間章 第27話後 子狼は寂しがり屋
朝起きると、いつも永守さんは素振りをしている
不思議なのは最後の一振以外、基本とても遅いのだ
魔物も、風も、紙も切れないような、まるで辺の空気を一切動かさず振り下ろす剣
けど毎回、何故か鳥肌が立つ、騎士団長や、副団長のが余程強そうに見えるのに
弱々しくて、何も切れなそうで、逆に心配になるその剣術はーー
それでも底知れない恐ろしさがある
「起きてたのか、もう少し寝ててもいいのに」
素振りを中断して、話しかけてくれた、いつもの永守さんだ
「起きちゃったし、もう寝れないです」
そういい、私の短い木剣をもってそばに走る
「久々に、訓練つけてください! 」
「いいけど、短刀の心得はないよ? 」
ん〜、と困る永守さん、それなら直接手合わせをとも思ったけど
何故かさっきの素振りが、視界にチラついて、そうは言えなかった
「! ちょうどいい、魔物だ」
しーっ、と指を口に当て、身をかがめさせられる
永守さんがいつもより近くて、そんなことされなくても、言葉でない...
「ゴブリン、弓1に、棍棒3、バランスのいいことで」
「そ、そうですね、いいですね」
なんて返してるかも、もうほとんどわかんない、何話してるんだっけ?
「? まぁいい、一撃で仕留めること、あとは敵に位置を気取られず、全部片付けること、やってごらん」
そういうと、永守さんがすぐに消える、今言ったことを実践するなんて、流石だ!
じゃない、すぐに敵の位置を確認しないと
(狩るなら弓から、切り離しながら、1匹ずつ)
深呼吸して、短刀を構える、鉄の音、息も殺して
「ーーー!!」
静かに、けど強く血を蹴る
シュッッ、と首を短刀で切る、血が飛び散るより早く、また姿を隠す
「ギ、ギキャ? 」
1匹が弓の奴の近くに寄る、いちばん早く反応したそいつを、すぐに飛びかかり斬り飛ばす
また血よりも、叫び声すら上がらず、倒れた、上手くいってる
(後、ーー2匹!)
ーー
流石に早い、リリーの剣術はとにかく早い、速度だけを比べれば、おそらく今の段階で、ルーシア様よりも
「だけど、はやったな」
ーー
「あっ! 」
1匹を仕留めようと、飛び出た、けどもう片方が反応してきた
「ギシャァァ! 」
「くっ、はぁ! 」
棍棒を受け止め、蹴り飛ばす、続けざまにもう1匹の棍棒を避ける
(ならこっちから! )
蹴り飛ばした方との距離を詰め、首を切りつけ殺す
「あと1匹」
走って距離を詰める、ゴブリンが、構えた瞬間を確認して
「"身体強化・瞬足"」
一瞬で間合いを詰めて、構えの姿勢のまま、首に一撃
ーー
場数はまだ足りない、リリーの弱点だ、理想の動きを想像するが、はやる気持ちの制御
そういった、実戦での気の持ちようや、理想の動きを求めすぎるところがある
真面目なのだ、けれど
戦場ではーー
ーー
「終わりました、けどすみません、途中でバレちゃいました」
しゅん、としている、しっぽは垂れ、耳も目も、下を向いている
「気にしない、まだ訓練途中だ、これから徐々にやれればいい、時間はあるんだからな」
そういい、頭を撫でる、妹や弟がいたら、こんな感じなのだろうか
「ーっ! が、頑張ります! 」
嬉しそうになる、尻尾が風を感じるほどに振れている
(なにかアドバイス)
結局は父の受け売りが多い、がこれだけは真っ先に覚えている
時代遅れもいいところ、だけどその後、納得させられてしまった言葉
「ひとつ、アドバイスだ、"戦場では真面目じゃない、賢く、ずる賢く、卑怯であれ、でなければ死ぬ"」
ーー
そういった永守さんは、冷たいような、暖かいような、よく分からない表情で、空を見ていた
