↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
183/534

第182話―心配してほしいと思う―

 日が傾き始めた頃、家へと帰った。たまは夕飯の準備をするために、アザミや他の女中に連れられ、炊事場に向かった。

 俺とジゲンは着替えを終えて、居間へと向かう。現在冒険者の全員が、依頼に取り組んでいるという状況なので、居間には先に帰ってきたコモンしかいなかった。広い部屋で、寂しそうにしていたコモンは俺達が入ると、目を輝かせた。


「あ……お二人とも、おかえりなさい。すごく寂しかったです……」

「おう。ただ、それならば、女たちと飯でも作ってればよかったのに……」

「いえ、そうしようとしたのですが、仕事から帰ってきて、屋敷でも仕事をさせるわけにはいきませんと、アザミさんに言われまして……」


 コモンはガクッと肩を落としながら、茶をすすっている。何故だかその姿には哀愁が漂っているように見えた。

 まあ、コモンには申し訳ないが、アザミの気遣いはありがたい。今でもコモンは屋敷の者たちの為に良い武具を作ってくれているだろうし、気を落とすなと励ましながら、俺とジゲンはコモンの横に座った。

 そして、三人で茶をすすりながら、ふと周りを見ると、コモンの言うようにこうして広い部屋に三人だけとなると、いつもよりも本当に寂しく感じる。早く帰ってきてくれと、冒険者たちの顔を思い浮かべ、しばし、団欒としていた。


「それで、今日はお二人は何をされていたのですか?」


 一息ついていると、コモンは興味深げに聞いてきた。俺が天宝館に来ていないということは、依頼にも取り組んでいないということなので、コモンは俺が何をしていたのか、気になるようだ。どう言えば良いのかと悩んでいると、ジゲンが口を開く。


「今日はムソウ殿に、儂の本当のことを話したよ」

「え! そうだったのですか……。ムソウさんに言うのはだいぶ後のことだと思っていたのですが……」


 ジゲンの言葉に驚きを隠せないコモン。こいつはジゲンがジロウだということを知っているからな。今日のことを言うのは特に問題ない。

 だが、ケリス卿のことは話さなかった。それこそ、コモンは明日、奴の開く宴会に赴くわけだし、何も知らない方が良いと考えている。もっとも、何か勘づいているような気がしないでもないからな。

 ジゲンの正体といい、俺と初めて会った時といい、こいつは時々、すごく勘が働くことがある。取りあえず、こちらの考えを気取られぬように注意しながら、今日の出来事を話した。

 話し終えると、コモンはそうですか、と頷く。


「まあ、ジゲンさんの正体が分かったところでどうということではありませんからね。ムソウさんもそうでしょ?」

「まあな。だが、俺やたまはともかく、この街に住んでいる奴らに知られれば、騒動になることは間違いないと思っている。これまで通り、他言無用で頼む」

「わかりました」


 コモンは俺とジゲンの頼みを承諾して頷いた。すると、ジゲンは、あ、と言う顔をして懐からあるものを取り出す。


「時に、コモン君。これでたまに何か作ってやりたいのじゃが、出来るかの?」


 ジゲンが取り出したのは、先ほどの的当てで得た景品の魔石だ。コモンはそれを受け取り、じっくりと見ている。


「こちらは……烈紅玉ですね。なるほど……良いものを貰いましたね」


 コモンによると、その魔石は火炎鉱石などと同じく、火山地帯で採れる希少な魔石だという。上手く加工すれば、炎熱系の魔法の威力が上がったり、同種の攻撃からの衝撃をある程度防ぐことが出来る代物だ。

 それならばと、腕輪か指輪にした方が良いというコモンの言葉に、ジゲンは頷いた。結界を作れる髪飾りと同じく、魔力を込めることで、火からたまの身を守ることが出来るようになるということだ。常に台所に立ち、色んな料理を作るたまならではの装備だな。


「うむ。感謝するぞ、コモン君」

「いえ、僕でお役に立てられるのなら光栄です。それにしても、ジゲンさん……というか、ジロウさんは、お話で聞く以上にお優しい方のようですね」

「む? 儂のことは誰に聞いたのじゃ?」

「もちろん、サネマサさんです。色々と自慢話を聞かされました」


 コモンは笑いながら、サネマサから聞いたジロウの話を、話し始めた。

 十二星天の者達、特にコモンや、サネマサ、ミサキなどの転生者は、その特異な力や、他人とは違った能力を持っているために、幼い時より、人々から敬われたり、畏れられたりしていた。

