第88話
「ローズっ‼︎」
「司、・・・⁈」
突如として戦場に現れたローズ。
俺と視線が合ったのは一瞬、瞬きの間に其の双眸でフォールを捉えた。
其のルビーの双眸は正に眼光炯々と呼ぶべきものであった。
「君は・・・、リアタフテの」
「ローズ=リアタフテよ」
「そうだったな、何故・・・、いや、やめよう愚問だな」
「そうね、フォール将軍」
「彼らにも伝えた事だが、向かって来るのであれば容赦は出来んぞ?」
「容赦?ですって・・・」
ローズは其の瞳でフォールを捉えつつ、構えをとりながら一喝した。
「貴方こそ私の大切な人の身を裂き、頰を血と泥で染めた事、しっかりと償って貰うわよ‼︎」
「ふっ、良かろう・・・」
フォールが其れに応え白夜をローズに向け構えると、其の間にはピリピリとした張り詰めた空気が流れた。
「ウインドエッジ‼︎」
「むっ」
ローズが使ったのは俺が初めて見る魔法だった。
正確には先程使った其れなのだが、空気を斬り裂く風の刃がフォールを襲った・・・、無詠唱で。
フォールは白夜で其れを打ち消し、ローズへと飛びかかろうとしたが、ローズは既に移動して詠唱を始めていた。
(いつの間に無詠唱魔法を・・・)
俺はローズの陰に隠れたたゆまぬ研鑽に素直に感心し、誇らしくなった。
「むぅ〜ですわ」
ミニョンは隣で少しムッとしてたが・・・。
ローズも俺と同じ策を取るようで、フォールの左側に距離を取りつつ移動し魔法を放った。
フォールは殆ど移動せず、其れを白夜で迎え撃った。
「あれは・・・」
膠着する状況を打開しようとローズが打って出た。
連続詠唱、然も無詠唱と短縮詠唱を使っての1人時間差攻撃だ。
「くっ⁈」
流石のフォールも時間差で襲ってくる、魔法の雨霰に白夜で完璧に受けきる事が出来ず、被弾が見えてきた。
「凄いですわ、ローズっ」
「あぁ・・・、でも」
「どうしたんですの?」
確かに一見するとローズが押している様に見える。
然し明らかに限度を超えた魔法使用で、いつショートし倒れてもおかしくない状態に見えた。
「・・・」
「え?」
肩で息をし始めるローズ。
そんなローズと一瞬目が合った様な気がした。
勘違いだろう、こんな激戦の最中に・・・。
(いや、でも・・・)
「くっ」
「司さん、じっとしてないとダメですわっ」
「大丈夫だ、此のまま見てるだけは無理なんだ」
「でも・・・」
「ちゃんと手は有るさ」
心配そうに俺を支えるミニョンにそう応えた俺は、久しぶりに使う魔法の詠唱を始めた。
「暗闇を駆る狩人‼︎」
詠唱完了と共に俺の手元に形成された魔法陣から生み出された闇の狼。
今正に激戦を繰り広げるローズとフォールとは逆方向に駆け出し、離れ戦況を見守っていた1人のディシプル兵に跳びかかり、其の首元に牙を立て喰いちぎり、俺の下へと戻って来た。
「良し、良くやった」
無意味とは思いつつ、魔法で生み出した狼に労いの言葉をかける俺の身体に溶け込んでいく狼。
其れと共に完全に痛みが引いた俺は立ち上がった。
「司さん、まだじっとしてませんとですわっ」
「いや、もう大丈夫だよ。ありがとうミニョン」
「でも・・・、え⁈」
応える俺の背中を見て言葉を失うミニョン。
「どうして・・・、司さん傷口が・・・」
「ああ、後でな」
そう短く応えてフォールを見据えると、既にローズとの間合いを詰めていた。
白夜を構えるフォールに、ローズは既に魔力切れか詠唱で対抗する事は出来なくなっていた。
「狩人達の狂想曲‼︎」
「むっ⁈」
襲いかかる狼達を寸前で後方に飛んで躱したフォール。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、司・・・」
「ローズ・・・」
絶体絶命の危機を回避した安心からか、其れとも魔力切れによる疲労からか、膝から崩れ落ちるローズ。
「悪いな、ローズ」
「え?」
「此の獲物をお前に譲ってやる訳にはいかないんだ‼︎」
「司、・・・当然‼︎」
私の旦那になる人なのだから当然でしょ。
ローズの言葉に秘められた、強気な思いが俺の闘志を蘇らせた。




