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借金転生した元社畜、残高千円のスマホで辺境村の事務員になる〜気弱な最強騎士に胃袋を掴まれ絶対防衛で溺愛されています〜  作者: 月神世一


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15/27

EP 15

ポポロ亭の宴会と、新しい居場所

「カンパーーーイッ!!」

「「「カンパーーーイッ!!」」」

 古代の殺戮兵器『死蟷螂機』の討伐から数日後。

 ポポロ村の広場にある大衆食堂『ポポロ亭』は、かつてないほどの熱気と歓声に包まれていた。

 村の防衛に尽力した自警団の面々、役場の職員、そして被害を免れた村人たちが一堂に会し、盛大な祝勝会が開かれているのだ。

「ぷはぁーっ! うまい! やはり戦いの後のエールは最高だな!」

 ジョッキを豪快に煽っているのは、自警団リーダーのマンミアさんだ。

 普段の生真面目な騎士の顔はどこへやら、彼女の端正な顔立ちはすっかり赤く染まり、馬体の尻尾をご機嫌に揺らしている。彼女の前に並べられた空のジョッキの数は、すでに二桁に突入していた。

「マンミアさん、飲み過ぎですよ! 明日も朝から防護壁の修繕の立ち会いがあるんですからね!」

「わかっているともリカ事務官! だが今日くらいは飲ませてくれ! あのバケモノの装甲を思い出すと、まだ胃がキリキリするのだ……うぅ、パイルバンカーの杭の補充代、いくらかかるか……」

「だからそれは役場の予算で落とすって言ってるじゃないですか。泣き上戸にならないでください!」

 私が苦笑しながらおしぼりを渡すと、その横を赤い旋風が通り抜けた。

「おかわりですわーっ! そこのシープピッグの唐揚げと、太陽芋のポテトフライ、大盛りでお願いしますの!」

 極貧地下アイドルのリーザである。

 彼女は両手に大きな串焼きを持ちながら、次々と運ばれてくる料理を、まるでブラックホールのように胃袋へと吸い込んでいた。あの細い体のどこにそれだけのカロリーが収まるのか、人魚族の生態は謎に包まれている。

「リーザ、あんた少しはペース配分考えなさいよ。喉詰まらせるよ」

「もきゅっ、はぐはぐ……だって、リカ様! 今日はスポンサー様のおごり……じゃなくて、村の慰労会だから、全部タダなんですのよ! ここで一週間分のカロリーを摂取しておかないと、明日からの路上ライブに響きますわ!」

「あんたの燃費どうなってんのよ……」

 呆れつつも、幸せそうに頬張る彼女の姿を見ると、なんだかこちらまで嬉しくなってくる。あの恐ろしい死蟷螂機を前にして、一歩も引かずにデバフ(お賽銭箱型掃除機)をかけてくれた彼女の度胸には、本当に助けられたのだ。

「ホンマ、ええ食べっぷりやな。見てて気持ちええわ」

 煙管をふかしながら近づいてきたのは、ゴルドスマイル銀行のニャングルだ。

 彼は純金製の算盤をチャキチャキと鳴らしながら、私の隣に腰を下ろした。

「ニャングルさんも、避難誘導ありがとうございました。おかげで逃げ遅れた村人はゼロでした」

「商売人は顧客の命が第一やからな。せやけど、あの死蟲機が粉々になったんは惜しかったなぁ。あの装甲の破片、集めてドンガン地下帝国に売ったら、相当な値がつきよったのに」

「守銭奴! 命があっただけマシだと思いなさいよ!」

「ガハハ、違いないわ!」

 ニャングルが大笑いしていると、ソファー席からキャルル村長がふらふらと歩いてきた。

 彼女の顔色はだいぶ良くなっているが、まだ少し魔力切れの気怠さが残っているようだ。

「リカちゃん……みんな、楽しそうだね。本当によかった」

「村長、無理して起き上がらなくていいんですよ。まだ安静にしてなきゃダメです」

「えへへ、でも、リカちゃんにお礼を言いたくて」

 キャルル村長は、ウサギ耳をぴょこんと揺らし、私の両手をギュッと握った。

「リカちゃんが子供を庇ってくれたこと、マンミアから聞いたよ。本当にありがとう。それに、役場の事務仕事も、リカちゃんがいなかったら、私はとっくに倒れてて、村の指揮なんて取れなかったと思う。リカちゃんは、ポポロ村の救世主だよ」