 ゆえに、この世界に生まれてから、人間の友人というものが少ないのだそうだ。人懐っこいミサキでも、小さな頃からの友人が、ぴよちゃんだったり、四神たちだったりするからな。

 だから、同じ年代の友人を持つサネマサは、よく、他の十二星天に、ジロウや、牙の旅団の話を聞かせていたそうだ。

 気になるジロウの内容だが、昔から、腕っぷしが強く、会った時は、自分の方が強かったらしいが、一緒に成長していくたびに、いつしか互角以上に渡り合えるようになっていた。

 そして、気付けば、サネマサよりも多くの魔物や山賊たちを倒したり、果ては、気に入らないという理由だけで、クレナをめちゃくちゃにしようとしていた貴族に刀を抜いたりと、クレナ領民らしい粗暴さと、後の十二星天とも互角に張り合えるくらいの強さを身に付けていったとのことだ。

 だが、その実は、大らかで人当たりの良い性格であり、弱き者には手を差し伸べる確かな人格者でもあったという。ジロウが刀を振る時、拳を握る時は、決まって、その背中に弱く、力を持たない者達が居るからだと、サネマサは常々語っていた。


 嬉しそうな顔で、サネマサから聞いた話を俺達に聞かせるコモン。ジゲンは、少し気恥しそうに頭を掻いていた。


「むう……サネマサが儂の居らんところで、そのようなことを言っておったとはな。何とも、恥ずかしいものじゃのう」

「ふふっ……そして、今、ジロウさん……もとい、ジゲンさんが護っていらっしゃるのが、たまちゃんというわけですね。ジゲンさんの優しさに応えられる一品を作らさせていただきます」


 コモンの言葉に、ジゲンは朗らかに笑って、頷いた。

 ジゲンが護っているもの……それはとても大きなものだと俺も思っている。たまだけでなく、サネマサのことも護っているジゲン。昼間、約束したように、俺も、ジゲンの護りたいものをしっかりと護っていくようにしようと、改めて誓いを立てた。


 さて、なかなか面白い話も聞けたということで、いったん、ジゲンの正体についての話を終える。

 しかし、まだ飯の支度が出来ていないということで、次に、明日の動きについて、話題を変えた。


「ところで、明日の宴会とやらは何時からだ?」

「はい、夕方からですが、どうかされましたか?」

「いや、明日たまと爺さんを連れてアヤメに会いに行こうと思っているんだが、ふむ、そういうことなら問題ないな」


 朝から宴会をするということであれば、依頼なども少し急いでしないといけないと思っていたが、少なくとも夕方、つまり普通のギルドが開いている時間は大丈夫なようだ。それなら明日も落ち着いて、依頼をこなそう。


「じゃが、ムソウ殿ならどんな依頼でも昼前後には終わるじゃろう? ちなみに明日は何を討伐するのじゃ?」

「ああ。デスニアの群れだ」


 ジゲンとコモンがいつも通り、俺の依頼に興味を示してきたので、俺は依頼票と資料を取り出した。


 資料には、やはり場所はクレナ南部にある湖で、大量に発生していると書いてあった。今のところ、付近の村などに被害は無いが、このままだと湖の生態系が崩れたり、湖で漁をするのに支障がでる。この世界でも冬が来る前に色々と準備をするだろうし、早いとこ解決した方が良いと考えている。


 そんなことを思いながら資料を見ていると、何故だか、コモンとジゲンがほとんど同時に肩を落とした。


「普通じゃの……」

「普通ですね……」


 ……何がだよ。何が基準なのか分からない以上、何が普通なのか分からない。と言うか普通の依頼で良いじゃねえか。普通の依頼のどこに何の不満があるというのか……。


「何が不満なんだよ。被害も出ているようだし、やらないよりは良いだろう」

「それはまあそうなんですが……」

「何と言えばよいか……ムソウ殿が挑む依頼というのは、何故だか大変なものばかりで、大変なことが起こるであろう?

