予想外の出来事
「いた、いた。またいたぜ!! ハハハハハッ!」
山田は人形の歩く姿が見えたのか、急に喜びの声を上げると一気に駆け出した。
この王家のダンジョンは基本的に一本道で、一定の間隔で少し広い小部屋があった。
その小部屋には八体から十数体の木の人形が待ち構えている。山田はこの小部屋に向かって走りだしたのだ。
もちろん通路にも部屋からはずれた人形が出歩いてる。
「あ! リュウキ君……待ってよ、私たちの分まで取らないでよ」
「リュウキ、ずるい……ノリちゃん取られちゃう。急ごう」
「うん……あっ! タロウ君はゆっくり来ていいからね」
「寝不足のタロウはゆっくり来るといい……」
「え?」
となりを歩いていた小西さんと大野さんが、嬉しそうな顔を向け、俺の肩をぽんっと叩くと山田を追いかけていった。
――今のは……俺に気がある?
ほぼ女性とのスキンシップのない俺は、女性に触れられるとすぐに勘違いしそうになるのでいけない。
――……ないない、あるわけでないな。
俺は雑念を払うかのように首を振ると、前を走る二人を追いかけた。
――くっ……
そのスピードは本当に運動が苦手だったのか? と疑いたくなるほど速く、二人は短いスカートをひらひらさせながら俺からぐんぐん離れていく。
「は、速ぇ……」
いつもならスカートの丈が膝下まである標準タイプの制服を着ている二人だけど、今日の彼女たちは俺たち同様に女性騎士の服を着ている。
女性騎士の服はなぜかスカートが短く男には嬉しい仕様だった。
後ろを走る俺の目にもちらちらと白いものが見えている。いつもの俺なら今日はラッキーな日だと、得した気分になるのだが……今は――
――はぁ、はぁ、ヤバッ、ぜんっぜんついていけねぇ!!
二人に追いかけるのに必死だった。
「このぉぉぉ……」
全力疾走しても俺はどんどん二人から引き離されていく。
「はぁ、はぁ……」
もともと運動部に所属していなかった俺の息はすぐに上がり膝が笑い始める。
「はぁ、はぁ……あ、足が……」
それでも諦めずに足を動かしつつけたが、前奥の方からチカチカと眩い光が見え――
ドォーンッ!!
激しい爆発音が響いてきた。
「……まただ」
――……間に合わなかった。
激しい爆発音が聞こえてくると、大概、俺がみんなのいる場所まで辿り着いた時には、戦闘は終り楽しそうに魔法について語っている。
ちなみに山田の適性魔法は火と土らしい。適性スキルは知らない。
小西さんが水と回復。大野さんが風と氷だった。本人たちが楽しそうに話しているのを聞いたので間違いない。
三人の会話から推測するに創造神の加護による適性魔法は二種類のようだ。
そんな時だった――
――……っ!?
ふらふらしながら走っていた俺は、何かにつまずき転んだ。
「痛っ!!」
――……ツイてねぇ。
見れば膝を思いっきり擦りむいて血が滲み出ている。
「あちゃぁ……」
擦りむいたその傷口を見たせいか余計に痛く感じる。
――いてぇ……
気分が落ち込み、このまま引き返したい気分になった。
――はぁ……
それでもみんなを待たせるわけにはいかないので俺は息を吐き出し立ち上がった。
カタカタッ
「ん?」
俺が立ち上がると、すぐ後ろでカタカタ積み木が積み上がるような音が聞こえてきた。
「なんだ?」
不思議に思った俺は思わず振り向き――
「うわっ!?」
驚き尻餅をついた。
「な、なんで!?」
その音は、バラバラになっていた二体の木の人形が積み上がる音だったのだ。
――倒した人形は、すぐには活動しないんじゃないのかよ!!
その木の人形は積み上がるとブーンッと僅かに光り、俺に向け木剣と木槍を構えた。
――ヤバイッ……
俺は転んだ体勢のまま後ずさりした。
――ヤバイッ……ヤバイッ……
すぐに立ち上がり逃げればよかったものの、動揺している俺はその考えにたどり着くことができなかった。
「くるな……くるな!!」
俺は活動し始めた人形に向かって右手に持っていた木の棒を必死に振り回したが、効いている様子はなく――
「来るんじゃねぇ!!」
そうこうしているうちに木の人形は攻撃体勢に移っていた。
カタカタッ! カツン!
