遊び人、パーティをクビになる───
◆◇◆◇◆
「お前はクビだ」
見習い剣士ライアスがそう告げた。告げた先は俺だ
『火属性特化の魔法使い』にでも
『即死祈祷を連発する祈祷師』にでもなく
"俺に"だ
またこのパターンか、他の仲間の面倒を見る手を休めることはしないが『何故今なんだ?』そんなことを思うのは当たり前だ。なんたって命からがら逃げてきた直後の開口一番がこれなんだからな
◆【死に掛けパーティ、辛々敗走】
穴の空いた船を【お飯事】で【船大工の真似事】を続けつつ、合間を縫って味方を【僧侶の真似事】で癒し続ける。そんな俺はこの『国から魔王なる存在を滅ぼすこと』を目的として結成された『勇者パーティ』の言わば『緩衝材』役だ
最高だろ?ただの『遊び人』がこんな大層な役割に任命されるなんて〜願ってもやりたいわけないだろ───あんなおっかない場所に駆り出されるなんて、こっちから願い下げだっつうの
ちなみに『魔王』ってのはアレだ。『人間の共通の敵』だ。そいつが居るのは『魔大陸』って場所なんだがコレがまた異常なほど強いのなんのって、んで惨敗して、逃げ帰ってるわけだ
◆【結成3ヶ月でよく挑もうと思ったよ】
良い話には裏があるとはよく言うが『ちゃんとした筋』の話にもこの手の依頼があるとは思わなんだ。俺の口先手先でここまで運悪くとんとん拍子で進んだのが最悪だったが近況を述べるなら『最悪一歩手前』だ
勇者様が魔大陸から尻尾巻いて逃げたんだ。そりゃあ人間界は絶望するだろうな───だが待って欲しい。魔大陸でもし負けてしまったともなれば、人間界は再び不安に包まれるだろ?死んだともなれば『それこそ絶望』だ
人々の期待を受けて旅立った若人を死なせるわけにも行かない、いろんな人の助力あってここまで進み、大勢の人が期待を胸に送り出してくれた。だから俺は前者を選択した───『逃走』だ
幸いなことに俺は『遊び人』だ。【遊び】において俺の右に出る奴はいないだろう。お強い魔大陸の方相手に殿を努めて見事逃げ切った訳だ。褒めてくれてもいいってのにな
◆【追放って始末だ】
「なんでそんな実力を隠してたんだ?」
「冗談やめて下さいよ勇者様」
実力?バカ言っちゃいけない【戯れ】は【お飯事】って言う【浅く広く真似できる力】の切り札中の切り札だ。そうポンポン使えるもんじゃない。平気そうに見えているのは【福笑い】のおかげだ
本来は使わない部分もフル導入で【真似する】荒技だ。今も激痛を耐えて味方の回復に努めてるってのに勇者の坊は他責を続けるばかりだ。そんなことしてる暇があるなら薬草のひとつでも取ってもらいたいもんだ
「コレはポンポン使えないんですよ
イビルトレントと戦った時散々言ったでしょ?」
「…」
「これすごく痛いんすよ?」
「…」
「勇者様ぁ、薬草を取って下さい」
「やっぱり盾役が居ればよかったんだ
こんな奴じゃなくて」
聞いちゃくれねぇ。知ってたけどよ。それに盾役を追い出して追い出して、俺があてがわれたのを忘れたのかな?若いのに物忘れって悲しいねぇ
しかも、今更名乗り出てくれる奴がいるわけないだろ、俺たちじゃ火力が足りない上に引き際が分からない司令塔の元になんて誰も居たくねぇよ
◆【結成当初からこんな感じだ】
項垂れ続ける勇者様を他所に1日が経った。最初に起きたのは魔法使いのアイーザだったが起き抜けに平手打ちを受けた。さぁ問題だ───何故『平手打ちを受けた』のか分かるか?
「穢らわしい遊び人が私に触れるな!」
答えは『不快だから』だ。勇者の坊の方がまだ分かる。だがコレに関しては理不尽だろ。正解できた奴は『2週目』だ
魔法使いアイーザは魔法大学出身の才女───歯に衣着せぬ言い方をすればめちゃくちゃプライドが高いだけの女。それも青天井にな
「っ〜」
「急に動くと傷に障りますよ」
「触れるな!」
『病的なまでの異性嫌い』───正確に言えば『地位の低い者』に対して容赦がない。常に誰かを見下している言動を見せるのがこの魔法使いアイーザだ
◆【痛みに悶えるが拒否されたので癒せず】
項垂れ続ける勇者様に爪を齧り痛みを堪える魔法使いを尻目に1日が経った。2徹目にして祈祷師を起こすことができた
さぁ問題だ。彼女はなんて言うと思う?
