第194話―風呂に入って寝る―
その後飯を食い終えた俺達は風呂に向かう。だが、既にほかの奴らは風呂に入っていたみたいなので、今日は俺一人だ。
一応、リンネと入ろうとしたのだが、皆に何か誤解を受けられたような目で睨まれたので、やめた。獣の姿なら関係ないし、というか、マシロに居た時にはいつも一緒に入っていたのに……。
というわけで、リンネはたまとツバキとアザミを含めた女中数人と入ることになった。
リンネの方は、俺と入れないとか、そういうのはどうでも良いらしく、飯の後片付けが終わった後もたまと手をつないで、楽しそうに風呂場へと向かっていった。少し寂しい気分になる。
ツバキは風呂に向かう直前に、俺にグイっと寄ってきて、皆には聞こえない声で、ボソッと呟いてきた。
「……ご一緒できなくて残念です」
何を言っているのだろうかとツバキの言葉を無視して、風呂場へと向かう。俺の背後で、ツバキはニヤニヤと笑って手を振っていた。
にしても、風呂に一人で入るというのも久しぶりだな。こんなに人が居るのに、更にこんなに大きな浴槽を独り占めというのは何となく寂しいものだと、湯船に浸かった。
「あ~~~♨」
だが、湯に浸かると、そんな思いは一瞬にして消え去る。気持ちいいなあ、やっぱり。疲れがじんわりと解けていく感覚がする。
一人だ何だとどうでも良いと思ってしまった。そして、体を拭き、顔を洗い、髪を洗った。
その後、風呂から上がり、温風が出る魔道具の前で、少しばかりの休憩をとっている。魔道具の使い方についてはジゲンやリアに教えて貰った。伝令魔法の魔道具と同様、少しばかり魔力を込めるだけで使えるようだった。
込める量によって、温風の力が変わってくる。風呂から上がったばかりなので、少し低めに魔力を込めて、休んでいた。
……やはり魔道具を使うたびに思うなあ。何で俺には魔法が使えないのかと。
一応、自分に意識を集中させると、魔力というものは感じる。確かにウィズやレイカ、ミサキたちよりは小さい、というか、ダイアン達のものよりも小さいものだが、魔法を使う奴らの言うところの、下級の魔法くらいは出来るのではないかと思う。
だが、実際何度か試そうとしたのだが、何も起こらなかった。やはり特別な訓練とか必要なのか? それとも、別の問題なのか……。
適正魔法が一切ないということがやはり気になっている。この世界に生きる者達にはそういった属性のような概念があるらしい。俺は他の世界から来た者だから、この世界の観念にはとらわれていないというわけか。
だが、転生者たちはどうなのだろうか。あいつらは、魂こそ、別の世界の者だが、肉体はこの世界で生まれた者だから、属性が宿っているというわけかな。
だとしたら、召喚者たちはどうなのだろうか。召喚者は肉体も一緒にこの世界に来ていると聞いた。それだとしたら、先の考えには至らない。
ひょっとすると、元々魔法がある世界から来ているのかも知れないなあ。
なんてなことを何度か考えてきた。だが、結局答えは出ず仕舞い。俺は何時になったら、自分のことが分かるのだろうか。ツバキたちも帰ってきたことだし、そろそろ刀精の祠にでも行こうかと思っているのだが、肝心のコモンが居ない。無間について何か分かってもどうすることもできないのでは話にならない。
頼むから、早く帰ってきてくれと項垂れた。
すると……。
「……あ」
「ん? ……ああ、ツバキか……」
女湯の方から気配がしたので、顔を上げると、風呂上がりのツバキがそこに立っていた。流石にコモンではない。
ツバキは俺の方を見て、小さく頭を下げる。風呂上がりなので、少し顔が火照り、髪を下していた。
髪を結っていないツバキというのは旅以来久しぶりに見るなあと思っている。普段よりも、女らしくて、何と言うか、年相応のかわいらしさというのを感じるな。
「髪……乾かそうか?」
「え……よろしいのですか?」
「ああ。いつもやってる。直にたまもリンネも来るだろう? そうなったら、今度は俺達でやるのだから、早めにな」
ツバキはわかりましたと頷いて、隣に座り、俺に背を向けた。俺は団扇で扇ぎながら、ツバキの髪を乾かしていく。
