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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第180話―仇討の算段を付ける―

 ……人界の掌握。確かにケリスがそれを行おうとしているのであれば、充分、斬る理由になる。いわば、王都に反旗を翻すのだからな。壊蛇級の魔物、いわゆる天災級の魔物を自分の手駒としていれば、人界そのものを手にすることなど造作もないだろう。

 何となく納得は出来るが、ジゲンがその考えに至った理由が分からない。引き続き、ジゲンの思いを聞いてみる。


「で、その考えに至った根拠は?」

「うむ。これは最近、ムソウ殿から聞いた、マシロでの呪いの一件から思いついたものじゃ」


 マシロの呪いの一件。ミリアンという貴族が、強力な呪いを使い、マシロ領を掌握しようとした事件だ。ミリアンは「転界教」という怪しげなものに属していた。

よくは分からないが、そいつらはこの世界の覇権をめぐって、人界各地で暗躍している。各々強力な魔道具や、魔刀級の武具を多く所持し、水面下で行動している。

 ジゲンには俺の過去を含めて、今までのことは全て話している。マシロの呪いの一件もその一つだ。それを聞いて、ケリスのことも見えてきたらしい。


「あの一件が、今回のケリスの動向と何の関係があるんだよ?」

「ムソウ殿は言っていたな? ミリアンとかいう貴族が使っていた呪いのことを。確か、ミサキちゃんの話じゃと、それは「七つの大罪」とかいうものの名を冠した強力な呪いじゃったと聞いたが……」

「……あ、なるほど……」


 ジゲンに言われて思い出した。そして、ケリスのことも俺も大体見えてきた。


 マシロの呪いの一件で、ミリアンが使ったのは、「憤怒の呪い」。それは、後でミサキに確認したところによると、「憤怒」という言葉はミサキの世界で、「七つの大罪」という、人が罪を犯すときの、原動力というか、元となるモノという考えだ。そして、その中に、「傲慢」というのがある。


 呪われたジゲンの前に姿を現したケリスは、ジゲンに施した呪いを、「傲慢の呪い」と語っていた。憤怒と同じく、七つの大罪の名を冠するものだ。偶然にしては出来過ぎている。


「つまり、ケリスもその転界教の一人で、その呪いをもって、牙の旅団を全滅に追い込んだ。

そして、転界教の目的は人界掌握。その目的を果たすためにケリスは動いているということか?」

「ああ。そうじゃろうと思う。……儂はそれに、利用されたというわけじゃの……」


 ジゲンはうつむき、何か後悔するように言った。俺はジゲンの肩を叩く。

 ジゲンは悪くない。マシロの時も思ったが、呪われた者たちがおこしたことについて、その者たちは何も悪くない。全ては呪った奴が悪い。気にすることではないと思っている。


 さて、あくまで仮説だが、ケリスの目的は分かった。これから、何をするのかも分かった。


 ケリスは、壊蛇に匹敵する魔物を生み出し、まずはここ、クレナを襲わせる。そして、大量の魂を集め、力を蓄えながら、レインに侵攻するというわけか。

ミリアンと同じく割と壮大な計画で何となく呆れてくる。恐らくクレナを掌握しようとしているのも、ついでだろう。天災級の魔物が現れたとなれば、アヤメは管理責任を問われ、領主から退かされる。その後釜につけば、レイン侵攻への兵力と出来るし、女たちも手にすることが出来るしな。


 ひょっとして、今集まっている、名うての冒険者たちも、手駒にしようとしているのではないか? 皆、強力そうな武具を纏っていたし、腕が立つ者を集めれば、それだけ戦には有利になるということ。

屈強な兵士、多くの側室、天災級の魔物……これはまた、がめつい野郎だな……と、思ったところで、一つの考えに行き当たり、少し慌てて、ジゲンに確認の意味を込めて、尋ねてみた。


