第177話 ジゲンの過去 ―慟哭―
あまりの光景に、皆絶句し、ジロウとシズネを見ている。シズネは信じられないという表情で、自らの腹を見て、ジロウの顔を見た。ジロウはうつむいたまま、何も言わない。
そして、ジロウはスッと、刀を腹から抜く。そのとたんにシズネの腹から血が噴き出る。
「ぐうっ!」
「シズッ!」
それを見て、ハッとした様子のロウ。倒れこむシズネを抱きとめようとした。だが、駆け寄っていくロウの首が突然刎ねられる。
ロウの首はその場にゴトリと落ち、胴体の方は、シズネと共に、ジロウの足元に転がった。
ジロウは、目の前で、シズネに駆け寄るロウの首を刎ね飛ばし、刀についた血を払った。
「ロウッ! な、なにやってんだッ! ジロウ!」
あまりの光景に言葉を失っていたコウシ達は声を荒げ、武器を構える。何か分からないが、ジロウの様子は確実におかしい。
最悪殺してでも、何とかしないといけないとそれぞれは思った。
しかし、そんな皆をシズネが手を出して、制する。そして、ゆっくりとジロウに顔を上げて、ニコッと笑った。
「ジ、ジロウ……疲れているんだろ? ……そうなんだろ? ……大丈夫よ……もう……敵はいない……」
シズネはゆっくりとジロウに語り掛けている。すると、ジロウの刀が下がった。それを確認すると、シズネは再度、ジロウに優しく微笑み、口を開く。
「そう……刀はしまって……うちに帰ろ? ……美味しいごはん……作って――」
そこで、シズネの言葉は途切れてしまう。ジロウは刀を素早く振り上げ、シズネの首を刎ねた。ドサっとジロウの足にもたれかかるように倒れるシズネの胴体。
ジロウはそれをどかし、その場に立ち尽くした。
「シズさあああんッッッ!!! ジロウッ! アンタ、なんてことをッッッ!」
シズの絶命を確認した、エンミは絶叫し、弓を引く。そして、気を纏わせて大きな矢を形成した。
「エンミッ! 待――」
「くらいなッ! ジロウ!」
チョウエンの制止を振り切り、エンミはジロウに矢を放つ。ジロウはゆらっと脱力したかと思うと、矢をよけて、凄まじい速さで、エンミとチョウエンの前に立ち、刀を構えた。
「なんで……――」
「ジロウ……――」
横なぎに一閃。涙を流すエンミと、チョウエンの首を一太刀のもと、刎ね飛ばしたジロウは、残る者達を睨みつける。
コウシ達は、ジロウの赤眼ににらまれ、一瞬、動きが止まった。その隙を突き、今度はソウマの間合いを詰めるジロウ。
「う、おおおおッッッ!!!」
「……」
慌てて繰り出されたソウマの拳を、腕ごと斬り落としたジロウは、そのまま首を刎ねた。ドサっと、ソウマの死体が足元に倒れるのと同時に、逃げようとする、薬師サンチョの背後から、刀を突き刺すジロウ。ジロウの刀は正確にサンチョの心臓をとらえていた。
「ぐっ……じ、ジロウ……な……何故……だ?」
「……」
心臓を刺されながらも、気力を振り絞り、ジロウに問うたサンチョだったが、ジロウは何も語らず、素早く刀を抜くと、サンチョはそのまま息絶えた。
ジロウは刀を払い、血を落とすと、残った三人を見据える。一瞬で、牙の旅団の仲間達を屠っていった、ジロウ。ずっと一緒に戦ってきたのに、一体なぜ、という疑問がコウシの頭の中を駆け巡っていく。
明らかにジロウはおかしい状態だ。そして、仮にこいつがこの密林を抜けたら大変なことになると、コウシは思った。
自分たちだけならまだしも、クレナに住む領民たちが危険にさらされる。その中には、ジロウが拾った奴らも居る。ナズナ、ショウブ、シロウという子供たち。そして、自らが立ち上げた自警団、ジロウ一家の者達。
