第18話 勝利の凱旋 英雄はいまだ帰還せず
戦いが終わった、私は知らないけど、この国は過去にいくつか戦争を経験しているらしいのです、父上と同世代の方は慣れている感じでした、ただ未知の敵というのもあり、今回は一際緊張していたそうです
馬車に乗り飛び出した父上と母上について行き、皆でリーベルさんを見つけると、彼は傷だらけでした、出血は酷く、また片腕が動かせていない、見るに堪えない中で私は回復に急ぎました
「魔力は温存してください」
そう言われ驚いていると、彼は何も無いところを指さし、助けたいと言いました、ボロボロの体でそれでも懇願するからと、皆が魔力を貸しました、無論私も、するとリーベルさんは指輪に何かを言って、その瞬間、光が辺りを包みました
優しい光は次第に薄れ、リーベルさんの前に、白髪の女の人が突然姿を現しました、彼女も何か言っていましたが聞き取れず、その言葉を聞いた瞬間、リーベルさんは笑いながら倒れました
声をかけても起きなくて、馬車に乗せ部屋まで連れていき、寝かせました、移動の最中焦り続ける私たちとは対照的に、白髪の女の人は冷静でした、まるで信じているような、安堵するような表情で、今も隣で寝ている彼を見ています
~以上~ レナイト・ロベルティア/日記より
日記がこんなに個人のことで埋まったのなんて、いつぶりでしょうか、ましてや家族以外なんて、心配で仕方ない気持ちを必死にこらえ、自分の部屋へと戻る
「終わったんですよね」
何もない天井に、そう問いかける、短くて、けど激しい戦闘でした、現場にいない私ですら、恐怖で押しつぶされそうな戦い、これが現場にいた人達はどれほど辛かったか、怖かったか、今だけは前線に立てない自分が憎いです
ルーシア姉様は戦っていましたが、途中からラナンさんのサポートに入っていたらしく、前線にいたとはいえ、無力感があったそうです、傷を治している時、もっと強くなると、そう宣言していました
ともあれ私は姉様が戻ってきてくれて嬉しくて、死ななくてよかったと思いました、口には出し辛かったのですけれど
リリーちゃんも容態が急激に良くなったそうです
なんでもラナンさんが出ていく前に治療していたとか、私でも応急処置しかできなかったのに流石ですね
ラナンさんとリーベルさん、今回はお二方あっての勝利でした
ただ帰ってきたのは、昏睡状態のリーベルさん、ラナンさんは行方不明、そして
「私は彼の部屋にいる、心配だから」
そう言ってからずっと、私の隣にいる白髪のこの方、不思議な方で、見た目は恐ろしく美しいのですが
不思議とそれだけではない恐怖を見た目から感じる方で、でも彼を見ている笑顔はとても優しくて
「どうかした? 」
「いえ、なんでも」
私にも気配りしてくれるので、不思議と警戒出来ない方なんですよね
「なが、リーベルはしばらく起きない」
「なぜわかるのですか? 」
「理由はない、けど起きる、時間がかかるだけ」
そう語る顔はやはり優しくて、どこか確信めいた表情でした
「そういえばお名前は? 」
「ルナ」
「ルナさん、あそこで」
何を、と訊くのは野暮でしょうか、父も母も、城に着いてから彼女に色々聞きました、でも帰ってきた返事は
「今の私では、満足な解答ができない、彼に助けられた、それだけは言える、あとは彼から事情を聞いて欲しい、私だけでは足りない」
との事だった、以上から皆、城に置くのは反対だったのですが、彼女は何度も頭を下げ懇願した、父上と母上は根負けしたという感じだ
~~~~~~~~
戦いが終わったものの、城下は静まり返っている、それもそのはずで、帰ってきた英雄は昏睡状態、もうひとりは行方不明、しかし死傷者ゼロ、この結果が示した答えは喜ばしくはなく
"国民達の犠牲が全て、英雄にのしかかった"
という究極の犠牲が産んだ産物というのが今の国民感情だ、父上は帰ってきてこう話した
ー英雄は未だ帰っていない、だが戦には勝った、安堵し大いに喜ばしいことだ、だがみなの気持ちもわかる、この静まり返った街を見ればな、だが信じるしかなかろう、英雄は必ず帰ると、勝利を高らかに宣言するのは彼だと、だから今は思うままに過ごせ、静まり返るもよし、勝利に酔うもよし、各々が今の感情と勝利を噛み締めよ、そして来る宣言まで、いつも通り過ごすことを望むー
