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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第193話―ツバキとリンネが初めて家に来る―

 

 その後、家路を進み、俺は自分の家に帰ってきた。ここだとツバキに差すと、ツバキは屋敷を見ながら呆然としている。


「広い……ですね……」


 ああ、やはりそういう反応になるんだな。ただまあ、中にはすでに100人弱の人間が住んでいる。そこまで広くは感じないぞ、と言うと、ツバキはコクっと頷く。


 そして、呆然とするツバキの手を引いて、庭へと入り、屋敷の中に入った。すぐさま、たまとジゲンを紹介しようと思い、声を上げる。


「たま~! 爺さ~ん! 帰ったぞ~! で、ツバキとリンネを連れてきたぞ~!」


 そう言うと、しばらくしてドタドタドタと廊下を走る小さな足音と、何人かの足音が遅れて聞こえてくる。すると、真っ先にぴょこっとたまが顔を出した。

 たまはツバキとリンネと目が合うと、ハッとして、俺達の前に来て、深く頭を下げる。


「い、いらっしゃいませ! たまです!」


 たまの仰々しい出迎えに俺達はきょとんとする。ここは、宿じゃないんだがなと思っていると、リンネが俺の肩から下りて、たまの足元に行った。


 たまは目の前に来たリンネに少し驚いたようで、その場でしりもちをつく。そして、しばらく目を合わせる両者。恐る恐るという感じに、リンネの頭を撫でようとするたまにリンネは少し寄っていく。


 そして、リンネの方からたまの手に自らの頭をこすり始めた。


「キュウ~……」

「……あ」


 うっとりとするリンネに、たまも安心したのか、リンネを抱えてさらに撫で始める。すると、目を輝かせて、俺の方を見てきた。


「かわいい! おじちゃん! リンネちゃん、可愛いよ!」

「そうかそうか。気に入ってもらえて何よりだ」


 目を輝かせるたまの頭を撫でてやると、たまは嬉しそうに笑った。コモンが居なくなり寂しそうにしていたが、やはりリンネを連れてきて正解だったと思った。

 そして、たまに続き、ジゲンとアザミが、廊下の先から現れる。


「ふむ……ムソウ殿、おかえり」

「おかえりなさいませ、頭領」

「ああ。で、こっちが、ツバキだ。今日からこの屋敷から世話になる」


 俺はそう言って、二人にツバキを差した。ツバキは前に出て、ここでも自己紹介を始める。


「お世話になります。騎士のツバキです。今日からよろしくお願いします」

「ああ。儂はたまの親代わりのジゲンと申す者じゃ。縁あってムソウ殿の世話になっておる。こちらこそ、よろしくの」

「私はアザミと申します。頭領の下で、ここの侍女長補佐を務めております。以後、よろしくお願いしますね」


 二人はそう言って、ツバキを迎えてくれた。見た感じ何の問題もなさそうで安心する。


 その後、ツバキとリンネは、アザミとたまに連れられて、屋敷の中を案内されていった。リンネは獣人化してたまと手をつないでいる。獣人化するときもたまは驚いていたが、リンネがニコッと笑い、手をつなぐと安心したのか、そのまま屋敷の中に向かっていった。

