バレなくてよかった
ブックマーク、評価ありがとうございます。
嬉しいです。
少し長くなりましたので
2話に分けました。
「すまなかったな山野木、先生の勘違いだった」
俺というか俺と先生は今、村の公民館みたいな場所の部屋の中にいる。
メイドのお姉さんからも状況を確認した先生が、俺に頭を下げてきた。
「あ、いえ……」
「しかし、山野木もそれならそうだと、なぜ早く言わない……」
「は、はあ……」
――だって、顔を上げたら先生の真っ赤な下着が見えるんだ。かといって先生に下向いたまま話しなんてできないし……
そんなのだ。先生は俺を床に正座させたはいいが、なぜかわざわざ椅子を俺の目の前まで持ってきてそこに腰掛けたのだ。
だから、俺が先生のほうに顔を向ければ、ちょうど目の前に真っ赤な下着が目に入る。俺は慌てて顔を下げたよ。なんか俺のほうが恥ずかしくなったんだ。
それでも一度だけ顔を上げてみたけど、その時は先生が脚を組んでいて……まともに……けふん。
俺はそれっきり顔を上げることができなくなった。いや勇気がなかった。今のはバレたんじゃないかと、ずっと俯いていたのだ。
――はぁ、あれは反則だよ。先生の顔を見ても下着が視界に入るんだもん。
「先生もよく見ればよかったのだが、先生はてっきり山野木が女性を跪かせていい気になっていると思ったのだよ、このままだと私の教え子がロクな男にならんと思ったわけだ……」
――うん、知ってる。さっき、何度も聞いたし……
「先生も付き人の執事によくされていたのにな、あれが騎士にとっての最敬礼だということをすっかり忘れていた」
そう言うと先生はまた頭を下げた。美人の先生に何度も頭を下げられるとなんか居心地の悪い。俺のほうが悪い気がしてくる。
「あ、いえ、いいんです。もう気にしないでください」
「そうか、そう言ってくれるか。先生も山野木にそう言ってもらえてやっと気が晴れそうだ」
「ははは……そんな大袈裟な……」
――だって、オレがむっつりスケベだとバレずにすんだんだよ。
ぼっちでむっつり……皆に知られなら、どれだけ軽蔑されるか……まあ、女性を跪かせてたってのもそれはそれで嫌だけど……本当、お姉さんに感謝だ。
でも、お姉さん、あの後急に部屋を出て行ったけど、どこ行ったんだ?
俺が視線を部屋のドアへと向けていると――
「それでだが……説教している時は先生も頭に血が上っていて気がつかなかったが……」
そう言った先生が、俺の全身をジロジロ眺めていた。
「どうかしたんですか? 先せ……ぃ」
先生の視線を追って自分の身体に視線を向けてみると――
――……げっ!? そうだった。
俺の全身は包帯で巻かれていたけど、煤と泥で真っ黒に汚れ、その汚れも少し渇いて所々カパカパになっていた。凄く汚い、しかもなんか臭い。調子に乗って転げ回った際に、動物のう○こを身体のどこかで踏んでしまったかのような臭いだ。
「お、俺、ちょっと身体を洗ってきます」
「そうだな、先生もそうしたほうがいいと思う」
顔を背けながらも、さりげなく回復魔法をかけてくる先生がそう言うと、この建物を出て裏手のほうに回ればそこに井戸があると教えてくれた。
「あ……ありがとうございます」
そのおかげで正座して痺れていた脚も治ったので、ダッシュで行けそうだ。本音は臭うから早く行けということなんだろうけど、それでもありがたい。
「ふふ、気にするな」
「じゃあ、俺ちょっと行ってきます」
「ああ」
俺はなるべく人に会わないことを祈りつつ部屋から出ようとした。けど――
「勇者様。討伐に向かっていた騎士たちが戻ってまいりました」
先に部屋のドアが開き、姿の見えなかったメイドのお姉さんが戻ってきた。
「あ、お姉さん」
――あ、俺、臭うから近寄らないで……
「はい。それで今回の隊のまとめ役が、報告のために確認したいことがあるそうで、こちらでお待ちいただきたいそうです」
どうやら、今回の討伐に参加した各隊の隊長、副隊長クラスの人が、こちらに来るらしい。
「そうなんですか……」
「はい」
けど今は、討伐から帰還した騎士たちの人数が多くて村に入りきらないから、村の外で待機しつつ野営の準備をしているそうだ。それで少しお待ちくださいってことらしい。
