新しい神紋魔法
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「ははは……なんだ、そういうことか山野木。知っていたならもっと早く教えろよ」
今まで散々逃げ回っていた田中が、にやりと笑みを浮かべ調子よく口を開く。
――はぁ……こうなると思っていたんだよな……
「……たぶんだぞ。あくまでも俺の推測でしかないんだぞ」
先生たちを助ける(そう信じてる)には、どうしても田中たちの加護力が必要だと感じていた俺は、加護憑きについて分かる範囲のことを伝えた。
というのも、こいつらこともあろうに、普通のコボルト一体を目の当たりにした途端に逃げ出したのだ。手を握っていたメイド騎士さんを引きずりながら……
髪は乱れピカピカだった騎士の鎧が傷だらけになっていたメイド騎士さんたちが不憫でならない。
そんなコボルトは、俺が逃げ出した田中たちを追いかけている間に、前衛にいた重騎士たちの長槍によってあっさりと倒されていた。
マルスさんが言っていたとおりコボルトはそれほど強力な魔物ではないようで、見境なく鈍器を振り回すコボルトの間合いさえ入らなければ、それほど苦戦する相手ではないようだ。
コボルトは動きも遅く知能も低いようだし……
そのため間合いの外から一方的に突ける長槍が一番有効なようで、皆の手には磨かれ鋭く尖った長槍があり、俺もお姉さんから長槍を持たされている。
それで話しは戻るんだけど、俺もさすがに田中たちが、ここまで使い物にならないとは思っていなくて、これはさすがにまずいと思ったわけだ。
せっかく強力な加護の力があるというのに、俺の加護と替えてほしいくらいだ……
――これで、少しは早く、先に進めればいいんだけど……
「まあ、田中たちも注意して見といてくれ……それから自分たちで判断するんだな」
俺が半分投げやりになりながら伝えると――
「いや。思い返せば俺もそんな気もしてきたな」
「うん。俺も」
「俺も……そんな気がする」
俺の話しを聞いてから、俺を真似て、肩当てや腰部のパーツを外した、鈴木、川田、小谷が少し考えてから頷いた。
この三人も、今はメイド騎士さんから手を離し、長槍を手にしている。先ほどまでの怯えていた様子も一切見られない。
「よーし。そうと分かれば片っ端から加護憑きを殺ってやろうぜ。先ほどの借りを返すんだ」
「そうだ。力を手にした俺たちが負けるはずないもんな」
「おお」
「俺たちで、先生を助けるんだ」
「「「「おおっ!」」」」
――どの口が言うんだ……
調子よく円陣を組んだ田中たちを見て、とても気の合う友人になれないと思っていると、急にやる気を出した田中たちは前衛の重騎士たちを追い越しさっさと奥に進み始めた。
「タナカ様たちはなかなか個性的ですね」
「ああ、マルスさん……なんかすみません」
「いや。ヤマノコ様が謝ることではありませんよ。でも、うまいことやる気にさせたようですね。あのままでは唯のお荷物でしたからね」
――ははは……マルスさんも言う時は言うんだ……
「そう、ですね……」
「これで少しでも早くコウサカ様の元に辿り着ければいいのですが……」
「はい」
口調は柔らかいが、その瞳は、はしゃぎはじめた田中たちをじっと捉えたままだった。
――マルスさん……
たぶん先生のことを思うと悔しくて仕方ないのだろう。俺もそうだから……
――――
――
「あははは、さっきもこうすればよかったんだな……襲って来ない雑魚だからって変に同情したから悪かったんだわ……」
そんなことを言った田中は火の適性魔法の火の槍を数本、宙に発動すると雄叫びを上げ集団で歩いていたコボルトに向かって一気に放った。
「さようなら」
火の槍は火の玉に比べると威力やスピードがかなり強化されている。
ダンッダンッダンッ
俺が瞬きする間に、音が重なり激しい爆発音が聞こえふと、そこには胸部に穴を開けたコボルトたちが断末魔の叫びを上げ次々と倒れていく。
グルァァッ……
「へへっ、ざまぁ」
田中が得意げにこちらを向く……いや違った。自分のメイド騎士や他の女性騎士に視線を向けている。ドヤ顔だ。
――田中のヤツ、なんだあの顔……あ、今俺のお姉さんまで見てやがった……
だんだん調子づく田中に苛立ちを覚えている間に、その亡骸となったコボルトは、ずるずるとダンジョンに呑み込まれて姿を消した。
これは先ほどから何度となく目の当たりにする光景だ。
この空間の魔物はなぜだか絶命するとこうなる。まるでダンジョンが生きているかのように……
かなり不気味だ。
――これって……魔物だけじゃなく……いや、やめよう……
俺は怖くなって、それ以上考えるのをやめた。
「おい山野木。ここだ、ここから先に赤い不気味なヤツ。お前が言う加護憑きとやらが……って言ってる側から出たぞ」
田中たちの進む後ろをついて歩いていると、突然田中たちが立ち止まった。
『イダ……グルルァァ……カゴモチ……イタ……グルル……マッサツ……スル……』
「こ、ここからゆっくり進んでみるぞ」
「おう」
さすがの田中たちも加護憑きには少し慎重になっているようで、四人はゆっくりと歩を進めはじめた。
「おっ!」
目視できてからしばらく歩き、少し距離が縮まると、田中たちの身体は黄金色のオーラに包まれ、俺の身体は黄土色のオーラに包まれた。
「やっぱすげぇな、この黄金オーラ」
「ああ」
「おい、田中。今はあいつだな。本当にあいつのオーラが消えてくれるかだ……それ次第では……分かってるな」
「……もちろん」
田中たちは、加護憑きのことで何やら相談しているらしいが、俺はひとり、別のことで焦っていた。
――やばい。オーラの色のこと忘れていた。
幸い田中たち四人は俺の前にいて加護憑きに気を取られている。
――このオーラ、なんとかできないのか。
俺がそう思っていると――
――あれっ!?