 アザミの方はツバキを連れていく際に、俺の方を向いて、


「頭領も隅に置けないですね」


 とか言ってくる。ツバキが美しいのは分かるが、俺は一体何回この言葉を言われたのだろうかと頭を抱えた。


 そして、俺は部屋へと向かい、荷物を置いて着替えた。そして、居間へと向かうと、既に帰っていた冒険者たちがくつろいでいる。


「あ、頭領、おかえりなさ~い」

「お疲れっす~」

「……高天ヶ原はどうでした~?」


 俺を労う者はともかく、恨めしそうに高天ヶ原のことを聞いてくるダイアン達。俺は嫌味たっぷりにそいつらに笑って、


「ああ、楽しかったよ」


 と言っておいた。悔しそうな声を上げる男どもを尻目に、奥で茶を呑んでいたジゲンの横に座る。ジゲンは俺に茶を淹れてくれた。


「皆から聞いたのじゃが、なかなか面白そうな闘いだったようじゃの」

「まあな。それなりに楽しめたよ」


 それなりに、という言葉にぴくッと反応する冒険者たち。次はこうはいかないぞという気配を俺に向けてくる。

 特にリアの殺気にも似た気配が大きい。最後まで戦おうとしていたからな。平然としていたが、やはり少しは悔しかったようだ。


 リアの方に視線をやると、プイっとあさっての方向を向いた。俺が何時でもかかってこいと、挑発気味に視線を投げると、フッと口元を緩ませた。


「そういや、今日もコモンは帰ってこなかったのか?」


 ふと周りを見てもコモンが居ないことに気付き、ジゲンに聞いてみた。ジゲンは重く頷く。


「うむ……何の音沙汰もないの。正直、ムソウ殿が帰るまで、たまも少し落ち込んでおった。一体どこで何をしておるのやら……」


 やはり今日もコモンは帰ってきていないようだ。たまは朝から元気が無く、ジゲンも心配になり、ずっとそばに居たようだった。

 昼過ぎに冒険者たちが帰ってきて、少しは元気になったものの、いつものように明るい感じではなかったという。

 リンネが来てくれて本当に助かったとジゲンは語った。俺の方としても、これで少しは寂しさがまぎれると良いなと思っている。


「まあ、そのうち、ふらっと帰って来るのを待つしかないな」

「そうじゃの。ツバキ殿たちも来たことじゃし、しばらくはたまも明るいままじゃろうて」


 ジゲンはそう言って、安心したように茶をすすった。俺は明日の依頼は早々にケリをつけて、速くリンネと一緒に家に帰ってやろうと心に決めた。


 その為にはどんな敵か把握しなければならない。俺は依頼票と地図を広げて、明日挑む依頼について、確かめる。興味を持ったのかジゲンも横から依頼票を覗き込んだ。


「明日行く依頼かの?」

「ああ、トロルって奴らしいが、知ってるか?」

「むう……トロルか。それに群れとはの……なかなか珍しい依頼じゃの……」


 ジゲンによると、トロルという魔物自体は知っているみたいだ。ギルドで聞いたように、ただただデカいだけの魔物ということだ。生態も聞いていたように欲望の塊のような生き物で、しばしば人族の住む街を襲っては、女を攫い、慰み者にしたりしているという。


 だが、ジゲンはトロルの「群れ」ということが珍しいとのことだ。少なくとも、昔はそこまで数が多くなかったらしい。最近になってどこからか来たのかとか色々と考えていた。


「まあ、トロル自体はそこまで強くは無いのう。オウガのように武具を作ったりはせず、自らの腕力にものをいわせる直接的な攻撃しかしてこんから、倒すのは楽だぞ」

「ああ、あの時々魔物がつけている防具や武器って、やはりあいつらが自分で作っているのか……」


 以前、オウガやゴブリンを倒したときに思ったことだ。人間から奪ったにしては大きいし、魔物の中で、そういった技術を持つ者が居るのかと思っていたが、やはりそういうことらしい。

 主に、通常個体よりも、知性が高い、それらの種の上位個体が作っているという。ゆえに、武具を身に着けている魔物が居るということは、近くにそれらの上位個体も居る可能性が高いということになるという。

 ただ、ミニデーモンやサキュバスのように、仲間の死骸から出てくる骨を研いだだけというものを得物として使っている種も多く、武具を身に着けているからと言って、その限りではないとのことだった。武器の造りが単純なものだとすれば、上位個体の存在は疑わなくても良いとジゲンは語る。


 一応トロルは基本的に頑丈で屈強な自らの体で戦うため、素手、あるいはそこらの木を抜いて、作りだされた巨大なこん棒くらいは使うとのこと。ただ、仮にその体に見合うほどの巨大な剣や、斧などを持つ個体が居れば、トロルキングやギガス、果ては災害級の魔物、テュポンの存在を疑った方が良いとのことだった。

 意外と大事なことだし、後の為にもなる知識だな。覚えておこっと。


「ちなみに、じゃが、トロルと似たような魔物にオウガが居るが、二つの種族の違いについて、ムソウ殿はご存じかの?」

「いや、知らないが……」

「トロルは物理的な攻撃に強く魔法による攻撃に弱い。オウガはその反対じゃ。オウガは生まれてきた過程にデーモンの血も混じっておるようじゃからその辺りの能力を継いでおるのかも知れんの」