「どうだ? 屋敷は。気に入ったか?」
「それはもちろん。お風呂も広いですし、あのような魔道具まで……本当に立派なものですね」
「まあな。コモンの力作だからな」
「ムソウ様はどこを作ったのですか?」
「ん゛? ……俺は、まあ……庭とか畑とかだ」
屋敷を修繕する際に、俺は不器用だからと屋敷内の作業から外されたからな。いつも掃除ばかりしていた。
恥ずかしくてそのことは言えないが、庭の手入れと畑を作ったのは確かだ。自信をもって、そう言ったって間違ってはいない。
ツバキはフフッと俺の言葉に微笑んだ。
「ムソウ様にも、弱点というものはあるのですね」
「まあな。俺もサネマサ同様、ただの一人の人間ってことだろ」
「そうですね……ですがそれを認めていらっしゃるのとそうでないのとでは、やはり違うと思いますよ?」
「そういうものかねえ~……お前は俺をずいぶんと買いかぶっているようだが、実は俺にもまだまだ未熟なところがあるかも知れないぞ?」
「あるかも、ではなく、かなりあることはすでに知っておりますよ?」
……なるほど。ツバキは俺に対して実はそういう風に思っていたのか。少し複雑な気分になる。だが、ツバキは更に口を開いた。
「ですが、そのように未熟な部分を隠そうとせず、どんな人間に対しても、自分というものをしっかりと持ち、自分らしくしているお姿は素敵だと、私は思います」
相変わらず急に、しかも恥ずかしげもなくそんなことを言ってこられて、俺の方が少し照れ臭くなる。ツバキの髪を乾かしながら、かあっと顔が熱くなってきた。
バレないように平常心で居ようと思っていると、パッとツバキが振り向いてくる。
「そうやって、すぐに照れるところも、ご自身のお気持ちに嘘をついていないということです。ムソウ様のそういうところも、私は好きですよ」
ツバキはそう言って、ニコッと笑う。そして、俺から団扇を取り上げると、今度はツバキが俺の髪を乾かしてくれた。俺は先ほどから顔が熱いのが止まない。以前はこんなことあまりなかったのになと思いながら、ツバキに髪を乾かされている。
ああ、また一つ、自分の知らない側面が増えてしまった。
何となくがっくりとしていると、後ろからツバキが語り掛けてくる。
「……ムソウ様」
「……あ? 何だよ」
「前にも申し上げましたように、今すぐどうの、ということではありません……ですが、私は――」
「分かった。もう良いから、そのまま髪を乾かしていてくれ」
これ以上聞くと駄目な気がしたので、ツバキの話を終わらせた。ツバキは団扇を仰ぎながら、
「……意地悪ですね」
と、小さく呟いていた。
その後しばらく、ツバキに髪を乾かしてもらっていると、背後に視線を感じた。ハッと思い、振り返ってみると、上からアザミ、たま、リンネの順に顔をひょこっと出して、こちらをジーっと見つめていた。
「……何やってんだ?」
「いえ、出ようと思ったら、頭領がツバキさんと」
「いいかんじだから」
「……!」
アザミとたまの言葉に続くようにリンネは頷く。いや、むしろ来てほしかったが、と思いながら頭を抱えた。たまとリンネにはこういう面白さは知って欲しくないと思う。
俺がため息をついて呆れているのとは裏腹に、ツバキは律義にも、三人に、
「お心遣いありがとうございます」
などと、言っている。別に頭下げることでもねえのになあ。
そして、三人に続き、他の女中たちも出てきた。皆が出てくると、俺の前にたま、その前にリンネが座り、髪を乾かす形になる。たまに髪を乾かされながら気持ちよさそうにしているリンネに聞いておきたいことがあったので、聞いてみた。
「結局リンネはその姿の方が好きか?」
「……」
リンネは振り返りながら、首を傾げる。正直どちらでも良いという感じだった。
「ちなみに、たまはどちらが良いと思う?」
「どっちでもいいよー。どっちのリンネちゃんもかわいいもん!」
「……!」
たまがそう言うと、リンネはとても嬉しそうな顔をして、たまの頭を撫でる。その光景を見て、女中たちはまた、うっとりとしていた。