「なあ、爺さん。ひょっとして、仮に俺達の考えていることをケリスがやるのだとしたら、そろそろのことなのか?」


 俺が思ったのは、現在トウショウの里には先ほども言ったように、明日開かれるケリスの宴会のために、名うての冒険者たちが集まっている。すでに、ケリスに抱き込まれていると言っても過言ではない。つまり、私兵も揃い、後は天災級の魔物さえいれば、準備は整ったということになる。奴が天災級の魔物を生み出すのはもうすぐのことなのかとジゲンに尋ねた。

 しかし、ジゲンは何故かフッと笑って、首を横に振った。


「儂も、それはもう間もなくと思っておったのじゃが、ケリスの計画には現在大きな障害があると思うぞ?」

「障害? 何のことだよ……?」


 すると、ジゲンはスッと、俺を指さした。


「ケリスの最大の障害。それはお主じゃよ、ムソウ殿」


 ……言ってる意味が分からない。俺はケリスと関わらないために色々とやってきた。まあ、それも無意味に終わってしまったが、それにしても、ケリスと面と向かったのはつい、昨日が初めてだ。特に何も心当たりはない。そう言うと、ジゲンはますます笑って、どういうことか、説明した。


 まず、俺がやった浮浪者の保護。これはケリスの資金源を大きく削ったことにもなるし、闘鬼神という新しい部隊を設立したということで、トウショウの里の勢力図を塗り替えたことになった。ケリスの実質的な私兵である闘宴会と敵対する、ジロウ一家に与していることになっているからな。

今まで、力づくで行っていた、トウショウの里の統治も、今ではそのおかげで落ち着いているという。

 それは向こうの士気を下げると共に、ケリスにとっても上手く動けなくなった要因の一つであると、ジゲンは笑った。


 もう一つ。俺が、超級以上の依頼、果ては古龍ワイバーンを倒したりと、各地の大きな魔物の被害を解決したり、冒険者不足をどうにかしたりと、アヤメの悩みの種を解決している。それにより、アヤメの管理責任を疑う余地は無くなり、アイツが領主の席を降ろされるという可能性も減ってきているという。ケリスが領主の座につくのは、俺が居る限りありえないとのことだ。

 それでもアヤメを領主から解くということは、レインにとっては民衆からの不満という形で損だからな。まあ、あり得ないだろう。


 そして、最後にもう一つと、ジゲンはニコリと笑った。


「これは、ケリスを斬るということに、ムソウ殿の助けが要るという話にも通じてくるのじゃが、噴滅龍、破山大猿、古龍ワイバーンを単騎で倒すという、サネマサや、かつての儂らに匹敵……いや、更に上をいくムソウ殿が近くに居る状態で、そんな魔物を生み出すというのはあり得んじゃろ。

苦労して生み出したのに、すぐに倒されるのであれば、意味は無いからの」

「それは……まあ……そうだろうな……」

「それに、ケリスは今、女装したムソウ殿に首ったけのようじゃからの。それを手にするまでは、動かんと思うぞ」

「……」


 最後のはどうでもいい。……いや、よくねえか。確かにジゲンの言う通り、あれだけ夢中ならば、(女装した)俺を迎え入れるまでは、計画を実行に移さないだろうなあ。


……気持ち悪い……。


 まあ、何にせよ、俺が居ることで、計画に支障をきたしているということは何となくだが、理解できた。やってみなくては分からないが、天災級の魔物など現れれば、真っ先に俺は倒しに行くだろうからな。

万が一、倒せなくても、闘宴会くらいは殲滅出来ると考えている。長の男も大したことなかったからな。それに、集まっている冒険者たちも、正直、問題ないと思っている。ケリスの兵力を削るくらいはわけない。


 色々と俺も、アヤメも頑張ったが、結局ケリスに深く関わっていることを知った俺は、何とも言えない気持ちになる。

だが、俺の存在がケリスへの牽制になっているというのは大きなことだなと苦笑いした。


「……ただ、そうなると、ますます仇討の時期が延びるということだよな。爺さんはそれで良いのか?」

「ああ、構わんよ。ようやく皆の仇を討てるという希望が見えただけでもうれしいものじゃからの。

……それにケリスのことじゃ。そうは言っても、いずれしびれを切らし、実力行使に出るじゃろう。それまで、儂らも力を蓄えておかんとな……」


 ジゲンは己の拳を握りしめる。あの時のことをずっと考え、仲間たちの仇を討つことだけを思っていた人生に、光明が差した。必ず誓いを果たそうという強い視線で、遠くを見ていた。

