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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第178話 ジゲンの過去 ―“刀鬼”と“武神”の誓い―

 クレナ領主アヤメの邸宅。そこでは現在、十二星天の一人、セインが設立した冒険者ギルドクレナ支部の設置準備の作業が進んでいる。ギルド支部長に、サネマサは、親友であるジロウを推挙。

 だが、ジロウがそれを断ったため、まだ若いが、腕が立つ領主アヤメが兼任することになった。仕事が増えると頭を抱えるアヤメに、牙の旅団の者たちは、何かあったら必ず助けるからという約束をして、アヤメは安心した。

 この人たちが居れば、私ももっと強くなれる。そうなれば、今度は私が、牙の旅団の皆を助けよう。

 そう思っていたアヤメだったが、サネマサのもたらした凶報に愕然。以来、執務室にふさぎ込むようになってしまった。


 そして、同じ屋敷の別の部屋では、今なお目を覚まさないジロウの療養が進んでいる。毎日のようにジロウの見舞いにと、ジロウ一家の者たちや、ジロウが育てている子供たちがやってくる。

 今はまだ、そっとしておいてくれというサネマサの言葉に見舞いに来た者たちは頷くと屋敷を出ていく。


 だが、何人かの小さな子供たちが前に出てきて、サネマサに折り紙で出来た花束を渡した。不格好ながらも、花の形はとどめている。一生懸命作ったんだなと、ハルマサは折り紙を見ながらそう思った。


「これ……ジロウさんにおそわったの……」

「ぼくたち……がんばってつくったんだ」


 ふと見ると、その子供は、髪が長く、目のクリッとした可愛らしい女の子と、少しおどおどした様子の小さな男、もう一人は二人よりも少し年上のお姉さんという感じの、やんちゃそうな女の子だった。


「ジロウに……渡して……欲しいのじゃ……」


 普段は勝気なんだろうなと思うような女の子が、涙目になりながら、サネマサに頼むと、サネマサは、三人の頭を優しく撫でた。


「わかった。きっと渡しておくよ。すぐにジロウも元気になると思う。だから、もう泣くのは辞めて、おうちに帰るんだ」


 ニカっと笑うサネマサに、三人の子供は頷く。そして、ジロウ一家の者達に手を引かれて、屋敷を出ていった。良い家族が居たもんだと、サネマサは胸を撫でおろし、折り紙の花束を持って、ジロウの部屋に向かった。


 そこでは、寝具に横たわり、すやすやと寝ている様子のジゲンと、治療と経過を観察する女の医者のような者が居た。袴に花柄の衣、白い羽織を着た女だ。

 栗色の髪を三つ編みにして、まとめている。歳のほどは、二十代後半といったところか。長い錫杖を手にしながら、ジロウの様子を紙に書き込んでいるようだった。


「よう、ジェシカ。その後はどうだ?」


 サネマサは女の名前を呼び、ジロウに近づいていく。その女、サネマサと同じく十二星天の迷い人、“聖母”ジェシカはサネマサの方に向き直り、口を開く。


「今のところは問題ありません。大きな外傷もあなたが付けたものくらいですし、呪いの方も、大丈夫なはずです。

 一応、スキルを使ってみましたが特にこれと言った反応はありませんでした」


 大きな外傷はあなたがつけたもの、そう言われて、サネマサはギクッとする。やはり手持ちの回復薬だけでは傷痕が残ってしまったか。

 まあ、あの時はああするしかなかったと今でも思っている。後悔はない。ただ、親友の体に大きく残った傷痕には、素直に悪いと思った。


 肝心の呪いの方も問題ないということだ。ジェシカのEXスキル癒すものは、どんな怪我、病気もたちどころに治してしまうというもの。回復薬や、魔法など目ではない。

 それどころか、呪いや、幻惑などの特殊な状態異常も治してしまう能力だ。

 一応、ジロウにも施したのだが、特にこれといった反応は無かったという。

 気絶させたから治ったのか、呪いでは無かったのか今となっては定かではないが、取りあえずジロウは無事で、生きているということを再確認し、サネマサはドサっと椅子に座った。