この父のスピーチがある程度いつもの賑わいを取り戻している、だけど夜になってわかる、いつもより静かな酒場、ベンチャーギルドもいつもより静かです
「リーベルさん、みんなあなたの帰りを待っていますよ」
私にできるのはそれを教えることだけ、窓を開け、静かな町があなたの帰りを待っていることを、勝利の宣言を待っていることを教える、そしてあなたの声を待っている、あなたの言葉を望んでいる
私は、あなたの優しい声を待っています、もちろんみんなも
~~~~~~~~
父上と母上がリーベルの所へ向かうと言い始めた時、止めようとするより先に、体が動いていた、先に行ったラナンの手伝いを出来ればと、今尚戦うリーベルの手伝いをと、恥ずかしい限りだった
この期に及んで、家族で唯一戦えた私は、それでも最前線にいられなかった
わかってる、敵が規格外だったこと、そしてあの二人もまた常軌を逸していたこと、それでも恥じた
馬車の中で傷を治してもらっている時、妹に無意識にこう宣言した
「もっと強くなる」
漠然とした目標だ、だけどそれは、今回の戦における感想で、全てだった
リーベルは平原でボロボロになりながら突っ立っていた、回復しようとする妹を静止し、見えない誰かを救いたい
と言い始めた、頭がイカれたか、幻の類かと思ったが、必死に懇願する彼をみて、渡せる魔力のない私はそれでも無意識に背中に手を添えた、しばらくして温かい光が辺りを包む、彼なりの勝利の宣言か、そう思っていた
光が収まると、彼の前には白髪の女が立っていた、人とは思えない神々しさと、とても人間らしいアンバランスな笑顔は、綺麗で、恐ろしさがあった
直後リーベルが倒れ意識不明になる、レナイトは馬車の中でひたすら声をかけていた、涙が目に溜まる度にそれを拭い懸命に声をかけていた、きっと妹の中では、彼が起きるまで戦いは終わっていないのだろう、だから涙を許さないんだ
ひとまず今は体を休めようと努力しているが、まだ夜じゃないからか、それともなにか気づかないところで引っかかっているのか、眠れやしない、こんなものを書いているくらいには、頭の整理と感情が追いつかない
妹は白髪の女と一緒にリーベルの看病をしている、リリーもそろそろ起きている頃だろう、容態は良くなっていたとここを出る前に聞いた、だがリリーを助け、私と戦っていた桃色の髪の少女、ラナンはもう居ない、リーベルのもとにもいないし帰って来ない、現状行方不明だ
国側の死傷者はゼロだが、私たちの代わりに全て肩代わりした2人がいるようで、快勝という気分にはならなかった
けれど一先ず、先日まで見えなかった"明日"が確約された、確かに守られたんだこの国は、今はそれで喜ぼう、英雄たちが帰ってきた時改めて父が凱旋でもするだろう、それまでに疲れを取っておこう
〜以上〜ルーシア・ロベルティア/机にあった紙切れにあった記録
「性にあわないな」
書いた紙切れにある言葉は、どれも私の本音だろう、自分でも驚く程に、彼等を気に入っていたようだ
たった数日間の戦いは、2つ、大きなものを持ち去った
あいつらは、正しく帰ってこなかった、片方は行方不明に、もう片方は未だその目で守りきったものを見れていない
~騎士団訓練所にて~
怪我人や、要救助対象に忙しなく動く騎士団や教会の人々、無論双方にも怪我人は発生しているため人手不足感は否めない、街中を行き交うのが騎士団の戦闘員から、衛生兵に入れ替わる
「なぁ、被害はどうなってる、人手が足りないように見えるが」
忙しそうに走る教会の修道女を呼び止める、案外声は通るようですぐに答えてくれた
「幸いにも早々に避難していたものが多く、その避難先もあの剣の少女が守ってくださりましたので、被害は戦いに対してとても軽微です」
あくまで戦いに対しての軽微、被害そのものはそれなりにだが、今回は幸運が重なった結果だ
「お前も無事だったか」
「騎士団長、そっちも元気そうで」
頭に包帯、手と腕にも巻かれてはいるものの、普通に歩いている団長、話によると、城壁内を身体強化で走り回りとんでもない数を倒し続けていたと
「元気ねぇ、よく言うわよ」