ー悲しいのかな
ー懐かしんでるのかな
何故かだんだん、永守さんが遠くなっていく気がした
目の前にいるのに、どんどん、間に距離ができた気がした
「あの、手合わせ、お願いします! 」
なんでこんなこと言ったんだろう、何となく、離れる永守さんを
これなら、近くにいると感じられる気がしたから
「? いいけど、どうした? 急に」
「か、勝ったらひとつ言うこと聞いてもらいます! 」
口走った言葉は、本音というより、思いつきだった気がする
ーーー
構える、向かい合う相手は、永守さん
今改めて見ると細くて、私より少し年上、華奢な体は、どうしてあんな戦いを制したのか、分からなくなる
「じゃあ、始めようか」
けど、そんな考えは吹き飛んだ
感じたことの無い強さ、空気が歪んで見える、剣の周りも、歪んでいるように
「リリーは身体強化を使っていいよ」
私は、つまり永守さんはつかわないと、手加減、勝てる勝負だ
なのに、未だに勝ち筋が見えない
「、こないのか? 」
「い、いきますよ!!」
強化をかけて、距離を一瞬で詰める、
間合いの少し外で、斜め下に体を外し、後ろに回る
「とった! 」
一撃を入れようとする、けど
「カッ!!」
木剣が当たり、弾かれる、いつもの腰の構えから抜き放ち、後ろでの私の動きに合わせた
こちらを見てもいない、だと言うのにピンポイントで合わせてきた
「早いけど、読みやすい」
そういい、切り払われ距離をとる
体勢を戻すが、既にこちらに構えを向ける永守さん、隙がない
「こっちからも行こうか」
そういい、距離を詰められる、こっちの方が強化もあるし、早い
ブンッ、と木剣を投げてくる、それをはらい飛ばす
「あれ、どこに? 」
目の前から消えた、左右を見てもいない
「まさか! 」
木剣は上空を回っている、が、それをとった一つの手を、辛うじて捉えた
「遅い」
焦って上向きに体勢を変える、けど構えた頃には地面に低く構えていた
「ガッッ!」
切り上げられ、木剣を手放してしまう、宙を飛ぶ剣より先に、腰をついてしまう
「勝負あり、だね」
負けても、悔しくはなかった、むしろ嬉しく思ってる気がした、なんでだろう
憧れは、より強くなった
「でも、まぁ最後の空中のはよく反応した、言う事聞かせるって、内容はなんだったの? 」
そういいながら、手を差し出してくる、本当に優しいな
って、言う事聞かせる内容、考えてなかった!!
「えっ、えっと」
戸惑いながら、手を取れずにいる、けどひとつ、見つかった
ーーお願いしたいこと
「じゃあ」
手を取り、まっすぐ目を見る
「兄さん、と呼んではいけませんか? 」
「えっ、兄さん? 」
驚いた顔をした、けどそれが、なんか思った以上に面白くてーー
「あっはは、なんですか、そんなびっくりして」
思わず、笑ってしまう、普段の冷静な顔からは、とても想像できない、どことなく安心してしまった
「まぁ、驚いたけど、なんで兄さんなんて」
「、なんかそう呼びたくなってるんです、でも距離が縮まるかなって」
ん〜とまた悩む永守さん、けどすぐに決めたらしく、また頭を撫でてくれる
「わかった、そう呼んでいいよ、リリー」
「!、はい、永守兄さん」
兄妹が何かは知らない、けどパパとママが昔教えてくれた
それは、どれほど離れても、ずっとそばに居てくれるというもの
たまに、永守さんはすごく遠く感じる、だから、近くにいて欲しいと思った
そんな自分勝手な理由、けど優しく受け入れてくれる
だからこれからも、旅を続けたい、一緒に、そんな約束を込めて。




