小谷の暴走
ブックマーク、応援ありがとうございます。
更新遅くてすみません。
「お、おい、みんなやべぇぞ。俺たちの加護力が弱くなってるぞ」
近づいてくる夥しい数の赤いオーラを見た田中も、俺のように、そのことに気づいたのだろう。
田中が、すぐに自分自身の両手のひらや、周りの鈴木たちを覆う黄金のオーラを見てそう叫んだ。
「……ほんとだっ」
「や、やべぇよ。先生どうしよう」
「う、ウソだ。こんなところで……」
そんな田中の声に、すぐに反応したのは田中の側にいた鈴木、川田、小谷たちの三人。
彼らは加護力を失いボロボロになりながら、必死に逃げ回っていた状況を思い出したのだろう。彼らの顔色が瞬く間に悪くなっていく。
特に小谷が酷い。青を通り越して真っ白な顔色。構えていた槍は地面に落とし、ガクガクと両膝を震わせカチカチと細かく歯を鳴らしているのだ。
――……ん?
それは小西さんや大野さんも同じだった。
「……アキちゃん」
「……」
小さな呟き声が耳に入り、そちらに視線を向けてみれば、顔色を悪くした彼女たちが身を寄り添い合い俺の方に近づいてくるように見えるのは俺の気のせいだわね。
―― って、そんなことより、これはもしかして先生も……?
こんな状況なのだ、心配になり先生に意識を向けてみれば、それは杞憂だった。
――よかった……
先生は落ちついた様子で、辺りを注意深く見渡していた。先生も加護力を失う恐怖を身をもって体験しているはずなのに。
――さすが先生……ん?
しかも、この状況をどうにかしようと打開策を講じているかにも見える。
――んじゃ、俺も……準備だ。
俺としては別に慌てることもない。射程内に入ってからすぐに魔法攻撃ができるように、俺は火の玉の神紋紙を数枚懐から取り出し握りしめるだけ。
俺の神紋紙にはすでに魔力が込められているので、加護力が消えたところでなんの影響もないから。
いざとなったら俺がありったけの神紋紙を展開させ加護憑きの数を減らせば、皆の加護力も戻るだろうしね。
「みんな焦るなっ。いいか、たしかに加護力が低下しているが、まだ十分間に合う。ここから威力は期待できないが長距離魔法の収束系の魔法を皆で――」
――収束系……そんな俺は、って……ん?
先生が俺の知らない系統の魔法を使うよう指示を出そうとしたようだけど、それを聞くことなく前方に向けて魔法を展開する者がいた。
「こ、こんなところで力を失いたくない。死にたくないっ。俺は死にたくないんだ。い、嫌だっ」
小谷だ。極度の緊張と恐怖から冷静さを失った小谷が、強張った表情で魔法を展開している。
「こら小谷、勝手な行動は――」
それに気づいた先生も小谷を注意するが、小谷の耳には届いていないようで、大きく突き出した小谷の両手の前に、大きな神紋が一つ展開され浮かんだ。いや、それがすぐに二つになった。
ピロピロン♪<風の竜巻陣を覚えたよ>
――えっ!
それからすぐに、小谷から加護憑きに向かって突風が吹き、小さな風の渦が起こったかと思えば、ちょうど前方いた加護憑きコボルトの集団が弾かれたようだが、それで終わりではない。
そこを中心に突風が吹き上げ渦を巻く。瞬く間に勢力を強めた風の渦は竜巻と呼ぶにまで発達してしまった。
巻き込まれた複数の赤いオーラが宙を舞い、その光が綺麗に見えるが、風の刃によって切り刻まれたのか、すぐに石となって複数の赤いオーラが消えていく……
グァァァァァ……
激しい暴風音が加護憑きの断末魔の叫びをかき消し、竜巻の中心が揺ら揺らとブレ始める。
「ハハ……す、すげえ」
小谷の隣にいる田中たちが呟き乾いた笑いを漏らす。
――ほんとすごい。魔法の威力がハンパない……ん?