 俺は、ジゲンの言葉に頷く。俺も、持てる全ての力を使って、ジゲンの仲間達への手向けとしてやろう。


「たまも頑張るんだぞ~……って、寝てやがる……」


 先ほど、ジゲンと俺に、私も頑張ると言っていた小さな女の子は、俺の横でスースーと寝ていた。


「ほっほっほ、たまには長かったようじゃの……」


 ジゲンはニコッと笑い、たまの頭を優しく撫でた。


 そんなわけで、仇討の話しは終わった。ケリスがもしも強大な魔物を生み出し、動いた時には、俺がその魔物を倒し、ジゲンがケリスを斬る。

それで、皆の無念を晴らせるというジゲンの言葉に、俺も納得し、承諾した。

そして、それまでジゲンは昔の勘というものを取り戻すために時々で良いから、俺に手伝ってくれと頼んでくる。

 先ほどの手合わせで、もう充分だと思うが、ジゲンと闘うのは面白い。俺は分かったと頷いた。


 ◇◇◇


 その後、たまが起きるまで、俺達はその場で色々と話していく。


 取りあえず、ケリスが闘鬼神に手を出さないとも限らない。これまで通り、奴には関わらないようにということを皆に約束させるとした。むろん、闘宴会にも手を出さないことも同様に。

 ただ、何かされたら、俺に報告が来るようにはする。皆の代わりに俺が話を付けるということにすれば動きやすい。

 流石のジゲンも、この時は、俺の自由にしろと言ってくれた。向こうが喧嘩を売ってきても、俺が買えば良いだけの話。皆に後で、報復が出ないようにその時は思いっきりやろうと決めた。


 そして、ジゲンがジロウということは俺とたまだけの内緒ということにする。正体を知る者が多ければ、どこでバレるか分からない。今まで姿を隠して生きてきたということが無駄になる。

 ケリスが、ジロウがこの街に戻ってきたということが知れれば、先に言ったように屋敷の者たちにも被害があるかも知れないし、特にたまの身が危なくなるかも知れない。それだけは避けたいとジゲンは俺に頼んできて、俺はそれを受け入れた。

 だが、一応コモンはジゲンの正体に気付いているという。ジゲンは自分の素性を鑑定スキルで視られないために、常時、隠蔽スキルでそれを隠していたとのことだが、コモンの極めた鑑定眼の前では無力だったらしい。

しかし、既にコモンにも、ジゲンの正体のことは秘密に、と伝えてあるらしく、問題ないという。

……俺もその話は知らないからな。頭領として、何となく複雑だが、それなら大丈夫かと安心した。


 ふと、俺は、ジゲンと同じく、牙の旅団の皆の仇を討ちたいと願うもう一人の男のことを思い出した。今までの、ジゲンの話の中にそいつが居なかったことに気付き、尋ねてみる。


「そういや、サネマサにはこの計画を話していないのか? 俺でなくとも、天災級の魔物を倒した実績があるし、アイツも牙の旅団の皆の仇は討ちたいだろうし……」

「ああ。あ奴には話してはおらん。そもそも、儂が姿をくらましたことも伝えてはおらんからのう」


 以前、下街の奴らに聞いた話だと、ジロウが姿を消したとき、クレナの民は、一番の親友である、サネマサに心当たりはないかと尋ねたという。だが、サネマサも、その時にジロウが行方不明になっているということを初めて知ったらしく、驚いていたらしい。


