空間にヒビ!?
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更新遅くてすみません。
それからしばらくして暴風音がピタリと止んだ。たぶん注がれていた魔力が切れたのだろうけど、ふと腕時計を見れば二十分近く小谷の魔法は猛威を振るっていたことになる。
ふと魔法の壁を張っていた大野さん、鈴木、川田に目を向ければさすがに疲れの色が見えた。まあ、ずっと壁魔法を維持しつつけていたので無理もないか。
それでも小谷のほぼ全魔力が注がれた風魔法から皆を守りきり、ホッとした様子は窺える。今は先生の指示で、加護憑きを警戒しつつ魔法の壁を少しずつ薄くしていっているところだ。
でも残念ながら、この狭い空間の中では皆の目があるため神紋を描くことができず、神紋紙を増やすことはできなかった。
――そろそろかな。
皆が立ち上がるので、俺も戦闘に備えるべきだろうと思いゆっくりと立ち上がり右手に槍を持つ。
小谷だけが先ほどまでは横になっていたが、今は体育座りで俯いている。
魔力切れでまだ調子が悪いのもあるのだろうけど、皆を危険に晒した責任でも感じているのだろうか、誰とも顔を合わせようとしていない。
でも、このまま一人で座り込んでいては危険な気もする。余計なお世話だとは思うけど、危険だと分かってて何もしないのは気分が悪い。
どうしようかと思い、田中たちの方に視線を向けようとしたところで。
――ん? 小谷のメイドさん?
小谷の専属メイド騎士が小谷のほうに近づき何やら一言、二言、声を掛けていた。
でも、それからは早い、何をするのかと眺めていると、そのメイド騎士さんは小谷の手を引き立ち上がらせとふらつく小谷を支えながら、自分の肩に小谷の腕を回したのだ。
肩を貸しやってやったともいうが、健全な高校男児の俺としてはなんだか羨ましく思ってしまう。
お姉さんも俺にしてくれないかなと、ふとそんなことを思っていると、なぜか小西さんが俺のほうを見て笑みを浮かべている。
――ははは……
いつものように愛想笑いをして返してみるも、笑みを浮かべているだの小西さんからの視線に居心地悪く感じる。
ちなみに魔力切れによる症状は、倦怠感、目眩、吐き気、失神など、人によって若干の違いがあるけど回復魔法では治らない。ある程度魔力が回復するのを待つしかない。
俺の場合は倦怠感だけだったけど、身体強化魔法を使っていればほぼ影響はなかった。その点、小谷は目眩のほか吐き気まであるようだった。
何度か吐きそうになって必死に我慢する小谷を、俺を含めた皆がハラハラながらしながら見守っていたのを思い出す。危ない危ない。
――ん? おっと。
下らないことを思い出している間に、川田、鈴木の壁魔法はすでに解除され、残すは大野さんの壁魔法のみとなっていた。
「……皆、準備はいいか」
薄くなっている氷の壁から外の様子を注意深く窺っていた先生が振り返り皆に顔を向けて言う。周りに加護憑きがいないことが確認できたのだろう。
「はいっ」
「「はっ!」」
返事をした騎士たちが俺たちの前に出て警戒を強め、戦闘態勢をとる。
緊迫した空気に引きずられ俺も気持ちを引き締める。
「よしっ今なら大丈夫だろう。大野、魔法を解除してくれ」
「はい」
皆が警戒する中、先生の合図に返事した大野さんが最後の壁魔法を解除した。ドーム状に展開されていたアイスウォールがスッと消え視界が広がる。
「皆、辺りを固めて警戒するんだ」
ダンテさんの叫び声に騎士たち応え一歩前に出て大楯と槍を構えてさらに警戒を強めるが、俺たちの周囲には無数に光り輝く石しか見当たらない。
「おいっマジか……小谷の魔法で全て倒した? のか……」
田中がきょろきょろと辺りを見渡し呟くと。
「ハハハ、な、なんだよ。数が多かっただけで、実は大したことなかったってオチか? ハハハ、それだと拍子抜けもいいとこだぜ」
疲れ顔の鈴木が同じように周りを見渡しつつそれに応える。
「俺は正直魔力が切れそうでツライから、それのほうがいい」
槍を杖代わりにして身体を支えながら、両手で持つ川田も、魔力切れの兆候が見えている。
あんな姿では強力な加護憑きが現れれば、まともに戦えるも思えない。だから俺もこのまますんなり終わって欲しいと思ったが、でも俺は分かっているんだ。異世界はそうそう都合よくいかないということを。
だから俺は周りをきょろきょろと注意深く見渡し、おかしなところを探った。
――どこかおかしなところは……ん? あそこ、今動かなかったか?
