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左のほっぺについた赤いモミジを勲章に、ケイ達は帰還する。勿論、白い布地は没収されている。

「お兄さん、さっきは何も見なかった。見た物は忘れた。そうだよね?」

「ハイ。ナニモミテイマセン。ワスレマシタ。」

ベラがケイに圧力を掛けている。

「若い男が刺激的な物を忘れるはずがありません。ケイさん、ステータスを全て教えてくれたら、隊長が今穿いてる下着をあげましょう。」

「な、な、な。ニーナ!!」

ベラとニーナの騒がしい追いかけっこが始まった。

「ケイ様。下着が欲しいなら私のをどうぞ。」

カルナが耳元で囁く。思わずゾクッとしたのは仕方ないはずだ。

「いや、その、今はいいかな?ハハハ。」

ツラい。なんかツラいよ。



夕食の準備に取り掛かる。魚はぶつ切りにして、頭は焼いてから出汁を取る。即席の潮汁だ。皆が調達した肉を鍋で焼く。フライパンなんてなかったから代用だ。焼いたら見付けた柑橘をサッとかけてケモノのステーキの出来上がり。何の肉かは聞いていない。あえて聞いてない。

「道具も調味料も足りないなぁ。やっぱり出汁はしっかり取りたいし。」

やりだすと拘る。日本人の習性だろう。

考え事から現実に戻ると、飢えた女性陣に囲まれていた。

「お兄さん、もういい?食べていい?」

「ケイさん、焦らさないでください。女を弄ぶものではありません。」

「ウチ、我慢できん。」

女は怖いよ。

瞬く間に料理がなくなっていく。自分の分は確保しないと。

「隣に失礼するぞ。」

ドスンと音をさせてオッサンが腰を降ろした。

「貴殿に命を救われた。礼を言う。」

深々と頭を下げられた。

「いや、俺、必死だっただけですから。」

「それで助かったのだ。感謝の仕様がない。何かしら礼がしたいのだが、今は何もない。駐屯地に戻れば何かしらあるのだがな。」

「何かが欲しくてしたわけじゃないです。目の前で人が死ぬのが見たくなかった。自分のためです。」

「ふむ。だが礼をせねば拙者の気がすまん。つまり、自分のためだ。ハハ。ハハハハハ。」

オッサンのツボにハマったようだ。

「なら、生きて帰ったらお礼をください。10年でも20年でも待ちますよ。」

「ならばそうするか。だが、今出来る礼はしよう。『ミヨシ』様への添え状だ。この地の者なら役に立つだろう。それから拙者からの感状と礼状だ。これを騎士団の駐屯地に持っていけば食うには困らんだろう。」

「オッサン?」

あっ、思わず言ってしまった。

「おっ、おっさん?ハハハ。ハハハハハ。笑わせないでくれ。腹が、腹が。拙者をオッサンと呼んだのは貴殿が初めてだぞ。ハハハハハ。」

また、オッサンのツボにハマったようだ。

「いいな、いいな。拙者がオッサンか。ふむ。いいな。ふふふ。笑った。久方ぶりに笑った。これで思い残す事はない。」

「ん?死ぬ気、ですか?」

「死ぬ気はないが、これより死地に入る。あの地に残った部下や仲間を弔う。生き残りを探す。そして、武人としてヤツを斬る。」

「まだ動ける体じゃないはずです。」

「今行けば生きている仲間がいるやも知れぬ。明日行けば会えぬやも知れぬ。ならば行かねば。」

「鎧は切り裂かれ、剣は刃こぼれし、槍も傷付いているんですよ。」

「だが、足は動く。今、行かないと後悔しよう。」

このオッサンこそ漢なんだろう。

「待ってください。」

鎧が裂けた所に『修復魔法』をかける。ゆっくりとだが避けた箇所が塞がれていく。

「なんと・・・。こんな魔法は知らぬ。」

剣と槍にもかける。刃こぼれも無かったかのようだ。

「かたじけない。返しきれぬ借りが出来た。」

腰に下げた袋からポーションと高級傷薬、傷薬を1つずつ取り出す。

「これもどうぞ。」

「それはいかん。貴殿は価値が分かっておらん。それはポーションであろう?飲めば傷も治り、体力も戻る。金貨20枚はするぞ。それ1つで平民労働者の年収7年分以上はあるのだ。そっちは高級傷薬、金貨3枚。ほぼ年収だ。傷薬とて安くはない。」

「でも貴方には必要なのでしょう?戦うために、助けるために。」

「だが、これは受け取れぬ。これ以上は受け取れぬ。」

「・・・。わかりました。騎士ベルトランには渡しません。俺との会話を楽しんだ豪快なオッサンにあげるんです。これから旅に出るオッサンにあげるんです。」

「ぬ!うむ・・・。だが・・・。」

「なら、いずれ返してください。利息もたんまりつけて。もしオッサンが死んでいても呼びつけますから。死んでも逃がしませんよ?」

「ハハハ。これは参った。怖くて死ねぬではないか。」

「なら、ちゃんと返しにきてください。俺はワガママです。俺からオッサンを探したりはしませんよ。」

「良かろう。借りたままでは騎士の名折れ。『オッサン』の名にかけて必ず返そう。」

「もう、行くんですか?」

「あぁ、今すぐにな。」

「良き旅を。」

「貴殿に神の祝福があらん事を。」

こうしてベルトラン・サーペントは旅立った。


「ねぇ、ねぇ。ベルトラン様とお兄さん、いい雰囲気だったじゃない。もしかしてお兄さん、そっちの人?」

「その冗談はベルトラン様に失礼です。ですが、ベルトラン様が声をあげて笑うのは初めて見ました。」

「アタシも色々話したかったんだけどなぁ。割り込める雰囲気じゃなかったし。」

この後、オモチャにされたのは言うまでもなかった。

金貨1枚が銀貨100枚。銀貨1枚が銅貨100枚。銅貨1枚が100円程度です。つまり、金貨1枚が100万円、銀貨1枚が1万円くらい。

労働者は1日働いて銀貨1枚くらい貰えます。休日もありますから年間で銀貨300枚。金貨3枚分です。

農民になると金銭での収入は収穫時期の売買と日々の内職だけになり、年間で銀貨100枚ほど。変わりに自給自足の生活です。


各国で違いますが神聖帝国では新米の兵士が月に銀貨30枚。年間で銀貨360枚。もちろん休みもありますし、労働者よりは収入は恵まれています。


仕える貴族によっても差はありますが、国に仕える従騎士の月給は銀貨30枚です。しかし、仕える将軍や正騎士が食事と寝る場所は提供するため、お金には困りません。


正騎士になると月給は金貨1枚が貰えます。役職や任務によって手当も出ます。ただし、正騎士は馬や武具の維持費、社交費用など出費も多いため、危険な任務についたり手柄をたてないと赤字になる危険性もあります。最近は馬をレンタルで借りて節約したり、休日に貴族の警備に参加して小遣いを稼ぐ人が増えています。


ちなみに、ベルトランは多大な手柄を立てているため、かなり裕福です。

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