そいつらまで、ジロウの手にかかって殺されるわけにはいかない。コウシは意を決し、口を開く。
「……タツミ……俺とミドラでジロウを止める。その隙に、お前は風魔法で飛んで逃げろ。
そして、サネマサと合流後、再びここに来て、ジロウを倒せ。
……ミドラもそれでいいな?」
「ああ……構わない……」
コウシの言葉にミドラは素直に頷いた。もうだいぶ歳をくってはいる自分たちに比べ、若干だが、まだ若いタツミにここは引いてもらうのが一番だと考えている。
だが、タツミはコウシの言葉には素直に頷かない。
「だ、駄目ですって! 皆で逃げましょう! コウさんも、ミドラさんも一緒に……!」
「馬~鹿。俺達はそこまで足早くねえんだよ。逃げるんだったら空となれば、流石にジロウも追えねえだろ。
それにな、時間稼ぎなら、俺達の能力が一番向いている」
「そうだな、コウシの言うとおりだ。俺の「千手」とコウシの「阿修羅」を相手にするということ、それはつまりその分だけの軍勢をジロウは相手にするということだ。すぐには追いつけまい。……だから、行け! タツミッッッ!」
コウシとミドラはそう言って、タツミを突き飛ばし、刀を構える。
「オオオオッッッ! 奥義・惨全道!」
「ハアアアッッッ! 奥義・極楽千手!」
コウシとミドラの背後にそれぞれ、三面六臂の鬼神と、いくつもの腕を持つ女の姿が現れ、ジロウに攻撃を仕掛ける。辺りに衝撃が走る中、タツミは涙を流し、二人の背中を見つめた。
そして、風魔法を使い、空へと飛びあがる。二人の努力は無駄にしないと、そのままクレナへと飛ぼうとした。
しかし、目の前の夜空に急に黒雲が立ち込める。その後、雲からは激しい雷雨が降り注ぎ、タツミを地上へと落とした。
「グハッ! い、一体……何が……」
地面へと叩きつけられたタツミは辺りを見渡す。すると、コウシとミドラがうみだした鬼神と女の前に、手が四本ある、別の鬼神の姿があった。それは、ジロウの刀、「帝釈天」の刀精、死神鬼だった。二人に対抗したジロウが、作り上げたらしい。
呆気にとられるタツミの目の前で、死神鬼は四本の腕で、大きな刀を二本操り、コウシとミドラの刀精の首を刎ねる。すると、フッと消える、刀精。
刀精は闘いの際にある程度の傷を負うと、それを癒すために、武具に引っ込むらしい。ジロウは、コウシとミドラの技を破ると、一気に二人に詰め寄り、刀を振りかぶる。
「コウさん! ミドラさん!」
タツミが必死になって叫ぶが、コウシも、ミドラも、振り向かず、ただただ、目の前で、今まさに自分たちを殺そうとするジロウを見つめた。
「……なあ、ジロウ。一体どうしちまったんだよ……」
「……」
「……せめて最後くらいは何か言え……」
コウシとミドラは、何か諦めたかのように、フッと笑う。そして、ジロウは刀を振った。
二人の首が胴体から離れ、ドサっと倒れるコウシとミドラの死骸。牙の旅団の中でも、サネマサに次いで、ジロウと特に仲の良かった二人でもジロウを止められることは無く、呆気なく死んだ。
そして、残ったのは、一番の若輩者である、タツミただ一人。多くの先輩を一度に失った、タツミは絶望と、諦めを胸に抱き、その場に座り込む。
そこへ、ジロウがゆっくりと近づいてきた。
今なお降り続く、雨に打たれながら、タツミはゆっくりとジロウに語り掛ける。
「何故……皆さんを殺したのですか……」
「……」
「何故……何も話さないのですか……」
「……」
タツミが何を言っても、ジロウは何も言わない。そんなジロウが許せず、タツミは、顔を上げて、叫んだ。
「答えろ! ジロウ! 何で……何で、こんなことをした!?