「うわわわぁぁ!!」
カタカタッ! カツン!
「く、くるな!!」
俺は必死になって人形が繰り出す木剣と木槍を弾き返した。
「……っ!?」
――あれ?
始めは焦っていたが、それを何度か繰り返していると、創造神の加護のない俺でも防ぐことができると分かりだんだんと冷静になれた。
――そうだ、まずは立ち上がらないと……
「この、このぉ!!」
俺は後ろに下がりつつ木剣、木槍を弾き、タイミングをみて立ち上がることに成功した。
「はぁ、はぁ……」
――このあとは……どうする……?
俺は人形の攻撃を弾きつつ思考を巡らす。
――俺の持つ木の棒ではとても倒せるとは思えない。かといって木剣、木槍を掻い潜り短剣で突き刺す勇気はない……逃げるか?
だが俺はすぐに首を振った。
――ダメだ。三人はいとも簡単にこの人形を倒していた。俺もこれくらいどうにかしないとこの先ついていけない……考えろ、考えるんだ……
「な、何かないのか? 何んか?」
――ん? なんか……軟化……そうだよ。スキルだ。没地神は地面を軟らかくして魔法陣を描くと言った。それなら……そのスキルを使えば……
俺はバックステップして人形から距離を取ると軟化スキルを人形の足元周辺に使うように意識し右手を突き出した。
「軟化!!」
何やら右手の平がこそばゆいくなったが、ちゃんと発動したようだった。
カタカタッ、カタカタッ!
木の人形たちが不自然に倒れていく。
「よし……って、あれ?」
俺は純粋に木の人形の足元の地面を軟らかくして、人形を転ばそうと思ったのだけど、予想外の出来事が起こった。
「……これは!?」
なんと俺は軟化スキルを展開する際、外さないよう思った以上に広く意識していたようで木の人形の足まで軟らかくしていた。
当然、軟らかくなった人形の足では身体全体を支えることができず、人形たちの足が不自然な方向にぐにゃぐにゃ曲がり音を立て倒れた。
それでも木の人形たちは木剣と木槍を離さずしっかりと握ったままだ。
その武器を使い立ち上がろうとすらしているがぐにゃぐにゃの足では立ち上がることができず、木の人形たちは武器を支えに中腰の姿勢のまま動けずに固まった。
「これなら……くらええ!!」
俺は短剣を右手に中腰の姿勢まま動けずにいる一体の人形に向かって突き刺した。が――
「か、硬い!!」
刺さらなかった。
――なんでだよ。あいつら簡単に切断していたじゃないか!!
改めて創造神の加護のすごさを見せつけられた気がした。
「くそ〜。俺だって……」
俺は負けたくなかった。
「俺だって……加護はあるんだよ!」
気づけば木の棒に持ち直した俺は地面に軟化スキルを展開しつつ神紋を描いていた。
「神紋、火の玉っ!!」
神紋魔法は描いたあとに魔法名を口にしないと発動しない。
みんなが何も言わなくてもバンバン魔法を打っている中、俺は描いて魔法名を口にしないといけない。俺が魔法を使うのに躊躇していたのはこのためだった。
けど、今の俺はそれ以上に負けたくなかった。皆から置いていかれたくないと思ったのだ。
――俺だって戦えるんだ。
俺が魔法名を口にしたことで発動条件を満たし描いた火の玉の陣が淡く光りだす。
そして地面に描かれた陣は光陣となりクルクルと回転しながら浮き上がると、木の人形の方へと向きピタリと止まった。(この間一秒)
バッ、バーンッ!!!!
するとダンジョンの奥から聞こえてきた爆発音にも勝るとも劣らない激しい二つの音とともにバスケットボールサイズの火の玉が二つ飛び出した。
「……え!?」
予想と違ったサイズの火の玉が出たことに俺が驚き、見入ってしまっていた間に、目の前の木の人形は炎に包まれ真っ黒な炭となっていた。
「二つ出てほしいと思ったけど……あはは」
俺の放った神紋魔法は数、威力ともにみんなが使う火の玉とは明らかに違っていた。
やっと神紋魔法が使えました^ ^




