これは違うんです
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嬉しいです。
勢いよく部屋に入ってきた、女性騎士たちは肩で息をし髪も乱れていた。
「勇者様は!?」
相当急いできたということのが窺えるので、俺はもう嫌な予感しかしない。
――ぁっ。
そんな女性騎士たちの三人は、すぐに俺の存在に気づき、天を仰いでいた俺とバッチリ目があってしまった。
「「「勇者!」」」
――ひぃっ。
でもその形相が、あまりにも恐ろしく震え上がるほどだった。
――こ、怖ぇ……
そのためテーブル席に座っていた俺は手に持っていたティーカップを置くつもりだったのに、酷く動揺してしまって、手に持ったまま蛇に睨まれたカエルのようにピクリとも動けなかった。
「アイラ殿、許可なく勇者様の部屋に入られては困ります」
すぐに女性騎士たちと俺との間にメイドのお姉さんが割って入ってくれたが、女性騎士たちは依然として俺のほうを見たままだ。
その顔がすごく睨らまれているように見え、悪いことをしていないはずなのに責められているような気分でなんとも居心地が悪い。
――!? もしかして……
俺は手に持っていたティーカップをそーっとテーブルに置き、両手はこそっと膝の上に持っていく、そして最後に背筋をゆっくりと伸ばした。
――これなら……
俺の機転が良かったのか、その女性騎士は俺から目を離しメイドのお姉さんのほうに向き直った。
――ふぅ……
そこでようやく息を吐き出し、生きた心地がしたが、それも長くは続かず、女性騎士の次の言葉で死の淵へと落とされる。
「ジュリアすまないが、そう悠長に構えている暇はないんだ、ゴブリンの群れがこの村に向かって来ているんだ」
――なぬっ!
「そうだぜ、その数は少なく見積もっても200だ」
――に、200っ!?
「見通しのいい物見台だったから遠くの異変に気づけたようだが、それでもあと四半刻ほどでこの村にたどり着くだろう」
そこで初めて無表情で淡々と対応していたメイドのお姉さんに動揺が見られたが、俺はそれ以上に顔色が悪くなったと思う。頭なんてクラクラしてる。
「ゴブリンが200……ですか。どうして……」
「それは、分からない……」
そこでメイドのお姉さんと話をしていた女性騎士が再び俺のほうに向き直った。
「勇者様っ!」
「はひぃっ!」
咄嗟のことで、思わず上擦った声で返事をしてしまったが、その女性騎士は気にせず自己紹介を始めた。
「私はダの王国、赤の騎士団、十番隊のアイラと申します。
前触れも出さず突然押しかけるなど、不躾であることは重々承知なのですが、何卒お力をおかりしたいのです」
――やっぱり……異世界だと、お約束は必ずやってくるのね。
まだ状況を受け入れきれない俺は言葉に詰まった。
「……」
そんな俺をみかねたのか、女性騎士の補足を含めてメイドのお姉さんが口を開いた。
「アイラ殿は赤の騎士団、十番隊の副隊長を務め、信頼できるお方です。
そして、十番隊は私が所属していた部隊でもあります。それでアイラ殿、今はどういった状況なのでしょうか?」
「はい。それで現在は……」
――――
――
「――という状況です」
「そうですか……」
要するに、メイドのお姉さんの名前はジュリアさんと言って、俺の専属メイド騎士になる前はこの十番隊の隊長を任されていたらしい。
ジュリアさん……騎士らしくてカッコいい名前だよね。
ふへへ、メイドのお姉さんが小さな部隊ながらも隊長だったってことには驚いたけど、それでもお姉さんの情報が聞けて俺は嬉し……え、違う? ゴブリン? は、はい、ごめんなさい。
それは、アイラ副隊長が言うには、この村に残っている王国の騎士は十番隊のアイラ副隊長を含む女性騎士が五人のみでかなりやばいそうだ。
