何も見てません
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嬉しいです。
少し短めです
すみません。
「あははは……遅い、遅いぞゴブリン」
俺はゴブリンの振り下ろす棍棒を華麗な側転で躱し笑みを浮かべる。
「どうだ、ついてこれまい」
そう俺は今、相手の攻撃を見て躱すという、漫画みたいな展開に興奮し、自分に酔いしれていた。
『グアッ!!』
「お、おお……そんなもん振り回したって当たってやんない、ぞっ」
今度は柔道の前周り受け身(しかも体育の授業では怖くてできなかった飛び込み型のほう)で、雄叫びを上げて振り下ろしてきたゴブリンの渾身の一撃を躱した。
「ははは、身体強化、すげぇ……」
加護は互いに相殺され無効になっているけど、俺の場合、すでにかけていた身体強化魔法の力が残っていた。
そう、俺とって奇跡ともいう大変ありがたい状況になってくれていたのだ。
――ふふ、ふふふ……
『グゲァァッ! ナゼ、チカラガ……』
「あん?」
『グアァァ! カトウセイブツ……ヒリキ……ショセン……クズカ……』
「へへん。当たらないからって、雄叫び上げて驚かそうったってそうはいかない……おおっとと、へへ、かなり、イラだっているようだな」
雄叫びを上げたゴブリンは、ただ闇雲に棍棒を振り回すだけなので、こんな俺でもちゃんと見ていれば容易に回避できた。
『ギギャギャアァァ!』
「どこを狙ってるんだ、ほらよっと……」
俺は紙一重で前転したり、後転したり、時には側転しては華麗に躱していく。
「ふふふ……ははは、おっとっと……はい、また外れ」
けど、だんだんとこの状況に慣れてくると、俺は一つの壁にぶつかった。
――こいつ、どうやって倒そう……
鼻息は荒いが、明らかに肩で息をするゴブリンは、体力を消耗してしまっているのだろう。
『グググッ……』
今は棍棒を杖代わりにして立ち止まり、俺の顔をジロリと睨んでくる。
――ひぃっ、顔は相変わらず怖いな……
今ならゴブリンも動けないようだし、小剣で一突きでも入れれば簡単に倒せるかもしれない。
けど、魔物とはいえ生きている生物に刃物を向ける、ましてや突き刺すなんてとてもできそうにない。
――ああー、やっぱり無理だ……どうしよう、どうしよう。どうするよ……ああっ!?
俺は考え考えて、そして気づく。メイドのお姉さんが、もう一体のゴブリンAと戦っていたことに……
「やべっ!」
俺は慌ててメイドのお姉さんのほうに視線を向けた。
「うおっ」
メイドのお姉さんと赤いオーラを纏ったゴブリンAはとんでもない速度で、激しい攻防を繰り広げていた。
「なんだよこれ……すげぇ……」
強化されているからこそ素人の俺の目でもなんとかついていけるが、それを躱したり、防いだりできるかといえば……正直自信がない。
――そうだよな、お姉さんも身体強化しているだもんな。
素人の俺なんかがメイドでもあり騎士でもあるお姉さんの心配なんて必要なかったな、と思い至ったところで――
「え!?」
棍棒を受け止めたお姉さんの長剣が途中から折れ、折れた刃先が飛んでいくではありませんか。
――あああ!! お姉さんの剣が……
それからは、折れて短くなった剣でゴブリンAの棍棒を逸らすだけの防戦一方になり、メイドのお姉さんに棍棒が当たりそうになるたびに俺が悲鳴を上げてしまう。
「あっ……ああ……ひぃっ……」
――……やばい、これはやばいぞ……どうする。どうするよ。俺はどうすればいいんだ。
俺は焦りつつも考えて考えて――
――……よしっ!
ゴブリンを倒すと決意した。けど、それでも俺の手は震えた。
――大丈夫、倒せる。俺なら大丈夫。倒せる。
何度も何度も自分を鼓舞しては震える手に力を入れ、そして、腰から下げていた小剣に手をかけた。
――ゴブリンを倒してお姉さんの加勢にいく! 加勢に行くんだ!
