EP 7
特定班動く! 悪徳商人のアジト強襲
「特定班のみんな〜! キュララちゃんのドローンカメラ映像、上空からポポロ村の全域にアクセスするよ〜! さっきの胡散臭い『風水師・火原』の特徴、みんな覚えてるよね?」
私の部屋の窓から、キュララが操る五つのドローンカメラが一斉に夜空へと飛び立った。
『ゴッドチューブ』の配信画面には、ドローンから送られてくる高画質のポポロ村の夜景が、マルチウィンドウで展開されている。同時接続者数はすでに五十万人を突破。ルナミス帝国中の暇人……もとい、正義感に燃えるリスナーたちが、血眼になって一人の悪徳詐欺師を捜索していた。
『任せろ! 俺たち特定班の恐ろしさを見せてやる!』
『特徴:無精髭、角刈り、赤いスカーフ、煤で汚れたツナギ、悪臭、詐欺師』
『キュララちゃん、ドローン三号機をもうちょっと南に向けて!』
『りょーかいっ♡ 南の森の方だね〜!』
キュララが軽快に端末を操作すると、ドローンの映像が村の外れ、鬱蒼とした森の入り口付近を映し出した。
「すごい……この世界にもネットの特定班の恐ろしさは健在なのね……」
「ふふん! 帝国の特定班を舐めちゃダメだよ。彼らは風景の星の配置や、風向き、レンガの積み方一つで相手の住所を完璧に割り出す、現代の執念深いハンターなんだから!」
キュララがドヤ顔で言い放った、まさにその時。
コメント欄が、凄まじい勢いで滝のように流れ始めた。
『あ! 三号機の映像の左下! ボロボロの小屋から怪しい煙が出てる!』
『あの煙の色、火原が着てた服から漂ってたお香の匂いの成分(安物の魔草)を燃やした時の煙と同じ色だぞ!』
『背景の土の赤さ……あれは旧ドンガン鉱山から流れてきた赤土だ!』
『ビンゴ! ポポロ村の南端にある、旧ドンガン鉱山の第4廃倉庫だ!』
『特定完了! タイム:2分45秒!』
『うおおおお! 詐欺師の震える顔が見てぇぇぇ!』
「……早っ! わずか三分弱でアジトを特定しちゃうなんて!」
私は驚愕で目を見開いた。
前世のネット社会でも、芸能人の瞳に映った景色から住所を特定する恐ろしい手合がいたが、まさかファンタジー世界でそのスキルがこんな形で役立つとは。
「よし! アジトは割れたわ! キュララ、ドローンで上空から逃げ道を塞ぐように監視を続けて! リーザ、あんたは被害者として証言してもらうから一緒に来なさい!」
「はいっ! リカ様! 私の五十万ゴールドの借用書、絶対に取り返してみせますわ!」
リーザが鼻息を荒くして立ち上がる。
だが、私たち三人だけで得体の知れない詐欺師(もしかしたら屈強な護衛がいるかもしれない)のアジトに乗り込むのはリスキーだ。私は首から下げたスマホを操作し、頼れる村のトップと、最強の料理人に連絡を入れた。
◆
ポポロ村の南端、旧ドンガン鉱山の第4廃倉庫前。
鬱蒼と生い茂る木々に囲まれたトタン屋根のボロ小屋から、かすかに灯りが漏れている。
「リカちゃーん! お待たせ!」
「リカさん! お怪我はありませんか!?」
待ち合わせ場所に駆けつけてきたのは、ウサギ耳を揺らすキャルル村長と、手にお玉を持ったままの割烹着姿のダインさんだった。
「キャルル村長、ダインさん、急に呼び出してすみません」
「ううん、リカちゃんからのSOSならいつでも駆けつけるよ! 詐欺師なんて、この村の平和を乱す許せない悪党だからね!」
キャルル村長は背中のクロスボウを構え、凛々しい表情で頷いた。
その隣で、ダインさんは少し息を切らしながらも、私の無事を確認してホッと困り眉を下げた。
「シチューを煮込んでいる途中だったんですが、リカさんに詐欺を働いた奴がいると聞いて、火を止めて飛んできました。……リカさんを騙して泣かせるような輩は」
ダインさんの声のトーンが、スッと一段階下がった。
周囲の空気が急激に冷え込み、彼が握りしめているお玉の柄が、ピキピキと薄氷を張って凍りつき始める。
いつものオドオドした料理人の顔は消え失せ、極低温の怒りを湛えた『最強の氷魔剣士』の瞳がそこにあった。
「……僕が、絶対に許しません」
「ダ、ダインさん、落ち着いて! 私は騙されてないですし、泣いてもいませんから! 騙されたのはこっちのポンコツアイドルです!」
「えっ!? あ、そうだったんですか。よかったぁ……」
私が慌ててツッコミを入れると、ダインさんは一瞬でいつもの気弱な青年に戻り、ホッとしたように胸を撫で下ろした。彼の中の優先順位が『リカの安全>>>その他のすべて』になっている気がするが、今は頼もしい限りだ。
「よーし、戦力は整ったわね。みんな、突入準備よ! 配信もバッチリ回してね!」
私が丸めたタローマンの特売チラシ(お手製ハリセン)を右手に握りしめて指示を出すと、キュララが「はーい♡ 同接八十万人突破だよ〜!」とドローンカメラの赤色ランプを点滅させた。
私は、廃倉庫の錆びついた鉄の扉の前に立つ。
深呼吸を一つ。
社畜時代、無茶な要求をしてくる取引先のドアを叩く時と同じ、クレーム処理の「戦闘モード」のスイッチを入れる。
「ダインさん、ドアを」
「はい」
ダインさんがお玉を腰の帯に差し(包丁の代わりらしい)、鉄の扉の取っ手に手をかける。
そして、わずかに闘気を込めて――。
バァァァァァァンッ!!