「へえ……てことは、トロルの皮から作られた着物というのは、やはり丈夫なのか?」

「丈夫なのは丈夫じゃが……。まあ、実際見たらわかるかも知れんが、儂はあまりお勧めせんの……」


 ジゲンは苦々しく答える。今着ている着物はベヒモスの鬣のものだ。ワイアームの皮のものよりは確かに蒸れにくいが、やはり少し寒い。かと言って、ワイアームの皮のものでは闘いの時に心許ない。

 皆には買ってやったが、俺の冬用の着物をそろそろ買いたいと思っていたのだが、ジゲンがそう言うのなら、明日トロルを見てから決めよう。


「それから、これも、ちなみになんじゃが……」

「ん? まだ何かあるのか?」


 ジゲンの魔物に関しての話は面白いし、為になる。まだ何かあるというのなら聞いておこうと思い、耳を傾けると、ジゲンはフッと笑い、小声で話し始める。


「シロウ達に、仲間たちの技を継承させることに関して、最終試験としてオウガの群れに放り込んだことがある」


 ジゲンの言葉に絶句した。聞けば、ナズナとシロウが十五、ショウブが二十歳くらいの時に、牙の旅団の技を使えるようになるための最終試験として、クレナのとある森に居たオウガの群れの中に三人を放り込んだのだという。


 いい歳になり、力を付けてきたとは言え、三人は必死の形相で、迫りくるオウガの群れを倒していったそうだ。

 だが、その群れにはオウガロードも居たらしく、最後の最後で、ジゲンが出ていって、オウガロードを倒したらしい。悔しそうにする三人を見ながらも、辺りに横たわるオウガの死骸の山を見ながらジゲンは満足したそうだ。


「技が使えるようになっても、実戦で使えんと意味ないからのお。すこし荒療治だったが、三人とも、無事に修行を終え、更には今でも技に磨きをかけておるとは、いやはや嬉しいものじゃわい」

「……やはり、昔の爺さんは恐ろしい人間だったんだな……」

「ムソウ殿に言われたくないのう……」


 そう言い合って、俺達は笑った。流石に俺もそこまでの無茶はしない。やるなら自分から適当な場所を見つけるからな。

 だがまあ、結果として、シロウ達も技を修められたのなら良いかと思い、明日の依頼についての話は終わった。

 トロルは物理攻撃に強いとのことだが、俺にはスキルもあるし、リンネは魔法が使える。ツバキの方は分からないが、刀は強力なものだ。恐らく心配は無いだろう。

 そう思いながら、しばらくジゲンと談笑していた。


 すると、ガララっと襖が開く。いつものように女中が飯の支度が出来たと言いに来たのかと思ったが、そこに立っていたのは、リンネとたまだった。


「おゆうはんのようい、できたよ!」

「……!」


 たまがぱっと手を上げてそう言うと、真似するようにリンネも手を上げる。疲れていた冒険者たち(特に女たち)はその光景だけでほっこりし、俺とジゲンはたまの様子を見て安心した。二人に頷き、飯を食う場所に移動する。

 今日はツバキとリンネを迎えるため、ということで少し豪勢で多いという。更には今日もコモンを除く全員が集まっているため、大広間の方に移動させられた。中に入ると、女中たちがせっせと飯を運んでいる。その中にはツバキも居た。アザミと一緒に大皿を運んでいる。


「大変そうだな。手伝うよ」

「あ、ムソウ様。ありがとうございます」

「助かります、頭領」


 俺が皿を持つと、二人は同時に、皿から手を放した。一気に俺の手に料理の重さが加わる。


「なんで、二人いっぺんに放すんだ!」

「あ、すみません」

「でも、頭領なら大丈夫ですよね?」


 二人は頭を下げながらもにやにやとしていた。狙ってやりやがったな、こいつら……。いつの間にか急に仲良くなりやがってと嬉しさ半分、呆れ半分になり、皆に笑われながら、大皿を卓の上に置いた。


 そして、皆は思い思いに席に着く。どこに座ろうかときょろきょろしているツバキを、アザミが手を引いて、女中たちの座る場所へと案内していた。

 一部の男の冒険者が近寄ろうとしたが、女中たちに睨まれたのと、リアやロロたちに阻まれ、渋々諦めているのが見える。


 リンネはやはりと言うか、たまに手を引かれ、ジゲンと挟まれるように座った。不思議そうな顔で、ジゲンを見つめるリンネ。ジゲンは微笑みながら、リンネの頭を撫でる。


「妖狐と聞いていたが、なかなか可愛らしいのお。たまと仲良くしてやってくれの」

「……!」


 ジゲンの言葉にリンネは強く頷いた。そして、リンネとたまの様子にやはりと言うべきか、女中たちもうっとりとしているようだった。対してアザミの方は、手をパンパンと叩き、そんな女中たちを注意しながら、それぞれに酒が行き渡るようにてきぱきと指示を出す。横でツバキが感心したようにアザミを見ていた。