「なんで、そんなことをしたんだよ。アイツなら爺さんの考えに乗って、すぐ協力してくれると思うのだが……」


 むしろ、隠す理由が分からない。サネマサは領主と同等の地位を持つ、十二星天の一人だ。権力という面では、ジゲンの大きな支えとなることが出来る。

 この計画に、サネマサを加えていない理由が分からず、頭をひねっていると、ジゲンはフッと笑みを浮かべた。


「それはの……サネマサも今や、「武王會館」という、護るべき多くの者達をもっておる。そんなサネマサを、儂の計画に加えるのはどうしても抵抗があったのじゃ。

武王會館の長ともあろうものが、理由はどうあれ、レインの貴族を斬ることになってみよ。最悪の場合、多くの門下生が行き場を無くすことになるじゃろう。

……またしても、儂があ奴の全てを奪うことになるのは、どうしても嫌じゃった……」


 ジゲンが、サネマサと共に帰還した後、サネマサに、呪った相手はケリスだと伝えるのをためらったのも、それが理由だった。あまり深いことは考えずに、突っ走ってしまう癖があるサネマサに、皆の仇はケリスだと言えば、後のことは考えず、怒りのまま、ケリスを斬ってしまうだろう。

そうなってしまっては、当時、設立しようと願っていた武王會館も夢のまま終わっていただろうし、今となってはサネマサの元に集まった多くの弟子たちにも影響が出る。

 仲間を喪った親友の、更にその弟子たちも奪うことになるのが、ジゲンはどうしても嫌だったという。

その言葉に、納得し、どこまでも、あいつのことを思う、ジゲンの心に俺は感服してしまった。


「本当に、仲が良いんだな」

「まあの。今となっては儂にとって、ただ一人の親友で、古くからの戦友じゃからの……」


 ジゲンはどこか誇らしげに、そう言った。そして、俺もジゲンの思いを汲み取り、ケリスの仇討には、アイツを加えないことを決めた。俺がアイツの代わりにジゲンを助けてやろうと、そう決めた。


「……そう言えば、ムソウ殿。改めてじゃが……」

「ん? 何だよ」


 ふと、今度はジゲンが何かを思い出したように口を開く。どこか、改まった様子が不思議に思いつつ、ジゲンの方を向いた。すると、ジゲンは微笑みながら、俺に頭を下げる。


「アヤメやシロウ、ショウブ、ナズナが世話になっておることに感謝する」

「何だよ、急に……」


 まるで、自分の子供が世話になったと親が語るように、ジゲンは俺に礼を言った。まあ、実際、あいつらはジゲンが育てたのだからな。自分が育てた「子供たち」の成長というのはやはり嬉しいらしい。


「別に何でもねえだろ。アンタが出ていって、落ち込んでいたところに発破かけてやっただけだよ。俺は特に何もしてねえし、シロウに関しては、ほとんどアンタのおかげで自信がついていただろうに」


 昨日の刀の一件は特に喜んでいたな、シロウ。今にして考えてみれば、ジゲンが最後の仕上げにと、シロウを後継者として本当に認めたという光景にしか見えなかった。最後まで嬉しそうに、ジゲンに頭を下げていたなと思い出しながら笑った。


「シロウは昔から臆病で、ショウブやアヤメによく泣かされておったの。それを儂が慰めておったら、特に儂に懐くようになっての。そんなシロウが可愛くて、技を教えたものじゃ……」


 ジゲンは懐かしそうに、シロウのことを話す。今は見る影もないが、昔がおどおどとしていたシロウ。家ではショウブによく泣かされていたらしいが、それをしょっちゅうジロウが慰めていたことで、皆よりも強くジロウに懐いてきたという。

後に、ジゲンが自らの技や剣術を教えていた時も、手合わせにとアヤメと闘った時などもボロボロに負けて、わんわん泣いていてはジゲンが必死に慰めていたらしい。


 だが、何時の頃からか、シロウはこのままでは強くなれないと悟り、アヤメやショウブに負けても、泣くのをグッとこらえ、強くなるために鍛錬を続けたという。

そして、ついにはアヤメとショウブにも、何回か勝つまでに成長した。ジゲンはその時、いつの間にか、心も体も強くなったなと、シロウの成長を認め、自警団の長に任命したということだ。