 こう普通のものを出されると、何となく力が抜けてのお……」


 ……何がいけねえんだよ。それで良いんだよ。というか、それが普通なんだ。

 まあ、確かに俺が超級以上の依頼を優先的に行っていたというのもあるし、最近は中級や上級だというのに、いつの間にか超級に匹敵する状況になっていたりと俺の取り組む依頼がどこかおかしなことになっているというのは分かる。

 ひょっとしたらこのデスニアの依頼も何か変わったことが起こるのでは……と言うかすでに起こってんだよなあ。1000匹くらいいるんだっけ? まあ、それでも雷や火の魔法を使える者が居れば、意外と楽らしい。


 しかし、そんな奴居ないので、俺はそれなりに苦労していると思うんだがな……と、思っていると、


「デスニアですよね……1000匹くらいなら、僕でしたら秒で終わりますね……」

「儂らなら、動物の死骸を投げ入れて、集まってきたところを一網打尽にしておった……そこまで苦労はせんかったのう……」


 コモンとジゲンは更に力の抜けたような顔になる。更に言えば、ジゲンは偶像術により、雷を操ることが出来る。仮に、この依頼をこなすのが二人なら、ほぼ一撃で片が付き、何の苦労も無いそうだ。

 ……いや、苦労しなくていいんだよ。ここのところ苦労が続いたからな。依頼くらい普通にしたい。


 それにコモンの場合はスキル、ジゲンの場合は牙の旅団、そりゃ苦労しないだろう。コモンに関しては湖を干上がらせていそうで怖い。


 ということで、二人にとっては楽にこなせて、なおかつそこまで強い魔物ではない依頼に俺が挑むということに何かしらの違和感があるという。


「そう言われてもなあ……じゃあもう、また俺に依頼の内容と、実際の内容にずれがあることを祈って待ってろ」


 皮肉交じりにそう言うと、二人は笑顔になり、頷いた。


 いや、笑ってんじゃねえ……。


「かしこまりました、ムソウさん」

「面白い話を期待しておるぞ」


 闘鬼神の奴らは俺の心配をしない。そして、こいつら二人は、出来るだけ俺に苦労して欲しいみたいだ。

 どうやら屋敷全体で俺が依頼に失敗する、もしくは大けがをするということを想像できないみたいだ。何となく複雑な気持ちだな……。

 少しばかり微妙な感じだが、俺は渋々二人の言葉に頷いた。


 その後、飯の支度が出来たと報せが入る。俺達が移動すると、今日は野菜を炒めたものと焼き魚のおかずが並んでいた。

 それぞれの場所へ座ると、珍しくたまが酒を注いでくれた。


「今日のお礼だよ~!」

「ありがとよ。だが、そういうことなら爺さんにもな」

「うん!」


 俺に酒を注ぎ終わると、ジゲンの所に行き、同様に酒を注いでいる。そして、そのままジゲンの横にたまが座って、食事が始まった。


 今日の酒は俺が買った酒だ。魚とよく合う。一つ食って、一つ呑むたびに、疲れが取れていく感覚があった。正直、そこらの魔物よりも強い奴と手合わせをしたんだ。今日も頑張ったなあと実感している。


 コモンの方も少しばかり疲れているようだ。話を聞くと、やはり古龍ワイバーンの素材の武具や、迷彩トカゲの外套を作っているらしい。さらに、ツルギ達から最近仕事が入り、前よりも目まぐるしく仕事をしているようだ。


「あまり無理するなよ」


 コモンを気遣ってそう言うと、コモンはニコリと笑って口を開く。


「大丈夫ですよ。今のところ仕事はそれぐらいですからね。この屋敷での仕事も、こないだ終わったばかりですし……」


 ああ、そういや、コモンの部屋……というか、元馬小屋の整備終わっていたな。コモンの部屋らしく、炉もあり、寝泊りする部屋とは別に作業をする部屋もあった。こいつは何時でもどこでも何かを作っていないと落ち着かない性分らしいな。


「流石にまだどこも壊れていないようですからね。ここではゆっくりできます」


 と、コモンは落ち着いた口調でそう言った。そりゃそうだ。出来てまだ一か月も経っていない。早々壊れてたまるか、と俺もコモンの言葉に笑って頷いた。


 ……だが、一つ思い出したことがあり、表情が固まる。今日、俺とジゲンの手合わせの時に、空き地側の塀を一部壊してしまったことだ。たった今、コモンを気遣ったばかりなので、もう少し時間が経ってから、コモンに頼むとしよう。