僕たちは! ……仲間でしょうがッッッ!!!」
声を荒げて、ジロウを問い詰める、タツミ。涙を流し、ジロウの胸倉をつかむ。だが、ジロウはそんなタツミにも反応せず、ゆっくりと刀を上げた。
何もかも、諦めたタツミはガクッと跪き、ただ、その時を待った。
すると、タツミの目の前に何かが落ちる音が聞こえる。見ると、そこにあったのは小さな赤い液体が、雨に交じって、地面を濡らしている様子だった。
……それは、血だった。
タツミが顔を上げると、何の感情も感じさせないジロウの両目から、血の涙が流れているのが見える。タツミが呆然としていると、ジロウの口がかすかに動いた。
「タ……タツミ……す……まな……い……み……皆……す……まな……」
「ジ、ジロウさ――」
ジロウはそれだけ言うと、刀を振り下ろし、タツミの首を刎ねる。ドサっと倒れるタツミの胴体。
そして、ジロウは刀の血を払い、鞘に納めた。すると、死神鬼の能力で出ていた黒雲は晴れていき、月明かりが、辺りを照らす。
辺りにはクレナ最強の傭兵部隊だった、牙の旅団の戦士たちの死骸が転がり、地面はその者たちの血によって、真っ赤になっていた。
……ジロウは、しばらくそこに立ち尽くしていた。すると血の匂いを嗅ぎ取ったのか、ジロウの周りに獣型の魔獣やら、昆虫型の魔物が多く集まってきた。
「グルルルルル……」
「フシューフシュー……」
魔物たちは、うなりを上げたり、ハサミや、鎌を使ってジロウを威嚇し出した。ジロウは魔物たちを睨み、再び、ゆっくりと刀を抜く。
「……ギッ! ガああああああああッッッ!!!」
魔物たちに雄たけびを上げ、突っ込んでいく、ジロウ。ただの人間が出す威圧感ではない。それを感じ取った魔物たちは一瞬驚き、動きを止める。そんな魔物たちをジロウはただただ、斬っていった……。
◇◇◇
……それからのことはよく覚えていないらしい。日が昇っても、ジロウは寄ってくる魔物を斬り続け、そして、夜が来て、また朝が来ても、ジロウは刀を振り続けた。強い殺意だけが、頭の中を支配し、目につく敵をすべて斬り終えたジロウ。
そして、刀を地面に落とし、力が抜けたように地面に跪くジロウ。しばらく、体を休ませていた。
すると、バサッバサッと翼をはためかせる音が聞こえる。朦朧としながらもその音の方を見ると、空から一人の男が降りてきた。
「ほう……これは、期待通りの働きだな……」
男は、辺りに散らばった、魔物の死骸、そして、牙の旅団の亡骸を見ながら、薄く笑う。この何日間か、動くもの全てを斬ってきたジロウは、そいつも斬ろうと、刀をとろうとした。
「動くな……汚らわしい人間の分際で……」
だが、その男が手をかざすと、金縛りにあったかのように動かなくなる。ジロウは射殺すような目でその男を睨みつけた。
「ん? まだ余力がありそうだ……もう少し、力を上げてみるか……」
男はそう言って、ジロウの頭に手をかざす。すると、今までジロウを襲っていた頭の痛みがさらに強くなった。
「ギ! あああああああッッッ!!!」
割れそうな頭の痛みに、叫び声をあげるジロウ。そして、ガクッと項垂れた。その様子を見た男は満足げに口を開く。
「ふむ、これで良いだろう。後になって、我の所為だと言われたらたまったものではないからな……それにしても」
そう言って、男は、牙の旅団の死体を見渡す。そして、コウシの亡骸を踏みつけながら口を開いた。
「ここまでの成果とはな……良くて三人ほどと思っていたのだが、まさか全滅させるとは……。
「傲慢」の呪い……まったく、良いものを手にしたものだ……」
男はコウシの亡骸を蹴り飛ばして、高笑いした。ジロウに男の言葉は聞こえている。だが、どうすることもできないし、意味が分からない。その時のジロウの頭の中にあったのはただただ何かを斬り、葬るという憎悪しかなかった。
そして、なおも、男の喜々とした声が聞こえてくる。
「牙の旅団……我がクレナを手にするのに、邪魔だった存在。それを一気に葬ってくれるとはな……やはりあの時、呪印を植え付けて正解だったか……。
おかげで手間が省けた。礼を言うぞ、“刀鬼”殿……おかげで我らが大願、間もなく成就される……」