「そうかあ~……少しだけ、安心したな……」

「少しだけって……私が居るんですから、当たり前でしょ?」

「ああ。すまないな、ジェシカ。世界の復興も、「治癒院」の準備も忙しいというのに」


 サネマサは忙しい身であるにも関わらず、自分の要請に応じて、クレナまで来たジェシカに頭を下げる。いつもなら、強敵と闘うたびに大きな傷を負ってはジェシカに治してもらい、その後、ジェシカの心配をよそに、ニカっと笑うだけだったサネマサ。

 そのサネマサに苦労をかけてすまないと頭を下げられるのはジェシカとしても、慣れたものではない。

 ジェシカは、内心慌てつつも、息を整えて、ニコッと笑う。


「私たちは同じ十二星天の仲間ですからね。気にしないでください」


 ジェシカの優しい言葉にサネマサは頷く。そして、ジロウを見て、枕元にそっと子供たちから預かっていた折り紙の花束を置いた。


「……お前も、早く起きろ。まだ、俺が居る。

 ……それに、お前が拾った家族もお前を待っている。だから、さっさと目を覚ませ……」


 サネマサは静かにジロウに語り掛けると、再び椅子に座り、ジロウを眺めていた。


 正直なところ、サネマサが受けた、仲間の死という衝撃は大きなものだった。ジロウと共に、シンムの里で闘い続け、二人で設立した、傭兵団。サネマサとジロウの武勇を聞き、仲間たちは増えていった。

 そして、多くの敵を倒し、壊蛇の襲来さえも乗り切り、クレナを護ったかけがえのない仲間達。

 それを一度に喪った、サネマサの心にも、大きな穴が開いている。今ここで、ジロウさえも喪ったらと思うと、気が気でない。

 だが、サネマサがここで取り乱しても、ジロウを待つ人々に不安を与えるだけだ。サネマサはジッと、ジロウの目覚めを待っていた。


 ふと、ジェシカが、サネマサを後ろから、そっと腕を回して抱きしめてきた。ハッとするサネマサにジェシカは再び、優しく口を開く。


「サネマサさん……ジロウさんが目覚めるまで、お二人のかけがえのない方々のお話、聞かせてくれませんか?」


 サネマサは、目を見開く。そして、胸元に置かれた、ジェシカの手を優しく握って、頷いた。


「……ああ。そうだな……」


 そう言って、サネマサは牙の旅団の一人一人の顔を思い浮かべた。皆と過ごした思い出は数知れない。思い出す度に、サネマサの心の中の大きな穴が、埋まっていく感覚があった。


 まずは、シズネ。牙の旅団の中では、肝っ玉母さんのような存在であり、闘いが終わると、美味しい料理で、皆の体を癒していた。好き嫌いが多いサネマサや、ソウマなどはよく怒られていたという。気遣いも出来て、同じく数少ない女性であるエンミには特に懐かれていた。

 次に、コウシ。サネマサ、ジロウに次いで、牙の旅団に加わった男であり、実力もあった。ジロウと共に飲み比べをしては、酒乱となり、暴れるのを、ロウと、サネマサが止めていたというが、いつの間にか、自分たちもジロウに止められていた。気のいい奴で、子供には好かれていたが、見てくれは悪いので、大人たちからは、何度か人攫いと間違えられていたという。

 ミドラは、気功スキルと、剣術の達人で、頭もよく回る、牙の旅団の策士だった。頭の悪いサネマサの作戦に、ジロウと共に、必ずと言って良いほど口を出し、皆を勝利へと導くことが多々あった。ふてくされるサネマサをシズネが慰めていると、皆は笑っていた。

 ロウは槍の達人。調子のいい男だが、闘いともなると、派手に魔物を倒すことを一番とし、ついつい力が入り過ぎるのが弱点。何度も、ジロウやソウマに助けられることが、あったが、これが俺のやり方だ! 槍だけに! と、笑って、結局戦い方をなおすということはしなかった。