「大したもんだな……」

「うむ。そして昨日、シロウが零の刀から魔刀を抜き、儂の技を使いこなすさまを見て、本当に強くなったなと感じたのお……」


 手をかけた息子が、デカくなって、自分の後を継いだという光景はジゲンにとっては、やはり、嬉しかったようだ。

 俺はジゲンが語る、シロウの話が面白かった。ついでにと、他の奴らのことも聞いてみた。


「ショウブはどんな娘だったのだ?」

「まあ、先ほども言ったように、少し強気なおてんば娘じゃったよ。男勝りでいつも上から目線じゃったショウブは、やはりそんなシロウをいじめるのが好きだったようじゃの……。

じゃが、いつも自信満々で勝気じゃったショウブも、タツミの技には苦労したようでの。上手く風を操れないと、一人隠れて泣いておるのを何度も見たことがあるの」


 ショウブは今と同じく、背と容姿の割にはでかい態度をとっていたらしい。だから、おどおどとしていたシロウを、からかってはよく泣かせていたのだという。

そして、シロウがショウブに初めて勝った時などは、俺と初めて会った時のように、何時までもそのことを認めずふてくされていたという。

 そんなショウブは魔法の才があり、適正も風だったということで、ジゲンは、牙の旅団の亡き戦友、タツミの鉄扇「風神」を与え、タツミの得意としていた風魔法の全てを教えたという。

だが、それは難しいもので、上手く出来ないと言っては、皆に隠れて泣いていたという。ジゲンはそんなショウブに近づき、元気づけた。


「ショウブ……なかなか上手くできないのは分かる。魔法だからな、俺にも上手くできない……」

「……ジロウが出来ないこと……妾に出来るわけないのじゃ……」

「そうか……まあ、それならば安心だな。何せお前が俺よりも魔法を使いこなすことが出来れば、俺よりも優れているということだ。ここで一番強い俺よりも凄いということになるのだが、そんな心配はないな。

やはり、クレナの最強は俺だとこれからも名乗り続けることが出来るな!」


 元気づけるというより、ほとんど挑発だ。ジゲンは少し大げさに落ち込んでいるショウブの前で、高笑いした。すると、ショウブがパッと顔を上げて、ふてくされながら、ぽかぽかとジゲンを叩いてくる。


「何じゃ、何じゃ、何じゃ~! 言わせておけば~!」


くすぐったい拳だなあとジゲンが笑っていると、ショウブはびしっと指をさす。


「必ず……必ずジロウよりも強くなって見せるからの!」


 半泣きで鉄扇を掲げるショウブ。それを見たジゲンはフッと笑い、ショウブの頭を撫でた。


「……その意気だ。強くなって俺やタツミを越えてみろ。期待してるからな」


 牙の旅団に入って来たときのタツミと同じく、強くなりたいと願うショウブを見て、もう大丈夫だろうと安心したジゲンは、その後も、ショウブに風魔法を教え続けた。


「そんなショウブも、今では自らの自警団を率い、アヤメの補佐をしている。体は昔と変わらんようじゃが、ショウブも強くなったのじゃろうな。ムソウ殿には敵わんかったようじゃが、それによりさらに強く成長してくれると嬉しいの……」

「容姿については本当に言ってやるなよ。本当に泣くぞ」


 そうか、とジゲンは穏やかに笑った。今では空を飛んだりと多芸だ。竜巻を起こしたり、その頃と比べるとだいぶ成長したんだなと話を聞きながら実感していた。まあ、態度までデカくはなっているがな……。

 だが、ジゲンのことを本当に好きなんだということは伝わっている。ジロウを知らないと言ったら、怒られかけたからな。

あいつにとっては今でも、ジロウは大きな目標であり、立派な親なのだろう。


「それで、ナズナは? 何か面白い話はあるのか?」

「ナズナは、シロウと同じくおどおどとした性格じゃったの。それにどこかあぶなかっしく、何もないところで転んだり、料理をしていたら何故か火事になりかけたりと、いろんな意味で目の離せない娘じゃった。