 ちらっとジゲンを見てみると、ジゲンもそれを思い出したらしく、ジトっとこちらを見ていた。そして、一つため息をつくと、ジゲンは食事を再開させた。

 はあ……コモンが自分から見つかる前に、早めに言っておくとしよう……。


「コモン……あのな、実は……」


 と、塀のことを話そうとすると、コモンはニコッと笑った。


「外の塀ですね? 直しておきましたからご安心を」


 サラッとコモンがそう言った。何でも帰ってきたときに見つけて、魔法を使い、ササっと直したらしい。俺とジゲンが驚いていると、仮にも十二星天ですからとコモンは誇らしげに胸を張る。

 久しぶりに、流石十二星天とコモンを褒めてやった。

 しかしコモンは仕事が早いな。後できちんと修理代を渡しておくことにしよう。


 そして、飯を食っている皆の話題は、先ほど、コモンとジゲンと話していた、俺が取り組む依頼についてで盛り上がっている。

 冒険者ではない女中たちはあまりピンと来てはいないようだが、俺には心配無用ということに関しては女中たちの中でも共通の意識のようだ。

 流石に皆に呆れて頭を抱えていると、一人の女中が俺に聞いてきた。


「……逆に、頭領がこれまで一番気を引き締めたときはどんな時だったのですか?」


 女の言葉に、皆も、確かにと頷いて、俺の回答を待っている。


 ……少し悩むな、この質問。俺は常に闘いに赴く際は気を引き締めているつもりだ。油断大敵とは言うが本当にその通りで、実際それで安備は滅ぼされたわけだしな。もう少し警戒を強めていればよかったかもしれないが、今となっては何でも言えるよな……。


 さて、今までの闘いで一番気を付けようと思ったのは何だろう。こっちに来てからは、何と言うか、魔物たちは見た目通りの強さというか、実力だから何とも言えない。ワイバーンも、噴滅龍も破山大猿も見た目通りの強さだったから、即座に対処できた。

 知能が高く、実力を隠すようなゼブルやサキュバスにもスキルのおかげで対処できている。特にこれといってはないなあ。


 まあ、しいて言えばというものならいくつかあるな。


「今までだと三つの闘いでは特に気を付けようと思ったな」


 そう答えると、皆は目を見開く。俺でさえ気を付けるような相手がいるなんて、という顔をしている。興味深げにジゲンが口を開いた。


「それは一体、どのようなものだったのじゃ?」

「一つはサネマサとの闘い、もう一つはミサキとの闘い、最後はマシロの呪いの一件だな」


 サネマサの時は、相手のことがよく分からないうえに、俺がこの世界に来て初めての強者だった。闘いの始まりも突然で、前準備もしていなかったので、闘いながら少しばかり注意してやるようにと気持ちの転換が大変だった。

 その後、奴の正体を知ったことで、十二星天って奴は本当に強い奴らということが分かっていた。

 なので、ミサキの時は心構えは出来ていたが、あいつの場合は多種多様な魔法を使い、奥の手まで見せてきた本気の闘いだった。サネマサの時はあくまでお互いのことを知るために行った、いわば遊びのようなものだ。少しばかり手を抜いていたというのは確かだ。

 だが、ミサキの時は闘いながら何度もやばいと思ったし、俺も少し、本気になった反面、殺さないように気を付ける必要もあって力加減が分からなかった。下手すりゃ、ミサキを斬っていたかも知れないと今でも思っている。


 呪いの一件は、そういった中で、理性がふっとんだロウガン達と本気で戦うというのが面倒だった。誰も死なさず、軍勢を押しのけて、シロンを救い、ミリアンを倒す。

 一人では出来なかった。実際、広場でミサキたちが助けに入る直前、エリーたちの魔法につかまり、少しばかり、けがを負わせても良いという考えに至るほどだったからな。

 あの時は本当にミサキやコウカンにリュウガン、それにツバキとリンネも居てくれて助かった。

 先に挙げた闘いよりも、呪いのことを突き止めるために頭も使ったというのも、大変だったなあ……。


「どんな戦いにも勝ち方がある。討伐依頼のほとんどは、ただ、敵を斬れば良いからな。特に気構えは無いが、この三つは本気を出せばサネマサも、ミサキも斬っていたかもしれないし、マシロなんて滅ぼせたかも知れない。

