遊び人、ここに道化師となる───
◆◇◆◇◆
「稼ぐか…」
無一文になった俺は街へと繰り出した
◆【それから】
ディランはまるで変幻自在のカメレオンのように、どんなものでも【お飯事】で驚くほど正確に幅広く再現し、町の便利屋となった
順風満帆…とはいかなかった。平和を謳歌する程に本人でさえ気が付かぬ内に心に空いた穴から自己が流れ続けていたのだ
街での彼の評判は瞬く間に上がっていった。しかし、その才能は、彼を常に『本物』ではなく『二番目』という位置に追いやっていた
何かをしようにも【職業柄】により【お飯事】が下地に来てしまうのだ。それは【職業】然とした立ち振る舞いを強制させられる『逆流』───逃れられない副作用だった
そんな不満は日に日に増していくと。ふとディランは迷宮へと舵を切っていた。何かを『集める』ことでその不満を埋めた
希少な骨董品、失われた伝説。なんでもよかった。あるいは危険な情報さえも、手際よく『集めて』きては、その一部を財産にし、歪ながらに心を満たしていった
◆【しかし、所詮は真似事と】
ディランは気がつけば『迷宮探索者』として名を馳せていた。たったひとりで迷宮に潜り『収集』する日々
しかし、1月と経たぬ内に心は枯れていった。何故か?それは街行く人々、かつての人々の『真似ごと』でしかなかったからだ───ディランも分かっていた。己の再現することに長けている【遊び人】の本質は『達人』を真似れば『熟練者』の腕を手に入れられる『だけ』の力であることを
『虚無』───それがもたらす富でさえ、ディランにとっては他人からの施しの様に見えて仕方がなかった。吐き気が日に日に増して行く中、散財をすることで己の中の『乖離』をどうにかしようとしていた
◆【しかし、それも長くは続かなかった】
頭を掻きむしり、自己を見つめて何度も吐きそうになっていた。最早、眠ることすらも【真似事】に感じられ、ある日逃げ出した
街を転々として、富を築いては逃げ、富を築いては逃げを繰り返した。そうして、ディランは天衝塔バベルの袂へと流れ着いた
この時のディランは15の年を重ねていた。荒む心に一筋の光が差し込んだ。太陽に届かんと手を伸ばす塔にこの時、ディランは魅了された
開けっぱなしの門扉から出入り口を探さんと中へと入った
◆【ギルドの総合受付へ】
等間隔に並べられた木製の丸テーブル。まるで食堂と酒場を混ぜ合わせた賑わいだ
「いらっしゃいませ、お食事ですか?
お泊まりですか?それともバベルへ?」
「えっと、ここは?」
「ここはバベルと言って『転職』することが
できる場所になっています」
「テンショク?なんだそれは」
「転職はその名の通り一度宣託された
職業を変えることです」
「職業を変える?」
「はい、どうされますか?」
「じゃあ、バベルで」
◆【通されたところは】
教会の様な一室に通され、誰も居ない大講堂を進んでいく、驚くほど人の居ない空間であるにも関わらず、何故か温かみを感じた
【いらっしゃい、我が子】
美女という言葉では表せない程の美しさと儚さを持った存在がそこに居た。しかし、何というか『異性』としての美しさというよりは『母親』としてとても『尊敬』のできる存在に不思議と祈る姿勢を取っていた
【貴方が訪れた理由は、既に知っています】
「それはどういう」
【よくここまで頑張りましたね
ディラン・アルベティーニ】
「ありがとう、ございます」
目頭が熱くなり顔を伏せる。何故だか『心配かけない様に』と考えての行動だった
【あなたに、新たな力を授けましょう】
◆【俺は遊び人というしがらみから解放された】
「ディラン・アルベルティーニさんですね」
俺がこれまで無駄に散財していた。金銭のいく末は装備への投資に変わった。仕立て屋にこれまで集めた素材の中でも良い物を持ち込み、仕立てて貰った服を着る【全身を黒に統一したタキシードとハットでビシッと決めた一張羅】
「はい、道化師になりました。お嬢さん
お名前を伺っても?」
…ん?俺は今なんて言った?何故手から薔薇が出てきた?なにこの喋り方?