じゃが、武術を教える時には人が変わったようになる。初めて扱うはずの武器にもすぐに慣れて自在に扱えるようになっておった。気の扱いも上手いもので、他の者たちに比べると、儂が教えに入るのは少なかった方じゃの」


 なんでも、ナズナにどの武具を渡そうかと悩んでいたジゲンは取りあえず全員に、それぞれの武器を持たせ、良いものを選ぼうとした。ショウブは魔法の才があったので、必然的にタツミの鉄扇になったが、ナズナにはそれが無かったから、取りあえず使いやすいものをと思って渡していくと、初めて持ったはずなのに、ロウの槍も、エンミの弓矢も上手く扱っていた。

 この結果は困ったなと思ったジゲンは一応、ナズナは気功スキルも使えるということで、気の扱い次第で強力なものになってくるミドラの刀を渡した。ナズナはたちどころにその、「千手・千眼」をも使いこなし、ジゲンは大層驚いたという。


 だが、ナズナに関して一つ問題があった。10歳を過ぎたあたりから、ナズナは大人の女たちにも負けないくらい、美しい女性へと成長していった。

闘う術を覚えるのは良いが、ナズナには落ち着いた人生を送らせる方が良いのかも知れないと考えるようになってしまい、修行を辞めさせ、花嫁修業のようなことをさせようとした。しかし、ナズナはそれを断った。


「……何でだ? お前ほどの美貌ならば、どこかに嫁いで幸せに暮らすという選択も出来るのだぞ?」

「それも良いと思っております。……ですが、ジロウさん。私もアヤメさんやショウブさん、そして、シロウと一緒になってここを護っていきたいと思っています。

そのためにはもっともっと強くならないといけません。ですから、もっと私にいろんなことを教えてください!」


 教えてくださいと言われても、特に何も教えることはもうないよなと、困りつつ、ナズナが故郷を大切にしたいという気持ちを聞けて嬉しかったジゲンは、分かったと頷き、その後も色々なことを教え続けた。


 まあ、それでも少しおっちょこちょいなところは変わっていないがなと思いながら聞いていると、最後にジゲンは少し苦い顔をして、口を開く。


「じゃが、高天ヶ原で妓女をやっているというのは知らなかったのう。コスケと一緒に管理をするというのはここを出る前に聞いたが……。

それも四天女と言われる最高峰の妓女の一人とは、いやはや、人生どうなるものかわからんのお……」


 やはり、「親」としてはその辺りは不安のようだ。アヤメから聞いた、ナズナの秘密については黙っとこ。さらに落ち込みそうだ……。


「まあ、それに関しては、さっきも言ったように。現在ツバキとリンネが世話になっているからな。俺にとってはありがたいことだぞ?」


 落ち込むジゲンにそう言うと、またしても、そうかと、笑って頷く。そういや、最近ナズナに会ってねえな。元気にしているのだろうか。


 まあ、ツバキたちを返してもらう時に会えるだろうし、その時に俺と闘いたいとも言っていた。以前はそこまで感じなかったが、ジゲンも認めるナズナの本気の闘い。楽しみにしておこう。


「さて、最後にアヤメだな。話を聞きながら思っていたのだが、ずいぶんと昔は丸い性格だったようだな」


 ジゲンの話に出てきたアヤメは何と言うか、今とは全く違う人間のようだった。喋り方も態度も、どこか不安そうで、牙の旅団の者達にいじられて、困っているような感じだった。何がどうなって、ああなったのか気になっていた。


「あの頃のアヤメは領主としての自覚がほとんど無かったからの。仕方ないじゃろう。

じゃが、ギルドの支部長も兼任するようになり、多くの猛者たちを相手にすることが決まってからは、自然とああいう風になったのお」


 ジゲンによれば、支部長になって数年が経った頃、もう少し堂々としないといけないと考えたアヤメは、ちょくちょくジゲンの元を訪れては、刀の稽古をして、心身ともに鍛えていったという。