 俺の方はいつものように、皆の表情が見えるように皆の正面に座る。

 そして、それぞれの盃に酒が行き渡ったころ、皆は期待するように、俺の方を見てきた。俺は盃を掲げ、音頭をとる。


「今日から新しく、ツバキとリンネがこの屋敷に住むことになった。皆、仲良くしてくれることを願う。

 それから、今日は皆の強さがよく分かった日でもある。本当にお疲れさん。また、明日からも頑張っていこう! 乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 盃を掲げると皆はそれぞれに一日の疲れを労ったり、ツバキとリンネに近づいては歓迎の意味を込めて、盃を合わせたりしていた。皆、二人に対して優しくて、本当に良かった。そして、二人も揃い、改めて、デカい「家族」になったものだと思った。


 そう思いながら酒を呑む。俺のお気に入りの「大銘水」だ。やはり美味いなと思いながら、ガヤガヤと盛り上がる皆の前で、飯を食い始めた。


 今日の飯は肉が主だ。それも古龍ワイバーンの肉ということらしい。よく分からないが、普通のワイバーンのものよりも熟成されているということでとても美味い。

 どちらかと言うと、牛肉のように強く肉のうまみが出てくるが、油の方はあっさりとしている。元はトカゲみたいなものだからな。それにしては柔らかいというのが、この肉の感想だった。

 そして、クーマの刺身などもある。それをつまみに酒を呑み、肉をおかずに米を食べていた。

 高天ヶ原で少しは食ったとはいえ、今日は朝から闘い続けていたなと思いながら、明日の依頼のため、あれもこれもと食べている。だが、俺に向けられる視線に気づき、顔を上げた。


 そこには、卓の上で頬杖をしながらジーっと見てくるたまの姿があった。そして、すぐ隣で、同じ格好でこちらを見てくるリンネもいた。


「何だ?」

「……おいしい?」


 ああ、味の感想か。最近聞かれることが無かったので、一瞬何のことかわからなかった。そう言えばたまは、料理の味を第一に気にするような子だったな。

 俺はフッと笑い、二人の頭を撫でた。


「ああ。今日も美味いぞ、たま」

「やった~!」

「リンネも明日のためにたくさん食っとけよ。たまの料理は天下一品だからな」

「……!」


 正直な所、やはり、高天ヶ原の飯よりも格段に美味い。

 二人は同じように手を上げて喜んでいる。そして、満足そうにジゲンの元へと帰っていった。いいお友達が出来て何よりだなと、両方の姿を眺めながら思っていた。


 そして、だんだんと場は落ち着いてきて、皆はいつものように話し始める。今日の話題はやはり、ツバキとリンネのことだった。リンネが話せないし、たまと遊んでいるので、質問はツバキの方に集中しているようだった。


「ツバキさんて、武芸の方もお強いですし、先ほどから所作の方も素晴らしいですが、それはどこかで学ばれたものなのですか?」

「ええ、武王會館で一通りは……」

「え、武王會館て、サネマサ様の? そんなことまで習うんだ~」

「そうですね。武芸ばかり磨いても、駄目だと大師範……サネマサ様の教えで、武芸にかかわらず、礼儀、作法、茶、芸楽と一通りは、習うようになっています」


 へえ……前にもちらっと聞いたが、サネマサにしては色々と教えているようだな。まあ、武芸に秀でていなくても、その辺りの教養がきちんとしていれば、どうにかなるのものだというのはクレナ出身の、サネマサならではだなと、思う。

 下手をすれば、今のアヤメのように後ろ指差されたりするから、ということだろうな。まあ、アヤメをああいう風にしたのは、アイツとジゲンみたいだがな。


「それで、ツバキさんは武王會館を卒業したの? その若さで、凄いわね~」

「いえいえ、武王會館というのはある程度の力をつけたと実感できれば、自ら申し出て、退館することが出来るのですよ。私も、あともう一人の友人はそうやって早いうちに武王會館を出て、士官学校に入ったのです。