 こういう条件ってやつがある闘いに挑む際には普段よりも心構えというのをきちんとしておかなくてはな」


 皆の質問に答えると、皆は目を見開き、また俺を置いて、皆だけで話しだした。


「え……じゃあ、つまり頭領に心配が必要な時って、例えばコモン様のような十二星天級の人達と闘う時くらいってこと?」

「ですね……それもサネマサさんを斬っちゃうかもって言えるくらいですから、魔物に関しては天災級以上の存在とってことになりますね」

「それはもう、神族とか鬼族並みってことになりませんか?」

「いや、下手をすれば、冥界王や天界王並みという見方も出来そうじゃな……」

「ジゲンさん、そうおっしゃられると、私たちが頭領を心配する機会なんて――」

「おい、お前ら……」


 皆の会話を聞きながら、俺は口を挟む。本当に一つだけ言わせてくれと、皆を見渡して、


「それ以上続けたら、俺が寂しくなるからやめてくれ」


 と、懇願にも似たことを伝えた。すると、皆はきょとんと真顔になったかと思うと、すぐにニッコリと笑った。


「あら、どれだけ強くても、頭領は意外と寂しがり屋なのですね」

「意外な一面を発見できましたわ」


 などと言いながら女たちは笑っている。


「いや、そういうことではなくてだな……」

「ええ、分かっておりますよ。明日からもどうかお気をつけて……」

「「「おきをつけて~」」」


 アザミの言葉に、嫌らしい笑みを受けべながら俺を気遣う言葉が投げかけられた。全然感情がこもっていない。ここまで思いが込められていない、「気を付けて」は初めてだと、頭を抱えつつ、皆の言葉に頷いた。

 コモンとジゲン、それにたままでも笑っていてなんだか恥ずかしくなってくる。俺は皆から視線を逸らし、飯にがっついていった。


 その後、飯を食い終えた後は、風呂に入り、自室へと戻った。そして、明日の準備を済ませて布団をかぶる。

 明日はデスニアの依頼に、ジゲンとたまのアヤメへの謁見と意外と忙しい。

 だが、今日はジゲンの秘密も知れたし、今後の目標のようなものもたてられた。良い一日だったと思う。それに明日の宴会が終われば、その二日後にはツバキたちも帰ってくるということも決まった。

 ツバキとリンネとも、この屋敷で楽しく過ごす。そういう日々も良いなと思いながら、眠りに入った。


 ◇◇◇


 皆が寝静まったころ、屋敷の縁側でジゲンは月を見ながら、物思いに更けていた。傍らに、愛刀「帝釈天」を置き、今日の出来事を振り返っている。


 ムソウには自身の正体をすべて話し、あの時のことも語った。そして、共にケリスに仇討をするということも決めた。

 ……だが、本当にそれで良かったのかと今になって思った。ムソウと牙の旅団は無関係だ。それなのに、仇討の計画に巻き込んでしまって良かったのか、と。

 やはりここは、親友であるサネマサの力を借りた方が良いのかと思っていると、ムソウの言葉を思い出した。


 ―爺さんも闘鬼神の一員。それを助けるのは頭領として当たり前―


 ジゲンは、その言葉を思い出し、フッと笑った。


「本当に……ありがたいことじゃの……」


 自身も牙の旅団の筆頭の一人だったため、仲間を思う頭領の気持ちというのは分かっている。

 だが、呪われていたとは言え、ジゲンは昔の仲間達を殺し、牙の旅団を自ら壊滅させた。


 そんなジゲンを、会ってまだ間もないムソウは、自らが率いる仲間と呼び、力になってくれると言っている。


 ジゲンは巻き込んでしまったという、罪悪感を忘れ、ムソウの言葉に、素直に従うことにした。帝釈天を手に取り、牙の旅団の者達を一人一人思い浮かべた。


「……シズ、コウシ、ミドラ、ロウ、タツミ、ソウマ、エンミ、チョウエン、サンチョ……もう少しじゃ……待っておれ……必ず……」


 ……必ず仇をとると、改めてあの時の誓いをして、ジゲンは夜空に浮かぶ月を見上げた。


名前の由来は干支です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。