大袈裟かもしれないが、喧嘩すらしたことのない俺はこれくらいしないと身体が固まって動けなくなるんだ。
「うおおおおおっ!!」
もう一度気合を入れた俺は勢いよく小剣抜いた、のだが――
バキッ!
抜いた瞬間、俺の手の甲に何かに当たったような感触があったかと思えば、ゴブリンBが勢いよく地面を転がっていく。
「えっ……?」
勢いが収まり地に突っ伏してピクリとも動かないゴブリンBを茫然と眺めていると、そのゴブリンBは泡のように消えてしまった。
「なんで……消えちゃったよ……痛っ」
俺は軽く痛みの走った自分の手の甲を見て少し考えた。
――えっと……ゴブリンはちょうど俺の腰あたりまでしか身長がなかったよな……ということは……
俺がメイドのお姉さんをぼーっと眺めていることを好機だと判断したらしいゴブリンが、棍棒を振り上げ駆け寄ってきた。たぶん(お姉さんを見ていてよく分からない)
そこへ絶妙なタイミングで、ゴブリンを倒すと覚悟を決めた俺が、気合を入れて勢いよく小剣を抜いたものだから、その際に、小剣を掴んだ右手の甲が、まるで裏拳のような形になってゴブリンの顔面に入り吹き飛ばしてしまった……
――……
「ま、まあいいや……よくわかんないし。それより今はお姉さんだ」
偶然とはいえ、生物を倒してしまったことに対して、自責の念に苛まれるかとも思ったけど、泡のように消えてしまったせいもあるのか、俺自身、魔物を倒したという感覚があまりなかった。
神紋魔法でもそうだ、けどそれは、非現実的な現象に俺自身、感覚がついていけてないのかもしれないけど……
ただ、手の甲に残る生々しい感覚と、ちょっとした痛みには意識を向けないようにしている……
――いかんいかん。それより今はお姉さんだ。待ってて……
俺は首を振って気持ちを切り替えると、ピンチの女性を救うヒーローにでもなったかのような心境で、メイドのお姉さんに駆け寄った。
「お姉さん、今から加勢に行き……ってあれ……」
俺は駆け寄る途中で、ゴブリンAの変化に気づき目を擦る。
――……消えてる。
なんと、加護の相殺対象であったゴブリンBを倒したせいなのか、その加護の相殺対象がもう一体のゴブリンAのほうに移っていたのだ。
「はっ!」
赤いオーラの消えたゴブリンAは、普通のゴブリンと変わらない力になってしまったらしく、次の瞬間には、メイドのお姉さんの折れた剣が、ゴブリンAの喉元に突き刺さっていた。
『グエッ』
「とどめ!」
さらにメイドのお姉さんはその突き出した剣の手元を捻ったかと思えば、そのまま下にへと体重をかけ……
――うっ……
ま、まあ、何はともあれ、俺が駆けつける間も無く、ゴブリンAもすぐに泡になって消えてしまったのだ。
俺をカッコいいと思ってもらうことはできなかったけど、これだけは言える。
「お姉さんが無事でよかったです」
「勇者様……」
折れた剣を一度振って鞘にしまったメイドのお姉さんは、俺の近くまで歩み寄ってくると片膝をつき頭を垂れた。
「ありがとうございました。これは勇者様のおかげです」
その仕草は騎士らしく、とても様になっていて女性なのにカッコいいと思った。
――なっ!?
けど、メイドのお姉さんの格好がいけない。騎士服のスカートは短く片膝をつければ、その中の純白が見えてしまっているだ。
――こ、これは……
これはご褒美なのかと、つい喜びそうになったが――
「山野木、無事だったか!」
「ひいっ……見てません、何も見てません」
突然、背後から聞こえた先生の声に驚き、言わなくてもいことを口走った俺は小一時間ほど正座をすることになるのだった。
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