ふむ……たまが気にしないのなら、屋敷の中でもリンネは自由にさせても大丈夫か。流石に大きくなるのは勘弁だがな。
その後、皆はそれぞれ部屋へと向かっていった。だが、たまはリンネと離れたくないようで、俺に一緒に居たいと頼み込んでくる。
コモンの件もあるし、少しの間くらいは良いやと思った俺は、たまの願いを受け入れた。
「じゃあ、リンネのこと、頼むな」
「うん! おじちゃん、ありがとー!」
「はいよ。リンネも、おとなしくしているんだぞ」
「……!」
二人の頭を撫でてやると、二人とも同じように頷いた。そして、二人手をつないで、ジゲンの待つ部屋へと向かった。
……その後ろ姿を見送ったところで、気づく。ハッとして後ろを振り返ると、ツバキしか居なかった。
ああ、やってしまったと呆然としていると、ツバキはフッと微笑む。
「約束は守りますって」
「……絶対だぞ」
「ええ。さあ、行きましょう」
取りあえず、ツバキの言葉を信用することにした俺は、ツバキを連れて、部屋へと戻った。屋敷に帰ってきて、俺達が飯を待っている間に、俺の部屋と襖で仕切られた部屋に、ツバキはすでに荷物を置いていた。
そして、布団はきちんと、二枚敷かれている。
何となく安心した俺は、畳の上で落ち着いた。ツバキは魔道具に魔力を込めて、部屋を暖めている。
「そういや、明日の依頼の場所は、シンムの里からそこまで離れていないが、どうする?行くか?」
「そうですね~……。あ、少し騎士団に寄ろうと思うのですが、問題ないですか?」
「ああ、大丈夫だ。ただ、リンネの足で帰るのは昼過ぎになりそうだな……」
「出来るだけ、早めに終わらせます」
「まあ、いざとなれば、リンネに飛んでもらうかな……」
などと他愛もない話をしていた。その後、ツバキは武器の手入れを、俺は薬の調合を始める。古龍ワイバーンの肝が手に入ったからな。持っている薬草と合わせて、少し効能の良い薬を作ったりしている。
そして、ある程度作業をしていると、お互い同時にあくびをしたりするようになった。
「……そろそろ寝るか?」
「ですね……」
俺の提案にツバキは頷き、道具を片付けた。そして、部屋の明かりを消すと、それぞれ布団をかぶる。
「……では、おやすみなさい、ムソウ様」
「ああ。おやすみ……」
明日のこともあるし、俺達は早々に眠りについた……。
……
……
……
……いや、眠れねえ。やはり、ツバキと二人きりというのはどうにも落ち着かない。旅をしているときは、間にリンネも居たから何となく安心して眠れていたが、今日はやはり、眠れない。
ツバキの方はというと、既に寝息を立てて眠りに入っているようである。今日は忙しかったからなあ。それにしても、よく眠れるものだな……。
さて、どうしようか……寝酒でも呑むかな……。俺は棚から大銘水の徳利を出し、ツバキを起こさないようにそっと部屋を出た。縁側で月見酒としゃれこもう。
そう思いながら、縁側に着くと、庭に人影が見える。よく見ると、それはジゲンだった。いつものように、皆が寝静まった後の鍛錬のようである。ジゲンは腰に差した刀に手を置き、静かに瞑想していた。
すると、おもむろに、足元の石を蹴り上げる。石はジゲンの頭上高く上がっていき、そのまま落下した。そして、石がジゲンの正面に迫る。ジゲンはカッと目を開き、刀を抜いた。
「……奥義・瞬華終刀」
気付いた時には、既にジゲンは納刀を終えている。石は何事もなかったかのように、地面に落ちた。ジゲンは腰から鞘ごと刀を抜くと、石をつつく。すると、つつかれたところから石は砂になっていき、夜風と共にそこらに吹き飛んでいった。
「すげえ……」
あまりの光景に、思わず声を出してしまう。ハッとしたジゲンがこちらを見てきた。
「む? ……ムソウ殿か。どうしたのじゃ? こんな夜更けに」
「あ……いや、ちょっと眠れなくてな。鍛錬の邪魔して悪い」
「ほっほ、気にせずとも良い」
「そうか……じゃあ、付き合ってくれるか?」
そう言って、徳利を見せると、ジゲンは優しく微笑んだ。
「頭領殿の頼みとあらば、断る道理もないの……」
