第13話 月は見果てぬ夢のため
こんにちは、初めまして、本作を開いて下さりありがとうございます、是非最後まで読んでくださると嬉しいです
私が生まれた時、そこはベッドと月の明かり、そしてある男だけがそこにあった
「成功だ...」
初めて聞いた言葉はこの三文字、自身の名や、歓喜よりも早くにこれを聞いた
私は世界そのものを滅ぼす何かとしてうみだされた
名前が付いたのは、災いとしての存在が確立されたころ、4人同時につけられた
忘却の彼はレーテ、戦争の彼は羅、沈黙の彼女はシュヴァイ、私はルナと名付けられた
この中でいちばん早く生まれた私だった、けれど後に知る兄弟姉妹、なんて和気あいあいの関係ではなかった
知っていたとしても変わらなかっただろう
依然やることは変わらず、より具体的に世界を亡ぼす方法を学ぶ
そして生まれて幾星霜の時が経ち、1つ目の世界が滅んだ
それからというもの、世界が生まれると必ず私たちはその世界を滅ぼしにかかる
羅が戦を引き起こし、シュヴァイが人々に沈黙を与え、レーテが時代に忘却をもたらし、私がすべての恐怖を受け取り、滅ぼす
もちろん手前で滅ぶ世界も多かった、戦で悉くが散る、沈黙の抑圧が精神から世と人を殺す、2つを越えられても忘却が再び世界を戻す、3つを超えても、それまでに覚えた恐怖が、今までの全ての恐怖が世界を覆う夜空となって押し潰す
全ては与えられた役目と使命のため、そしていつか訪れる完成された世界のため、やるほか無かった、それ以外を私たちは知らなかった
だから私たちは総じて、私たちを生んだ彼が嫌いだった
滅ぼす度に殺してきた守護神の憎悪の顔、そして殺されてきた他の3人たち、私は今まで1度も死ななかった、最後に位置する私は、他の3人たちほど死に近づくことはなかった
でも私以外は違う、殺されることもあったし殺すことも多かった、私が今でもある程度理性があるのは比較的この極地に立つ場面が少なかったのと、3人の支えが無くなる訳にはいかなかったから
そして今、その過去の原点までを一瞬で想起させるあの大剣は、研究室で彼が持っていたものだ、見た目が違えども雰囲気でわかる
一体いくつ前の世界になるのか、目の前の新しい守護神の少年は、その大剣を抜き放ち、もう片方の手には刀を持っていた
「なんであなたがそれを持ってるの? 」
白髪の少女は平静を作り、問いかける、その切り替わりの早さはまるで、何かをひた隠しにするようだった
「武器屋にあった、としか」
「それはもう何個も前の世界の物だよ? そんなものが何故残っているの? 」
「さぁ、そこまでは知らないかな」
やはりこの人、人? はこの武器について何か知っている、執着があるようだ、聞き出したいが
(この神秘の量、ラナンさんの何倍だ? )
自身と比べても見劣りしない、なんて上から言えない、下手すれば自身のより圧倒的な神秘の量を持つ災いの少女
空にふたつの光が伸びている、片方は世界を喰らおうとする月の落とした光、もう片方は過去が残した星屑の集まった残光
挑発は十分だろうと、大剣は虚ろにしまう、使い慣れてないのと、まだ何が出来るかわかんない武器、そんなものを引っ提げて戦える相手ではない
「なんだ使わないの?」
目の前の少女が嘲るように笑う、ようにであり、そこに嘲りも侮蔑もなかった、まるでこうする事が正解だろうというような行動に、また違和感を感じる
「じゃお喋りも程々に、死んでもらおうかな、守護神様」
少女が黒い空に浮く、まるで夜空の月のように
「いや、ほんとに月?」
背後に蒼い月が登る、少女の神秘が月と繋がるのが見え、咄嗟に構える
「蒼月の夜よ、光を呑み、夜を深く、暗闇を吐け」
少女の儚い声が、星のない夜空の下、確かに響く
言葉が終わる頃、目の前に現れたのは
焼け野原になった王国と、焦土のなか横たわるラナンさんやリリー、そしてこの世界で初めて話して仲良くなった人達だった
「は? 」
「流石にイレギュラー、私も今まで助けてもらったとはいえ不敗、運が悪かったね」
私の蒼い月、それは目にしたことのある者であれば、どこでも誰でも対象にできる神秘、相手の恐怖の根源を知り、それを今の現実とリンクさせ、ほぼ全てを再現した仮想的現実に閉じ込める
"蒼恐の鏡"
