仲間?
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「いてて……あ、そこ、そこは……効くぅ……うっ、いでででっ」
身体をキレイに洗い流したあと、ゆっくりと寛いでいた俺は、またもや筋肉痛に襲われていた。
「勇者様動かないでください」
悲しいことに、俺はまたベッドに逆戻りしてしまったのだ。
「はい」
そんな俺は今、メイドのお姉さんの手厚いマッサージ(塗り薬のサービス付)を受けて悶えている。快楽と激痛の狭間で……
――ああ、これは贅沢だ……
「ぁぅ……ぁぁいい……いっ、いでででっ」
「勇者様動かないでください」
「はいっ……」
お姉さんが、ぐりぐり、もみもみ、ペタペタ、ぬりぬり、と丁寧にマッサージをして揉みほぐしてくれたあとには、必ず炎症を抑える薬を塗りこんでくれた。
――あれ、でもおかしくない?
この筋肉痛が身体強化魔法による副作用ならメイドのお姉さんも同じように副作用がおきていてもおかしくない。
それなのに、メイドのお姉さんは平然とした様子で俺にマッサージをしている。
「あの……」
「どうかされましたか?」
「お、お姉さんは平気なんですか。その身体とか……あ、ほら筋肉痛とかです」
俺ばかりがマッサージを受けているけど、実はお姉さんも同じで、痛いのを我慢してマッサージをしていました、なんてことだったら申し訳ない。
「……筋肉痛、ですか?」
「そうです」
手を休めて少し考える素振りの見えたお姉さんだけど――
「少し痛みますが、我慢できないほどではありません」
すぐにそう応えて再び手を動かし俺にマッサージを施してくれる。
やはり、お姉さんは元騎士だけあって、俺と身体の鍛え方が違うらしい。
ますます俺は、お姉さんに教えを請いたいと思いつつも、男なのに情けないとも思ってしまった。
――気持ちいいわぁ……お姉さんって華奢で柔らかいのに……なんで力が強いんだ……?
俺が軽くショックを受けてボーっと呆けていると……
――あれ、なんかスースーす、る……んんん!?
いつの間にか俺の粗塔が姿を見せているではありませんか。
――な、な、なんで……
大事な部分には気持ち程度だけど、ちゃんと小さな布切れが覆いかぶせてあったはずなのに……
マッサージの邪魔だと思ったお姉さんが、俺の気づかぬ間に取り除いたのだろうか?
――いつから、いつからなの……
そう頭に過ぎるともに何とかしようと、俺は咄嗟に口を開いた。
「おお、お姉さん……待って……タンマ、タンマ……です」
本当はすぐにでも隠したいところなのに身体が動かない。情けないと思う俺は心の中で……
――あれ? ……意外と平気かも……俺はいよいよ賢者の心を手に入れたのか?
視界に入っているはずのお姉さんも、平然とした顔でマッサージしている。
これがこの世界での普通、そう頭に過り、俺が過剰に反応していただけなのだと結論付けることで、少しだけ冷静さを取り戻した。
「勇者様、どうかされましたか?」
「いえ……なんでもない、です」
――そうだよ。ここではこれが普通なんだよ……お姉さんだってぜんぜん平気そうだし……って、あれ、お姉さん、そこは手が近すぎない? ぬお……そこはダメだ。反応する、反応するって……あ、ああっ……
賢者の心が砕け散るとともに、俺の粗塔が本来の姿を現した。
「……」
――……す、少しだけ身体を横にしよう、かな……
もぞもぞ。
「勇者様動かないでください」
「……はい」
悟りを開けそうで開けない。賢者は偉大だと思った。
――――
――
「お姉さん。ありがとうございます。随分と楽になりました」
「務めです」
お姉さんには淡々とした口調で返されてしまったけど、キレイな包帯に全身に巻いてもらった俺は、お姉さんが運んでくれた夕食を摂っていた。
「先生たち、盛り上がってますかね……」
「コウサカ殿は引っ張りだこです。しばらくは抜け出せないでしょう」
「そっか、そうですよね」
先生たちはというと、村人たちがオークやゴブリンを討伐してくれたお礼にと準備してくれた食事を食べに行った。
もちろん、付き人のイケメン執事騎士や、他の王国騎士たちも。
俺も参加するはずだったんだけど、安静にしていろと言う先生の言いつけを守って不参加になった。
とはいえ、その食事に、王国騎士たち全員が参加できるはずもなく(騎士の人数が多く、村の負担になる)、主要なメンバーだけが参加し、騎士たちは騎士たちだけで村の外で盛り上がっていると聞いた。
だから、この部屋には俺とお姉さんの二人。俺はこれをチャンスだと思うと同時に、どう切り出そうか迷っていた。
――お姉さん幻滅するかな……
一応、俺も勇者という扱いだけど、お姉さんに教えを請うにはある程度自分のことを話さなければならない。
俺の加護は身体的な能力の上昇はなく、適性魔法と適性スキルが使えるだけ、しかも神紋魔法の威力は強いけど描くのにも時間がかかる、だから身を守る術がほしいのだと……
これは、俺が他のみんなよりも劣っていると自白するようなものだけど、もしかしたら、かなりの時間俺の傍にいるお姉さんにはすでに気づかれていて、それでも黙って仕えてくれている、だから大丈夫だと期待する、甘えた考えの自分もいる。
――ああでも、やっぱり話すのが……怖え……
