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お約束なんていらない

ブックマークありがとうございます。

嬉しいです。


更新遅くなりました。

すみませんm(__)m


「勇者様ってぇのは、えらぁべっぴんさんなんだべなあ」


「んだぁ」


「王国のぉ騎士様たちもべっぴんさんだったべぇ。いい匂いがしたべえ」


「んだぁなぁ。しがし、都会にはべっぴんさんしかいねぇってのは本当だったべな」


「んだぁ」


 村の見張り台に立つ若者たちは、都会からきた美女(女性騎士と勇者)たちを見送ったあとも(もちろん男性の騎士や兵士もいる)、その話題で持ちきりだった。


「あんなべっぴんさんが、嫁さぁきたらいいべなぁ」


「んだなぁ」


「牛ぃっ、何頭いれば嫁さぁきてくれるべか?」


「ん〜、100頭くらいだべえか?」


「いんやあ。あんなべっぴんさん食わすにゃあ500頭はいねぇと……」


「……そりぁ……とんでもない数だべなぁ。村長でもむりだべ」


「……だべ」


 大地の神が没しているためこの世界の大地は腐敗しているのだが、その進行は遅く、この村の周辺にはまだ影響がなかった。


 それどころか作物が、よく育つ肥沃な大地が広がったままだったのだ。


 そのため、田舎村だが他の村に比べれば食べ物に困るこもないうえに交流も盛んなためこの村の生活水準はわりと高い。


 だが、外の世界を知らない若者たちは、行き遅れた女性騎士から狙われていることなど知る由もなく、高嶺の花で、叶わぬ夢を見てしまったのだと顔を見合わせため息をついた。


「でもさあ、おめぇには幼馴染のため子がいるんだからいいだべなぁ……」


「ああ……あいつはぁ、隣町の町長の息子と婚約が決まったぁと、喜んで報告してきたぁ……」


「……だべか」


「そ、そういや、おめぇこそ隣町のマチ子とぉいい感じになったあっ言ってたべぇ」


「あぁ、あれはぁ……もう相手がいただぁ」


「……だべか」


「そういやぁ、おめぇは……」


 二人の若者が一人の若者に視線を向けた。


「お、オラがいるわけねぇべ」


「「……だべな」」


「……」


 村の若者たちが三人も集まれば、その話題は自然と異性へと流れるのはいつものことだった。


 そんな時だ――


「……あんれぇ?」


「んあ? 変な声だしてどうしたあ?」


「なぁ……おめえ、あれなんだと思うだぁ?」


「うあ? なんだべ? あのもくもく……煙? 土埃っぽいべぇなあ?」


 一人の若者が森の方向にもくもくと土埃っぽいものが舞い上がっているのを見つけた。


「まさか、勇者様と騎士様が向かったからあオーク(大豚鬼)が、こっちぃ逃げてきたってこたあ、ねぇよな? 勇者様たちはあっちの西側から向かったからあ……」


「まさかあ……」


「そういやぁ、騎士様の隊長がぁ、オークと、ゴブリン(小醜鬼)が合流する前に叩くぅってぇ言ってたあからぁ、ゴブリンのほうだけが逃げてきただかあ?」


「まさかあ……」


「そんなはずねえべ。ほらぁ、騎士様の話じゃあオークもゴブリンもすごい数がいたって言ってただあ、あの土埃の舞い上がりようじゃ少し足りねぇべ」


「おお、そうだなあ……んじゃあ、あれはなんだべ?」


「んー、奴らから逃げてきた獣の群れだべか?」


「にしちゃあ、数が多いとは思うがよ。ちと、遠くて分からんべえ」


「そうだべ! こういう時に騎士様から支給されたこいつを使んだべぇ」


「おお、そうだったべ。騎士様から支給されたやつだべ」


「おお、なんかオラも騎士様になったみてえだ」


「んだぁな」


「んだんだ」


 三人は自分たちも騎士になったつもりで、すこし騎士の真似事をしつつ双眼鏡を覗き込んだ。


 ――――

 ――


「……ふあ、よく寝た……あれ?」


 いつものふかふかベッドの感触じゃない。


 ――ここは……


 俺は簡易ベッドのようなところで横になっていた。不思議に思いつつも、なんとなく身体がだるい俺はベッドに横になったまま首だけを動かして辺りを見渡してみた。


「!? 気がつかれましたか勇者様」


 すると俺のすぐ側で椅子に座っていたらしい、騎士服のままのメイドのお姉さんと目が合った。


「あれ、お姉さん?」


「はい」


「どうしてここに? 俺は先生と一緒に、お姉さんは後発部隊で……」


「はい。私は後発部隊として昨日の夕刻にこの村に到着いたしました」


「昨日の夕刻……?」


 俺はその言葉をすぐに理解できず頭を捻った。


「勇者様は、この村についてすぐお倒れになったそうです」


「倒れ……た?」


 ――……はっ!


 そこで俺は、モリマエの村まで先生と走りきったはいいが、そのあとの記憶がないことに気づいた……


「そうだ、俺は村に着いてすぐに……倒れたんだ」


「はい。思い出されたようで何よりです。村医者によると筋肉の炎症が激しく全身が真っ赤に腫れ上がるほど酷かったそうです。意識を失ったのは身体の疲労によるものだろうと……

 それに効く処置をされ塗り薬を置いていかれてましたので、途中からは私がさせていただいております」


「……そうなんだ」


 ――筋肉の炎症か……身体強化で無理をしたからかな……あれ?