前段階にすごく時間がかかる、対象の眠る時、夢として想起させ自身もそれを夢として見る必要がある、蒼月の光が届かなければ前段階の時点で詰み、これ以外は優秀な技
「作られた仮想現実は夢じゃない、神秘で作られたもうひとつの現実、本当、違いがあるとすればその現実は空に星がないことだけ、逃げる方法も私自身知らないし」
案外あっさり終わった、今回の守護神も役目を果たさせてくれた、彼に近づきながらため息と一緒に肩を落とした
「終わりだよ、次があるなら、いい夢を」
〜城門前にて〜
「数が、減らない!」
「仕方ないよ、私たち二人だし、ね! 」
言いながら互いに敵を吹き飛ばす、2体が消えて3体、3体が消えれば4体、絶望的だ、杖を振る手が重くなる、 ルーシアも大剣の鋭さ、速度が落ちてきているし
「仕方ないかぁ」
私の杖は神秘を内包する、正確には循環だけど
「ルーシアさん、少し下がってくれる? 」
「何言ってる、まだ、やれる」
「わかってるよ〜、前線には残って貰う、けど一瞬だけ、ね? 」
奇妙な顔をしながら頷き城門付近まで飛び退く
「さて、」
なら貯蓄した神秘は何に使うか、一部は循環、もうひとつは
「"私は歌、私は嘘、私は霧"」
懐かしい祝詞は、今は私以外誰も知らない、もう二度と詠うことはないと思っていた、もう二度とこの姿にはなれないと思っていた、嬉しいなぁ
空気の読めない魔物共は近寄る、対策の風の壁が守る中、使える神秘全てを集める、白い炎のようなそれが
私を元の"妖精にもどす"
「形無き詩」
風が守っていた幼い子供、ラナンさん、分からない言葉、聞いた事のない音色、徐々に彼女の纏っていた風は翡翠色に輝き始めた。
「一体、これは」
"翡翠の風の羽"それを背に持つ妖精が目の前に現れる、ラナンさん、彼女は話に聞いたことのある妖精になった。
「よしっと、じゃ、再開だ」
笑顔、まるで無垢な子供のように楽しげに笑う彼女の周りに風が集まる、一瞬、風が空に落ちるように感じた
「"天落・級長戸飃"」
「────、───」
ラナンさんの口ずさむ聞き取れない言葉、同時に集まった翡翠の風が、私の髪をかきあげ、その風は、目の前の数十体を打ち上げる、数十メートル、天高く打ち上げる
「なっ」
「空に落ちよ、天高く、空深く」
ようやく聞き取れた言葉と声、それは今までのラナンさんとは思えないほど、あの時の王城よりも、もっと冷たく、雨が肌に刺すような
「けれど、風は愚者を拒み、吹き落とそうとするだろう」
天高く吹き落とす風が、打ち上げられた敵と風に衝突する
「お〜わり」
伸びをするラナンさん、背後では強烈な風に挟まれ潰された敵、あっという間にとんでもない数の敵がいなくなる
「肩の力は、抜かないでいいけど、これでまだ絶望的、ではないね? 」
なんなのだろうか、彼女やリーベル、2人の旅人は
「聞きたいことは山々だが、一先ず倒さないとな」
大剣を握る手に再度力を入れる
「"身体強化"」
風はまだ両方に吹いている
〜城壁内〜
「リリーちゃん起きて...」
聞きなれた声で目を覚ます
「レナイト、様」
「よかった...ほんとに、よかった」
ここは、教会かな、なんでここに
「あの、一体何が」
「リリーちゃん、城の前の敵を一掃したんです、動きは異常なほどで、ただ戦い終わった瞬間意識が無くなったんです、しかも脈もなくなった瞬間があったって」
レナイト様が話してくれる、声が震えている、目の周りが少し赤い
「ご心配おかけしもうしわけありません」
「っ、そんなことより自分の体を心配してくださいね」
目を少し擦りながら、口端に笑みが出てきた、良かった
「あら良かった、起きたのね」
「副団長、街は大丈夫なんですか? 」
「あなたの体の方が、って言われてたわねさっき」
やれやれと肩を落とすティナ副団長、その顔には緊張と、少し安心したような声色
「幸か不幸か、街に入った敵は城を目指してたやつがほとんどでね、あなたが一掃したので7割、あとの2割能代に来たやつは私たちが片付けたわ」
ほんとだ、少し手や顔に傷がある
「残り一割は」
「そちらも団長さんが対応しています」
レナイト様が話しながら果物を切って出してくれた
「それより、その武器は?」
右手で無意識に握っていたそれは、リーベルさんの武器だった