ジゲンはそのまま、俺の隣に座った。そして、盃を二つ取り出し、酒を注いだ。二人でそれをワイバーンの干し肉のつまみを食べながら、しばし月見酒を楽しんでいた。
そして、周りに誰も居ないこの状態だからこそ話せる、「ジロウ」との話を楽しむ。
「そういや、ナズナとシロウの関係、少し発展しそうだぞ」
「む? どういうことかの?」
まずはナズナとシロウが文通を始めるということに関してだ。今日起こったことを事細かくジゲンに説明した。文通というにはまだ始まってはいないが、今頃シロウはナズナへの返事を書いているだろうと話すと、ジゲンは朗らかに笑った。
「そうか……それは何とも面白そうじゃの」
「ああ。面白いものだったよ。手紙を書くナズナも、手紙を受け取ったシロウもな」
その時のことを思い出し、思い出し笑いをしながら酒を呑んだ。シロウのあの慌てようというのはジゲンにも見せたかったなと思う。
するとジゲンはフッと笑い、口を開いた。
「まあ、シロウとナズナのことも気になるが、儂からすると、ムソウ殿とツバキ殿のことも、気になるのう……」
「……なんでだよ」
ジゲンの一言で、先ほどまでの面白かった頭の中が一気に冷める感覚がした。何故急にここでツバキの名前が出るのか意味が分からない。
俺が頭を抱えていると、ジゲンはニコッと笑う。
「大方、ムソウ殿が眠れないというのも、ツバキ殿と二人きりじゃから、とかそういう理由ではないのかの?」
「なんで分かるんだよ……?」
「ほっほ。まあ、ツバキ殿は美しいからのお。ムソウ殿も自分では気づいていないだけでどこか想うところはあるのじゃないのかの?」
「そんなんじゃねえって。俺の場合は……そうだ……爺さんがアヤメやナズナ、ショウブを見るような感じだ。なんというか、娘みたいな感じだ。
向こうはこちらのことを好きと言われても、こちらとしてはそういう目では普通見ないだろ?」
若干、自分でも違和感を抱きながらも、俺は誤魔化した。ツバキに対してはそういう風にしか見ていないと。
幼い頃よりアヤメたちを育ててきたジゲンならこの気持ち、わかってくれるだろうと期待している。
だが、ジゲンは首を傾げながら、俺の顔を覗き込んでくる。
「どうじゃろうの……確かにアヤメやナズナたちからの儂に対しての好意というのは感じたこともある。
それは男女の関係によるものではない。ムソウ殿の言うような、子が親に対する一種の憧憬のものに近い感じじゃった。
じゃが、ツバキ殿からムソウ殿に抱くものはそれとは違うものじゃと思う。あれは本当に惚れているものじゃの。流石にムソウ殿も、気づいておるじゃろう?」
くっ……ジゲンの言葉に返す言葉が見つからない。確かに俺もそこまで馬鹿じゃないし、鈍感じゃない。ツバキから向けられる好意は単なる憧れとか、敬いとかそんなものじゃないことくらい分かっている。
ジゲンめ……よくもまあ、この短時間にツバキのことを見抜いたな……。
何も言えずただただ呆然としていると、ジゲンは更に続ける。
「まあ、ムソウ殿には、奥方も居ったし、確か子供も居ったの。じゃから、今更他のおなごに好意を向けられても、困ると感じておるのじゃろうな。
ツバキ殿のまっすぐな思いにどう応えればよいのかわからないといったところかの?」
「……はあ~……まあ、そんなところだな……」
ジゲンは俺の思っていることを全て言い当てていく。正直なところはそんな感じだ。俺自身、どうすれば良いのかわからない。ツバキの好意というのは本物だ。マシロを発つ俺に着いてきたくらいだからな。
だが、そんなツバキの想いにどうすれば良いのか本当に分からない。
ツバキの想いに応えれば、サヤや、カンナに悪い気がするし、かと言って、応えなければ、ツバキはひどく悲しみそうだし。どちらにせよ、俺自身が、気まずい思いをするという、何とも言えないことになる。
「だから、今のところは、アイツも言うように、今すぐどうの、ということではないのだから、焦って考えることもないと思っている。じっくり考えて、答えを見つけるさ……」