 タツミは、牙の旅団の中で新参者で、まだ二十代。他の者たちの武勇に惚れ込み、強くなりたいと言って、加わった。

 だが、彼は部隊の中で一番の魔法の使い手で、他の皆の方が、彼に教えを乞うということが多かった。ちなみに、サネマサの魔法の師匠である。十二星天の“魔法帝”ミサキに筋が良いと褒められ、いくつかの魔法を教わっていた。

 ソウマは腕っぷしだけならだれにも負けない拳闘士。機転の速さは随一だ。潜入した先で、エンミと共に、何度も罠を看破し、皆の危機を救った。

 一度、刀を持たされたことがあったが、素振りをしていると、手から刀が抜けて、サネマサの方に飛んでいったという事件があった。サネマサは怒り、皆は笑い、以来、こいつに武器を持たせるのは辞めようという話になった。

 エンミは、狩人で弓矢の達人。遠く離れた敵を迎撃するのが得意だった。普段は冷静だが、ジロウが拾ってきた子供たちと遊ぶときは、他の誰よりも楽しそうにはしゃぎ、どちらが、子供なのか分からないと、ミドラやタツミに笑われるということが多くあった。シズネから、料理を教わっていたが、未だに上達はしていなかったようだ。

 チョウエンは、コウシと仲が良く、よく二人で鍛錬をしていた。お互いの合体技だと、コウシの斬波と自分の斬波を合わせた十字斬波をサネマサに放つと、サネマサが二刀流で十字斬波を放ち、二人の攻撃をかき消したときには、呆然としていた。さらにその後、ひと呼吸で、六つの斬波をジロウが放った時には、愕然とし、もう少し頑張ろうと、コウシと共に酒を呑んでいた。

 牙の旅団の薬師、サンチョはぶっきらぼうだが、薬の調合の腕は確かだった。常に最前で闘い、けがをするサネマサをよく治療していた。また、毒薬なども作ることが出来、魔物の大群と闘った時などは、500程いた昆虫型の魔物が、火を起こして、毒の煙を撒いただけで死んでいく光景を見ながら、他の牙の旅団の面々は、この中で真に怖いのは、サンチョと怯えるようになり、けがをしないように闘っていたという・・・サネマサを除いて。


 仲間達の顔、一人一人を思い出し、時には共に笑い、泣き、共に怒ったときのことをジェシカに話し続けるサネマサ。ジェシカは何度も頷きながら聞いている。

 まだ、あいつらのことを思っている、あいつらのことを知ってくれる人がいる。そう考えるだけで、重かった、サネマサの心はだいぶ軽くなっていったような気がした。


「素晴らしい方々ではないですか。皆様の分も、これからもしっかり生きていかないといけませんよ」

「ああ、そうだな。皆、俺達にとって、本当に素晴らしい、心から頼れる仲間達だった。もう、あんな奴らみたいのは、そう居ないだろう……」

「あら、私たちがいるじゃないですか。これからも頼っても良いんですよ」


 ジェシカは、サネマサから体を離しながらそう言った。サネマサはニカっと笑い、ジェシカの言葉に頷く。


「フッ……そうだな。これからも頼りにしてるぜ、“聖母”さん」

「こちらこそ、“武神”さん」


 二人はそう言って、お互いに顔を見合わせ笑い合った。多くの仲間を喪ったが、まだ、自分にはこいつらが居る。今度からはそいつらも護り、この先の時代を強く生きていける奴らを多く育てていこうと改めて思い、武王會館の完成を急がせるかな、と考えていた。


 すると……


「……そんな仲間を……俺が……殺したんだ」


 突然聞こえた声にサネマサとジェシカは驚き、パッとジロウの方を向く。寝台の上で、ジロウは目を開き、天井を見つめていた。その眼にはいつの間にか、涙があふれている。


「ジロウ! 目を覚ましたのか!」


 サネマサはジロウに駆け寄った。だが、ジロウはサネマサの顔を見ようとはせず、虚ろな目で宙を見ていた。


「皆……死んでいった……俺が……斬ったんだ……多くの親友たちを……俺が……」


 ジロウは一人、後悔の声を上げる。

 呪いの後遺症の一つである、強い喪失感、更にジロウの場合は、自身で仲間を斬ったという後悔、怒り、悲しさで頭の中はいっぱいだった。このまま死んだっていい。サネマサはジロウの目からそんな思いを汲み取った。