「多分これのおかげで戦えたんです、なんというか、剣が私の前を走ったというか、なんというか、もとはリーベルさんのなんですけど」
「ほんとに、本人だけでも不思議な子なのに、武器も不思議なのね」
そういいながらティナさんは私の手にある剣に手をかけ、するりと持ち上げる
「さっきは取れなかったのに、相当強く持ってたの?」
「どういうことです? 」
聞くところによれば、私が倒れても、一切剣が離れなかったらしい、そんな強い握力ないんだけど 一体、リーベルさんって
「何者なんでしょう」
レナイト様の言葉と視線を追う、窓の外は、不思議な空が覆っていた、心とは対象に外は無風で、いやに静かだった
「きゃっ」
副団長の声に振り返る、私がさっきまで持ってた剣が窓を突き破り外に飛び出す、暗い空を、一筋の光を引いて剣が飛んでいった
「リーベルさん」
無意識にその名前を呼んでいた、不安? 違う、安心、あの剣を握ったから、違う あの剣を持っていたのが、リーベルさんだから、安心した
〜仮想現実にて〜
197回、目の前で守りたかった城が燃えた、ティナさんが死んだ、ローブストさんも、も国王様も王妃様もルーシアさんもリリーもレナイトさんも、ラナンさんも
手を伸ばして、届かなくて、届かなくて届かなくて届かなくて届かなくて届かなくて届かなくて届かなくて届かなくて
死んでいく 強くなったはずなのに、手が届かない、声が届かない、死が、あまりにも近くて早い 失って、消えてって、見えなくて、一緒だ、あの時と
「クソ、クソクソックッソォォォ!!!!」
怒号が、憎悪が全て吐きでた、その先にあったのは
"恐怖"
星のない空に、救いのないこの地に、限りなく恐怖している やがてその恐怖が、記憶を塗りつぶす 私は何をしていた、何かと戦っていた? いや、負けた結果か? これが
「もう手遅れか? 何も出来なかったか? あの時のように何もしなかったか? 」
〜現実〜
手首をもう片方の手を添え、目の前の守護神に手をかざす
これでこの世界も終わり
「じゃあね、守護神様」
「それは困るなぁ」
無理やり虚が開かれた? 出てきたのは
「喋れるのか」
あの憎らしい大剣だった
「そうか、お前たちは知らないのか、私に意識があることを」
「君も、恐怖に落とせばいいのかな」
「無理さ、私に恐怖はない、あるとすればそれは、一生整備もしてくれない持ち主にわたる事くらいだ」
ふざけた大剣は冗談めかしてそう語る、あいつとは違って、ユーモア? のあるやつだった
「わざわざ出てくるなんて、なにか用かな?」
「用なぞ1つに決まっている、あいつに星を見せてやるためだ」
「なに? 」
言うが早いか、大剣はパタリと倒れ、神秘が消え失せる、いやこれは
「移ったか」
あの空間に、神秘がひとつ増えたことがすぐにわかった
「ならもう殺してしまえばいい」
かざした手が、宙を舞う、一本の剣が宙を舞い、白い線を引く、その線は守護神の彼に引かれ、しかし起きたのは彼ではなかった
「出来の悪い愚息めが」
「あなたは...」
白く長い髪、長い髭、細い体格、流れるような声
「お前に息子が殺されるなぞ、わしの一生の恥だ、付き合え、わっぱ」
「守護神の次はそのお父さん、いや、偶像、想像体」
〜仮想現実にて〜
ふと目の前が真っ白になる、ひとつの光の線が、広がるように背後まで光が広がり、飛んでゆく、その先の人影を目にした、涙が止まらなかった
「愚息、何をしてる」
「お、お父さん」
「付き合いなさい、歩くぞ、」
「どこに? ここは」
「違う、ここからではない」
見たことの無い父の顔、何かを憂うような、悔いているような
「あの燃えた家から、歩くぞと言っている、こんなことを言えた立場じゃないがな」
そう言われ、瞬きをした瞬間、景色が変わる、昔住んでた、もう無いあの時の家
「行くぞ、進まなければな、互いに」
最後まで読んでくださりありがとうございます
今更ですが、永守や災達の立ち位置に関して
世界に生きる神や人間、その他もろもろの種族生物はあくまで世界に属するものです
対して災、守護神は世界の外に立って、世界を守る、或いは犯す者たち、こちら側しか神秘は使えません
世界に属する者たちは、魔力、神力の使用は可能ですが、能動的に神秘の使用は不可能というのが設定ですね
それではまた次回も読みに来て下さると嬉しいです




