第176話 ジゲンの過去 ―魔物と闘う―
ジロウ達がトウショウの里を出て、二日後、例の密林に到着した。密林に入るや、昆虫型の魔物が襲ってくる。牙の旅団の者たちは、それを迎撃していた。
「奥義・六道斬波ッッッ!!!」
ジゲンが刀を振り、六つの斬波を出すと、空を飛んでいた大きな蜂のような魔物は六つに分断され、ボトボトと体を地面に落としていく。
「……ふう、流石にここは魔物の数が多いな」
なおも向かってくる地上の大鎌カマキリを斬りながら、呟くジロウ。
「まあ、これだけ昆虫型が居ればなあ。こいつら、無駄に繁殖力があるし……」
魔物を倒しながら、ジロウの言葉に反応したのは、槍の名手、ロウ。鮮やかな手つきで、一気に五匹の大鎌カマキリを串刺しにしていく。
「ですね。ここの魔物の殲滅は僕達でも難しいものですから」
そう言って、風魔法を使い、多くの魔物を一気に吹き飛ばす男、タツミは魔法を撃つたびに少し汗をかきだしている。
「お、タツミ、ばててねえか? ほれ、回復薬」
少し疲れた様子のタツミに、魔力回復薬を渡す牙の旅団の拳闘士、ソウマ。回復薬を受け取ると、タツミはソウマに頭を下げる。
「でもさあ、これくらいだったら、サネマサ一人でも殲滅くらいは出来るんじゃないの?」
矢に魔力を込め、遠くの敵を迎撃しながら、そう言うのは、シズネと共に牙の旅団で女性ながら活躍する女狩人、エンミ。遠くに敵がいないことを確認すると、一息つき、仲間たちが倒した魔物の解体を行っていく。
「どうだろうな。あいつは調子に乗る癖があるからな。殲滅したと思ったら、残っていた敵にやられるということもあり得そうだ」
あらかた敵を倒し終え、エンミと共に、魔物の解体を行う、牙の旅団の斥候、チョウエンは笑いながらそう言った。すると、他の皆は頷く。
「だな……何度あいつの危機を救ってやったか、わかんねえよ」
一息つく仲間たちに薬や活力剤を配る、牙の旅団の薬師、サンチョがそう言うと、ジロウは笑った。
「ハハハ、まあ、あいつも今じゃ、十二星天とか呼ばれてるが、結局は一人の人間だ。俺達で支えてやらねえと駄目な存在ってことだろ。まあ、そんな俺達もあいつに助けられてはいるからな。それで、お相子だろ」
ジロウの言葉に、牙の旅団の者たちは、ニカっと笑い頷く。
「ああ。もしあいつがここの魔物の殲滅依頼をするってなったら、また、俺達で助けてやろうぜ!あいつ一人には荷が重い!」
「流石、ジロウ! あいつと付き合いが長い分、良いこと言うぜ!」
密林の中、辺りには魔物たちがまだうじゃうじゃ居るというのに、ここには居ないサネマサで盛り上がり、大笑いする牙の旅団。
本当に楽しくて、かけがえのない仲間たちを持ったものだと、ジロウも、皆につられて笑った。
「まあ、俺達意外にも世界にはまだ、もっと強い奴が居るだろう。俺達もうかうかしてられないぞ」
「ああ。マジでここの魔物を一人で殲滅する奴が居るかも知れねえからな」
「もしも居たらどうする?」
「決まってんだろ! まずは手合わせ、そして、仲間に引き込む、だ!」
エンミの言葉に、コウシがそう言うと、皆は頷く。サネマサよりも強い者……。つまりは、自分よりも強いということだ。確かにそんな奴が居たら、手合わせしてみたいものだと、その時ジロウは思った。
さて、少し休憩を挟んだ後、牙の旅団は本格的に依頼を遂行しようと行動する。巨木を拠点に、何人かで分かれて、例の正体不明の魔物というものを探した。
だが、どれだけ探しても、その姿を確認することが出来ず、拠点に集まっては、皆で首をひねらせている。
誰も見たことがない魔物ということで探しづらいのでは、という意見も多くあり、持てる探索能力をすべて使って、樹海をくまなく探したが、そんな魔物はどこにもいなかった。
そして、夕方になり、天幕の前で、作戦の立て直しを行う、牙の旅団。
「う~ん、やっぱり嘘の依頼だったのかな。痕跡すら見当たらない」