だが、それは喜んでばかりいられなかった。大きな竜巻の隣に、もう一つ遅れて竜巻が発生したのだ。
「うげっ!」
なんと、小谷は二重属性を生かしウインドハリケーンを二つ放っていたのだ。しかも、まだまだ魔力を注ぎ込んでいるっぽい。
「やめろっ小谷っ」
思わず叫んでみたが、どうも小谷の耳まで届いていない様子。
――仕方ない……
「死ね、死ね、加護憑きなんか死ねばいい……」
「お、おい。小谷っ!」
俺が小谷のところまで駆け寄ろうと思っていると、隣にいた田中も小谷の異変に気づいたようで、小谷の肩を掴み揺さぶり魔法を止めようとした。
「もうやめろっ!」
けど、小谷の意識は前方に向けられたままで前方で勢力を強めている竜巻に、尚も魔力を送り続けている。
「ハハハ……お前らなんか死ね、死ねばいいんだ……」
「だから、やめろって言ってるだろ小谷っ。このままじゃ俺たちまで巻き込まれるっ」
自分たちの身の危険を感じたらしい田中が、今度は激しく小谷の肩を揺さぶり、突き出していた両手を乱暴に掴む。
「小谷っ!」
「痛っ……へっ? たなか……お、おれ……は……」
無理やり魔力供給を止められた小谷が正気を取り戻したのか、周囲を見渡しながら床にへたり込む。
へたり込む小谷は、脱力感に襲われているのか、両手を床に付けて、肩で大きく息をしている。その額には大量の汗が流れていた。あれほどの規模の魔法だ。魔力が枯渇していたとしても不思議ではない。
「こ、怖かったんだ」
小谷は怯えた様子でそうポツリと呟くが、あまり悠長に構えている暇はなかった。
「まずいぞっ、みんな下がるぞっ」
暴風に煽られる髪を抑えながら先生が必死に叫ぶ。スカートも風に煽られチラチラと赤い下着を晒しているが、そちらまで気が回っていないようだ。
それもそのはずだ。最悪なことに小谷が魔力供給をやめたウインドハリケーンだが、吹き荒れる二つの竜巻が、揺ら揺らと近づき重なると、さらに大きな一つの竜巻となってしまった。
――ぐっ、これはっ。
さらに強くなった風が吹き荒れる。俺も余裕がなくなり、腰を低くして少しでも暴風に抵抗する。
この部屋はボス部屋だけあって普通の部屋よりもかなり広い造りのようだが、それでも、広域魔法に分類される風の竜巻を展開するにはかなり狭い。しかも今回は重なった効果でさらに倍の勢力なのだ。
――なんとかしないと……
余裕なくなってきた俺も、どうにかしようと考えるがいい案が浮かばない。かといってこの場に留まっていれば暴風が渦巻、こっちにおいでと、言わんばかりに竜巻の中心に身体が引っぱられ始めている。
巻き込まれたら無事ではすまないだろう。運が悪ければ、石へと姿を変えられた加護憑きと同じく運命をたどるおそれがある。
「後退だっ、後退しろっ」
危機的状況に、前衛の位置にいたダンテさんが叫び、へたり込んでいた小谷を肩に担ぐと、竜巻を背にして走り出した。
「逃げろっ」
「逃げるんだっ」
「や、やべぇ、おい置いてくなよ」
――ひ、ひぇ……
皆が慌ててダンテさんの後に続いて駆け出したので、俺も遅れないよう着いていく。けど、この部屋に入ってから、元々それほど先に進んでいない。走ればすぐに壁へと行きつく。
「くっ、壁系の魔法。だれでもいい風を妨ぐための壁系の魔法をつかうんだっ」
先生が叫ぶ。先生の属性は雷と回復だ。俺でも雷属性は壁に向いてないイメージがある。
すぐに反応したのは、小西さんと大野さん。
「えいっ」
「これで」
皆を囲むように、小西さんが水の壁を、大野さんが氷の壁をドーム状に展開した。
ピロピロン♪< 水の壁陣を覚えたよ>
ピロピロン♪< 氷の壁陣を覚えたよ>
すぐに小西さんの水の壁は、暴風によって飛び散り薄くなっていくが、続けて展開された大野さんの氷の壁が、それを補う。
「うぐっ」
氷で補強された厚い壁が暴風を食い止め、中に避難する俺たちを守ってくれているが、それでも所々、氷が剥がれていくのが見える。
「ダメ、長く持たない」
次に大野さんの声に反応したのは鈴木と川田だった。
「俺たちもだっ」
「ああっ」
少し遅れて鈴木と川田が木の壁と水の壁を二重で展開する。
ピロピロン♪< 木の壁陣を覚えたよ>
鈴木の木の壁によって、視界を遮られて外の状況が分からなくなってしまったが、暴風を遮るには十分だった。
「みんなよくやった」
ホッとした様子の先生が、髪をかき揚げ整えてから腰に手を当て笑顔を向ける。
「へへん」
「まあな」
鈴木と川田がドヤ顔を先生に向けていたが、それもすぐに真剣な表情へも変わる。
――まあ仕方ないか。
暴風音が聞こえてこなくなるまで、その場でやり過ごすことになったが、戦闘中ということもあり俺たちは外が気になっている。
そのため、口を開く者はおらず、魔法の壁の中は暴風音だけが響いていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^
展開が遅くてすみません。次回はもっと早く更新しますm(__)m