 そんなジロウの手をサネマサは握る。


「……ジロウ……まだ俺が居るだろ? 俺は生きている。そして、お前も生きている。まだ大丈夫だ。まだ、やり直せる。

 ……だから、安心しろ。これからも親友の俺をばんばん頼ってくれよ……」


 サネマサが泣きながらそう言うと、ただ一点を見つめていたジロウの目がサネマサに移った。項垂れ、震えながら自分に祈るような親友の姿を見て、ジロウの目が開かれる。

 先ほどと違って、虚ろの目ではない。ちゃんと焦点を合わせ、ジロウはサネマサを見つめた。


「サネ……マサ……すまなかった……本当に……すまなかった……皆……」


 ジロウはなおも涙を流し続け、謝った。かつて苦楽を共にし、共に居続けた、戦友たちに思いを馳せながら、ジロウとサネマサは、泣き続けた……。


 さて、意識が回復したジロウは、サネマサに抱えながら起き上がる。すぐさま、ジェシカの診察が始まった。取りあえず今のところは問題ないということだ。ただ、精神面はひどく衰弱している。歴戦の戦士であるジロウは、そんな状態ながらも自分のことは分かっていた。しばらくは安静にして、というジェシカの言葉にジロウは頷く。


 そして、ジロウはサネマサに依頼中に起きたことを語り始める。無理しなくて良いというサネマサだったが、「俺が居る」というサネマサの言葉を信じ、希望を見いだせたジロウは、辛くても、あの時のことをサネマサにも伝えておいた方が良いと判断し、状況を伝えた。


「迷彩龍を倒した後……そいつの腹の中から羽を見つけたんだ。黒く禍々しいもやがかかっていた。そしたら、俺の頭の中に何か声が聞こえ始め、激しい頭痛に襲われた」

「羽? 魔物か何かのか?」

「いや……たいていの魔物ならわかるんだが、あんなのは見たことがない。そして、なおも聞こえてきた声の正体が、その羽だと思った俺は、その羽を斬った。だが、声は更に強く大きくなっていき、頭の痛みが頂点になった途端、俺は意識を失った。

 ……そして、目が覚めると、俺は誰かの殺意で頭の中がいっぱいになり、そばにいたシズたちを……」


 ジロウはそこで、口をつぐむ。そこからジロウが仲間達を襲ったのかと理解したサネマサは、ジロウの肩に手を置いた。


 まとめると、迷彩龍の中にあった羽が呪いの触媒か何かになったのだろう。

 そして、どこかでジロウに付けられた呪印が、その羽に反応し、ジロウは呪われた。頭の中で聞こえてきたという声は恐らく呪った奴のものだ。他人の精神に、自分の精神を植え付けるのが、呪いだからな。

 しかし、ジロウほどの男に効果のある呪いなど聞いたことがない。まあ、症例自体少ないのだから、何とも言えないのだが、下手をすれば、自分にもかかるのではないかとサネマサは身震いする。

 そばにいたジェシカにも確認したが、そんな呪いは聞いたことがないとのことだった。一体誰が、どんな手を使って、ジロウを呪ったのか、サネマサは深く考えていた。


「それで……俺に会うまでは、何していたんだ?」

「……皆を斬っても、俺の頭は大きな殺意で溢れていた。何日も向かってくる魔物を斬り続け、そして、気づいたら俺の前に男が立っていた」

「男?」

「ああ。姿までは分からなかったが、その男は、俺に近づき、呪いの力を強めた。間違いなく、そいつが俺に呪いをかけた張本人だろう。そして、皆の遺体から何かを取り出し、魔石に封じ込めるとどこかへ去っていった」