樹海の地図を開きながら、エンミが呟く。その周りにはジロウの他に、シズネ、コウシ、ミドラ、ロウ、タツミ、サンチョが居る。残りの者たちは未だ、樹海の中を探索していた。暗くなるまで探索し、更なる調査を明日行う予定だが、このままでは埒が明かない。あまりにも情報が少ない様に、エンミの言葉に何人かが、頷く。
「ケリスの言うことだからな、信用できないのは確かだな」
「だが、あの状況で嘘を言っても仕方ないだろう。向こうの益が分からない」
コウシの言葉に反論するジロウ。自分たちがケリスを疎ましく思っているように、ケリスも牙の旅団を疎ましく思っている。いつか、街から自分たちを追い出そうと考えていることくらい、ジロウは予測できていた。
だが、すぐばれる嘘をついてまで、そんなことをする奴とは思っていない。ケリスは意外と慎重な人間だからな。綿密に計画をして実行するような男だ。すぐばれる嘘をついても仕方ないだろう。
「恐らく、魔物というのは本当で、そいつに俺達が殺されるようにしたと考えるのが自然だな」
ジロウは呆れたように、コウシ達に諭す。自分では相手できない、牙の旅団を死地に追いやり、亡き者にする、もしくは戦闘不能にすることくらいは考え付きそうだった。コウシ達も何か、納得したように頭を抱える。
ただ、それも自分たちが魔物を倒せば良いだけの話だ。出立の前にシズネが言っていたように、強大な魔物を倒すことが出来れば、当分はケリスも自分たちにも、そして、アヤメにも、何もしないだろうとジロウは考えている。
「だから、ひとまずは、魔物は居るということで考えておこう……で、何か意見はあるか?」
取りあえず、魔物は居るという前提で作戦を組みなおすことにしたジロウ。皆の顔色を窺い、それぞれの考えを集めることにした。
皆から出た意見は、魔物の痕跡がないということは、迷彩トカゲのように、姿を隠すような特性を持つ魔物ではないかということが挙げられた。確かにそれならば、これだけ探しても、姿が見えないということは理解できる。だが、痕跡すら見つからないということはどうなんだという、ジロウの言葉に、ミドラがひょっとして、と口を開く。
「痕跡が残らないようにしているのではないか? デーモン種のように、知能の高い魔物にはそういったものもあると、聞いたことがある」
なるほど、と皆、頷く。それならば、どれだけ探しても、分からないなと思うジロウ。そして、姿をくらませ、知能も高いとなると、夜の探索は危険と判断し、現在探索に出ている、ソウマ達を呼び戻そうとした。
……その時、
ピィィィィーーー!
遠くの方から笛の音が聞こえる。その場にいた者たちは、パッと音のする方を見た。それは、ソウマ達が探索に出た方角だった。
「今の音は!?」
「チョウエンの指笛だ! 何か見つけたらしい!」
「急いで向かうぞ! 皆!」
ジロウ達は武器を手に取り、音のする方へ走る。日はすっかり沈み、樹海の中は、真っ暗だ。するとエンミが光魔法で辺りを照らした。これでは魔物たちに見つかってしまうが、今は緊急事態だとして、ジロウも、皆も、一目散にソウマ達の場所へと向かう。
しばらく樹海内を進むと、何かに向けて武器を構える、チョウエンやソウマの姿が見えてきた。
「ソウマ、無事かっ!? 何があった!?」
近づきながら状況を聞くジロウの言葉に、ソウマは反応する。
「おうっ! 見つけたぜ!」
そう言って手を振るソウマ。良かった、他の皆もけがはしていないらしい。ジロウは安心し、ソウマ達が武器を構える先を見た。
そこに居たのは、四つん這いの大きな魔龍のような生き物。だが、翼は無く、代わりに前足の所に翼膜のようなものがついている。大きな爪、牙を持ち、金色の目が爛々と輝いていた。
「グオオオオオ~~~~~!!!」
その魔物は大きく雄たけびを上げて、ジロウ達を威嚇する。
「む!? こいつは……迷彩龍か!? なんで、こんなところに!?」
魔物は迷彩龍という、いわば迷彩トカゲの王といった存在で、同じく、姿をくらまし、獲物を捕食するという習性をもつ。
だが、この魔物はクレナでは確認されていなかった魔物であり、ここに居るということに驚くジロウ。すると、牙の旅団の参謀、ミドラが口を開く。
「むう……恐らく壊蛇の体についていた幼体が他所からここに来て、成長を遂げたのではないか?」