俺の黄土色のオーラがふっと消えた。力が無くなったわけでなく俺の意思でオーラが消えたのだ。なぜ消えたのかその仕組みはよく分からないが今は感謝しとこう……
相談を終えた田中たち四人は、様子を見ながら再び歩を進めはじめた。
「ん!? お、見ろよ」
「ああ、ヤツは一体で間違いないようだ……それに、少しずつアイツの赤いオーラが萎んでいくぞ」
「ああ。でも俺たちはまったく萎んでねぇ。力も出る」
頷き合った田中たちがさらに歩を進め、完全に加護憑きの赤いオーラが消えたところで、四人が横一列に並んだ。
「へへへ……さっさの借りを返すぞ」
「おおよ」
加護憑きの力のことが分かり、少しは恐れや不安が払拭されたのだろう。
「じゃあ、まずは俺からがいいな」
先に鈴木が右手を構えた。
「おっ、あれを試すのか」
「おうよ。はいはい、そこのお前、動くなっつうの……木の鞭」
鈴木の適性魔法は木のようだが、鈴木は、叫ばなくても放てる魔法名をわざわざ唱えた。
すると、鈴木の右手から木のツルが無数に飛び出し加護憑きの首から下に絡みつき、その動きを止めた。
「これで終わりだと思うなよ……そらよ!」
そんな鈴木の口元が弧を描くと、加護憑きに絡みついていた木のツルらしきものから鋭いトゲが幾つもの飛び出しコボルトに突き刺さる。
『グルルァァ……ガゴモチ……フシュゥ……フシュゥ……』
赤い瞳だけを光らせたコボルトの加護憑きがよろよろとふらつく。それを見て――
「鈴木、よくやった」
「足止めには木の魔法が一番いいからな」
「トドメは任せてくれ」
今度は田中、川田、小谷が右手を構えた。
「火の槍」「水の槍」「風の槍」
田中たちも、まるで格好つけているかのように、わざわざ唱えなくてもいい、魔法名を唱えて魔法放った。
「火の槍」「水の槍」「風の槍」
しかも二回。
通常、適性魔法を放つとクールタイムというものがあるらしい。俺は使えないから知らないが……
それが魔法によって二秒から三秒くらい。
でも田中たちの四人の適性魔法は少し変わっていて、同じ適性魔法を二つ所持していたそうだ。
そのせいで、適性魔法でも特に特化した形になっているらしく、そのクールタイムが一秒から二秒ですむらしいんだ。
田中が自慢げに話してくれた。
――ちっ……
つまり、田中は適性魔法の火が二つ、鈴木は木が二つ、川田は水が二つ、小谷は風が二つあったということだ。
その田中たちの放った魔法が全て加護憑きに突き刺さる。
オーラの消えている状態の加護憑きは普通のコボルトと変わらないので完全にオーバーキルだ。
『グルルァァ……モロイ……コノ……カラァァ』
加護憑きは、俺が倒した時と同じように小さな石ころを残してあっさり消滅してしまった。
「「「おおお」」」
「やりぃ」
「へへん」
「やったな」
「おう」
遠巻きに見ていた重騎士たちから歓声が上がり、ドヤ顔の四人はハイタッチをして喜びを分かち合っていた。
まあ、俺は当然蚊帳の外なんだけどね。
でもそれでいいんだ……
ピロピロン♪<火の槍陣を覚えたよ>
ピロピロン♪<水の槍陣を覚えたよ>
ピロピロン♪<風の槍陣を覚えたよ>
ピロピロン♪<木の鞭陣を覚えたよ>
だって新しい神紋魔法を覚えたのだから。
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