして四肢が捻れ始めた。
「や、やめ
男が声を上げ、弾けた。
「お父様に飛び掛かるなんて、犬かしら。いえ、犬以下ね。」
それは一瞬の出来事であった。