「それなら、まだ少し時間ありそうですよね。俺、今から身体の汚れ落そうと思っていたんだけど、いいですか?」
メイドのお姉さんは、じっと俺を見てこくりと頷いた。なんとなく察してくれた感がしてなんか嬉しい。
「そうですね。私もそのほうがよろしいかと思います」
メイドのお姉さんもそう言ってくれたけど、それでも少し遅かった。
「コウサカ殿! 一人で先に帰られては困ります」
息を切らせた騎士たちがわらわらと部屋に入ってきた。
――うわっ、うわっ……ちょ、ちょっと……
どれだけ飛ばしてきたのか、イケメン騎士たちは皆、額にキラキラ汗を浮かべているが、その顔はやけに嬉しそうで、なんだかヤバそうな視線を先生に向けている。
――な、なんなんだ……こいつら……
俺が騎士たちに危ない奴ら認定している間にも、ほかの騎士たちによってテーブルや椅子が数脚持ち込まれ、すぐに会議に入り、俺は身体を洗うことなく、そのまま強制参加になった。
――――
――
「私どもが出立してからの状況を確認したいのですが、村長よろしいですか?」
司会進行を務める騎士は、王国、赤の騎士団七番隊の隊長だった。ガッチリ体形でこいつもイケメンだ。
――なんでだよ。騎士団にはイケメンしかいないのか……
そのイケメンが言うに、王国に任務を終えたことを報告したい(伝書竜を飛ばす)が、その情報に誤りがないか確認をしたいとのことだった。
それで、この部屋にいるメンバーはというと、先生とその付き人イケメン執事騎士に、赤の騎士団、七番隊から十番隊の各隊長に副隊長、そして俺とメイドのお姉さんの計十二名が即席でコの字に設置されたテーブル席に腰掛けている。
そして、今呼ばれて入ってきたのが、村代表の二名(村長とその奥さん)が皆からの視線を浴びつつ緊張した面持ちで立っている。
――ああ、わかる。皆から視線が集まるあの感覚、俺は嫌だなぁ……
「は、はい。えー、そうですな……特に村への被害はなかったのですが、順を追って話しますと、まず初めに村の若い者がゴブリンの群れを発見したところからでして……」
はじめこそ長くなるかも、と思ったけど村長も特に報告することがなかったのだろうね、村への被害もケガ人もいないですと、すぐに話を終えた。
「そうか。それで村長、そのゴブリンの群れを見て、何かおかしな点はなかったか?」
「えー、その、すみません。私どもはゴブリンの群れが迫ってると報告を受けてからすぐに残っていたアイラ殿に相談し、隣町への避難を決めましたので……その、あとは残っている騎士様たちに先導してもらい、逃げるに必死で……その……ゴブリンの群れを……見ては……いないのです。はい……」
ですが村の被害はまったくありませんでした、と最後のほうは声が小さくて聞き取れなかったけど、たぶんそんな感じのことを言って村長が頭を下げた。
村長もその行動に問題があったのかと不安なのだろうね、びくびくと身体が震えているようにも見える。
「謝る必要はないですよ村長。それは賢明な判断だったのです。アイラもよくやってくれた」
「はっ」
十番隊、副隊長として参加しているアイラさんが会釈程度に頭を下げているのが目に入る。
――アイラさんもいたんだ。その隣の人が隊長さんか? 美人だな……ほんと騎士団の人ってイケメンと美人さんしかいないな……
「そ、そう言っていただけると、決断した私としても本望です。何分、村では反対する者いましたので……」
そう言いながら汗を垂らす村長は持参した手拭いで頬を伝う汗を拭き取っている。
「そうだろうな。だがもう安心するといい、我々も追っていたオークとゴブリンの群れの討伐を終えたぞ」
「そ、そうですか。それは何よりです」
「ああ、だが、油断は禁物だ。当分の間は警戒をして、何かあれば伝書竜を飛ばしてくれ」
「は、はいっ。ありがとうございます」
その後、一言、二言、なんでもない会話を交わして頭を下げた村長夫妻は逃げるように部屋を出て行った。
――いいな。俺も早く汚れを流したい……
漂い始めた臭いに焦る俺は心の中で泣きながら祈った。
――お姉さん、こんな臭いを放つ俺だけど、どうか嫌いにならないでください。
最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^




