13
朝になり、馬車に揺られて移動する。ベラ達第2分隊の面々は狩りに行っていた。あらかじめ集合ポイントを決めているため、問題ないらしい。
川へと差し掛かり休憩を取る。馬に水を飲ませ、休ませる必要があるそうだ。
「魚を取ってきます。」
肉だけではなく魚も必要だろう。何しろこの集団は食い盛りの乙女だらけなのだから。あれ?乙女ってそんなものだったっけ?
川沿いに下り、数ヶ所で大きな石を投げ込む。昼前だからか釣果は芳しくない。さらに下流へ下流へと進んでいく。
少し離れた場所に何かを見つけた。
そこは黒い霧で覆われていた。
ドクン
体の中で何かが動き、黒い霧がケイへと吸い込まれていく。全ての霧がなくなり、辺りがハッキリと見えた。
死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。
朝食べた全てを吐き出す。
そこは死に満ちていた。そこは・・・。
確認なんてできない。必死に駆け出し、その場を離れる。
無事に川へと戻り、顔を洗う。絶対に情けない顔をしているだろう。数匹の魚をぶら下げて川沿いで元の場所へと戻った。
そこにいたニーナに情報を伝えると何かの笛を吹き、皆を集めて現地の確認へと向かった。結果は第2分隊を絶望へと突き落とす。
「お兄さんは魚を釣ってきて。アタシ達は大事な話をしなくちゃならない。」
真面目な顔のベラに言われ、即席の昼飯を置いて上流へと向かう。ケイに分かるのはヤバい状況だという事だけ。トボトボと歩いていく、途中途中で魚をゲットするのは忘れずに。
ドンと後ろから衝撃を受けた。前へと倒れ、転がる。
「悪いけど魚を貰うよ!!」
髪をボサボサに乱れさせた上半身裸の女性が、ケイへと飛び掛かってくる。身体のアチコチに大きな傷痕があり、鋭い目付きは魚から目を離さない。揉み合ううちに女性の胸がアチラコチラへあたる。力はケイが上。相手は万全ではないのだろう。魚しか見ておらず、精神状態も危ない。
その時、何かがケイの口に入った。思わず舌で押し出そうとする。
「アンッ!」
女が声を上げる。引き離した時にそれが何か悟る。
「いや、その、わざとじゃ。」
女も戸惑い、困惑している。それでも魚へと手を伸ばし、ケイを押し倒す。
(お父様、先程は瘴気を御馳走様。お父様は何を遠慮しているの?疼いているのでしょう?相手は敵よ。お父様に襲い掛かる不遜な雌。)
頭の中に可愛らしい声が響く。
(ならば教えないと。誰に刃向かっているのか。私のお父様に襲い掛かったらどうなるか。教えないと。私のお父様の素晴らしさを。教えないと。雌は雌らしくしろと。)
「なんだ?や・め・・ろ。」
(心配しないで、お父様。全てを私に委ねて。私はお父様の味方。お父様の敵は私の敵。殺しはしないわ。ただ躾るだけ。)
「お前は・・?やめろ!!」
(お父様、抵抗はやめて。・・・。お父様には困ったものね。)
ケイの口から拳大の黒いモヤが飛び出し、女の全身を覆い始めた。女は逃げるようにケイから離れてもがく。
「ハァ、ハァ。な、なんなんだ?」
ケイも訳がわからず混乱しそうだ。
(この雌、猛毒状態と飢え、精神錯乱。よく生きてるわね。体力と筋力は馬鹿みたいにあるし。。そうね、精神は1まで低下しているし、お父様の僕になりなさい。)
黒いモヤから電撃のような物がバチバチと走る。止めたいが近付きたくない。
(書き換えは簡単ね。ついでだから毒は消してあげるわ。魔力回路もこじ開けてあげる。)
モヤから女の絶叫があがる。怖い、怖い。
(痛いのかしら。痛いのかしら。でもそれはお父様を襲った罰よ。ただの雌からお父様のための雌に生まれ変わる祝福よ。)
頭に響く少女の冷たく、楽しそうな声に怯える。ケイは目をつぶり、耳を塞ぐ。
ケイが気付くと先程の女は倒れていた。
(もう彼女はお父様の僕。私は疲れたから寝るわね。ご機嫌よう、お父様。)
「いや、だからお前は誰だよ!!」
その回答は返ってこなかった。