結論はそんなところだ。焦ってもどうしようもない。気長にどうすれば良いのか考えることにする。ツバキもまだ若い。その間に、俺以外の奴にそういう想いを抱くのであれば、それでも良いと思っている。
あいつが幸せになれるのなら、それで良いと思っている。
「……ふむ。まあ、今の所の状況が、一番いい関係に見えなくもないからのお。ムソウ殿の場合は、お互い愛し合っているにも関わらず、どうにもならない状態のシロウとナズナの二人よりは、その方が良いかも知れんの」
「……ああ。そういうことにしてくれ」
「もし、答えを出さねばならない時期になったら、きちんと相談に乗るからのう」
ジゲンは満面の笑みで俺の肩をポンと叩く。何となく、面白がってんじゃねえかと疑いたくもなるが、ジゲンの優しさが嬉しくて、頷いた。
「そういや、答えを出す、出さないということで、もう一個、爺さんが興味を持ちそうな話があるのだが……」
「む? 何かの?」
「ああ、高天ヶ原にいるコスケって奴が、爺さんから押し付けられた武具、どうしたらいいのかわからないと言っていたぞ。この際に持って帰っておこうか?」
高天ヶ原に飾られていた牙の旅団の武具のことだ。長年置いていたが、あそこを訪れる冒険者にはコスケも渡したくないようだった。
どうにかならないか、というコスケの頼みを断ったが、よくよく考えてみれば、ここにジロウ本人が居るのなら、持って帰って、こいつに預けた方が良いのではと思った。ジゲンは、う~んと考え込み、口を開く。
「そうか……まだ、全ては渡せておらんかったか。コスケは責任感の強い男じゃからのう。やはりそこらの者にホイホイとは渡さぬよのう……」
「ただ、その分、お前の見込み通りの眼力はあるようだな……で、どうする?」
「まあ……そうじゃの。コスケにこれ以上迷惑をかけるわけにもいかぬし……済まぬが、ムソウ殿。シズネたちの武具、持って帰っては貰えぬか?」
幼い頃から、自分の家で世話になってきたコスケに、これ以上の負担をかけさすまいとジゲンは俺に、武具の回収を頼んできた。俺は分かったとジゲンに頷く。
「……さて、そろそろ寝るかな」
「うむ。懐かしい友の話も出来たことじゃし、やはりムソウ殿との話は面白いのお……」
「それはこちらの台詞だ。おかげで、ゆっくり眠れそうだ」
そう言って、俺達は酒を片付け、自室へと戻る。別れ際にジゲンが、
「しっかりの、ムソウ殿」
と、微笑みながら言ってきた。何を、とは聞かない。大体分かってる。俺は適当に頷き、部屋へと戻った。
そして、すやすやと眠るツバキの頭をひと撫でし、深くため息をつく。
その後、布団をかぶり、俺も眠りについた……。
◇◇◇
ムソウと別れ、自室へと戻ったジゲン。自分もそろそろ寝ようと、布団をかぶる。だが、隣でもぞもぞと音が聞こえたので、そちらに顔を向けた。
見ると、すやすやと眠るリンネの横で、たまが目を開いて、こちらを見ていた。
「起こしてしまったかの?」
「……おじいちゃん、どこかいっていたの?」
眠そうに目をこするたまに、ジゲンは優しく微笑み、頭を撫でた。
「少し、厠へのう……さあ、もう、おやすみ」
たまはコクっと頷く。そして、布団をかぶりながら、静かに笑った。
「おじいちゃんは……どこにもいかないでね……」
たまはそう言って、また、すやすやと眠りだした。
リンネやツバキが来たとは言え、やはりコモンが黙って家を開けているということに、たまは寂しいのと、悲しい気持ちが混ざり、不安なようだ。
親を亡くし、長く一人で温泉街の宿を切り盛りしていた頃から、孤独というものの辛さはよく知っている。もう、あの頃には戻りたくないという気持ちが、たまの言葉からジゲンは感じていた。
眠り出したたまの頭を撫でながら、ジゲンは呟く。
「ああ……一人にはせんよ……たま」
たった一人残されたたまとは逆に、自分は残していった側の人間。
しかし、残された一人でもあるジゲン。
両方の辛さを知っているからこそ、たまをもう一人にはするまいと、心に決めた。
ジゲンはたまとリンネの布団を少し直し、自らも布団をかぶり、そのまま眠りについた。