「ミルスさんおはようございます」
「大義です。ディラン」
答えは褒めてくれるだ。彼女は割と真面目でね。ある一点を除けば素晴らしい祈祷師だ
「ミルスさん、早速で悪いんですが
アイーザさんの回復を任せていいですか?」
「モンテ教の名において必ずや」
祈祷術ってのは基本的に『特色』を持っているが『回復』においてはその効力は一律だ。しかし、世界には『宗教』ってものがあって『派閥争い』が絶えない。その中でもモンテ教といえば『過激派』だ
「時にディラン、あなたはどの祈祷で私を
癒したのでしょうか」
「それは勿論モンテ教の祈祷術でですよ」
無表情で問い詰めてくるあの感じ本当にやめて欲しい。どこの教えでも良いでしょうに、それでも他の2人と比べれば幾分か御し易いので俺的には助かる
◆【ミルスがアイーザのもとへ】
「共に祈りを捧げ…」
「そんなことより早く癒しなさいよ」
あ、そんなこと言ったら
「あぁ、なんて罪深いのでしょう
背信者に祈ることなどできません」
フォローが間に合わなかった。流石に二徹目だとシンドいな
◆【当然の様に3徹目】
「英雄になれた筈なのに…
俺の名前が歴史に残った筈なのに…!」
「王族になれた筈なのに…
皇帝の后にこの私が…!
次の皇帝の母という輝かしい未来が…!」
「モンテ教がこの世界における絶対の教えだと
広める機会でしたのに…」
だぁれかぁ〜手伝ってくれ、船が沈んじまう
「船、このままだと沈んでしまうので
誰か手伝って…」
◆【注意散漫、仲間意識皆無】
「お前の役目だろ!なんとかしろ」
「下々の者どもが私に助けろと?!
死んでも嫌よ」
「タミワ教の者が作った船など
沈んで当然です」
ダメだ。誰も助けちゃくれねぇ
◆【漸く陸に辿り着いた】
「一度、宿屋に…」
「おいディラン、まだ話は終わってないぞ」
え?何?船のことならもう終わったでしょ?早く修理に出したりしないと
「何故手を抜いていたんだ!お前が
お前のせいで俺たちは全てを失ったんだ」
…こいつ何を言ってんだ?
「これが最後のチャンスだったんだぞ!
俺たちが魔大陸に渡るために
一年もかかったんだ!」
いや、知らないし。俺が3ヶ月でやったことといえば魔大陸までの支援と資金調達、船大工との交渉でイビルトレントの討伐に船の操縦、魔大陸の訳わからん人型魔物との単独戦闘、撤退戦、パーティの立て直し位だ───その前の9ヶ月なんて知らん
「聖剣は折られ、路銀も食料も全て使い果たした!
もう後がなかったんだ!」
「あの勇者様…」
「この旅で魔王を滅ぼさなければ
俺達にはもうチャンスがなかったんだ!」
◆【チャンスがないとは言うが】
「また資金調達から始めましょ…俺も頑張るので」
「それなのにお前は、お前だけの判断で
魔大陸から逃げ出した!俺たちまで連れて!
答えろ!!何故逃げ出した!!!」
…俺ぇ、なんでこんな奴らに力貸してんだっけ?
「これ何度目の挑戦スか?」
「は?」
「だから何度目スか?」
「いきなり、なんだよ」
「1回目だろ?」
「…」
図星か、こいつ図星突かれるといつも黙るんだよな
「嫌ですねぇ、ライアスさん」
◆【なんかもうどうでも良いや】
「ライアスさん、自分で言ってたじゃないですか」
「なんだと…?」
「聖剣は折れてる、路銀はない、食料もないって」
「だから…なんだ」
「だぁかぁらぁ〜だよ!!!!」
あぁ、大きい声出しちまったよ。喉いてぇ
てか元から無理だったんだよ。こんなクソみたいなワンマンチームの寄せ集めでの魔王討伐なんて。そりゃひとりひとりが突出した強さを持ってましたよ?持ってましたともそれがなんだってんだ
それも高々、一度の失敗で心折れる様な奴が勇者───パーティのリーダー務めるなんて無理だったんだよ
強い奴らを寄せ集めた程度で魔王討伐なんて大義できるならとっくの昔に何十、何百、何千と討伐できてたんだよ
「俺が死に物狂いで稼いだ時間を逃げ出した?
