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借金転生した元社畜、残高千円のスマホで辺境村の事務員になる〜気弱な最強騎士に胃袋を掴まれ絶対防衛で溺愛されています〜  作者: 月神世一


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EP 6

スポンサー様の丸めた新聞紙と、炎上生配信

 ポポロ村役場での激務を終え、私は重い足取りでアパートへの帰路についていた。

 今日の夕飯はダインさんが「ポポロ亭」で特製のシチューを作って待ってくれている。その温かい約束だけが、元社畜の私を動かす原動力だった。

「ただいまー……」

 ポポロ・コーポB302号室。ガチャリとドアを開けた瞬間、私は思わず鼻を覆った。

「うっ、なにこの匂い……安っぽいお香と、機械油の混ざったみたいな……」

 部屋の電気は消されており、薄暗い。

 そして部屋の中央には、奇妙な光景が広がっていた。

 真っ赤な芋ジャージを着たリーザが、正座をして、テーブルの上に置かれた『汚い泥壺』に向かって、両手を合わせて熱心に祈りを捧げていたのだ。

「石油王さんが戻ってきますように……! 明日の配信では赤スパチャが飛び交いますように……! 武道館(よく知らないけど)でライブができますように……!」

「……ちょっと、リーザ。あんた何してんの?」

 私が部屋の明かりをつけると、リーザはビクッとして振り返り、そしてパァァッ! と満面の笑みを浮かべた。

「あ、リカ様! おかえりなさいませ! 見てください、これ! ついに手に入れましたの!」

「これって……タローマートの園芸コーナーでももうちょっとマシなのが売ってそうな、ただの泥壺だけど?」

「泥じゃありません! 『退魔の黄金鳳凰壺』ですの! これを部屋に置くだけで貧乏神の因縁が浄化されて、ファンが何十倍にも増える最強の運気爆上がりアイテムなんですのよ!」

 ドヤ顔で言い放つリーザ。

 嫌な予感しかしない。前世で、一人暮らしの寂しい高齢者や、情報弱者の新入社員が引っかかっていた『アレ』の匂いがプンプンする。

「……リーザ。それ、いくらだったの?」

「定価五十万ゴールドですの!」

「ごじゅっ……!? あんたの全財産、銅貨三枚でしょ!?」

「ええ。ですから、出世払いのローン契約をしましたの! 金利は『トイチ』! 十日で一割も運気が増える、アイドルにぴったりの素晴らしい契約ですわ!」

 リーザは得意げに、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 ルナミス帝国で法的な効力を持つ、血判付きの『魔導契約書』だ。

 私はそれをひったくるように受け取り、目を通した。

「…………」

 数秒後。

 私の中の『元総務課・経理担当』としての血が、ドス黒く沸騰した。

 頭の中のエクセルが猛スピードで複利計算を弾き出す。

「リーザ。あんた、バカなの?」

「えっ?」

「トイチって運気が増えるわけないでしょ! 『十日で一割、借金の利子が増える』って意味よ! こんなの完全な違法金利の詐欺契約じゃない!!」

「……え? り、利子……? 借金が、増える……?」

 リーザの顔から、サーッと血の気が引いていく。

 私は手元にあったタローマンの特売チラシ(新聞紙のようなもの)を手に取ると、それをクルクルと硬く丸め、特製のハリセンを作り上げた。

「歯を食いしばりなさい、このポンコツアイドル!」

「ひゃああっ!?」

 ポカッ! ポカポカポカッ!

 私は丸めたチラシで、リーザの金髪の頭を容赦なく連続で叩いた。

「い、痛いですわ! スポンサー様、痛いですの!」

「痛くて当然よ! ちょっと褒められたからって、こんな怪しいおっさんの壺を買うなんて! うまい話がこの世にあるわけないでしょ! 私だって借金百万背負わされて、毎日必死にエクセル叩いて定時退社目指してるのに!」

「うわぁぁぁん! ごめんなさいですわぁぁ!」

 涙目で頭を抱えるリーザに、私は丸めたチラシを突きつけた。

「だいたいね! あんたの夢は『世界中の時間とお金を全部奪う』ことだったんでしょ!? こんな泥壺の運気なんかに頼ってファンを増やそうなんて、あんたの強欲さはそんな安っぽいものだったの!?」

「リカ、様……」

「あんたの歌は、ジャージ姿でも、みかん箱の上でも、ちゃんと人に届いてたじゃない! だからおばちゃんたちも立ち止まってくれてたんでしょ! 自分を安売りするんじゃないわよ!」