俯くジロウに恭しく頭を下げる男。礼する気など、さらさらないという表情だ。ケリスは更に牙の旅団の亡骸に近づき、懐から、黒い球を取り出した。すると、亡骸が輝き始め、何かがぼおっと浮かぶ。その光は、男の持つ黒い球に吸い込まれていった。
「ほう……流石は、牙の旅団。ただの人間よりも強いな。
……だが、まだ足りない、か。ついでにこの魔物たちのも……ん?」
男は、更に魔物たちの死骸を眺めながら、牙の旅団の死骸に行った作業と同じことをしようとする。だが、妙な気配に気づき、眉を顰める。
「チッ……面倒な奴が来たか。我の楽しみを邪魔しおって……。
まあ、いい。ここで良くて相打ちにでもなれば、言うことは無いな……。さて、では我は退散するとしよう。ジロウ殿……存分に最期まで、殺し合いを楽しむが良い……」
男は、ジロウの金縛りを解き、その場を後にした。体が自由になったジロウはなおもそこに立ち尽くしている。
しばらくすると、遠くの方から、足音と、若い男の声が聞こえてきた。
「うお~……すげえ、魔物の死骸の量だな……あいつら、少しやり過ぎたんじゃねえの?」
声の主は呑気にそう言っている。ずいぶんと若い。ジロウはその声に聞き覚えがあった。……いや、あるどころの話ではない。ずっと、共に戦ってきた、親友の声だった。
……だが、そんなことはどうでもいい。ジロウに取って、斬るべき敵が徐々に近づいてきていることを知り、刀を握る手に力がこもる。
すると、木の陰から、その声の主がひょこっと現れた。
「お、居た居た! お~い、ジロウ、久しぶりだな~! サネマサだぞ~!」
声の主は、伝令魔法を受け取ったサネマサだった。タツミの放った魔法で、ジロウに何か異変が発生したと知ったサネマサはレインでの用事をすっ飛ばして、ここまで来たという。
「魔法を受け取ったときは驚いたが、元気そうじゃねえか~。安心したぜ、ジロウ。え~と……他の皆は?」
サネマサはそう言いながら、ジロウのそばまで来る。取りあえず、元気そうな様子に安堵したようだ。そして、きょろきょろと、辺りを見渡すサネマサ。コウシ達を探しているらしい。
だが、そんなサネマサの言葉に一切、ジロウは無反応だった。牙の旅団を探し、ジロウに背を向けるサネマサ。ジロウはゆっくりと、サネマサに気付かれないように刀を振り上げた。
……だが、
「に……げ……ろ……」
「ん? 何か言ったか、ジロ――」
ガキンッ!
ジロウの言葉に、振り返るサネマサ。それめがけてジロウは刀を振り下ろす。ハッとしたサネマサは刀を抜いて、ジロウの一太刀を間一髪受け止めた。
「……ジロウ?」
「……」
ギリギリと火花を散らしながら、刀を合わせる両者。強い殺気を含んだ目でジロウに睨まれるサネマサは、未だジロウが、何かおかしい状態だったということに気付く。そして、刀を弾くと共に、後ろへと後退した。
しかし、そこで、何かに躓き、しりもちをつくサネマサ。
「痛って……何だよ……?」
思わず、足元を見るサネマサ。すると、そこには見慣れた者の首が転がっていた。ハッとし、目を見開くサネマサ。
それは自分が立ち上げた、傭兵部隊、牙の旅団の一人、コウシの首だった。
「コ……ウシ……? な、どうして……?」
……だが、それだけではない。ふと、辺りを見ると、その他の者たちの首が転がっていることに気が付く。サネマサは状況が理解できず、ただただ慌てふためいた。
「し、シズ! それに、ミドラも! ロウも! タツミも! ソウマも! エンミも! チョウエンも! サンチョまで! ……おいっ! ここで何があった!?」
全員の亡骸を確認したサネマサは、唯一残っているジロウに詰問する。だが、ジロウからは何も返答はない。
代わりに刀での攻撃がサネマサに襲い掛かってきた。
「……」
「ジロウ! 答えろ! 何があった!? ……お前は……何をしたんだ!?」
ジロウから繰り出される攻撃をいなし、躱し、受けながら問い続けるサネマサ。だが、依然として、ジロウからの返答はない。
「くそっ! 一体どうすりゃ……待てよ……ジロウの様子……ひょっとして……」
ジロウの刀を弾き、距離をとるサネマサ。そして、普段とは違うジロウの様子を見ながら、サネマサは何か思い当たったようだ。だが、その解決策が分からない。一応、それが出来る者が居るには居るが、今すぐここに連れてくる手立てがない。どうしたものかと、考えていると、その隙を突き、ジロウが遠くから刀を振った。