 武王會館で学んだ者は入学免除という仕組みもありましたからね」

「するってえと、武王會館を出た奴らって結構多いのか?」

「そうですね、意外と多いと思いますよ。私たちのように騎士をされていたり、皆さんと同じく冒険者の道を選んだりと。

 武王會館はいわば、誰かに師事しなくても自由に強くなる術を学ぶ場所、と考えた方がよろしいですね」


 なるほど。武王會館というのは、そもそもはサネマサが、後世で生きる者達にせめて自分の命くらいは守れるようになって欲しいという願いの下設立したと聞いたが、強くなるためには、色々な手順を踏んで、師となる者を仰ぎ、修行をしないといけない。

 その過程で、諦める者達や、最悪の場合死んでしまう奴もいる。そんな本末転倒なことをせずに、気軽に強くなるための術や、この世界を生き抜くための学問を自由に学ぶ場所として、武王會館があるようだな。

 サネマサもきちんと考えてるんだなと、ツバキの話を聞きながら、感心していると、フッと笑う声が聞こえる。声のする方を見ると、そこには、酒を呑みながら笑っているジゲンが居た。


「何とも、サネマサらしいの……。じゃが、当の本人の生き方は、お主たちから見て違ったのではないかの、ツバキ殿?」


 ジゲンの言葉にハッとするツバキ。そして、コクっと頷く。


「え、ええ、その通りです。ジゲンさんはサネマサ様のこと、よく知ってらっしゃるのでしたね」

「まあ、生まれがシンムの里じゃからの。あ奴のことは同じ時代を生きていた者として知っておる程度じゃよ」


 よくもまあ、平然とそんなこと言えるなあと、俺は一人思う。ジゲンは自分のことごまかすのが本当に上手いなと改めて思った。知っているも何も、親友だろうが、と思いながら、俺は二人の会話を聞いていた。


「なるほど……ジゲンさんのおっしゃる通り、サネマサ様は私達弟子の前では毅然としていましたが、他の十二星天様や、外で行動するときなどは、気さくな態度で接していたと覚えがあります。

 それに、武王會館に魔物討伐の依頼があると、弟子の私たち抜きで、一人で倒しに行ったりと……私達はなんだか、置いてけぼりにされた感じがして、寂しかったですね……」


 ジゲンはツバキの言葉にそうじゃろ、そうじゃろ、と頷いている。

 これは前にツバキから聞いていたな。ツバキはそんなサネマサの行動を見ながら、自分たちにももっと気さくに接してほしかったし、魔物を退治するときなどは、意見を聞いて欲しかったと。サネマサにも色々と思うところがあったのだろうが、やはり寂しかったと言っていた。

 俺も、どうしてそんなことになったのかということまでは分からない。サネマサの性格だと、ツバキたちとも分け隔てなく接していそうなものなのに、と思っている。

 そんな俺達の疑念を払しょくするように、ジゲンは口を開いた。


「まあ、あ奴も昔から苦労しておるからの。同じ苦労をかけたくないとしておったのかも知れん。下手に未熟なまま魔物退治を続けておると、心のどこかで自らの力に対する過信といった、“傲慢”な部分が生まれてくるかも知れん。

 そうなると何時かどこかで取り返しのつかない事態になるかも知れんからの。ツバキ殿たちを魔物退治に参加させなかったのはそういう思いだったのかも知れん。

 そして、ツバキ殿達に向けていた態度に関してじゃが……これは儂の想像じゃが、あ奴は儂らと同じ年代と言っても、肉体は若い。

 となれば精神もまだまだ若いというわけじゃ。多くの弟子を持ち、良い恰好したくて、ツバキ殿たちの前では毅然としていても、自分と同じ迷い人で似た境遇の十二星天の前では、素のサネマサに戻ってしまったと思うの」


 ジゲンの言葉にはやはり、あいつの親友としての説得力があるなと思った。俺もジゲンの言葉を聞いて、妙に納得している。

 ミサキやコモンに対しても思ったのだが、実年齢の割には、見た目の年相応なところが、あいつらにはある。ミサキの場合は、妙にはしゃぎまくったりするところ、コモンの場合は、珍しい素材を前にすると、少年のように目を輝かせたりするところ。

 サネマサの場合は……向こう見ずなところかな。急に斬りかかってきたあたり、それこそジゲンと同じ世代とは思えない。もう少し大きな心で接してほしいと思う。


 確かに十二星天の奴らの肉体に老いというものが無いように、中身の方もそんなに成長していないような気がする。というわけで、いい意味でも悪い意味でも、サネマサはまだまだ若い。皆の前では別の自分を作りたいという気持ちはわかる気がした。


