冗談です
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翌朝、全身の包帯を新しいものに替えられた俺はお姉さんが準備してくれた朝食を摂っていた。
「ありがとうございます」
「いえ」
何事もなかったように、薬茶を煎れてくれたお姉さんにお礼を伝える。
人間不思議なもので、あれほど恥ずかしいと感じていた(お姉さんに全裸を見られて薬を塗られる)ことが、何度か体験するとそれほどでもなく心地よいとさえ……
はい、ウソです。恥ずかしいものは恥ずかしい。賢者の心はほど遠いのですよ……
だって、朝の生理現象が発動している時にカバッと布団を剥ぎ取られ、何事かと呆けている間に、全身に巻かれていた包帯がスルスルとなくなっていくんだ。
これはもうどうしようもない……お姉さん、綺麗な細腕しているのに力強いし……抵抗しようとしたらお姉さんの柔らかいお胸に触れてしまって余計に墓穴を……
「……」
――ふっ、過ぎたことさ、忘れよう……
あ、でも、そのかいあって筋肉に痛みはほとんど残っていない。心なしか身体が締まったようにも感じる。ほら、この通り……
ムキッ
ほら、筋トレした翌日は、鏡を見て筋肉がついてるか確認したくならない? ポーズをとってムキッとか、ね。
――おうふ……
力こぶを作ったところでお姉さんと視線が合ってしまったので、そっと朝食のパンをちぎって口に入れてごまかしておこう。ついでに朝食の感想も伝えておこうか。
「お、おいしいです」
ほら、このパン。噛めば噛むほどパサパサして粉っぽくなって、口の中の水分が無くなっていく、この感じは……そう、これはまさに……
……粉パン?
ダメだ、グルメ評論家の真似事をしてみたけど全然面白くない。
「そうですか。勇者様のお口にあうのであれば何よりです」
そう言ってくれたお姉さんは、新たなパンを二つ俺のテーブルに置いた。
「おかわりも用意してましたのでお召し上がりください」
――うっ。
正直もういらない。けど、置いてくれたお姉さんに悪い気がして、俺は何度か薬茶をおかわりしてなんとか口の中に流し込んだ。
「ぶへぇ……」
――もう、食べられない……
一時は追放されると覚悟を決めていた俺だけど、秘密を打ち明けてからお姉さんの口数が、心なしか増えたように感じる。それがなんだが嬉しい。
俺はお腹いっぱいで膨れたお腹をさすり、お姉さんが食器を片付けてくれる姿を目で追いながら、あれから話し合ったことを思い返した。
――――
――
「勇者様の事情は分かりました」
俺はお姉さんに、加護はあるがその加護にはほかのクラスメイトと違い身体能力を補助してくれるような能力はないこと、高校に入学してからと言っても理解してもらえないので、ここ二年ほどこれといった運動をしておらず、武術の経験もない、そのため自分の身体能力に不安があることをお姉さんに伝えた。
案の定、お姉さんは俺がクラスメイトより動きが悪いことは気づいていた。
「じゃあ、お姉さんは俺が自主トレしていたことも……」
「はい。存じてます。ただ勇者様は不思議な気配をお待ちなようです」
そう言って続けて話してくれたお姉さんの話には俺も驚いた。
なんでも俺は、注意深く意識していなければ、その気配を見逃してしまうらしい。
他にも、意識できたとしても、そこいるのが当たり前のような、なんとも不思議な感覚を受けるらしい。
だから出会った当初、お姉さんは俺が何かしらの武術を極めた人物なのではと思っていたそうだ。
そこで期待とか言いかけ、言葉を改めたお姉さん、気を遣わせてなんかごめんなさい。
でも実際は、他の人より動きが悪かった俺は、何かしらの病を患っているのではと危惧していたらしい。
「そうだったんですか。初めから……」
「はい」
――でも、これってよく分かってなかった空気アビリティのせい、なのかな……
俺は少しその時の様子を思い出してみた。
――そうだ……
俺は誰にも気づかれていなかった。それも、お城の中庭なのに……
よく考えればおかしいことに気づく。
――俺、夜間はただ警備が薄いだけだと思っていたけど……王様がいる城だもんな、そんなことあるわけないのにな……ははは。
自分の短絡さに肩を落としていると、気を遣わせてしまったのか、お姉さんが今後のことについて話出した。
「勇者様」
「はい」
お姉さんは、俺がこれから災悪のダンジョンに向かうことを知っている。そのため時間を無駄にできないことも……
「勇者様にはまず身を守る術として闘気法を身につけていただきます」
「闘気法、ですか?」
「はい。これができるだけでも生存確率がぐっと上がるのです。そのため騎士になる条件の一つでもあるのですが、お見せしたほうが早いですね」
お姉さんが、すぐに目を閉じたかと思えば――
「闘気着装っ」
あの時と同じように、白っぽい透明な何かを全身に纏っていた。
「!? ……すごい」
