なんて、こった。
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部屋を出ると、警戒し見張りをする王国騎士二名以外が綺麗に整列し、先生と小西さんから身体強化の魔法をかけてもらっていた。
「あと、半分くらいか。お姉さん、ここで待ってましょうか」
「はい」
俺はダンジョンの壁に寄りかかり皆の身体強化が終えるを待つことにした。ほら、壁際ってなんだか落ち着くし。
お姉さんも自然と俺の隣に来て、その状況を黙って眺めている。何かを考えてはようにも見えるけど、なんだろう。
しばらくすると――
「勇者様」
何かを思いついたらしいお姉さんが正面を向いたまま小声で話しかけてきた。
「……はい」
また勇者様呼びに戻ってしまっていたことに少し寂しさを感じるけど、何を言いたいのか気になった俺はそのままお姉さんの言葉に耳を傾けた。
「勇者様の描く魔法は、私には見えませんが小さく描くことには成功されたのですよね」
お姉さんが何を言いたいのか分からないけど、とりあえず答えておく。
「はい。手のひらサイズまでなら、それ以上は抵抗感が強過ぎわてストレスを感じますから描きたくないですね。
でも、ただ小さく描けたというだけで、結局のところ時間短縮にも魔力節減にもなりませんでしたけど……ははは」
「そうですか」
改めて神紋魔法の不便さを感じ思わず俯いてしまう。
「それは、こういった紙には描けないのですか?」
「?」
そう言って見せてくれたのは、お姉さんがダンジョンに入ってからマッピング用に使ってメモ用紙と、太い鉛筆の芯ような物。ちょうど手のひらサイズだ。
「あらかじめ描いていれば便利だと思ったのですが……、勇者様……?」
俺が返事をしないせいか、お姉さんが不思議そうに俺を視線を向けたかとおもえば、こてんと首を傾げている。
ただ俺は返事をしなかったのではなく、出来なかったのだ。お姉さんの言葉に衝撃を受けて……
「あ、あらかじめ紙に……」
少し冷静さを取り戻した俺は頭を働かせる。それができれば俺の神紋魔法はかなり使い勝手がいい。
――なぜ俺は……
もっと早くに気がつかなかったのかと自分のバカさ加減に呆れてしまうが……ふと、思い出す。没地神が軟化スキルを授けてくれた理由を。
――そうだよ。地面に神紋を描くためじゃないか。ほらみろ、そんな裏技みたいなこと、あるはずないわ。はは、ははは……
そうは思いつつも俺はお姉さんからメモ用紙と鉛筆の芯らしき物を受け取り描いてみる。
「っ!?」
――な、なんと……
ちゃんと描ける。描けるのだ、神紋が。描きあがると、それを唱えろ、とばかりにその魔法名が紙の上に浮かび上がる。
でもお姉さんには見えてないようで不思議そうに俺を見ているが、俺の内心は穏やかではない。
震える手で折りたたんで開いてみてもちゃんと残っている。しかも、描いた魔力の感覚からして丸一日くらいなら持ちそうな気がする。
――と、ということは……
これだと、あらかじめ神紋を描いて準備しておくってことが可能で、使いたい時はすぐに発動できる。
――お、俺の今までの苦労はいったい……はは、ははは……じゃあ、なんだ。まさか、マンガみたいに、宙なんかにも描けたりして……
半ばヤケクソのように何もない宙に指で神紋を描いてみる。
「……」
――か、描ける……
ただこちらは描いてすぐに発動しないと、すぐに描いた魔力が散って神紋が崩れてしまうけど、それでも十分だった。
――じゃあ、なんだ、今までの俺は、地上に描く利点(複数の魔法陣を描け、同時に発動することもできる)もあるけど、わざわざ軟化スキルで魔力を余計に消費して神紋魔法を使っていたことになる、のか……はは、ははは……
俺は全身の力が抜け膝から崩れ落ちた。
「勇者様。ダメ、でしたか」
勘違いしたお姉さんが心配そうに俺の前にしゃがみ込む。なんだかんだでお姉さんは優しい。
「いや、そうじゃないんです」
俺は首を振りつつ、お姉さんのほうに目を向ける。
「ぅ!?」
すると、しゃがみ込んだお姉さんのスカートの隙間から純白が丸見えだった。俺は慌てて立ち上がった。
「えっと、ごめんなさい違うんです。ちゃんと描けたんですよ」
「そう、なのですか?」
心配させてしまったことと、純白を見てしまったことを心の中で謝りつつそう言うと、ではなんで落ち込んでいたのか、というような不思議な顔をされてしまった。
お詫びも兼ねてとりあえず言い訳をしとこう。
「今まで気がつかなかった自分のバカさ加減に呆れていたんです。はい……」
「勇者様」
「はい」
「それでも勇者様は村を救い、私を助けてくださったのです」
「え」
お姉さんはゴブリンの時のことを言っているのだろうけど、いや、あの時は無我夢中で、加護憑きが来た時は逃げようともしていた。逆に俺のほうが、お姉さんに助けられたのだ。
「そんなこと……」
「自信を持ってください」
俺がそれを否定しようとしていると、それを遮り、お姉さんがどこからか取り出した新しいメモ用紙を手渡され、借りていたマッピング用のメモ用紙と取り替えられた。
「勇者様、お使いください」
その新しいメモ用紙はまだ生暖かかった。どこから取り出したよか気にはなったけど、お姉さんにはほんと感謝しかない。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って、それから先生から話しかけられるまで神紋魔法をメモ用紙に描いていった。
――――
――
王国騎士たちに魔法をかけ終えた先生がこちらに向かってくる。というか少し遅れて全員がこちらに向かってくる。
「山野木、待たせたな。最後はジュリア殿に魔法をかけて終わりだ」
先生が笑みを浮かべそう言うが、お姉さんはすでに小西さんに魔法をかけてもらっている。
「えっと、先生……おね、ジュリアさんは小西さんにかけてもらったからもう大丈夫ですけど」
「何、そうなのか」
「はい」
驚く先生の視線がお姉さんに向けられ、お姉さんが返事をして応えると、先生は振り返り小西さんのほうに顔を向けた。
「タロウ君が、まだ部屋に残るって言ってましたから、部屋を出る前にかけておきました。もし、かけ忘れでもしたら大変ですから」
「タロは気が利かないから、こっちが気を配らないといけないから」
小西さんが得意げにそう伝えると、大野さんまで口を開き失礼な事を言っている。
――俺は、気を配り過ぎるから話しかけられないんだぞ。
「そっか、そうだな。小西、大野ありがとう」
一瞬だけ、残念そうに見えた先生だったが気のせいだろうすぐに笑みを浮かべて彼女たちお礼を言っている。
「山野木もありがとう」
そして、なぜか俺まで先生にお礼を言われたしまったけど、俺が反応する前に先生は踵を返していた。
――……はて?
マルスさんが何やら頷いているので、マルスさんが先生に何かを伝えたのだろう。あとで聞いてみよう。
「では出発しよう。最後に忘れ物がないか再度確認する様に」
「「「はっ!」」」
そして先生の指示で、田中たちと先生が前衛(専属メイド騎士、執事騎士含む)王国騎士騎士たちが中衛、俺、小西さん、大野さんが後衛(専属メイド騎士、執事騎士含む)となり深層部に向けて再出発した。
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