「なんで先生は回復魔法をしてくれなったのかな?」


 勝手に倒れていて虫のいい話だが、教え子が倒れたんだから、回復魔法の一つや二つしてくれたってバチは当たらないと思う。

 回復魔法が使えないならともかく、先生は使えるんだ、俺が不思議に思い思考を巡らせていると――


「はい。無理をさせたのだと深く反省しているようでした。それで魔法については……すみません、コウサカ殿の言っていることがよく理解できませんでした」


「よく分からない?」


「筋肉の炎症は筋肉痛によるもので、超回復がどうのこうの……それは魔法を使っても有効なのか……筋力アップのいい機会が無駄になったら勇者様がかわいそうだ、など他にも何か言っていましたが、私にはよく理解できませんでした」


 目を伏せて申し訳なさそうにするメイドのお姉さんに大丈夫だと伝えた。


「……超回復か」


 メイドのお姉さんさんの話で、先生の言いいこと、俺のためを思って回復魔法を使わなかったってことがなんとなく理解できた。


 ――あ、でもあの時、倒れる寸前? アビリティが軒並み上がっていることは確認したんだっけ……と、いうことは別に回復魔法を使ってももらっていても良かったってことじゃないか……


 迷惑をかけてしまったのに、俺のことを考えてくれたということに少し嬉しくなったが、目の前のメイドのお姉さんはまだ目を伏せたままだ。


「なんとなく分かりました。ありがとうございます。身体ももう大丈夫そうですし……よっと」


 まだだるさを少し感じるが、心なしか身体が軽く感じる。

 これ以上メイドのお姉さんを心配させまいと思い、俺は元気に起き上がり立ち上がってみせた。


「勇者様」


「ほら、このとおり……?」


 すると、俺が立ち上がるのに合わせたようにメイドのお姉さんも立ち上がっていた。


 そして、その手には何かを持っていて、それを俺に差し出している。


「……勇者様お召し物です」


「お召し物?」


 俺は全裸だった。


 ――の、のぉぉっ!


 身体中に緑の液体が塗られているところを見ると、これが村医者が置いていった塗り薬なのだろう。それをメイドのお姉さんが塗ったのだ。


 俺の分身まで綺麗に緑色に染まっているところをみると、メイドのお姉さんは丁寧に薬を塗ってくれたようだ。


 俺は前屈みになり分身を隠した。


「お、お姉さん。ここからは自分で着替えますので、そこに服を置いてもらえればいいですよ」


「いいえ勇者様。最後に塗り薬を塗ったのが昨夜、ここで悪化させては意味がありません」


 メイドのお姉さんは俺を服をベッドに置くと包帯と塗り薬を手に持った。


「な、なにを……」


「はい。塗り薬を塗ってお召し物に付かないよう包帯を巻きます。動かないでください」


「い、いやもう大丈夫だから……」


「動かないでください」


 無表情で迫ってくるメイドのお姉さんにはなんともいえない凄みと迫力があり、俺は黙って従うしかなかった。


 お姉さん、俺をもうお婿さんにしてくれますか?


 ――――

 ――


「それで、先生はどこにいるんですか?」


 塗られ、巻かれ、着替えさせられ、放心状態だった俺がようやく冷静さを取り戻したのは、メイドのお姉さんが淹れてくれた紅茶を口に含んだ時だった。


 そこで俺は今思い出したかのように尋ねた。


「はい。コウサカ殿はオークとゴブリンが合流しそうな場所が特定できましたので、そこに下見に行かれました」


「え? それはいつ?」


「今朝です」


 それを聞いて俺は窓の外を眺めた。時間にしてお昼くらいだろうか……


「朝出掛けたのなら、もうそろそろ帰って来ます?」


「いいえ。今現地で哨戒兵と合流した頃かと……」


「合流? 下見なんじゃ……」


「コウサカ殿は勇者様にそう伝えてくれと言われましたが、ほんとのところは討伐に向かったと思われます」


「……討伐」


「はい。騎士数人を残して全部隊がコウサカ殿に着いていきましたので、オークとゴブリンが合流する前に、それぞれを叩く気ではないかと思います」


 ――……先生が、俺を置いて……そりゃあ戦闘は怖いし嫌だと思っていたけど……俺は男で、先生は女なんだ。


 実際、本物の戦闘を経験したことのない俺が言える口じゃないが、それでも先生に戦力外だと思われたのだろうか、と考えるとショックだった。


「そうか……そうなんだ」


 俺はそれ以上は何も言えずただ黙って紅茶を飲んでいると、急に外が騒がしくなった。


 ――……ん?


 そのざわつきはどんどん近づいている。メイドのお姉さんも中腰になり少し身構えているようにも感じる。


 ――なんだ、なんだ!? 


 俺は不安になりながらもその場でじっとしていると、ドタドタ、バタバタと慌ただしい複数の足音が俺のいる部屋の前まで近づいて来た。


 そして――


 ドンドンドンドンッ!


 激しく扉をノックされたした時にはガチャリと扉が開き数人の女性騎士が飛び込んできた。


「ジュリア! ジュリア! 勇者様は、勇者様は起きているか!」


 慌ただしい女性騎士たちの真剣な表情を見て、俺はお約束かもしれないと天を仰いだ。


 ――こんなお約束……いらないのに。




最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^

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