第17話 カフェでなにするの!?
下駄箱を開けようとした瞬間、生存本能が叫んだ。
『お前さん、生きたければ開けないことだな』
すると、俺はこう返事した。
「校則では、上履きは必須だよぉ……」
『…………』
「…………」
生存本能は諦めた。
校則に屈した俺にこれ以上話しかけても意味はないと悟ったからか、ため息が聞こえる。
「はあ」
自分のため息だった。
まあ、今は現実逃避する場合じゃないし、さっさと済ませよう。
『綾人くんへ
放課後、お茶しよう♡
琥珀』
今回の《《ラブレター》》はやはり小野寺さんだったのか。
どうりで生存本能が訴えかけてくるわけだ。
俺は胃が痛くなるのを我慢しながら授業を受けていた。
放課後。
俺たち以外に誰もいなくなるのを見計らって、小野寺さんのところに向かう。
すると、俺に気づいた小野寺さんは《《いつも》》の穏やかな笑顔を浮かべた。
「ど、どこにいくの?」
「この間、お気に入りのカフェを見つけたの。《《付き合って欲しいな》》」
「分かったよ……」
どうせ逆らえないから、俺は省エネモードに入った。
それが面白いのか、小野寺さんはくすくすと笑ってる。
ほんと、俺に明日はやってくるのだろうか。
校門を出ると、小野寺さんは俺の腕に自分の胸を押し付けた。
いわゆる腕組みである。
この世界の男の子ですら一部はドキドキするシチュエーションだが、俺には通じない。
自分でも驚いてるが、おっぱいにはなぜかこれぽっちも興味がなかった。
柔らかいなとは思うが、それ以上の感情は起きない。
ただの脂肪の塊に俺はそれほど興奮を覚えなかった。
そして、しばらく歩くと、一軒の建物が見えてくる。
一見してそれと分かる、落ち着いた雰囲気のカフェだった。
外壁は淡いベージュで統一されていて、大きなガラス窓からはやわらかな光が店内に差し込んでいる。
入口の横には小さな立て看板が置かれていて、手書きのメニューが並んでいた。
その隣には観葉植物がいくつか配置されていて、どこか居心地の良さを感じさせる。
派手さはないが、静かで上品な空気が漂っていた。
「やれやれ、大袈裟だったな」
「うん?」
「あっ、なんでもない」
生存本能のやつ、小野寺さんを警戒しすぎじゃないの?
こんな平和的なカフェで一体なにが起こるというんだ。
しかし、生存本能と会話するのは控えよう。
隣の小野寺さんが不審な目で俺を見ているからな。
店内に入ると、外から見た印象そのままに、静かで落ち着いた空間が広がっていた。
木目調の床とテーブルがやわらかな照明に照らされていて、どこか温かみを感じる。
壁際には観葉植物や小さな装飾品が並べられていて、派手ではないが丁寧に整えられているのが分かった。
席同士の間隔もゆったりしていて、周囲の会話が気にならないくらいには距離が保たれている。
カウンターの奥ではコーヒーを淹れる音がかすかに響いていて、それがこの空間の静けさをより際立たせていた。
うん、どう見ても普通のカフェだ。
「この《《奥》》の席に座ろう♡」
小野寺さんが指さしたのは、曲がり角に少しだけ隠れているテーブル席のことだった。
「うん」
俺が頷くと、小野寺さんは上機嫌そうに俺の腕を引いて、そちらに向かう。
『…………』
生存本能のやつはまだなにか言いたそうだったが、無視。
俺は小野寺さんを誤解していたのかもしれない。
時にあれだが、デートの時は普通の女の子だな。
一番《《奥》》の席に座ると、小野寺さんは鼻歌混じりにメニューを見始める。
俺も向かいの席でメニューを開いてみた。
うん、分からん。
なんでチーズケーキが1200円もするのかがまったく分からん。
それならコンビニで買ったほうが安くないか、という俺の疑問をぐっと飲み込んで、小野寺さんに問いかける。
「どれにする?」
「わたしはアールグレイがいいなぁ」
「お、俺も! アールグレイにする!」
「あら♡」
食い気味に言ったのは、嬉しくなったからだ。
俺は紅茶全般が好きだ。
中でもアールグレイと言ったら、俺の好みど真ん中である。
でも、陰キャの俺には友達らしい友達はいない。
だから、アールグレイの良さを語り合える人はいなかったのだ。
でも、小野寺さんはアールグレイを注文した。
ということは――
「小野寺さんもアールグレイが好き?」
「琥珀だよ♡」
「……琥珀もアールグレイが好き?」
「うん、《《大好き》》♡」
嬉しいな。
ほんとに今日来てよかった。
小野寺さんとアールグレイの良さを語っていると、店員さんが注文したものを持ってきた。
俺のところにはアールグレイとチーズケーキ。
小野寺さんのところにはアールグレイといちごパフェ。
パフェとはこれはまた女の子らしい可愛い注文だ。
なんか、今日の小野寺さんは天使に見えるな。
『…………ッ!!』
なんだ、やけに騒がしいな。
そう思ってアールグレイを一口含むと、股間に《《なにか》》が当たった感覚がした。
急いで下を見ると、そこには――
小野寺さんの《《生足》》があった。
「ひぇっ……!?」
「しーっ、店内ではお静かに♡」
なんで!?
なんで小野寺さんは知ってるんだ!?
『テーブル席に座ってる時に生足であそこを弄られたい』という俺の性癖を!?
「あっは〜ん♡」
小野寺さんは舌なめずりをしながら、こっちを見つめながらにんまりとした笑顔を浮かべる。
まさかとは思うが、一番奥の席にしたのは、こうして俺をもてあそぶためだったのか。
しかし、俺は知らなかった――
これはまだ小野寺さんの《《遊び》》の序の口だということを。
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