「……」
「ハッ!」
ジロウの刀から飛び出した六つの斬波は踊りながら、サネマサに向かってくる。サネマサはハッとして、慌てて刀を構えたが、踏み込みが足らず、すべての斬波を防ぎきれず、サネマサの両手から、刀が離れていった。
「……」
「クッ!」
サネマサは、落ちた刀の場所まで駆けていくが、ジロウはサッと近づいていく。そして、サネマサが刀を拾った瞬間、ジロウはすぐそばまで来て、刀を振り上げていた。
「ここまでか!」
斬られると思ったサネマサは、目を瞑る。
……だが、ジロウは刀を振り下ろさない。恐る恐る目を開けるサネマサ。
……すると、そこには、血の涙を流しながら、全身に力を入れて、体を動かさないようにしていたジロウが居た。
「じ、ジロウ!」
「サ……ネマ……サ……」
サネマサの呼びかけに、ジロウは初めて反応する。驚くサネマサにジロウは、ゆっくりと言葉を発した。
「サ……ネマ……サ……俺……ヲ……斬レ……俺……ヲ……殺セ……コウ……シ……シズ……ミン……ナ……殺……シタ……俺……呪……イ……モ……ウ……オマ……分カ……ラナ……ダケハ……斬リタ……ナイ」
もうほとんど、ジロウの言っていることは分からない。だが、サネマサにはジロウの伝えたいことは分かった。こうなった状況も全て理解できた。
サネマサは目の前で、自分に殺せと言ってくる、何者かに呪われながらも、必死に自我を取り戻そうとする親友を見て目を見開く。
そして、ある決心をした。イチかバチかだが、以前、同じ十二星天のジェシカから聞いた、呪いへの対処法。それは危険な賭けだが、ジロウを絶対に助けたいと思った、サネマサは、刀を握る手に力を籠める。
「……わかった。だが、お前だけを逝かせない。お前が逝くときは……俺も一緒だからな」
サネマサが涙を流しながらそう言って、刀を振りかざすと、ジロウはわずかに口角を上げる。
その瞬間、ジロウの意識は再び消え去り、サネマサに向かって、ジロウの刀が振り下ろされる。
「ガアアアアァァァ~~~ッッッ!!!」
「ッ!」
サネマサは刀を振り上げ、ジロウの刀を上に弾いた。目を見開くジロウ。そして、フッと笑うと、ゆっくりと目を閉じた。
「ウオオオオオッッッ! 奥義・連獅子牙斬ッッッ!」
がら空きになった、ジロウの胴に、サネマサは二本の刀で、連撃を加えていく。目にも止まらぬ速さで、繰り出される攻撃に、壊蛇の鱗で出来たジロウの鎧は段々とすり減っていく。
そして、最後の一撃と、刀を交差させて、両肩から袈裟切りにジロウを切り裂いた。鎧が砕け、ジロウの腹に交差した赤い線が浮かぶ。そこからドバっと、血が噴き出る。そのまま、ジロウはばたっと倒れた。
やり過ぎたかと思った、サネマサはすぐさま、回復薬を使い、ジロウの傷を癒す。すると、ジロウの傷はふさがっていき、ジロウはすーすーと落ち着いた寝息を立て始めた。
ジェシカから聞いた、呪いの解呪方法。それは呪われた相手を気絶させること。今の段階では、呪われているということがはっきりわかってはいない。
だが、これで、ジロウが収まったということには変わりはないので、良しとした。取りあえずは、トウショウの里で、経過を見るということで、サネマサは刀を仕舞い、いったん落ち着く。
その後、サネマサは、辺りに散らばる牙の旅団の亡骸を、セインとミサキに貰ったばかりの試作魔道具、異界の袋に入れていく。シンムの里に持ち帰り、墓を作ってやろうと思っていた。
サネマサは、亡骸や装備品を拾うたびに、それぞれの者達に思いを馳せていく。
そして、全ての仲間達の遺体を収納したあと、天に向かって、怒りと悲しみの声を上げる。
―ジロウを呪い、俺の仲間を殺させた奴が居る……いずれ必ず、皆の仇を討ってやる―
サネマサは一人、そう誓い、ジロウを抱えて、転送魔法を起動させた。
……この日、トウショウの里に帰還したサネマサは、多くの犠牲者が出たため、傭兵部隊「牙の旅団」を解散させたという宣言をする。
領主アヤメはそれを受諾し、牙の旅団の者達の死に涙を流すトウショウの里の住民たちは、未だ目を覚まさない、“刀鬼”ジロウの回復をただただ、祈っていた……。




