寝不足ならしょうがないね
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すみません
――何これ、重い……こんなの振り回したら肩が抜けるというか、これ以上持ち上げれない。
結局、俺は小西さんたちが持つ小剣すら重く感じて、なんの立てかけてあった木の棒と小さな短剣を選択した。
「はぁあ? ただの棒切れに短剣! そんなんで戦えるのか!?」
「あ、いや。これには……」
「ふん。まあいい、それより……」
そう言って山田君は……ん〜敬称はいいや。山田は俺の首に腕を回し小声で話しかけてきた。
――苦しい……だろ……
体重までかけてきた、山田に腹が立ち、その手を引き離そうと思ったところで、山田がニヤリと汚い笑みを浮かべた。
「なぁ、タロウ……お前もやったのか?」
――は? こいつ、いきなり何を言ってるんだ?
「……何のこと?」
「とぼけるなっての! 遅れてきたのもやりすぎたからだろ?」
そう言って山田がさらに回した腕に力を入れた。
――なんて力だ……
「痛てて……」
「おいおい、隠すなっての。言っとくが、お前だけじゃねぇからな、男子生徒はほとんど昨日やってるぜ。もちろん俺もな……くっくっくっ」
――やってるって、何を言ってるんだ?
「だから何の……」
「ふん。言いたくねぇなら別にいんだけどさ……見ろ。お前のメイド、服装が乱れてるじゃねぇか。二人して寝坊して慌ててきたからだろ? 言わなくても分かるっつぅの」
そう言って山田はアゴで俺に付き添うメイドを示した。
見れば、たしかに山田に指摘された通り、俺の付き添のメイドは服装が乱れていた。
――でも、あれは……
俺が朝、着替える時に暴れたからで……でも、分かって欲しい。朝の生理現象が起こっている状態の布団をまったく知らないキレイなお姉さんに剥がされるのだ。暴れて抵抗したくなってもんでしょう。
まあ、その際に、おっぱいに手が触れてラッキーと思ったんだけど……
「いや、あれは……」
「あのメイドたちの目的も、どうせ俺たち勇者の子種だろう……みんなそう言ってる……おっと、今のことは女子には言うなよ」
「……先生に知られて楽しみを減らされたくないからな」と山田は低い声で、まるで俺を脅すかのようにしかめっ面を近づけてきた。
「……あ、ああ……」
俺の身体に自然と力が入る。
「そう身構えるな。まあ、女子は女子でイケメン執事にお姫様みたいな扱いを受けて、まんざらでもない様子だから……気づかないとは思うが、せいぜい楽しもうや。くっくっくっ」
山田は回していた腕を引っ込めるとしかめっ面から一転し、にやりと口角を上げ「行くぞ!!」と俺の背中を叩いた。
「いぃぃ!?」
――てぇ……こいつ……
凄く痛い。山田は何食わぬ顔で鞘に入ったロングソードを右肩に担ぎ、小西さんと大野さんが待っているダンジョン入口の方へ歩いていった。
――……勇者の子種……みんなやったって……あれだろ……くぅ〜みんなやったの……
山田から聞いたことが頭から離れず、俺が一人で悶々といていると――
「タロウ!! 何してる! 早く来い!!」
山田の怒鳴り声が聞こえてきた。
――やべっ……
「ごめん、すぐ行く」
そして、俺たちはダンジョンに入ったのだが……
――ちょっ、ちょっと待ってくれ……
三人の歩くスピードが速い。俺は常に小走り状態だった。
「おっ、いたいた。また居たぜ!」
前から人型のっぺら坊の木の人形がカラカラ音を立てて歩いてくる。
今回は三体だ。
その手には木でできた剣や、槍、手斧が握られている。
遅れてきた俺のために、小西さんが説明してくれたが、このダンジョンには木の人形しか出ないらしい。
しかもこの人形は、バラバラに切ろうが砕こうが一定の時間が経つとマナの力によって再生するらしく、手加減する必要はないと聞いていた。ダンジョンの壁もそうなのだと……
山田がロングソードを鞘から抜き、左手にその鞘を握ったまま走り出した。
「あっ、待って……」
「抜け駆けずるいよ」
その後を小西さんと大野さんが同じように小剣を鞘から抜き、そのまま左手で鞘を握って走り出した。
「あっ!」
三人の走るスピードがぐんぐんと上がっていく。
「……くっ」
――まただ、また置いていかれる……
山田が雄叫びをあげ、そのうちの一体に走りこみロングソードを軽く振ったように見えたが、あっさりと人形の胴体を真っ二つにしていた。
「やりー!!」
それにつづく小西さんは大胆に回転しながら十字に斬りつけた。
大野さんに至っては相手が槍を突き出して来るまで待ち、それを躱すと懐に入り込み木の人形の胴体に小剣を突き刺した。
――はぁ、はぁ、あの二人、運動が苦手だったはずじゃなかったか?
