第89話
再び視線がぶつかり合い対峙する俺とフォール。
片や狼を従え大地を駆け其の牙で獲物を狙う狩人なら、もう一方は空を羽ばたき其の鉤爪で獲物を引き裂く狩人。
「来るのか、少年よ?」
「ええ、言ったでしょう、今日此処で貴方を倒すと」
「ふっ、なるほどな」
魔法詠唱をし足下に狼達を従えた俺に、フォールは腰を落とし深く構え制御装置をいつでも稼働出来る状態にした。
俺は狙いをあの制御装置に絞っていた。
(其れも地面に足をつけた状態からの使用の瞬間がベストだ・・・)
そんな俺の思考はフォールによって中断された。
制御装置を起動させ空を渡り俺へと迫るフォール。
俺は狼を放ち牽制し距離を取った。
(間合いを詰められるのは駄目だ)
再び詠唱を行い狼を生み出し、フォールの動きを視線に捉える。
チャンスは一瞬だろう。
学生トーナメント後に大魔導辞典に記した新魔法。
(避けられる可能性はゼロと言って良いだろう)
後は俺が空に飛ぶ瞬間の制御装置に外さず当てれるかだ。
「どうした少年、逃げてばかりでは私を狩る事は出来んぞ?」
「ふっ、そろそろ疲弊してきたんじゃないですか?」
「愚問だな、私は三日三晩でも戦い続けられるよ」
「・・・」
やはり彼の制御装置の魔石の魔力切れは有り得ないのか・・・。
最初から期待はしてなかったが俺はフォールの発言に少しだけゲンナリした。
再び深く構えるフォールに狼を放ち、距離を取った。
「どうした、少年‼︎」
「くっ‼︎」
俺のいた位置へ着地するフォールに、距離を取った俺は一か八かの勝負を仕掛ける事にした。
足を滑らせ意識的に転がる俺。
「ちっ‼︎」
「・・・やはり血が足らずか、少年よ」
「・・・」
「司ーーー‼︎」
「司さん‼︎」
「だが獲らせて貰うぞ」
そう言って腰を落とし深く構え、今正に制御装置を起動させ様としたフォール。
(今しか無い‼︎)
「『静寂に潜む死神よりの誘い』‼︎」
「なっ⁈」
酷く優しい音だった。
鍔鳴りの様な静かで場の空気が静寂に包まれていなければ気がつけない様な音だった。
だが俺の耳には確かに届いた。
ローズはミニョンはどうだろう?
或いはルチルやフレーシュ、戦場にいるリアタフテとディシプルの両軍勢の兵士達には流石に届いていないだろうか?
でもきっと・・・。
つい先程迄、俺へと愛刀である妖刀白夜を構え、勝利を確信していたであろうフォール其の人には聞こえていただろう。
俺は制御装置を失った事でバランスを崩し、地面に伏したフォールを視線に捉えそんな事を思った。
「ふぅ〜」
「司?」
「ああ、なんとか決まった様だ」
「っ‼︎」
「お、おいっ、ローズ」
「良かった、良かったよ、司ぁ」
俺へと駆けてきて胸に顔を埋めたローズは、其の細い肩を震わし俺の身体に爪を沈めた。
俺は其の心地良い痛みに、柔らかな髪を撫で応えた。
「むぅ〜〜〜ですわ‼︎」
ミニョンの刺す様な視線はただただ痛かったが・・・。
「フォール将軍‼︎」
「ん?」
地面に突っ伏したままのフォール。
流石に指揮官を其のままにはして置けないだろう、ディシプル兵が駆け寄ろうとした瞬間、フォールは其の身体を腕だけで膝をつく姿勢まで起こし一喝した。
「来るなぁーーー‼︎」
「⁈」
「ですが・・・」
「まだだ、まだ終わってはおらんぞぉ‼︎」
「フォール将軍・・・」
「少年まだだよ、私はまだ戦えるのだ」
「え?」
そう言ってフォールは白夜を使い、右足と白夜で其の身体を支え立ち上がった。
「フォール将軍・・・」
「まだ戦えるぞ私は、・・・君はどうだ?」
「で、でも・・・」
確かに先程迄命のやり取りをしていた相手で、甘い考えかもしれない。
でも余りにも此の人にとどめを刺すのは惨すぎた。
「ふっ、どうした少年?」
「・・・」
「其の剣今日私を倒し名を与えるのだろう?まだ私は倒れておらんぞ?」
「くっ‼︎」
「勝者には勝者の矜持を、敗者には敗者の矜持をだ。此のままでは勝者も敗者も存在しない、決闘の意味すら無くなるのだよ」
「・・・」
「司‼︎」
フォールの言葉に剣を構える俺。
其の手は情け無い程震え、フォールを捉えた視線すらも揺れていた。
「行きますよ?」
「おう‼︎」
「たあぁ‼︎」
「くっ‼︎」
俺の剣はしっかりと狙いを外さず捉えていた。
「少年、・・・何を」
「はあぁ‼︎」
「なっ⁈」
再び放った突きは今度も狙いを外さなかった。
左手に持つ白夜の支えを失い崩れ落ちるフォール。
既に最初の剣撃で右手を突かれているので、彼はもう立ち上げる事は出来なくなった。
「少年・・・」
「フォール将軍、私の勝ちですよ」
「・・・」
「もし、認めないと言うなら、其の刀で私の首を斬り落とすしかないですよ?」
「・・・ふっ、甘いな少年」
「・・・」
「わかった私の負けだ・・・。ディシプル軍兵士よ、よく聞けぇ‼︎此の戦我が軍の敗北だ‼︎」
フォールの号令に一斉に手に持つ武器を仕舞うディシプル軍兵士達。
呼応する様にリアタフテ軍兵士達も緊張を緩めた。
「フォール将軍・・・」
「少年、いや真田司殿、どうか我が軍の兵に寛大な措置を願いたい」
「分かりました。自分にどれ程の力が有るかは分かりませんが、善処します」
「感謝する」
こうしてリアタフテ領に巻き起こった戦火は幕を閉じた。