「何かを取り出した? 一体何を取り出したんだ?」

「……分からない。皆の亡骸が、輝いたと思うと、そこからボヤっと光の塊が出てきた。そして、その光は男の持つ魔石に吸い込まれていった」


 ジロウの言葉に、サネマサ、そして、そばにいたジェシカも考えをめぐらす。一体、何を取り出したのか。何がしたかったのかが全く分からない。

 ただ、一つだけはっきりしたことは、ジロウを呪った者は確実に居るということ。その者は、ジロウの顔見知りだということだ。

 必ず、皆の仇をとってやるとサネマサは改めて誓った。


 そして、ジロウも……。


 実は、ジロウは、自分を呪った相手が誰なのか、もう分かっていた。姿は見えなかったが、声は分かる。それに、弱っていたとはいえ、自分の動きを封じることが出来る者はこの世界にそんなに多くはない。

 だが、サネマサに今、それを言うわけにはいかなかった。それほど、面倒な相手だということだ。しばらくは黙っておこうと、ジロウは決めた。

 そして、ジロウは一人、ある思いを抱いていた。皆を殺したのは自分だ。あいつが、俺の頭の中に入ってきて、そうさせた。自分や、仲間たちは傭兵。いつ、今生の別れが来てもおかしくない立場には居た。だが、こんな形で皆と別れることになるなんて、とジロウは手を握る。


 俺を操った男……あいつは必ず、俺の手で息の根を止めてやると、ジロウは決意した。


 ひとまず、話を終えたサネマサとジロウは、今回の一件を皆に黙っておくことにした。仲間達を斬ったのがジロウということが広まると、クレナの住民から不審がられる。自警団も居ることだし、それは避けたいとのことになった。

 一応は、迷彩龍もしくは、何か架空の魔物が居たということにして、そいつらに牙の旅団がやられたということにする。

 それから、強力な呪いを使い、強大な力を持つ者がこの世界には居るということを、未だ壊蛇の襲来の記憶が新しい今の人界に広めるわけにはいかない。今回の呪いの一件は、ジロウ、サネマサ、そして、ジェシカの三人だけの秘密ということにした。


 その後、サネマサはジロウが回復したということを皆に、依頼の詳細について、ケリスに、と報告に向かった。ジロウは再び、寝ようとしたのだが、ふと、枕元に置いてある折り紙で出来た不格好な形の花束を目にする。

 不思議そうにそれを手に取って眺めていると、ジェシカが口を開く。


「あ、そちらは、サネマサさんが置いていったものですが……」

「……ああ、なるほど……上手にできているな……」


 折り紙を折ったのが誰かを悟ると、ジロウはフッと笑った。ジェシカは目を覚まして、初めて笑ったジロウを見て、驚く。小さな折り紙で、ジロウの心はだいぶ癒され、満たされたようだった。

 不思議そうに、折り紙を手にしたジロウを眺めているジェシカに、ジロウは口を開く。


「多分……子供たちだな。俺の屋敷に居る……。前に教えてやったんだ。冬なのに、お花が見たいと泣き出してな。仕方ないからこれを折ったら、泣き止んで、ニコッと笑っていた。

 そして、私も作りたいという皆に応えたんだ。あまり手先が器用ではない子なんだが……今日は上手くできているな……」

「なるほど……」


 ジェシカは、“刀鬼”と恐れられた、ジロウの、意外にもほっこりとした思い出に、微笑んだ。


「フフッ、ジロウさんにも、まだいらっしゃるのですね。大切な方々が」


 ジェシカの言葉に、目を見開くジロウ。その眼からは再び涙が流れる。だが、それは先ほどの悲しみに暮れた、涙ではない。自分にもまだ、護るものがあるのだという、喜びの涙だった。


「ああ……そうだな……しっかりしねえと、いけないな……。

 俺も、ショウブやナズナ、シロウ達が独り立ちするまでは……しっかりと生きていかねえとな……あいつらの代わりに……あいつらの分まで……」


 最後の度に出る前、仲間と交わした言葉。それを思い出し、涙を拭うジロウ。今日の所はゆっくりとお休みくださいと言うジェシカの言葉に頷き、ジロウはそのまま、布団をかぶり、再び眠りについた。


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