そして、周りの男たちや、ショウブを見習い、口調も男のようにして、周りから強い領主として見られるように頑張っていたという。

 頑張る方向が違うよなと、思いつつも、叔父としては、それが嬉しくもあったジゲン。だが、そんなアヤメも、ジゲンの前では、以前のような態度になってしまっていたらしい。


とある日に、領主とギルド支部長の兼任で、疲労が溜まっていたアヤメを、サネマサと共に元気づけようと、ジゲンはギルドを訪れた。


「よう、アヤメ。大変そうじゃねえか」

「あ……ジロ……叔父さん……と、サネマサ……さん」


 やはり、他の者に接する態度とは違って、どこか自信が無さそうなアヤメにため息をつくジゲンとサネマサ。


「俺らにも皆と同じように接してくれていいって。俺も特に気にしねえからよ~」

「で、でも……サネマサさんは十二星天だし……」

「気にすんなって! 妙にへりくだれると逆に困ってしまう」

「サネマサの言うとおりだ。俺達の前くらいは、むしろ肩の力を抜いてくれ」


 ジゲンの言葉に、渋々ながらコクっと頷くアヤメ。アヤメだって、牙の旅団を喪ったことは辛い出来事だった。自分の味方が減ったということは、やはり相当堪えるようだ。

虚勢を張っていても、そこだけはなかなか変わらない。もう少し様子を見ようとサネマサと頷き、態度のことについてはもう、何も言わなかった。


 すると、サネマサは、あ、そうだ、と言ってニカっと笑い、アヤメに口を開く。


「そういや、俺の一番弟子、マシロで“闘将”と謳われたロウガンが、マシロ支部の支部長になることになったからな。同じ支部長で、先輩として、よろしくな」


 アヤメはその名を聞いて驚く。ロウガンという名は、ギルドの支部長として過ごすうちに何度も聞いた名だった。マシロ領ですさまじい武勇を誇り、単騎でオオイナゴの大群を半壊させたり、超級上位の魔物と渡り合ったりと、多くの実績を持つ元冒険者だ。

だが、ある魔物との闘いで目をやられてからは一線を退いたと聞いていた。

 なんでも、サネマサが、同じく十二星天で、ギルドを創設したセインに頼み込んで、ロウガンを支部長に推挙したという。アヤメは目を見開きながら、俯く。


「む、無理だよ……そんな人と肩を並べるなんて……」


 落ち込むアヤメを見て、ますます元気をなくしたじゃねえかと、サネマサを肘で小突くジゲン。サネマサは何とかしようと、気まずそうに笑いながらアヤメを元気づける。


「ま、まあ、そうは言っても、支部長としてはお前が先輩だ。堂々としていればいいんだぜ」


 サネマサの言葉にジゲンも頷き、続けた。


「そうだな。何なら、ロウガンを相手に自信をつける練習でもすればいい。そうやって、もっと強い奴らにも胸を張って自分の意見を言えるようになれば、お前ももっと強くなるはずだ」


