無事でよかった
ブックマーク、応援ありがとうございます。
俺が田中たちから少し遅れて部屋の中へ入ると、そこは畳み十畳(縦3.6メートル、横4.5メートル)ほどの何もない小部屋だった。
――!?
俺は、すぐに壁を背もたれにして横座りをしている先生と小西さんと大野さんを見つけた。
彼女たちは疲労のためか少しやつれているように見えるが、大きなケガはなさそうで、意識もしっかりしているように見える。
――よかった……
先生はというと、案の定、田中たちに囲まれていたので、俺は田中たちから少し離れた位置にいるが、その視線はずっと田中たちに向けられている小西さんと大野さんに近づき声をかけた。
「小西さん、大野さん、無事でよかったよ」
「ふぇ!? た、タロウくんっ!」
「たタロっ!?」
彼女たちは俺に気づいていなかったようで、俺のほうに顔を向けた途端、こっちに来ないで、と両手の平を向けぶんぶんと振ってくる。
「えっ……」
――俺、もしかして嫌われてた……の?
いつも興味なさげで、冷めた感じのする大野さんにまでそうやられるとさすがにくるものがある。
「そ、そっか……そうだよね。これ、大野さんの髪留め。この部屋の外に落ちてた。
あとは……携帯食を持ってきたから食べて」
田中たちもお腹を空かせていた。だから先生や小西さん、大野さんもそうだろうと思って用意していたものだ。
俺は後ろにいるお姉さんから携帯食と小さな水筒を二つ受け取るとそれを座ったままの彼女たちの目の前に置き、その場から離れようと立ち上がる。
――あら……
とりあえず、彼女たちの無事も確認したことだし部屋の外に出ていようと、ふと部屋の入り口のほうに目を向ければ、そこには小西さんと大野さんの執事騎士が、不安そうにこちらの様子を窺っていた。
――あれは声をかけていいものかどうか迷っている顔かな……?
ちなみにマルスさんはというも、この部屋の中にすでに入って先生の近く、田中たちの背後で携帯食と水筒を手に、変な顔をしている。
――あっちは、たぶんうれし涙を必死にこられている顔、かな?
このまま何も言わずにさっさと部屋を出ればいいのだけど、彼らも彼女たちをかなり心配していたことを思い出す。
――はあ、イケメン紳士か……
そこで俺は、背中越しになるが、彼たちのためにも彼女たちに一言だけ伝えてから部屋を出ようと思い直した。
「小西さんと大野さんの執事騎士たちも心配して一緒に来てるんだ。後で声をかけて安心させてあげるといいよ……」
それだけ言って部屋を出ようとしたのに、突然俺の腰の辺りに何かが当たる。
「……お、おうっ?」
つい変な声を出してしまったけど、それは別に痛いわけじゃなく、ただの条件反射だ。
――な、なんだ?
ただ、それだけで終わりじゃなく、そこからさらにぐりぐりと硬いもので押されているように感じる。
俺は不思議に思いつつも、その正体を確認してみようと腰の辺りに視線を落とす。
「お、大野さん、何してんの?」
すると、座ったままの大野さんが小剣(鞘に入ってる)の先を俺の腰の辺りにぐりぐりと押しつけていた。意味がわからない。
俺が首を傾げていると大野さんが顔を上げて俺を見る。
「タロはデリカシーがない」
「え……?」
――デリカシー……?
俺がその言葉の意味を探ろうと、大野さんをじろじろと見ていれば、大野さんの顔に少しずつ赤みがさしてくる。そして、ぷいっと顔を背けたと思えば小西さんに話しかけていた。
「ノリちゃん、タロが何か勘違いしてる気がするから教えてやって」
「勘違い?」
「え、あ……う、うん。タロウくん……こっちに来ないでっていうのはその……悪い意味じゃなくて……」
そこまで言った小西さんが今度は顔を真っ赤にする。
――……やばい、もしかして俺、二人に変なこと説明させようとしている……のか?