「きゅ、救世主なんて大袈裟ですよ……! 私はただ、書類をエクセルみたいに整理しただけで……」

「ううん、リカちゃんが来てくれて、本当にポポロ村は救われたの。これからも、私の右腕として助けてね」

 キャルル村長の真っ直ぐな瞳に、私は少しだけ胸が熱くなった。

 前世の社畜時代。誰かのために必死に働いても、返ってくるのは「当たり前だ」という冷たい視線と、追加の仕事だけだった。

 でも、この異世界では違う。

 私の小さな努力が、誰かの命を繋ぎ、こうして村の笑顔を守る力になっている。

 それが、たまらなく嬉しかった。

「はい! もちろんですよ。借金を返すためにも、定時退社でバリバリ働きますからね!」

「うんっ!」

 キャルル村長と笑い合った後、私はふと、店内を見回した。

 賑やかなフロアに、彼の姿がない。

「……あれ、ダインさんは?」

「ダイン君なら、厨房でずっと料理を作ってくれてるよ。あんなに戦った後なのに、タフだよね」

 キャルル村長の言葉に、私は席を立ち、厨房の方へと向かった。

 カウンターの奥では、白い割烹着姿のダインさんが、巨大な鍋を前にして立ち立ち働いていた。

 氷魔法で繊細な温度調整を行いながら、次々と注文される料理を神速で仕上げていく。その手際の見事さは、先日の氷魔剣士としての圧倒的な戦いぶりを彷彿とさせた。

「ダインさん、お疲れ様です」

「ひゃあっ!?」

 私が声をかけると、ダインさんはビクッと肩を震わせ、持っていたお玉を危うく落としそうになった。

「り、リカさん!? ど、どうしました!? ご飯、足りませんでしたか!? すみません、今すぐ追加の唐揚げを揚げますからっ!」

「違います違います! ダインさんも少し休んだ方がいいんじゃないかと思って」

「あ、いえ……僕なんて、料理くらいしか取り柄がないので……皆さんが喜んでくれるなら、全然疲れませんから……えへへ」

 ダインさんは、困り眉をハの字に下げて、いつものようにオドオドと笑った。

 あの時、絶対零度の冷気を纏い、最強の氷魔剣士として怪物を一刀両断した姿が嘘のようだ。

 村人たちも、ダインさんの活躍を目の当たりにしたはずなのに、普段の彼の人の良さすぎる態度のせいで「あれは夢だったんじゃないか」とすら思い始めているらしい。

「本当に……同一人物なんですか?」

「うぅ……忘れてください。あんな、冷気を撒き散らして剣を振り回すなんて……料理人として恥ずかしいです。リカさんにも、怖い思いをさせてしまいましたし……」

「何言ってるんですか! 怖くなんてありませんでしたよ!」

 私はカウンターから身を乗り出し、ダインさんの顔を真っ直ぐに見つめた。

「ダインさんが来てくれなかったら、私、あのまま真っ二つでしたよ。あの時のダインさん、めちゃくちゃカッコよかったです。……助けてくれて、本当にありがとうございました」

 私が頭を下げると、ダインさんは顔を真っ赤にしてパニックになり始めた。

「あわわわ! そ、そんな、頭を上げてください! 僕の方こそ、リカさんが無事で本当によかったんですから!」

 慌てふためくダインさんの手には、いつの間にか小さなボウルが握られていた。

 中には、キラキラと輝く氷の結晶のようなデザートが入っている。

「あの、これ……リカさんのために、特別に作ったんです」

「私のために?」

「はい。疲れた身体には、甘くて冷たいものが一番ですから。特製の『月見大根のハチミツ氷菓』です。大根の甘みを極限まで引き出して、氷魔法でシャリシャリの食感に仕上げました」

 ダインさんは照れくさそうにボウルを差し出した。

 一口スプーンですくって口に入れると、シャリッという心地よい食感と共に、上品な甘さが口いっぱいに広がった。冷たさが火照った身体を優しくクールダウンしてくれる。

「んんっ……美味しい! さっぱりしてるのに、すっごく甘くて……疲れが吹き飛びます!」

「よかったです。……リカさん」

 ダインさんは、厨房のカウンター越しに、私をじっと見つめた。

 その瞳は、いつものオドオドした気弱な青年のものではない。

 あの夜、私のために剣を抜いてくれた、静かで、どこまでも優しい騎士の眼差しだった。

「貴女を守れて……本当によかったです」

 ぽつりと、心からの安堵を込めるように紡がれた言葉。

 その甘い声色と、真摯な眼差しに、私の心臓はドクンと大きく跳ねた。

「ダイン、さん……」

「これからも、僕のご飯、たくさん食べてくださいね。リカさんの胃袋は、僕がずっとお世話しますから」

 ダインさんがふわりと微笑む。

 過保護で、優しくて、最強の料理人。

 こんなの、好きにならないわけがない。社畜時代に干からびていた私の心は、完全に彼の胃袋掌握の魔法にかかってしまっていた。

「……はいっ! 毎日の夜食、楽しみにしてます!」

 私が満面の笑みで答えると、ダインさんは再び耳まで真っ赤にして「が、頑張ります!」と厨房の奥へと逃げ込んでしまった。

 やっぱり、この人は可愛い。

 私はデザートのボウルを手に持ったまま、ポポロ亭の賑やかなフロアを振り返った。

 大食いするリーザ、酒を煽るマンミアさん、笑い合うキャルル村長とニャングルさん。

 異世界に来て一ヶ月。

 理不尽に押し付けられた借金百万の絶望から始まった私の生活は、今、信じられないほど温かい居場所に包まれている。

(……クソ女神め。借金は絶対に許さないけど、この出会いだけは、少しだけ感謝してあげてもいいかもね)

 私は首から下げた『エンジェルすまーとふぉん』をそっと握りしめた。

 画面をこっそり確認する。

【現在ご利用額:931,000円】

【実質残高:1,000円】

 うん、まだまだ先は長い。

 黒服天使レスラーの影は常に背後に迫っているし、村の財政もまだまだ立て直しの途中だ。

 でも、今の私には、エクセル的思考と事務員魂がある。

 そして何より、美味しいご飯を作って私を守ってくれる最強の騎士と、一緒に笑い合える仲間たちがいるのだ。

「さあ、明日も定時退社目指して、バリバリ稼ぐわよ!」

 私は残高千円のスマホをポケットにしまい、賑やかな宴の輪の中へと戻っていった。

 私の異世界お仕事サバイバルは、まだ始まったばかり。

 借金完済と、平穏なスローライフ(と美味しい夜食)を手に入れるその日まで、秋野リカの総務課仕込みの戦いは終わらない――!

読んでいただきありがとうございます。

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