 私が一気にまくしたてると、リーザは大粒の涙をポロポロとこぼし、私の足元にすがりついて号泣し始めた。

「うわぁぁぁん! 私が、私がバカでしたわぁぁぁ! 石油王さんに逃げられて、焦ってしまって……! 本当は、自分の歌でトップになりたいですのぉぉ!」

「……まったく、世話が焼けるわね。ほら、泣かないの」

 私はため息をつきながら、丸めたチラシを置き、リーザの頭を優しく撫でた。

 怒ってはいるが、彼女が純粋に夢を追いかけているからこそ騙されたのだと思うと、不憫でならない。一番悪いのは、こんな純粋なバカを食い物にする詐欺師だ。

「ぷくくっ……あーウケる! 限界OLのガチ説教、マジでてぇてぇわ〜!」

 その時。

 部屋の隅の暗がりから、ふざけた笑い声が聞こえてきた。

 見ると、パステルピンクのツインテールの天使――キュララが、ベッドの上で寝転がりながらスマホを弄っていた。

 そして彼女の周囲には、五つのドローンカメラがフワフワと浮遊し、赤く録画のランプを点滅させている。

「ちょっと、キュララ!? あんた、いつの間に私の部屋に!」

「ずっといたよ〜。ていうか、今の説教、全部『ゴッドチューブ』で生配信させてもらったから! 同接(同時接続者数)三十万人突破だよ! おめでと〜!」

「はぁぁぁっ!?」

 私は血の気が引く思いで、キュララが差し出したスマホの画面を覗き込んだ。

 そこには、私がお手製のハリセンでリーザを叩き、説教している映像がバッチリと映し出されていた。そして、画面の右側には滝のようなスピードでリスナーからのコメントが流れている。

『美人マネージャーの正論パンチ草』

『壺売り詐欺とかルナミス帝国警察案件だろwww』

『怒ってるリカお姉さんマジてぇてぇ。俺も丸めた新聞紙で叩かれたい』

『リーザちゃん泣かないで! スパチャ投げるから!』

『てかこの壺、最近帝都近郊で出没してる脱獄犯の仕業じゃね?』

「な……なによこれ! 勝手に全世界に配信しないでよ! 私のプライバシーは!?」

「いいじゃんいいじゃん! PV爆上がりだよ! リーザちゃんにも赤スパチャ飛びまくってるし!」

 キュララが指差す先を見ると、確かに画面には『リーザちゃん元気出して! 一万ゴールド!』といった応援の投げ銭が次々と飛んできていた。

 極貧アイドルは「えっ!? スパチャ……!?」と涙目で画面に食いついている。たくましすぎる。

「でさ、リカお姉さん」

 キュララはニヤリと、悪魔のような(天使だが)笑みを浮かべて立ち上がった。

「このリスナーの熱狂、ここで終わらせるのはもったいないよね? キュララのチャンネルでさ、この詐欺師の『特定&突撃配信』やっちゃおうよ! 絶対バズるし、クーリングオフもできるっしょ!」

「特定&突撃……」

 私は、テーブルの上に置かれた泥壺と、違法な魔導契約書を見下ろした。

 普段なら、目立つことは避けて警察(自警団)に任せるところだ。

 だが、この詐欺師は、私の大切な(ポンコツだが)アイドルの夢につけ込み、五十万ゴールドもの理不尽な借金を背負わせようとしたのだ。

 借金百万円の恐ろしさを骨の髄まで知っている私にとって、これ以上の悪逆非道はない。

 私の中で、社畜時代のクレーム処理で鍛えられた『戦闘モード』のスイッチが、カチリと音を立てて入った。

「……いいわ。乗ってあげる」

「おっ! 言ったね!」

 私はテーブルの上にあった丸めたタローマンのチラシを再び手に取り、キュララのドローンカメラの一つを正面からキッと睨みつけた。

「よし、特定班のリスナーたち、聞いてる!? クーリングオフ期間内に、この詐欺師を絶対に見つけ出して、物理でぶっ潰しに行くわよ!!」

 私が丸めた新聞紙を片手にカメラに向かって宣言すると、ゴッドチューブのコメント欄は、かつてないほどの熱狂と「うおおおおお!」という文字の弾幕に包まれた。

『特定班、動けェェェ!』

『マネージャー最強!』

『詐欺師終わったなwww』

 こうして、私の休日の平穏は完全に崩れ去り、数百万人のリスナーを巻き込んだ、前代未聞の『悪徳詐欺師・特定&強襲ミッション』が幕を開けたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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