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第90話


「フォール将軍、大丈夫ですか?」

「ああ、と言っても私の大丈夫は君の其れとは違うがな」

「はぁ・・・」


 ディシプル兵に支えられながら、体勢を起こしたフォール。

 ローズの魔法による多少の傷と俺に突かれた両手の出血は見えるが、どうやら命に関わる傷は無さそうだ。


「然し・・・」

「何か?」

「うむ、此れはどういう事なのだ?」


 そう言って左足太腿を振り、制御装置を失った先を示した。


「其れは魔法です」

「やはり魔法か・・・。然し詠唱は?」

「行なってますよ。魔法陣は描きませんでしたが確かにフォール将軍の制御装置に対して」

「な・・・」


 絶句するフォールに、呼応する様に驚愕の表情を浮かべるディシプル兵。

 そうなのだ、新魔法の静寂に潜む死神よりの誘いは魔法陣を描かない、今までの魔法陣が瞬時に描かれる無詠唱を超えた、ある意味で真の無詠唱とも呼ぶべき魔法なのであった。


「ふっ、敵わんな・・・」

「フォール将軍・・・、そう言えば」

「ん、どうかしたか?」

「ええ、どうして降伏をしてくれたんですか?」


 俺は当然と言える疑問を口にした。

 此方の全兵力3000の内、1000は点在する村の警護で戦場には来れない。

 つまり屋敷を最終防衛ラインにしたとしても、全兵力は2000程度。

 此の戦場の戦況を見ても、開戦時より兵力差は詰まってはいたが、まだ五分と言った所だ。

 まだ確認の取れないアームとルーナの持ち場もあるが、何より・・・。


「1200もの連合軍が無傷で残っているのに、此のタイミングでの降伏は・・・」

「おかしいかな?」

「はぁ・・・。勿論一刻も早く、争いは鎮めたかったのですが」

「なるほど・・・、だが其れは、大きな認識の違いをしている様だな」

「え?」

「いや正確に言うなら、貴殿は戦況を正確に把握出来ていない様だ」

「確かにそうなのですが、フォール将軍は既に他戦場の戦況を掴まれているのですか?」

「ああ、先ずはフェーブル辺境伯軍だが、此れはアーム殿の指揮するリアタフテ軍との戦闘で、既に半数を失い敗走、フェーブル辺境伯と合流しに向かったそうだ」

「そうですか・・・」


 フォールからアームとルーナの勝利を聞かされた俺は、少し安堵の表情を浮かべた。

 フォールはフェーブル辺境伯軍に対し、偵察の兵を派遣していたそうだ。


「フォール将軍は・・・」

「ふっ、無論だ。利であろうと義であろうと、現在仕える主君を裏切る者を、私は決して信用しない」

「・・・」


(まあ、当然だろうな・・・)


 でも、そうなると気になるのはフェーブル辺境伯だ。

 此の戦いに勝ったとしても、彼はサンクテュエールは勿論、ディシプルも将来敵に回す可能性も有るのに、どうして叛意など抱いたのだろう?

 そんな事も考えられない程愚かなのか、其れとも・・・。

 俺は妙な胸騒ぎを感じた。


「其れで連合軍の方なのですが・・・?」

「うむ・・・」

「?」


 瞑想するかの様に瞳を閉じたフォール。

 何か思う所が有るのか、言葉を選びきれない様子だった。


「すまんな、私に其れを伝えに来た部下は、現在応援を連れて現場に戻ったのだ。詳細は尋問で明らかになるだろう」

「そうですか・・・」


 頭を下げてきたフォールの現在の状況を見ると、これ以上此処で問いただすのは気が引けてしまった。


「若様〜‼︎」

「ん?」


 俺の名を呼ぶ声に視線を向けると、其の先にアームとルーナが馬に乗り此方へ来るのが見えた。


「アーム、無事だったのね」

「お、お嬢様‼︎どうして此方へ⁈」

「えっ、そ、それは・・・」

「そう言えば、ローズ・・・」

「い、良いじゃないっ、それよりも用があるんじゃないの?」

「は、ははぁ〜」


 アームからのツッコミで冷静さを取り戻し、ローズが突如として、戦場に参戦したと言う事実を思い出した俺。

 流石に理由を聞こうと思ったが、ローズに即座に躱されてしまった。


「さぁ来いっ、愚鈍なディシプル兵共よぉ〜、老いたりとは言えリアタフテ私兵団元団長此のアーム、貴様ら100や200、地獄へ道連れにしてくれるわぁ〜‼︎」

「・・・え、え〜と、アームさん?」

「若様っ、お下がりくださいませ。散るは此の老いぼれ1人で十分ですじゃ‼︎」

「アーム・・・」

「お嬢様っ、若様とお幸せに・・・。出来ればアームは、お嬢様と若様の間に生まれたお世継ぎに剣を指導したかったですじゃ・・・」

「そうですか、なら其の時はお願いします。アームさん」

「も、もうっ、司ったら・・・。で、でもね、アーム?」

「はぁ・・・」

「折角馳せ参じてくれた所悪いのだけど・・・」

「?」


 ローズが言葉を選ぶのに困っている様子に、疑問を感じたのか、辺りを見回すアーム。

 完全に鎮まっている戦場だった場に、表情を固めて俺を見た。


「ええ、先程フォール将軍が降伏を宣言してくれました」

「こ、降伏ですか?な、何故ですじゃ⁈」

「司がフォール将軍との一騎打ちに勝利したのよ」

「わ、若様が?」

「はい・・・」

「フォール将軍に・・・?」

「そうよっ」

「勝利したですとーーー‼︎」


 いや、まぁ其の反応で仕方ない位ギリギリの勝利だし、正当な一騎打ちとは言えないけどね・・・。

 俺はアームの反応に改めて、自身が無事でいれる事を、ローズとミニョンに感謝するのだった。

 それで一体何の用件なんだろう・・・?

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