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夜になると第2分隊の人達も宿へと帰って来た。
「ニーナ、この城下一番の商人とは連絡ついた?」
「いいえ。夕方は商談中で会えませんでした。再度訪問しましたが、竜篭で出た後でした。」
どこかで聞いたような話だが、気のせいだ。気のせいに違いない。ケイはそぉっとその場を離れた。
宿は典型的な旅籠。2階の部屋から見える景色は時代劇の世界である。
「異世界っていうより映画村だな。」
そんな感想を持ってしまうのも仕方ないだろう。第2分隊と別れてここでのんびり暮らすのも良い。そんな考えもある。その夜、第2分隊とカルナは難しい顔をして会議をし、カノンは借金の夢にうなされていた。
異世界生活8日目。皆は今日も朝から動き回っていた。暇なのはケイとカノンのみ。そのカノンも御駄賃銀貨1枚で伝言役として宿に待機となっている。ケイは宿の人に城下について聞き、1人で散策を開始する。魚が売られていたり、木材を積んだ大八車が駆け抜けたり。活気に満ちた朝の城下をブラブラする。
そこでケイはようやく気付く。人々は着物を着ている。洋服の上に革鎧、腰には片手剣の俺って浮いてない?異世界生活8日目での大発見であった。
どうする?どうするの?
ここに住むなら着物は必要だ。しかし、旅を続けるなら着物は邪魔になる。ケイは結論を先送りした。
丘の上には神社があり、城下の人々が集い、語らい、祈りを捧げている。だが今日ばかりは喧騒に包まれていた。
「ふざけんな!御神水と護符を買い占めようなんざ、何を考えてやがる!」
「買うなとは言わねぇが、量を考えやがれ!!」
「通過した騎士団も食料を買い占めたんだ!これだから異人は!」
異人、というキーワードがあるからには第2分隊絡みのはず。覗き込むと漁師達と第2分隊の2人が揉めていた。
「どうかしましたか?」
敢えて明るい声で話し掛ける。
「その格好、この異人さんと同じだ!あんたも買い占めに来たんか!!」
漁師はすでに喧嘩腰。会話が成立するか怪しい。
「穏やかじゃないですね。ここは神聖な境内ですよ。一体どうしたんです?」
落ち着いてくれ。落ち着いてくれ。そんな丸太みたいな腕で殴られたくない。
「御神水と護符を売れるだけ売れと言って神主様を困らせとったんだ!前の奴等も食料を買い占めて行った。異人さんは疫病神じゃ!」
「そうだ!そうだ!!」
漁師達は完全にヒートアップ。なんとかしなければ。
「違います!!私達は売ってもらえるだけ売って欲しいと言っただけで、買い占めるつもりはありません!!」
治癒師のサラが強い口調で反論して火に油を注ぐ。
「サラさん、黙って。悪いのは貴女です。売ってもらえるだけ、と言ったら『有るだけ』とも『在庫も含めて全て』とも受け止める事ができます。どれだけ必要か、予算は幾らか。説明はしたんですか?」
まずは仲間を叱る事で漁師達には落ち着いてもらう。また意表を付く事で振り上げた拳は下ろさせない。
「私は売ってもらえるだけ、と言ったんです!!判断するのはあの人でしょう!!」
サラは神主を指差して怒鳴る。悪手である。地元で尊敬を集めているであろう神主を指差すという失礼をし、責任まで押し付けた。
「では、サラさんは神主様が売らないと言ったら帰るんですね。1人に1つと言われても納得すると。」
「出来るわけないじゃないですか。ケイさんは私を馬鹿にしてるんですか?買えるだけ買うに決まっているでしょう!」
「つまり、サラさんは『有るものを全部出せ!』と言っているんですよ。わかりますか?『物が無くなっても私は悪くない。神主様が判断して売ったんだから。でも全て売ってくれないのは許せない。全て神主様が悪い。私は悪くない。』。そう言っているんですよ。」
「だって必要なんですよ!私は悪くないじゃない!!」
「ほら、それが本音です。だから漁師の皆さんが怒ったんです。」
サラさん、周りが見えてないですよ。怒りで手段と目的が分からなくなってませんか?そう言いたくなる。
「兄ちゃん、言い過ぎだ。そりゃ俺達も注意しようとしたけどな。」
「仲間なんだろ?そこまで言わんでも良いんじゃねえか?」
「兄ちゃんがあそこまで言ったら姉ちゃんも引っ込みがつかねえって。」
「赤毛の姉ちゃん、そっちの姉ちゃんを連れて神主様にお願いしてみな。俺らがこの兄ちゃんを宥めとくから。」
漁師達がケイを宥める方に回り、サラをケイから引き離そうとし始めた。冷静になると振り上げた拳がバツが悪い。目の前には女性を責める男性がいる。先程までの自分達を見ている感覚で居心地が悪いはずだ。宥める事で場を静めようとする。
失敗した部下を上司が客の前で叱って、客に文句を言わせないやり方の応用である。
どうやら切り抜けられたようだった。




