遊び人、追放される───
◆◇◆◇◆
俺を縛る糸は無くなった。伸ばす手も地面を捉える足も、達成感も、苦難さえも俺の意思で、俺のモノだ
◆【赫灼王との数年間】
ディランは『赫灼王』との探索で、初めて己の力で得た『オリジナル』の楽しさを実感していた。道化師としての才能は開花し、仲間たちとの連携は元々一緒に活動していたのではないかというほどに順調だった
リーダーであるミカエルは、ディランの予測不能なトリックスターぶりを高く評価し、パーティの貴重な戦力として、あるいは友として、ディランとの間に確かな信頼関係を築いていた。他のメンバーも、ディランの明るさと、時に見せる意外なほどの冷静さ、たまに起こるハプニングを楽しみながら叫びながら共に歩み
何よりもそのパフォーマンスで場を和ませる才能を慕っていた
バベルでの活動は、ディランにとって【真似事】ではなく、『自分自身』でいられる場所となっていた
◆【国王陛下からの呼び出し】
20歳目の年月を刻んだある日、ディランはギルドから呼び出しを受けた。それは、国王陛下からの直々の命であった
国王は、ディランによる伝説的なパフォーマンス、そしてその後に重なった数々の功績を、遠く離れた王都からでも知っていたのだ
国王は、その類稀なる才能と人々の心を掴んで離さないカリスマ性に目をつけ、ディランに特別な任務を与えるべく呼び出したのだった
◆【謁見】
王都へと赴いたディランは、豪華絢爛な王宮の謁見室で国王と対面した
国王は、ディランの現状の職業である『道化師』の装いをいたく気に入った様子で、その才能を惜しみなく賞賛した
「お前のような逸材を
このままバベルに埋もれさせておくのは惜しい
我が国の為に、力を貸してくれぬか?」
国王は、ディランに、ある『特別な組織』への配属を命じた
それは、国王直属の私兵である。ディランがよく知る。あの『役立たずの我儘、勇者パーティ』のことだと
国王は、ディランの『監視』と『牽制』そして『手綱を握る』役割を期待していることを伝えた
◆【赫灼王との対話】
ディランは、国王からの命令ではあったものの、長年共に戦ってきた『赫灼王』からの脱退になることに心苦しさを感じていた
ディランはミカエルに事情を説明し、相談することにした。ディランは、国王からの命令であること、そして『勇者パーティ』の監視という名目であることを正直に話した
ミカエルは、ディランの忠誠心と、国王への敬意を理解した上で、彼の決断を尊重すると伝えた。しかし、国王からの命令であり、逆らうことはできないと悟っていた
◆【ミカエルとの決別】
ミカエルは、ディランの置かれた状況を理解しつつも、彼が『赫灼王』から離れることに、複雑な表情を浮かべた
彼は、ディランの才能が、国王の手に渡ってしまうことへの懸念、そして何よりも、長年共に戦ってきた仲間との別れを惜しんでいた
「ディラン、お前は俺にとって
いや俺達にとって、かけがえのない仲間だった
だが国王の命令ともなれば、仕方がない
お前の新たな道での活躍を、心から願っている」
ミカエルは、ディランに、握手を求めた。ディランは、その温かい言葉にミカエルと固く握手を交わした
他の『赫灼王』のメンバーも、ディランとの別れを惜しみ、それぞれの言葉で激励の言葉をかけた
◆【バベルへの別れ】
謁見の次の日、ギルドの面々は驚きを口にした。ディランの装いが黒ではなく、真っ白なタキシード、シルクハットへと変わっていた
ギルドの受付嬢アニタもそれに驚きながらも、その意図を大雑把ながらに察していた。アニタは、ディランの新たな旅立ちを笑顔で見送った
「最後の更新を頼むよ。アニタ」
「またいつでも、お越しくださいね
ディランさん」
ディランは、彼女の言葉に感謝し、足早にバベルを後にしようとした
かつて、虚無感を抱え、逃げるように街を転々としていた頃の自分とは違い、今のディランには、確かな目的と、支えてくれた仲間がいた
新たな舞台に不足の力はなかった
◆【追放だ】
「ディラン」
「ミカエル…なんだよ?見送りか?
女々しいったらありゃしねぇな」
おどけて見せるディランにミカエルは真剣な面持ちで返事をした。ディランは僅かに『赫灼王』との別れを惜しんでいた
揺らぐ決意の狭間で最初に見送りを決意したのはミカエルだった
「ディラン、お前を赫灼王から追放する」
「…っ」
側から見れば追放。しかし、ディランと赫灼王の間では門出を見送るものだった。ディランはそれに対して、いつも集まっていた、ギルドの中央にある、いつもの丸テーブルへと向かった
そのテーブルの上に、トランプを刺していく
【スペードのキング】───それは、かつての仲間のリーダーであるミカエルへの敬意と、感謝の印だった
【ダイヤのクイーン】───それは、彼が道化師として、初めて自分自身を取り戻した、輝かしい記憶の象徴だった
刺さったトランプが爆ぜると同時に丸テーブルに模様が刻まれた。側から見れば決別の返事として見えるだろう
◆【道化師の死】
「ハートとクローバーは持っていくぜ?」
「精々頑張れ、遊び人」
ディランは、静かにバベルを後にした。彼の背中には、新たな任務への決意と、仲間たちとの絆、そして、未知なる未来への希望が、確かな光として灯っていた
「さぁて、裏方に戻るかな」