「動けるって気持ちいい!!」
「うん。軽い軽い」
小西さんと大野さんは小剣を鞘に収めつつ、笑顔で話し合っている。
――はぁ、はぁ、はぁ……
俺が、全速力で走りその場に着いた時にはいつも戦闘が終わっていた。
――みんな、速すぎる……それに……
三人からは息の乱れた様子は見られない。だからこそ、俺もただ走ってきただけで息の乱れた姿を見せるわけにはいかない。
俺はわざと木の人形を見る振りをしてしゃがみ息を整える。
――はぁ……はぁ……ふぅ……
「かぁ〜、手応えねぇな! おっ、そうよ。次は魔法でいってみるか……」
山田はロングソードを鞘に収めつつ倒れている木の人形を蹴りつけた。
「はい。私も魔法を使いたい」
「うん。次は魔法を使おう」
山田の声を聞いた小西さんが、嬉しそうに右手を挙げると、大野さんも口元に手を置きこくり頷いた。
まだ、息が整っていない俺は、倒れている木の人形に触れて少し時間を稼いでみる。
――……へぇ、切られたところが少しずつ再生している……小西さんに聞いた通りだな……
ダンジョンには人形の再生時間を見越して四人ずつ入ったわけなんだけど、この四人って数もダンジョン内の限られた広さの中で回避運動や、連携攻撃を図るうえで一番適した人数らしいからなのだとか……
――しかし、思った以上に……俺って何もできないな……やばいぞ……
俺は息が整ったこともあり、ゆっくりと立ち上がると、ふと小西さんと視線が合った。
「あ!」
小西さんの目が一瞬だけ泳ぎ、申し訳なさそうな顔をした。その隣の大野さんもそうだ。
「……ごめんね、タロウ君。また私たちが倒しちゃったよ……私たち運動が苦手だったから、急に動けるようになって……嬉しくて……」
「うん。ごめん……次は……」
――やばい、やばい。今はまだ、ダメだ……
「いや、俺なら大丈夫だから……俺は……その……今日は少し調子が悪いんだ……」
「え? そうだったの?」
「くっくっくっ、こいつは昨日、興奮し過ぎて寝れなかったんだよ、な?」
山田がにやにやと笑みを浮かべて話に割り込んできた。こいつは何かと勘違いしているが……
「あ、そっか。私もはじめは興奮して寝付けなかったんだけどね……いつの間にか寝てたのよね。あはは……」
「ノリちゃんは元々悩む性格じゃないもんね」
ノリちゃんとは小西さんのことだ。本名は小西 紀子。二人がうまい具合に勘違いしてくれた。
「そういうアキちゃんは、大丈夫だったの?」
アキちゃんとは大野さんのことで、本名は大野 明子さんだ。
「私は魔法使った、敵を眠らせる魔法を自分に使った」
「げっ! そんなことして平気なのかよ?」
ちなみ山田は、山田 竜騎だ。タロウが名の俺としてはちょっと羨ましいが、俺が山田をリュウキと呼ぶことはないだろう。
「大丈夫。適正魔法は思ったより自由に効果を変更できる。だから平気だったよ」
「ほう。いいこと聞いたな」
「へぇ、アキちゃんすごい……タロウ君も寝不足なら仕方ないね」
「ああ。だから気にせず、小西さんも大野さんも代わりにどんどんやっちゃってよ」
「うん、分かったよ」
「うん。今日はゆっくりしてるといいよ」
「タロウ。今日は寝れるといいな。くっくっくっ」
「べ、別にいいだろ……」
この場はなんとか誤魔化したが、いつまで誤魔化しつづけることができるのか、と俺は少し不安になった。