 そして、それは魔物との闘いに関しても言えるのかなと思った。ジゲンの言葉、あれはほとんど経験談だろう。多くの敵を倒し、魔物を倒し、本人はそう思わなかったかも知れないが、心のどこかで、「自分たちは最強の傭兵団」という誇りがあったのだと思う。

 それは何時しか、驕りや、力に対する“傲慢”な部分に通じ、牙の旅団は壊滅した。

 傲慢……か。そういえば、ジゲンに使われた呪いも「傲慢の呪い」と言われていたな。サネマサとジゲンは、あの一件で、自らの力に対する見方と言うのを考え直したのかも知れない。

 そして、自分たちの後継者、弟子たちに同じような道を歩んで欲しくないと、せめて、独り立ちできるくらい自分の力の在り方を見極めるくらいまでは、闘いというものに参加させなかったのだと思う。

 ジゲンの言葉を聞いて、しばらくツバキは黙っていた。色々と考えているようだ。他の者たちも同様、ジゲンの言葉をそれぞれ噛みしめているようだった。


 そして、何か自分の中で納得したことがあったのか、ツバキはフッと笑い、口を開いた。


「……結局のところ、サネマサ様もまだまだ、未熟というわけですね」

「ほっほ、ツバキ殿は意外と毒舌じゃの。じゃがまあ、そういうことじゃな」


 ジゲンはツバキの答えを大層喜びながら頷いた。十二星天と言えど、やはり一人の人間だということにツバキも気づいたようだった。

 そして、ツバキはサネマサと次に会ったときにどのようにしたらいいのか、ジゲンに尋ねている。


「では、サネマサ様に普通に接してもらうようにするにはどうすればよかったのでしょうか?」


 ツバキの言葉に、ジゲンは少し考え込む。俺の方は大体どうすれば良いのかわかる気がする。あいつは単純そうな男だからな。


「そうじゃの……サネマサは自分と同じ性格だと分かれば、途端に心を開くからの。

 ……取りあえず出合い頭に斬りかかってはどうじゃ?」

「斬りかかる、ですか?」

「うむ。成長した姿を見てくれと斬りかかれば、サネマサも喜ぶと思うぞ」


 そら見ろ。深く考え込んでいたようだが、結局その考えに行き当たったんじゃねえか。アヤメにそう教えていたし、俺にもそうやって来たし、同じことをされると向こうも喜ぶと思う。

 俺も、次会ったら、握手の代わりに、真っ先に斬りかかろうと心に決めている。

 ツバキはジゲンの答えに少し笑って、頷いた。


「それは……少し勇気が要りそうですが、頑張ってみます」

「うむ。そして、皆もサネマサに会うことがあれば、そうしてみると良い。悪いようにはせんと思うぞ」


 ジゲンは続けて、闘鬼神の者達にも、サネマサに斬りかかれと助言をした。こちらはサネマサに対して本当に畏敬の念を抱いているためか、すぐには返事が出来ないようだ。そこで、黙って聞いていた俺が口を開く。


「大丈夫だ。俺が最初に行くから、お前らは俺の後をしっかりと着いてきな」


 そう言うと、皆は笑って、頷いた。


「頭領が!? そりゃいいや! 俺達でサネマサ様を驚かせてやろう!」

「サネマサ様に認められた頭領も居りゃ、怖いものなしだな!」

「おいおい、ジゲンさんの話、聞いていなかったのか? そういうところで、驕りってのが出てくるんだよ……でも、まあいっか!」

「そうよ。何なら、ジゲンさんもやっちゃう? サネマサ様を驚かすの」

「うむ。皆となら、儂も安心できるからの。その時が来たら、よろしくのう!」


 ジゲンの言葉に、任せとけ! と言う闘鬼神。そして、場は笑いに包まれていった。ツバキも口を手で押さえながら楽しそうに笑っている。


 サネマサは俺に、武王會館総出で相手をしてやると言ってくれていたが、それは少し延期だ。

 その前に、もしもサネマサがクレナに里帰りしてきたら、闘鬼神、ツバキ、そして、あいつの親友である“刀鬼”と共に、あいつを精いっぱいもてなしてやろうと決めた。


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