――こ、これだよ……これ。俺が聞くに聞かなかったやつ。でも、騎士の条件ってことは、一般的に知られているものだったのか……
「これは闘気法の一つで、闘気を纏い身を守るものです。纏う闘気が強ければ強いほど強度が増します」
「強ければ強いほど、ですか」
「はい。私の闘気では騎士の鎧ていどの強度しかありませんが、達人の域になればその強度は金剛石にも勝ると言い伝えられています」
「すごい……」
――金剛石ってのがどれほどの強度なのか知らないけど、これから鎧を着るようなことがあれば、鎧を二枚着ているようなものになるんだ……いいぞ、すごくいい。生存確率も上がるはずだ。
「はい。他にも闘気を飛ばすものや、闘気で剣を覆ってその強度を高めたりと、できることは色々とあるのですが、勇者様には適性魔法もありますので、まずは身を守ることを優先いたします」
「ありがとうございます。それで俺はどうすれば、その闘気法が使えるようになるんですか?」
「はい。今、なされているトレーニングは、もちろんそのまま続けてください。何をするにでも基礎体力は必要になります」
「は、はい」
遠回しに基礎体力が足りないと言われている気がして、俺はバツが悪かったが、その反面、早く体力をつけてお姉さんを驚かせてやろうとやる気も出てきた。
「それで闘気法なのですが……」
「はい」
「こちらは闘争本能を高める訓練をしてもらいます」
「闘争本能、ですか」
はっきり言ってピンとこない。俺はどうすればいいのか首を捻った。
「これは感覚の問題で、非常に説明しづらいのですが、争ってでも勝ち取りたいという強い心、求める願望を高めるのです」
「は、はあ……」
――お姉さん、ごめんなさい。よく分からないです。
「その顔は、よく分からないようですね。そうですね。強いて言えば相手を倒してやりたい、負かしたい、負けなくない、これだけは譲れないという強い気持ちでしょうか」
「は、はい」
――やっぱり分からねぇ。
俺が宙に視線を向け考えていると、それを察したらしいお姉さんが物騒なことを言う。
「……では魔物をどんどん倒しましょう。それも一つの手段です」
「ええっ」
俺の頭に戦闘民族が頭に過ぎる。俺がにやりと笑みを浮かべ魔物をぶった斬る。そして、その血をペロリと……
――……なんか、イヤだな……
俺の顔色が悪くなったのを見たお姉さんが、なぜか嬉しそうに見える。この気のせいだと思いたい。
けど、それで満足したのかお姉さんは他の訓練方法も口にした。
「他には、そうですね。自分を奮い立たせる言葉を唱えると、スイッチが入りやすくなります。
今は必要ありませんが、私もそうやって闘気を高める鍛錬をしてました」
「自分を奮い立たせる言葉、ですか……ちなみにお姉さんはなんと?」
「敵を前にして、ただ一言『殺る』です。
あとは憎い相手をイメージして、その言葉を発しても効果がありましたね」
「そ、そうですか」
思ったより、物騒でびっくりした。その後、俺はいくら考えてもピンとくる言葉を思いつかなかった。
「お姉さん、すみません。なんかしっくりくる言葉がなくて……お姉さん、何かいい言葉はないですか?」
俺がそう言うと、お姉さんはかわいらしく、アゴに手を当てながら首を傾げた。どうやらいい言葉を考えてくれるらしい。
「そうですね。勇者様なら……『その手を地につけてやる』とか『這いつくばって許しを乞え』他にも『手籠にしてやる』や『足腰立てなくしてやるぜ、げへ、げへ』……」
「ちょ、ちょっとまって……お姉さん、それ本気で言ってるんですか……」
後半が明らかにおかしい。それだと闘気じゃなくて、煩悩が増しそうだ。
お姉さんはまだまだ何か言いたそうだったけど、これ以上は、俺が泣く。
お姉さんが俺に対してどんな印象を持っているのか少し心配になった。
「冗談です。私と同じ『殺る』でいいと思います。シンプルですがいい感じに気持ちが昂ります」
「で、ではお言葉に甘えて『やる』にします」
それでその後、さらには詳しくお姉さんが闘気について説明してくれたが、どうやら今の俺には、すぐには闘気法を使えないと分かった。
というのも闘気にもそれぞれ個人によって保有できる容量が決まっているらしいけど、俺はかなり低いらしい。まあ、人との争いを避けてきたツケとでもいうのかな……
けどこれは、常日頃から闘気を高める鍛錬をしていれば、その保有できる容量が増えていくそうだ。
そして、この闘気がある程度の域に達すると、その闘気を自然と操れるようになってくるそうだ。
だから、まずはその域を目指すことになり、それから闘気法の一つ、闘気装着の訓練に入ることになったのだ。
――――
――
――さて、今日の予定はどうするだったっけ?
俺がテーブル席で寛ぎそんなことを考えていると――
「勇者様、コウサカ殿です」
「山野木。体調はどうだ、良くなったか?」
少しお疲れ気味の先生が部屋に入ってきた。
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