というのも、俺は追放ものの漫画をよく読んでいた。能力的に劣る俺はまさにそれと被ってしまう。
―― これは漫画とは違う。そんなことはない……
何度もそう思い込もうとしても、肩を落として出ていくそのシーンが頭から離れない。
――ああ、もうっ。
いつまでもそんなことばかり考えてはいられない俺は、加護憑き魔物に遭遇してから、ずっと悩んでいたことへと思考を切り替え、思い返した。
この先、俺が生き残るにはどう行動するべきなのかを……
自分のことしか考えてないと思うかもしれないけど、加護憑き魔物を前にすると、自分の身も守れそうにない俺は、人のことを心配をする以前の問題なのだ。
俺は、ずっとみんなに着いて行きさえすれば大丈夫、戦闘は他のみんなや先生がやってくれるから問題ないと、どこか他人事のように考えていたふしがあった。
俺と違って創造神様の強力な加護があるのだから……
でも実際は、否応なく俺にも戦闘を強いられる場面もあるのだと身を持って知り、そして恐怖した。
このままでは危険だと。いずれ俺だけ加護憑き魔物に殺されてしまうのではないかと。
いや、それだけじゃない。最悪、今回みたいに俺を守ろうとするお姉さんや、他の誰か、そんな人たちまでも巻き込んでしまうのではないかと思ってしまった。
――そうだよ。あいつらが出ても、せめて、自衛できる程度にはならないと……
そこで、俺は箸を置きお姉さんのほうに視線を向けた。
俺の様子を見ていたらしいお姉さんは、すぐにお茶を淹れはじめた。
「あ、いや。お茶じゃなくて、お姉さんにお願いがあるんです」
「……勇者様」
そこで、お茶を淹れていたお姉さんは手を止ると、不思議そうに首を傾げながら俺のほうに向き直った。
緊張がピークに達して俺の心臓がドキリと跳ね上がる。
――い、言うぞ。言うんだ。
「あ、あの、その、お、俺……俺を鍛えてくれませんか」
俺はここにきて少し尻込みした。
加護憑き魔物の時に見た、お姉さんの白い膜は、もしかしたら他人に教えていいものではなく、それを口実に断られたらどうしようと思ってしまったのだ。
それでも、お願いしようと思ったのは、お姉さんは、俺の身体強化魔法をはじめて受けたにもかかわらず、筋肉痛にすらなっていない。
きっと、そうなるための鍛え方を知っている。そして、あのすごい剣術も。あれを身につけるだけでも今よりかなりマシだと思ったのだ。
お姉さんは何も言わず黙って俺のほうを向いたままだ。
「……」
――もしかして、早まった? いや……
その反応に、言わなければよかった、とも思う反面、こうなったらどうにでもなれという思いが押し寄せてくる。ヤケクソだった。
「お姉さんは、もう気づいているかも知れませんけど、俺は……」
俺は、俺だけみんなと加護が違うことをお姉さんに打ち明けた。
――言った。言ってしまった……
「これは誰にも言ってないことでなんです。どうか、どうか……」
沈黙するお姉さんに、反応がないから余計に不安が押し寄せ、漫画の追放シーンが何度も蘇る。
「お願いしますっ」
気づけば俺は、床に手と頭をつけていた。お姉さんのやった騎士の最敬礼とは違う、土下座だ。俺は土下座をして懇願したのだ。
すでに俺の背中は冷や汗でぐっちょり。
「はぁ……」
お姉さんのため息が聞こえてきた。
――ダメ……だったか……
これで国王に報告された俺は追放になる。そう覚悟を決めた時――
「そういうことでしたか」
そう言ったお姉さんは、いつの間にか俺のすぐ傍にに立っていて、俺を軽々ひょいと抱き上げた。
「え?」
そして、そのまま俺は何事もなかったようにテーブル席に座らされた。
「ずっと引っかかっていました」
「引っかかる?」
そう言って語りはじめたお姉さんは、なぜか、小ブリンと、ゴブリンの違いを教えてくれた。
――ああ、そう言えば……
そこではじめて、王国騎士たちに小ブリンと結論づけられていたことと悔しそうにしていたお姉さんの顔を思い出した。
「つまり、勇者様の魔法は、他の勇者様方の魔法とは効果も威力も違うということですね」
「そう、ですね」
お姉さん自身はずっと納得がいかず、でもゴブリンを自分一人で相手できたことに対する謎がどうしても分からなかった。
その謎がやっと分かったと言ったのだ。
「あの、お姉さん? その、俺は……」
――そっちの話じゃないんだけど……
俺がそう思ったことが顔にでも出ていたのか、言い淀む俺に代わってお姉さんは――
「勇者様にはお伝えしたはずです。なんなりとお申し付けくださいと」
淡々とした口調で答えてくれた。
――え、そんなこと言われたっけ?
ふとそんなことを思った俺だったけど、冷静に考えれば、今の言い方だと――
「え、じゃあ」
「はい」
お姉さんはあっさりとオッケーを出してくれた。
「ありがとうございます」
でも、俺は嬉しくて気づかなかった。
そう言って返事を返してくれたお姉さんの口角がわずかに上がっていたのを……
そして知らない。
お姉さんが騎士の時代、無表情で魔物を斬りまくることから氷人形のようだと恐れられ、最低限の交流しかできないボッチだったということを……
つまり、趣味は一人でできる鍛錬や自己啓発。俺は、同じような内容の鍛錬を求められることになるということを……
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