 ジゲンがそう言うと、アヤメはゆっくりと顔を上げた。


「……出来るかな……私に……」

「出来るさ。前から言っているだろ? お前は俺の姪だ。“刀鬼”と謳われる俺と同じ血を引いてんだ。きっと出来る」


 ガラにもなく、自分では嫌っている方のあだ名で胸を張るジゲン。そして自信を持てと、アヤメの肩に手を置くと、アヤメはコクっと頷く。


「なんだったらよ、初めて会う時とかに、いきなり斬りかかってみろ。自分の方が上なんだということを分からせるにはちょうどいい」


 ニカっと笑って、付け加えると、アヤメの目が開かれる。そして、ジゲンの隣で、サネマサもポンっと手を叩いた。


「そりゃ、良いな! 病み上がりのロウガンには、ちったあ、いい刺激になるはずだ」


 サネマサも、ジゲンの言葉に同意した。すると、しばらく黙っていたアヤメが噴出したように笑い始める。


「……ぷっ! アハハハハハッ! そうだね! 確かにそれは面白いかも知れない!」


 アヤメは何か吹っ切れたように、笑い続けた。調子が出てきたなと、ジゲンもサネマサも笑った。


「おうよ。絶対、面白いぞ。ここに来たときなんかにいきなり斬りかかるというのもいいかもな。ロウガンだけじゃなくて、俺やサネマサのような強い奴にもやってやれ」

「え~、大丈夫かな?」

「問題ないだろう。いくら強くても、ここじゃ、自分が一番偉くて強いということを示す絶好の機会だからな」

「ジロウの言うとおりだ。クレナの武人は舐められたら終わりだからな。盛大にもてなしてやれ!」

「そう……だね! うん! がんばってみる!」


 両手で拳を作って、腕の前で構えるアヤメ。やはり、どこか子供っぽい仕草に、ジロウとサネマサはやれやれと苦笑いした。


「……そうじゃないだろ?」

「あ……うん! ……じゃなくて……おう! 任せろ、叔父貴! それに……サネマサの爺い!」

「おま……爺いはねえだろ……ジロウとほとんど同い年なのに……」


 すっかり自信を取り戻した様子のアヤメを見ながら、ジゲンは笑い、サネマサは落ち込み、更にその場は笑いに包まれていった。


「……その後、すぐじゃったのう、アヤメが“暴れ姫武将”と揶揄されるようになったのは。他の者たちは嫌っておったが、儂としてはそんなアヤメが好きじゃった。

サネマサも、いっちょ前に俺に意見してきやがってと、落ち込みながらも、アヤメの成長に喜んでおったようじゃった」

「へえ……そんなことがね……」


 俺は、アヤメがそう呼ばれるようになった理由を知って、何とも面白い話だなと思った。心配しているのではないかと思っていたのだが、むしろその逆で、ジゲンはアヤメがそんな風になっていくのが嬉しかったようだな。


 しかし、ジゲンは、昔は好戦的と言うか、今とはまるで別人のような性格だったのだな。ショウブへの励ましの時にも思ったが、まるで俺やサネマサみたいな人格だ。想像もつかないが、確かにそんなジゲンが育ての親だったら、ああいう風に育つよなと思い、俺は苦笑いした。


 だが、一つだけ、これだけは伝えておこうと思い、口を開いた。


「……ちなみに、毎度俺がアヤメの所に行くたびに、斬りかかってくるの……あれはお前らが原因だったんだな……」


 昨日もされたし、どうにも面倒だなと思っていたのだが、あれはジゲンたちが言い出したことなんだと頭を抱えていると、ジゲンは目を見開き、笑い出した。


「ハッハッハ! アヤメめ、ムソウ殿にまでやっていたのか! 全く、いい子に育ったものじゃな」


 ……あ、少し昔に戻ったような感じがする。どこが良い子なんだよ……。


 ただまあ、今日はやり返したし……というか、毎回やり返しているし、こいつらの思惑通りになっていないということは黙っておこう。


「……うぅ……うん?」


 あ、ジゲンの笑い声でたまが目を覚ました。眠そうに目をこすりながらあくびをしている。


「あれ……わたし、寝てた? ……お話……おわった?」

「ああ。長ったらしい話をしていて悪かったな」


 そう言って、たまの頭を撫でると、おぼろげながらたまはコクっと頷く。ジゲンはたまに、今日見たことは皆には内緒、自分と俺、たまの三人だけの秘密じゃと約束させると、たまはニコッと笑い、頷いた。


「よし……では、たまも起きたことじゃし、そろそろ帰るかの?」

「え~……私、お買い物したい~」

「ん? そうか。ではこのまま少し下街を回ってみるか……」


 たまの提案に頷き、俺達は空き地を出た。いつものように前髪を下し、どこからどう見ても、“刀鬼”ジロウには見えない様相で、嬉しそうにたまと手をつないで下街を歩くジゲンを見て、面白いなあと思いつつ、家族って良いものだなと、改めて思っていた。


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