そう思い至った俺は、何か恥ずかしいことでもいているんじゃないかと思い、この場から逃げ出したくなったがところで――
「勇者様、私も騎士だったから分かります。お二人は身体の汗と汚れを気にしているのです」
お姉さんが俺の耳元でそう囁いてきた。
――なるほど……
言われてみれば二人はかなり汚れて見える。けど、それだけで、田中たちの時に漂ってきた強烈な臭さはない。だから俺は気づかなかったのだ。
しかし、そこに気づいたからといって、女性である彼女たちにわざわざ男である俺からその話題に触れる野暮なことなんてしない。というかできない。
――さて、どうしたものか……
俺たちの会話が途切れたそんな時、ふと田中たちの楽しげな声が耳に入る。
「先生聞いてよ。この辺りの加護憑きはすべて俺たちが倒したんだ。もう安心ですよ」
「ほう、そうなのか?」
「本当ですって。ほら、その証拠に先生も加護の力が戻ってますよね。それ、俺たちのおかげ……へへへ」
「なるほどな……どれ」
そう言った先生は自身に回復魔法の中にあるクリーン魔法を使って見せた。一瞬だけ、先生の身体が眩く光る。
ピロピロン♪<清い玉の陣を覚えたよ>
――おお……なんかラッキーだ。新しい神紋魔法を覚えたよ。
「……本当のようだな……」
先生が感心したように頷いているが、今度は先生のほうを見ていた俺の視界の端でも同じような光りが一瞬だけ見えた。
――ん? 今のは小西さんと大野さん、かな?
「はあ、これでもう大丈夫だねアキちゃん」
「うん」
小西さんと大野さんに再び視線を向ければ、彼女たちの髪や身体はもちろんのこと、身につけていた衣類などすべてがきれいになっていた。二人はすごくうれしそうだ。
――なるほど、回復魔法の使える小西さんがクリーン魔法を使ったのか……
だからといって俺から「身体きれいになってよかったね」などと、その話題に触れる勇気なんて俺にはない。
ここは彼女たちのためにも何も気づかなかったことにしよう。うん、それがいい。俺はそう決めたのだが――
「タロ、その顔……気づいたね」
「うん。タロウくん気づいた、よね」
なぜかすでにバレていた。しかも二人の笑みがすごく怖い。
――な、なるほど。他言無用ってことね。大丈夫、俺は何も知らない。何も気づかなかった。匂いなんて何もない。ってことにしよう。
「あ、いや……なんのことかな。二人からは何も匂うようなことはなかったし……別に気にしなくてもよかっ……あっ」
慣れない会話で誤魔化そうなんてするもんじゃなかったのだが――
「やっぱり……でもそれならいい」
「うん、そうだね」
――あれ……それだけ?
意外にも二人はなぜかうれしそうに頷き合い勝手に納得してしまった。女性ってほんとよくわからない。
そのあとは一度外の野営地に戻るにしろ、このままダンジョンを攻略するにしろ、彼女たちの体力が戻らないことには始まらない。
だから彼女たちには先に携帯食を摂ってもらっているのだけど、その際俺は二人の正面に座らされることになった。
なんでも田中たちが視界に入らないよう壁になってほしいと……
まあ、見捨てられ置き去りにされた彼女たちからすれば無理もない。
だから俺は二つ返事で壁役になってやったんだけど、これがまたかなりの苦行となった。
それは真正面の位置に座る俺が視線を落とすと騎士服の短いスカートの隙間から彼女たちの下着がちょっと見えそうになり、横座りの脚を組み直すとバッチリ見えてしまう。なんか先生の時もそうだった気がするけど……
非常に目のやり場に困ることは言うまでもない。
――くぅっ、気を抜くと視線が下がる……
なんと言っても女性は男性の視線に敏感だとマンガで得た知識が俺にはある。俺は必死に視線を下げないよう頑張っている。いや今も進行形なんだけど……
それで先生のほうはというと、もちろん田中たちに囲まれたまま携帯食を食べていた。
一度だけ俺と目が合い笑みを向けられたがすぐに田中たちから話を振られて、すぐに顔を背けられたけど……
「――話としてはこんなとこ」
「そっか、大野さんたちは俺たちがこの部屋に入ってくるまで仮眠をとってたのか」
――だから加護の力が戻ったことに気づかなかったのか……
「そうなの。先生が休めるうちに休んで、それから行動しようって話になったの」
「体力がギリギリのところで運良くこの部屋に潜り込めた」
「うん。アキちゃんがこの部屋を見つけてくれなかったら、私バテバテだったし、ダメだったと思う」
「でもほんと無事でよかったよ」
「ふふ、ありがとう」
――――
――
十分な休憩を取った先生たちは加護の力もありすぐに体力を取り戻した。
そして、皆で話し合った結果、俺たちはこのまま攻略することに決めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^