あぁ、そうさ逃げたさ、全滅しない様にな!!」
「…な、なんだと!?」
やっべぇ、止まる気がしねぇ
◆【ていうか】
そんな状態になったの俺のせいか?よく考えれば資金の流れが不明だし、稼いだ速攻なくなるし、イビルトレントに関しては俺がひとりで討伐して、船大工の人達と船造ったの誰だったけ?
「むしろ」
すげぇ心臓と頭と目の奥が痛い
「ひとりも死なせずに魔大陸脱出できたことに
感謝して欲しいくらいだわ」
「あそこ、から、でも俺は逆転できた!」
「どうやって?」
「え?」
「どうやって?」
「それは…」
「どうやって
聖剣を叩き折られて、命乞いを始めて
あそこからどうやって逆転できた
言ってみろ」
「やめなさいよ見っともない」
◆【アイーザが口を挟んできた】
「今回はその剣バカの言う通りよ
そいつはまだしも私はまだ反撃できた」
「魔力が枯渇してたのに?」
無駄に高いプライドで尋問に割り込むな。発展途上魔法使いが
「なっ…なんで知って…!?う、嘘よ!
どうしてそんなことがわかるのよ!?」
「【羊の数え歌】ですよ。単純に数で
大凡の消費魔力を逆算、魔力と照らし合わせて」
「嘘よ!そんなこと出来るわけないじゃない!
戦ってる最中に他のやつのことなんか」
「ご勝手に、俺はライアスさんがどうやって
あそこから逆転するのか、聞きたいからさ」
「私のこと戦闘中ずっと見てたって言うの!?
気持ち悪い!」
パーティを組むってことの根本から欠けているこいつらにとってそれの重要性が分からないんだろうな。もうどうでも良いけど
「モンテ神に代わって
あなたの懺悔を聞きましょう
私の聖法ならば、かの者を
一瞬で昇天させることができました」
◆【ミルスが不服そうに言った】
「なぜ貴方はその機会を不意にしたのか」
「…忘れましたか?」
「?」
「あれ跳ね返って来たんですよ」
「意味が分かりません」
忘れているんだろうか
「アイーザさんの魔力切れ直後に魔法結界が
張り直されていました。あそこで呪法を使って
術者と対象に反射されて…」
「あれは呪法ではない!昇天聖法である!!」
モンテ教の『特色』は祈祷による【即死】。生物を永遠の眠りへと誘う呪いであり【呪法】であり【聖法】───元来その効果は病に苦しむ者を安らかなる眠りへ誘うためのものだ
「そうでしたね、失礼しました」
珍しく表情が乱れたな。本当に熱心な信徒だ
「モンテ神は寛大であるが故
今回は許しましょう。ですが次はありません」
「はい、ありがとうございます。モンテ神様」
しかし、何故呪法もとい聖法を受けた2人が起きられたのかはタミワ教のおかげであることを彼女は知らないのだろう
タミワ教の『特色』は祈祷による【安全祈願】。旅の無事を祈り、身代わりを立てる【呪法】であり【聖法】───船に掛けられた【それ】により船が身代わりになってくれたのだ
◆【最大のやらかしは誰なのやら】
「おいディラン!お前そこまでやがっていながら
どうして何もしなかった」
「ライアスさん、質問を質問で返すな
俺が先に質問してただろ答えろ」
「お前があの魔物を殺していれば俺たちは
勝ててたじゃないか!どうして!」
「それ、本気で言ってますか?」
何度言えば分かるのだろうか。俺の【お飯事】では攻めきれない。相殺が関の山で誰かが止めを刺してくれなければ全滅までの延命にしかならないって何故分からないのか
「この役立たずめ!
少しは活躍したらどうなんだ!
いつもいつも、俺たちの周りを
ウロチョロするばかりで使えないゴミめ!」
「はぁ〜」
結局3ヶ月何も変わらなかったな。説明しても、説得しても、明示しても、提示しても、披露しても、解説しても時間の無駄だったな
「もういい!お前はクビだ!
二度と俺の前に顔を見せるな!!」
「そうですか」
『もういい』はこちらの言葉だ。先を見ていないパーティにいつまでも固執する理由はない。もうウンザリだ
「おいディラン、お前の持っているアイテム
それと財布の中身、全てここに置いていけ」
『補填』で終わるなら安いもんだ。俺は無言でアイテムを野晒しの海岸に放り投げていく、お金も含めて何もかもを投げ捨てていく
満足そうにするライアスに背を向けて歩き出す。がどうしても辞めて欲しいことがあり振り返ってライアスに言った
「最後にふたつだけ」
「何だ?どんなに頭を下げても…」
「黙れ聞け、ひとつ船の修理は絶対にしろ
ふたつ魔大陸にはまだ、近づくな」
俺はそれだけ言って3人の元から離れた