「ここで受付嬢をしております
アニタと申します。ディランさん」
◆【説明を受ける】
「道化師はトリックスター
様々な道具や仕掛けを使う職業です
かなり戦術の幅が広がると思いますよ」
「なるほど、だから手から薔薇が出たのか」
「人を笑わせたり、注目を集めたり
親しみやすさを受ける方がなりやすいですね
ディランさん、さては人の顔色伺うの
上手いですね?」
「そう、何ですかね?あまり実感が湧きません」
「兎も角、転職の手続きは以上です。良き旅路を」
◆【晴れやかな気分で見る太陽は】
「なんて綺麗なんだ」
今まで灰色に見えていた景色が今や色づいている。喧しいくらいの多彩だ
「〜♪」
【歩くだけで楽しい気持ちが湧き起こる。昂る気持ち、高揚感、歌をひとつ歌いたい気分だ。黒のシルクハットを気持ち任せに何故飛ばす。あぁ、あんなに高く飛んでいって楽しそうだ】
灼熱の太陽が俺を照らす
◆【影が掛かり数人が帽子を見上げた】
ディランの片手に帽子が落ちてきた。それを掴み、一回転。シルクハットの中から一匹の真っ白な鳩がふわりと飛び立った
聞こえたのは観衆のどよめき。観衆の視線はやがてディランへと釘付けになった
シルクハットをひっくり返すと、そこから次々と色とりどりのスカーフが溢れ出していく───それは"まるで"万華鏡のように一瞬にしてディランの周囲を華やかに彩った
地面に広がるスカーフはやがて、生きているかのように彼の動きに合わせて踊り始めると何処からともなく音楽が鳴り響いた
軽快でリズミカルなメロディーに合わせ、ディランの体は躍動し始めた。彼は流れるようなステップで優雅に踊り始めた
タキシードの裾が風になびき、彼の動きは華やかそのもので、まるで魔法のように人々の心を掴んでいった
見ている者はもちろんのこと、通りすがりの人々も、その異様な光景と魅惑的なパフォーマンスに足を止めずにはいられず、しまいには顔に好奇心と驚愕の色が浮かび始める
気がつけば人垣ができていた。ディランのテンションは最高潮に達した。彼は右手を掲げ、左手を大きく広げると再びシルクハットから物が溢れ出した
トランプ噴き出し、気がつけば大通りの真ん中に、象が鼻を掲げて鳴いた。観衆は悲鳴にも似た歓声をあげ、その圧倒的な光景に腰を抜かす者さえいた
象が消えると同時に小さな爆発と無数のキラキラと輝く紙吹雪が宙を舞い散った。それはまるで、星屑のシャワーの様に
観衆は、驚きと興奮、そして何よりも楽しさで、割れんばかりの拍手と歓声を送った。笑顔が溢れ、道行く人々の顔にも喜びの色が広がった
ディランが紙吹雪の中心でシルクハットを深々と被り突如姿を表すと、拍手喝采となった
ゆっくりと観衆に顔を向け───そして、シルクハットに手を当て持ち上げると、それを胸の前に持って行き深々とお辞儀をした
その一礼は、ただの礼儀ではなかった。それは、観衆への感謝、そして魔法のようなひとときへの敬意が込められた、完璧なフィナーレだった
「きゃあ!」
「すっげぇ!」
「うっそだろぉ!」
◆【風の踊り子と契約】
「はぁ…はぁ…」
めっちゃ気持ちいい。思った様に身体が動くなんて初めてだ。あれは一体誰の真似だろうか
【誰の真似でもないわ。ヒトの子】
「え?どなたですか」
観衆の声とは波長の違うそれに振り返ると『何か』が居た
「あ、貴方は?」
【風の精霊・シルフ。あまりに楽しそうに
踊っていたからつい歌ってしまったわ】
「あはは、それはどうも麗しの君」
【また呼びなさい。可愛い道化師さん】
◆【彼女は旋風と共に消えた】
「アレは一体…」
「君!そこのタキシードの君!」
惚ける俺に真っ赤な鎧や法衣に身を包んだ4人組がやってきた
「この騒ぎは君がやったのか?」
「そうだけど、まさか迷惑でした?」
「あぁ迷惑だ」
「それは…」
「今すぐ仲間に引き入れたくなるからな!」
「え?」
「道化師として俺達のパーティに入ってくれ」
「話が見えてこないな」
「すまん、興奮のあまり、名乗り忘れていたな
俺達は赫灼王。このバベルを攻略せんとする
探索者だ」
◆【かくして】
遊び人から道化師となったディランは流れに流れ続けて、バベルへと辿り着き、なんやかんやあって『赫灼王』の目に留まることになった
楽しい探索が続く中、ディランの元に『とある筋』からの『依頼』があって『赫灼王』と決別するのはまた別のお話




