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その頃の館は空堀を越えて襲ってくる山犬との乱戦になっていた。

「領主様は?」

ベラは山犬の四肢を薙ぎ払ってから、脳天を叩き潰す。

「不安に怯える者達を鼓舞しています。」

ニーナはナイフを投げて山犬を串刺しにしていく。

「まさか侍が2人しかいないとはね~。」

「数年前に大きな被害を出していますから。それよりアレ、どうします?」

館の前で唸りをあげる一際巨大な山犬がいた。

「ほっといても戦ってくれる人がいるでしょ?」

「あぁ、なるほど。では私は反対側に回ります。ここは隊長1人でお願いします。」

「任せて!え?1人で?この数を?」

焦るベラを尻目に、ニーナの姿は消えていた。


館内ではカノン・ボールも奮戦していた。金属の鎧は山犬の爪も牙も通さない。狭い室内では山犬も機動力を生かす事もできず、カノンの剣で倒される。機動力はいらず、盾こそないが高い防御力で敵の攻撃を防ぐ。空間が限られているためにカノンでも敵に攻撃を当てやすい。この瞬間こそがカノンにとって最も適した戦場であった。


夜の山を馬で駆け登る。灯りは月のみ。

(ぶつかる!ぶつかる!)

「ぶつからねぇ!いいか。全体を見るんだ。すぐ前だけじゃねぇ。そうすりゃ、目を瞑っててもぶつからねぇ!」

(目を瞑っても・・・。)

「おい・・。本当に瞑るなよ?例えってわかるか?お前、俺以上の馬鹿だなぁ。」

夏侯淵に心底呆れられた。

「兵ってのはどこに潜ませたらいいか。戦場を見渡すにはどんな場所がいいか。そんな場所は限られてんだ。」

(ん?)

「俺の場合は勘と経験だけどな。本にはそんな事が書かれてるらしい。お前、馬鹿だけど本は読めよ。」

(どうした?急に)

「お前が馬鹿過ぎて心配になった。孟徳が本を読めっていう気持ちが初めてわかったわ。」

(・・・。)

なんかアホの子扱いされてます。

「言えるのも今だけだからな。」

弓に矢をつがえて放った。


山中には黒ずくめの謎の集団がいた。その数は50。

「黙って山犬に倒されてよねー。『犬』は邪魔なんだよー。」

その声は若いが素顔は見えない。

「師父様、策を邪魔した若者はいかがなさいますか?館に合流されると面倒かと。」

対する声は老人である。

「ん?何か考えてるんでしょ?任せるよ。」

「ありがとうございます。では死した山犬を」

1本の矢が老人のこめかみを射貫き、その老人が動く事はなかった。

「あれ?なんで矢が?」

そこでやっとケイに気付く。

「嘘でしょ?さっきまであそこに居たんだよ?夜の山を馬で登ってきたの?アハハハハハ。殺せ。」

指揮官の命に従い、黒い鎧の兵士達が弓を構えて矢を射る。だが、木や枝が遮りケイに当たる矢は1本もない。

「下手くそが。」

夏候淵が吐き捨て、1度に3本の矢を速射した。いくつもの悲鳴があがる。全ての矢が兵の喉元を貫いていた。

「兵卒から出直せ。」

夏候淵が敵陣にたどり着いた時には数名の兵と黒装束の者だけしかいなかった。

「お疲れ様。良くここが


斬!


馬で駆け抜け様に一閃。

いつ剣を抜いたのかも分からぬ神速の一撃。

(き、斬った)

「今の手応えは!」

2つに別れた死体は紙へと変わり、サラサラと空に舞った。

「いきなり斬るってのはひどいなぁ~。普通は名前や目的を聞いたりしない?」

男の声だけが四方からコダマのように聞こえる。

「答える事はないからな!」

いつ放ったのか。1本の矢が木に刺さっていた。

「あれ?」

そんな声と共にその木がグニャリと歪み、1人の男へと変わる。

「なんでバレたかなぁ?完璧なはずなのに。」

「お前が化けた木だけが変だった。何故かはわからんが変だった。それだけだ。」

「困るなぁ。そんな抽象的じゃ。」

男は倒れると泥のように崩れていく。

「まさか、こんな辺境で負傷するなんて。」

樹上の梟が喋り出した。

「ビックリしたけど楽しかったよ。」

今度は死んでいる兵士からだ。

「悪趣味な・・・。」

夏候淵が嫌悪感を露にしている。

「会うことはないと思うけど、またね~。」

最後の声は空から降ってくる。生き残っていた兵士は自頚して果てていた。戦いはようやく終わったのだ。

夏候淵は『神速行軍』というレアスキルを使用しています。本来は軍全体に効果があるスキルなのですが。赤くはありませんが通常の3倍くらい速いです。

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