880【薬師セレーナ】
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今話は、ふつうの長さです。
オレの申し出に対して、悩むクストーさん。
そこへひとりのスタッフが現れた。
クストーさんに耳打ちする。
スタッフにうなずくクストーさん。
次の瞬間、クストーさんの顔がパッと明るくなった。
スタッフに“ここに呼ぶように”と指示する。
スタッフがうなずいていなくなると、彼がこちらを見た。
「うってつけの人物が来ました」
「それはありがたいのですが、さきほどはなぜ考え込まれていたのですか? そちらの方をご紹介していただければ、よかったのでは?」
彼が苦笑いしながら言った。
「この町の薬師様は、どなたも気難しい方ばかりでしてね。用向き次第では、怒り出すことが多いのです」
「なるほど」
そこへさきほどのスタッフがひとりの中年女性を連れてやってきた。クストーさんにバトンタッチすると、下がっていった。
「なんだい、接客中じゃないか」と女性。
「サブ様、ご紹介いたします。こちら、薬師のセレーナ様。セレーナ様、こちらは鉄級のサブ様です。岩塩から塩を取り除いた液体を持ってきてくださった方です。私では判断できず、困っていたのです」
「苦水かい。どれ」
クストーさんからスプーンを受け取り、壺から少量取り、舌先に載せる。
その途端、目を大きく開いた。
「なんだい、これは! 塩味がほとんどないじゃないか! それに濃い」
「どうでしょうか?」
「何がさ」
「薬になりますか?」
「なるかだって? なるの決まってるじゃないか! これだけ塩味がなく、濃いなら、手間が省ける。腹の調子を整える薬をそれなりの数、作れるよ。売るならマーサのところへ行きな。腹薬はあの子の領分だからね」と最後はオレに助言してくれた。
「ありがとうございます」と返事した。
その後、セレーナさんとクストーさんは、席を移動していった。
塩の結晶を換金し、エルザさんからマーサさんの薬屋を教えてもらい、商業ギルドをあとにした。
***
マーサさんの薬屋は、冒険者ギルドにほど近い場所で営業していた。
ドアを開けると、ドアベルがカランコロンと鳴った。
店内には、腹薬特有のニオイが満ちていた。満ちてはいるが、店内に在庫はない。
「いらっしゃい」と若い女性の声。「どんな腹薬が欲しいの?」
声の方を向くと、二十代中ごろの女性がこちらを見ていた。
「いや。素材を見て欲しいんだ。セレーナさんからこちらを紹介されてね」
「わかった。見せて」
彼女の前の狭いカウンターに、壺を出す。
「苦水ってセレーナさんが言ってたんだけど」
「苦水ね」
彼女は、カウンターの内側に手を伸ばし、一本の棒を取り出して、水分を払ってから、壺に差し入れた。
抜き出すと、棒の先に溜まった雫を舌先に載せる。
目を閉じ、しばし感覚に集中する彼女。
それから目を開き、オレを見る。
「お客さん、これをどこで手に入れたの?」
「とあるツテからね。それで?」
「苦水としては、最高ランク。塩味が極端に少ない。濃度も申し分ないわね。買い取り希望?」
「ああ。だが、相場も知りたい」
「相場ねぇ。他所は他所だよ。苦水ならウチしか扱わないから、この町の相場はあたし次第だね」
「わかった。それでこれでいくらにする?」
「銀貨八枚。これ以上はダメ。それに大量に持ってこられても、買い取りは一部だけになる。ひと月に金貨一枚まで」
「わかりました。私は旅をしていますので、年に一度しかこちらには来ません。ですから、充分です」
それを聞いたマーサさんは難しい顔をした。
「年に一度? 安定供給は難しい?」
「はい。私は鉄級商人でもありますが、冒険者でもありますので、年に一度が限界です」
「あぁ、護衛任務か何かで来てるんだね?」
「まぁ、はい」
「値を聞きたがったということは、まだある?」
「この壺で、あと三つ。ですが、取りに戻らないと。持ってくるのは、明日になります」
「なら、あとふたつ、持ってくれば、同じ値で買い取るよ」
「あとふたつ、ですね」
うなずくマーサさん。
それで、壺ひとつを売り、銀貨八枚を受け取った。
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