十番隊とは赤の騎士団の分隊で、二十人で構成されているらしいんだけど、残りの隊員はオークとゴブリンの討伐部隊に加わっているらしい。
つまり先生たちに着いて行ったってことだけど、ゴブリン、こっちに来ちゃってるんだよね。
それで、今現在、ゴブリンの群れが目視レベルで200体くらいこの村に迫っているんだけど、この村に残っている騎士は五人、メイドのお姉さんを入れても六人、あと戦えそうな村人が二十人ほどいるらしいが、それでも二十六人だ。
防衛にも向かない村の上、あまりにも戦力差がありすぎて、勝てる見込みなんて0に等しい。
そこでアイラ副隊長たちが提案したのが、家畜を囮にして時間を稼ぎ、つつ隣町に逃げるというもの。
その理由が、隣町には王国兵が五十人ほど駐在していてこの村より守りやすい地形にあるから……
当然、家畜を失うことになる村人のほとんどが反対したようだけど、時間も押し迫り命には変えられないと判断し、縦に首を振った村長の意見を聞き入れたようだ。
今もどんどん南門から隣町に移動させているんだとか……
それで俺の役割というのが、足止めだった。
一応家畜をそのままにしていくので、少しは時間稼ぎができるだろうと期待しているようだけど、それでも子どもや老人が多くいるため不安のほうが勝るらしく、寝ている俺のことを思い出しやってきたのだと言う。
そんなわけで、俺は加護魔法を逃げながらもバンバン打って村人たちが逃走する時間を稼くのだが、幸いゴブリンは物音に敏感らしく、大きな物音がする魔法を使って欲しいと頼まれた。あとで考えねば。
それを聞いて正直、ゴブリン全部を討伐してくれって無茶なことを言われるんじゃないかと思っていただけに拍子抜けしたというか、ホッとしている自分もいる。
だって怖いものは怖いんだ。
それで、俺以外にも、この世界の人が使えるマナ魔法で支援してもらえるのかと聞いたところ無理だと言われた。
知らなかったがこの世界の人が使うマナ魔法はマナ具を使って魔法を放つそうなのだ。
つまり、マナ具がないと魔法は使えない。でもそのマナ具は討伐部隊が持っていっているためここには残っていない。
しかもマナ具にはマナ石(電池みたいなもの)を込めないと使えないという欠点もあるのに、今はマナ不足ぎみで内需を満たすだけで精一杯。軍部に回ってくるマナ石なんてほんの僅かだそうだ。
まあ、これは電力が不足しているようなものだと考えれば……うーん、少し違うけど、なんとなく理解できた。
そのマナ石についても色々聞きたかったけど、今は詳しく聞ける雰囲気じゃないし――
「わかりました。時間稼ぎ、俺やってみます」
――討伐よりはマシ、だよね……
「「おお」」
女性騎士たちは歓喜の声を上げてくれたが、正直、俺じゃなくほかの創造神の加護があるクラスメイトなら簡単に討伐できたかもしれないと思うと少し複雑な気分だった。
「その……勇者様」
「はい」
最後に何やら言いづらそうに立ち上がったアイラ副隊長たちは、少し目を泳がせたあと、包帯ぐるぐる巻き姿の俺を見つめてきた。
――ん?
「そのような大怪我をされているにも関わらず、大役を心良く引き受けてくださり誠にありがとうございます。
やはり勇者様は伝説の通り我々騎士たちの鏡でした。では、失礼いたします!」
「は、はい……?」
そう言った彼女たちは、不躾に飛び込んできた人物たちとは思えないほど、綺麗な立礼をピシッと決めて出て行った。
――あれ? 今、大怪我って言った? これは違うんです。ただの筋肉痛で薬を塗っているだけで、ほぼ治っているんだよ〜
なんて言えない俺は黙って彼女たちの背中を見送った。
――ああ、お姉さんがこっちを見てる気がする。
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