そう思えば、
「いや、安心するのは早いぞ川田。あれを見ろっ」
俺が違和感を感じた辺りを指さした先生が口を開いていた。
――ほらね。やっぱり……
一見、瓦礫が積み上がっている様に見えるが、あれはそうじゃない。あれは加護憑きだ。加護憑きが身を小さくしていたのだ。
「マジっ!」
川田が驚きの声を上げと同時にその塊がのそりと立ち上がった。その動きはずいぶんゆっくりでトロく感じるが、ここで油断してはいけない。
なぜなら、立ち上がったそいつらは身長が三メートルはありそうなコボルトが二体に、二メートル代のコボルトが六体見えたのだ。
「うげっ、まだあんなにいたのかっ」
田中の嘆きにも聞こえる叫びに、ダンテさんが応える。
「あれは……くっ、最悪です。コボルトの最上位種の魔物、コボルトキングにコボルトクィーンです。
ということは周りにいるのはコボルトナイト達で間違いないでしょう。間違いありません。
コボルトキングとコボルトクィーンは、恐らく周りのコボルトを肉壁にして小谷殿の魔法をやり過ごしたのでしょう」
「仲間を肉壁に、なんて奴らだ」
田中がコボルトキングの行いに難癖つけている。思わず「お前もだろ」とツッコミたくなるが、今は状況が状況なので、俺はコボルトキングの周りに視線を戻した。
目を凝らしてよく見ていれば、ダンテさんの言葉どおり、そいつらの周りには確かに輝く石が無数に見える。俺たちの周りに落ちている量の比じゃない。だけど、
グォォォォォ
――あれ? なんだこの違和感。
雄叫びを上げるコボルトキングがやけにボロボロの姿に見える。
『ヒキョウナ……ヨクモ……ヤリヤガッタナ。ニンゲン』
しかも、巨軀の魔物、加護憑きどもは雄叫びを上げるだけで襲いかかってくるどころか、一歩も動こうとしない。
「むっ?」
「……隊長」
「あ、ああ……」
先生も騎士たちもそのことに気づいたらしい。チラチラと互いに何やら合図を送り合っている。
「……コボルトキングは知能の高い魔物です。あれは演技かも、しれません」
だんだんと自信がなくなってきたのか、ダンテさんの声が小さくなる。
「……では、突撃する前に、少し様子を見てみましょう」
先生はそう言ってから右手をコボルトキングたちの方に向けると神紋らしきモノが浮かび上がった。
ピロピロン♪< 雷の爆裂陣を覚えたよ>
俺の頭にそんな音が聞こえると同時に、先生の右手から閃光が走り、奥の方で爆発を起こした。
ドーンッ!!
少し遅れて落雷音のような破裂音のような豪音が響く。
「皆、油断するなよ」
「はっ」
爆発の中から加護憑きが飛び出してくるはずだから、と先生が言い警戒をより強める騎士たち。
場合によってはもう一度魔法を放つつもりなのだろう。先生が再び右手を突き出す。
「ん?」
だが、それは無駄に終わった。
なんと、そこには一歩も動けず真っ黒に焦げ炭化した姿のコボルトたちが現れた。
「「「「えっ!」」」」
驚く皆の声と、ボロボロと炭化した加護憑きが崩れ落ちのはほぼ同時だった。跡には他の石よりも一回り大きな輝く石が残るのみ。
あまりにも呆気ない終わりに俺は戸惑いを隠せずにいたが、無事に終わったのならこれも悪くないとも思えた。
「終わった……んだよね」
俺はそう呟くと安堵の息を吐き出したのだが、それがいけなかったのか。
ビシッ!
突然、何もない空間に亀裂が入った。
――えっ!
「はぁ!?」
「な、なんだっ」
「ウソだろ」
「空間にヒビって」
「有り得ないだろ」
ビシ、ビシッ!!
その亀裂は大きくなり、ついには。
パリーンッ!
ガラスが破れるような音の後に空間がパラパラと崩れ落ちたのだ。
「ひぃぃ、なんだあれ」
その崩れた空間から大きな何者かが、こちらの様子を窺っているかのように覗き込んでいるかと思えば。
『オマエラ、ニガサナイ』
「うぐっ、耳鳴りが」
「うわっわぁぁー」
突然、激しい耳鳴りに襲われ、俺は耳を押さえ蹲る。皆も同じように耳を押さえている。
「はぁ、はぁ、はぁ、なっ!?」
すぐに耳鳴りは治ったが、ふと破れポッカリと空いた真っ暗な空間が気になり目を向けると、覗き込んでいた何者かが、こちらの空間に入り込んでいた。
「な、なっ!」
「きゃー」
「気持ち悪いぃ」
だんだんと姿を露わにするそいつには、見上げるほど大きく、身体中にはギロッとした複数の目がある。
身震いがするほど悍しく、ぐねぐねドロドロとした異形な存在だった。
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