扉の鍵どころか、蝶番ごと鉄の扉が吹き飛び、倉庫の中にすさまじい轟音と共に突風が吹き荒れた。
「ひぃっ!?」
「失礼しまーす!!」
私は吹き飛んだ扉の土煙を掻き分け、丸めたチラシを天高く掲げながら倉庫の中へと堂々と足を踏み入れた。
倉庫の中央。
ランタンの薄暗い灯りの下で、泥の壺をズラリと並べ、悪辣な笑みを浮かべていた詐欺師・火原が、度肝を抜かれたように尻餅をついていた。
「な、なんだテメェら!? っていうか、扉ごと吹き飛ばしやがって、ルナミス警察のガサ入れか!?」
「警察じゃありません! ゴルドスマイル銀行でもありません! ポポロ村役場・総務課の秋野リカです!」
私が名乗ると、火原は目を白黒させながら、私の背後にいるリーザとキュララの姿に気づいた。
「あ、あんたはさっきのジャージの姉ちゃん! なんで俺の居場所がわかったんだ!? つーか、そっちのドローン飛ばしてる派手な女はなんだ!?」
「ゴッドチューブの特定班の情報網を舐めないでよね!」
「私はトップゴッドチューバーのキュララちゃんだよ〜♡ 詐欺師のおじさん、今、同接八十万人の前で全世界に顔と本名晒されてるから、お母さんに泣かれちゃうね〜!」
キュララがドローンカメラを火原の顔にズームし、煽りスキル全開でピースサインを決める。
『うわ、こいつ指名手配中の脱獄犯じゃん!』
『詐欺師顔出しキタコレwww』
『特定班の勝利!』
『リカお姉さん、やっちまえ!』
虚空に浮かぶコメント欄(魔導スクリーン)に流れる弾幕を見て、火原の顔色が悪党の余裕から一転、恐怖の蒼白へと変わっていく。
「ふ、ふざけやがって……! どいつもこいつも、俺をコケにしやがって!」
火原はギリッと歯を食いしばり、立ち上がった。
「そのジャージの姉ちゃんは、俺と正当な『魔導契約』を結んだんだ! 壺を買って、トイチでローンを組むってな! これがその血判付きの契約書だ! 俺は何も悪いことはしてねぇ!」
火原が懐から取り出した羊皮紙を盾にするように掲げる。
ルナミス帝国において、魔導契約書は絶対の法的効力を持つ。それを盾にすれば私たちが手を出せないと踏んだのだろう。
だが、私はフッと鼻で笑った。
「馬鹿ね。特定商取引法……は、この異世界にはないかもしれないけど、民法上の『詐欺による意思表示』は取り消しが有効よ! つまり――」
私は丸めたチラシをビシッと火原に突きつけ、最大ボリュームの声で宣言した。
「私たちは、クーリングオフの申請に来ました!!」
「クーリング……なんだと!?」
意味のわからない単語に困惑する火原を前に、ダインさんが氷の冷気を纏いながら一歩前に出る。キャルル村長がクロスボウの狙いを定める。リーザが「私の太客と五十万ゴールドを返せぇぇ!」と牙を剥く。
「ひぃっ!? な、なんでこんなとこがバレたんだ! やめろ、近寄るなァ!」
腰を抜かし、後ずさる詐欺師。
だが、逃げ場はない。
休日の平穏をぶち壊された私の怒りと、数百万人の特定班の監視網が、容赦なく火原の包囲網を狭めていった。
読んでいただきありがとうございます。
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