増えている!
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「ふふ……」
この時俺は、異世界にきて初めてうれしいと感じた。
――やれる……俺だってやれるんだ!
ここが自室だったならば小躍りでもしていただろう。
「よし!」
だからだろうか、気持ちが高揚していた俺はいつもなら絶対にしないガッツポーズをとってしまったが、なんと間の悪いこと……ちょうどその時――
「おいタロウ!」
――はぅっ(ビクッ)!!
背後から声が聞こえた。
「ガッツポーズなんかして、何してやがる? 二人がうるせえから戻って来ちまったじゃねぇか」
慣れないことなんてするもんじゃない。
――見られた……
俺は一瞬で顔が熱くなった。
「や、山田くん……?」
俺は壊れたロボットのように振り返ると、ロングソードを肩に担ぎ、にやにやと意地悪そうな笑みを浮かべた山田がいた。
「くっくっくっ」
さらに、その後ろには当然――
「こ、小西さん、大野さん……」
呆けていた二人が俺の声に反応したかと思うと、急に笑顔になった。その俺を見る目が生暖かく非常に居心地が悪い。
「ふふふ……タロウ君も試したかったんだ……」
「タロウ君、無理はよくない」
「あ、いや……」
俺は顔だけじゃなく、耳や首元まで熱くなった。
「なあタロウ、今のは火の爆弾だろ?」
「えーと……」
――火の玉なんだけど……
「何誤魔化そうとしてんだよ、バカじゃねぇの。俺だって適性魔法は火だから、分かるっつうの」
「そんなつもりはないんだって……」
「ふん、まあいいさ。俺だってファイアボムくらい使えるからな……
まあ、言っちゃなんだが、俺は火の槍が断然いい。
魔力込めりゃ貫通だってするんだぜ……お前も使ってみろよ、スカッとするぜ。くっくっくっ」
「い、いいよ……俺はやっぱり見てる方が性に合う……魔法使ってみてわかった」
――だって、玉系の神紋しか知らないんだよ……
「じゃあ、先に進もうか?」
「うん。時間もないし、どんどん進んじゃお……」
小西さんが支給されたらしい子ブタの腕時計を見ながらそう言った。
「時間?」
「あ、タロウ君は知らないのか……一応、私がこのパーティーのリーダーってことになってて時間管理をしてるんだよ」
「そうなんだ……」
「うん。アキちゃんも、山田君も嫌がるし、タロウ君は……」
――はい、寝坊です……
「んな面倒くせぇ〜ことできるかよ」
「うん。面倒……」
大野さんと山田が小西さんから顔を背け、ダンジョンの奥の方を眺めている。
「あはは……ちなみに残り時間は二時間だよ。時間がくると強制的にダンジョンの外に出されるってきいてるから……あ、そうだった、はいっ!」
小西さんが思い出したように小さなポーチから小さなビスケットらしいものを取り出して俺にくれた。
「ありがとう……これはビスケット?」
「ううん、違うよ……これが昼食だよ」
「え? これが?」
「少し遅くなったけど、ちょうどいいかなと思って、これ食べて、あと二時間がんばろう」
――朝のドタバタで昼食のことすっかり忘れていたけど、こんなビスケット一個だけで……
足りるわけないじゃん。と思いつつ、山田と小西さんを見る失礼な俺。
「あはは、ほら、タロウ君。そんな顔してないで食べてみようよ」
見た目は一口サイズのビスケットのボールで、騎士たちが遠征時に携帯する非常食らしい。俺たちもこれに慣れていた方が都合がいいと持たされたらしく、遅れてきた俺の分は小西さんが受け取ってくれていたらしい。
これ一つでお腹が膨れるらしいって聞いたよと不思議そうにビスケットを眺める小西が笑みを浮かべた。
「ま、どんなもんか食ってみようぜ」
山田や大野さんもどこから取り出したのか、手に持ったビスケットのボールを眺めていた。
「うん」
みんな興味津々といった感じでそのビスケットを頬張った。
――うっ、まずい。
「まずっ……なんか苦げぇぞ」
「あはは、美味しくないね」
「美味しくない……」
「ったく、タロウのせいだからな」
「俺のせいじゃないって……」
山田は不機嫌にそれを頬ばりつつぶつくさ文句を垂れている。パサつく口の中の物を苦戦しつつも、全て飲み込むと――
「……っ!?」
「おいおい、マジかよ」
「お腹いっぱいになった」
「ほんと、不思議だね」
俺たちはたった一つのビスケットボールでお腹が膨れるという不思議な経験をした。
その後はお腹が膨れたことも関係しているのか不明だが、さらにハイペースになった三人に――
――ぬおぉぉぉぉ!!
全力でついていった。そのため、強制的にダンジョン外へと排出された時には――
――つ、疲れた……
涼しい顔の三人と違い俺は……汗でベトベト、身体はくたくただった。すでに筋肉痛になっている疲労感がある。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
一人ダンジョンの壁に寄りかかる俺と違い、山田や小西さん、大野さんは親しい友人の所でダンジョンでの出来事を楽しそうに語り合っている。
――魔法が使えた時はいけると思ったんだけどな……はぁ、こんなんでついていけるのか……
俺一人、みんなより能力が劣るとバレて距離を置かれることを恐れていた。
――なんとかしないと……
俺は無意識に「能力が見たい」と呟いていた。
――――能力――――
【名前】山野木 太郎
【性別】男
【年齢】17歳
【状態】健康
【恩恵】
☆没地神の加護
――適性スキル――
〈軟化制限解除〉
――適性魔法――
〈神紋魔法〉
――アビリティ――
〈体術D〉〈聞き耳C〉
〈空気〉 〈体力D〉new
〈脚力D〉new 〈持久力D〉new
――はぁ、没地神の加護か……俺も創造神の加護をもらっていればこんな苦労なんて……ん? あれ?
俺は一旦ステータスを消し目をこするともう一度「能力が見たい」と呟いた。
――……てる……増えてる……アビリティが増えている……
よく考えてみたら思い当たる節があった。ヘトヘトになりながも引き離されていた前半と違い、後半はヘトヘトにはなるがどうにか三人のペースについていけていた。
「ははは……」
――アビリティは増えるんだ。
「そうだよ……」
――アビリティだ。アビリティを上げれば……
俺はアビリティの存在に微かな希望を抱いた。