ゴツっとゲンコツを食らわせた副団長、似たような怪我だがまだ軽い方だ
「私のほうは外傷はないけれど、魔力を使いすぎたせいか脱力感が酷くてね」
「だからそんなおぼつかないんですね」
壁に手を付きながら歩いてきていた、ここまで消耗した副団長は初めて見た、やはり今回彼らが居なかったらどうなっていたことか
「ところでルーシア、あいつはまだ起きないのか? 」
「今もレナイトが付いてるけど、全然起きないな、呼吸も浅くて魔力も一切感じられない」
「そんな、」
手で口を覆い絶句する副団長に、ギリッと音がなりそうなほど、口を噛み締め拳を握る団長、やはり負担をかけすぎたと、認識するのが今回の戦いの印象だ
「街の奴らは俺らに感謝してくれる、あいつの事も俺たちのことも英雄だと、起きたら祝うんだと」
拳をそのまま壁に打ち込む団長、そこには後悔と自身への憤怒が見て取れた、無論私も、同じ気持ちだ
「英雄など、笑わせてくれる、なによりも苦しい戦いを制したのは、よりにもよって少年、騎士団長として面目も立たないな」
「そう悲観することはない」
後ろからの声、振り返ると、あの白髪の少女だった
「お前、レナイトと一緒にいるんじゃないのか? 」
まだ痛みの残る腕を剣にかける、が少女は気にもとめず淡々と話す
「貴方たちが居なければ、国民はとうに滅んでいた、当然貴方たちが、彼と一緒に戦っても」
「騎士団として、国民を守った、彼も身を呈して、自身の後ろにあったこの国を守った、そこに彼と、どれ程の違いがあるの?」
「怪我や負傷の度合いでは成果は語れない、どちらも英雄だろう、国を守るために動いたのだから」
少女は尚も無表情にそう語る、剣にかけていた手は降りていた
「それに、ここに来るまでに、君たちのことを楽しそうに、羨望の眼差しをしながら語る子供たちがいた」
ふと騎士団長の目が、一瞬柔らかくなった
「君たちは、未来ある子供たちを直接助け、騎士団の役目を果たしたんだ、そんな彼らの期待も、先程のように違うんだと一蹴する気かい?」
彼女の視線の先には、まだ原型の残る噴水の広場で、騎士団ごっこをする子供たちがいた、多少の怪我こそ見えたが、お構い無しにと遊ぶ子供たち
彼らは口々に、騎士団長と副団長の名前と、その技を口にし楽しそうに遊んでいた、その目には憧れがあった
「、ははっ、やはりまだ未熟だな、成果で競い本質を見落とすとは」
そういい地面に腰をおとす騎士団長は、さっきのような後悔の視線はなかった、優しそうな目で、子供たちを見守っていた
「本当に守りたいものは、守れた、私も、彼も」
~王城にて~
「レナイトとお前、いい加減少し休め」
夜半になっても、眠る彼のそばにいる妹と、白髪の少女、昼時からずっとこの調子だ
「大丈夫ですよ姉様、私はそんなに疲れていませんので」
そういう妹はたしかに疲れていないように見える、だがいつもなら寝ている時間だ
「お前も休まなくていいのか?」
「私? 全然平気だよ」
こちらはほんとに元気そうだ、全くどうしたものか
「少し待ってろ」
そういい、お手伝いを呼んで、簡易的ではあるが部屋に寝床を作る、どうせ何を言ってもこいつらは離れないんだ
「レナイト、お前も部屋から出ないのは結構だが、明日からやることもあるんだ、睡眠はとれよ」
「ありがとうございます、姉様」
「ありがとう、姉様? 」
「おまえの姉様じゃねぇよ、あたしはルーシアだ」
「ありがとう、ルーシア、私はルナ、よろしく」
そういいたどたどしく、手を差し出すルナ、その手を握り握手すると、とても喜び手をブンブンと振る
「じゃあな、私は部屋戻るぞ」
そういい部屋から出て、扉の横で立ってじっと待つ、アイツらが寝るまで、いやあいつが起きるまで
「お身体に障りますよ」
「いいんだ、レナイトが柄にもなく無理してる、どうせ寝ないだろうしな」
そういい、ドアの隙間から2人を見る、案の定、寝る気は無さそうだ
「あたしにとってこの程度、無理じゃない、あいつがそうするならあたしもそうするさ」
そういい目を閉じ、部屋の中からの音に耳を澄ます、部屋から吹き抜ける風の音、寝ているあいつの浅い呼吸
「けど、ずっとそうさせてたら、アイツらの身体にも悪い、早く起きろよ、リーベル」