ミドラの言葉に、なるほどと頷くジロウ。壊蛇が人界各地に侵攻する度に、ところどころで魔物の幼体や卵が何かの拍子にその巨体によって運ばれることがあるという。そうだとすれば、ここクレナに居ないはずの迷彩龍がここに居るのは理解できた。
今まで、確認されていなかった魔物だ。依頼にあった、未確認の魔物というのも、あながち間違いではない。取りあえず、ケリスの依頼は本物だったということで、改めてジロウは刀を抜き、構える。
「魔物の正体がこいつだったとはな。だが、これなら俺達にも倒せる! 皆、行くぞ!」
ジロウの号令に、皆頷くと、一斉に迷彩龍に駆けだす。迷彩龍は少し後方に下がると、姿をくらましていった。そして、完全に姿が見えなくなる。このまま襲われたらひとたまりもないと、思っていると、タツミが前に出る。
「させません! 奥義・兆絶葬刃!!!」
タツミが走りながら周囲の風を掌に集め、そこに竜巻を作る。そして、そこから大量の風刃を発生させ、辺りにばら撒いた。すると、何もないところで、風刃が、カンカンと音を立てだした。
「そこですね!くらえッッッ!」
音がした方向に、風刃を集中させるタツミ。すると、雄たけびを上げながら、迷彩龍が再び姿を現す。
「ギギャアアア~~~!!!」
ついていく傷は小さいが、痛みは激しいらしい。苦しそうな声を上げる、迷彩龍に、ロウが突っ込んでいく。
「ウオオッッッ! 奥義・龍尾一閃ッッッ!!!」
槍の穂先に大きな気を纏わせ、ものすごい速さで迷彩龍に突っ込んでいく。迷彩龍は目を見開き、すんでの所で、ロウの攻撃を跳んで躱した。
「チッ! 外したか! ソウマ! 頼んだぞ!」
「任せろ! 奥義・落星脚ッッッ!!!」
迷彩龍が逃げた先に既に回り込んでいたソウマは、足に気を溜めて、上から迷彩龍に、かかと落としを食らわせた。
「ギギャッッッ!」
そのまま、ドシン、と大きな音を立てて、地面に落ちる迷彩龍。だいぶ弱ってはいるが、ジロウ達を睨み、再び立とうとする。だが、その脚に光るひもが絡まっていき、噴滅龍の動きを止める。
「よし! 動きは止めたよ! エンミ!」
「はいよ、シズさん! 奥義・光柱豪雨ッッッ!!!」
シズネによって、動きが完全に封じられた迷彩龍の頭上にエンミが光る巨大な矢を撃った。それは迷彩龍の頭上ではじけ、大きな光の雨となって、迷彩龍に降り注いでいく。
「加勢するぞ、エンミ! 奥義・極楽千手!!!」
エンミの攻撃に合わせ、刀を構えるミドラ。すると、ミドラの背後に多くの腕を持った女が現れる。ミドラが刀を振るうと、女が持っている多くの武器による攻撃が、エンミの攻撃と共に、降り注いでいった。
「ギ……ギギャアアア~~~!!!」
苦悶の声を上げる迷彩龍だったが、攻撃が止むと、力を入れてシズネの束縛を解き、牙の旅団から距離をとる。そして、ガバっと大きな口を開き、口腔内に、魔力を溜めだした。
「ブレス攻撃か? させるか! 行くぞ! コウシ!」
「おうっ!」
迷彩龍が口に魔力を溜めている隙に、コウシとチョウエンが駆け出し、持っていた鎖を迷彩龍の首に引っ掛けた。ぐえッ、と呻く迷彩龍を、その後ろにある木にぐるぐる巻きにしてしていくコウシとチョウエン。
そして、がっちりと鎖を杭で固定すると、ジロウの方を向く。
「最後は任せたぜ!ジロウ」
「バシッと決めてやれ!」
「おうッッッ!!!」
木につながれ、身動きが取れない迷彩龍に、ジゲンは刀を構え、突っ込んでいく。じたばたと迷彩龍はもがくが、今までの攻撃により疲れ果てているので、だんだんとその動きも鈍くなっていく。
そして、ジロウの間合いに迷彩龍が入った瞬間、ジロウは刀を抜く。
「奥義・瞬華終刀ッッッ!!!」
ジロウはものすごい速さで、刀を抜き、迷彩龍を斬っていく。そして、刀を鞘に納め、着地した。
「……幕切れだな」
迷彩龍は何が起こったかわかっていない。なおも、暴れ続けようとする。だが、その動きがぴくッと止まった。
「ギャッ……――」
次の瞬間、迷彩龍の頭の部分だけが、細切れになり、つないでいた鎖もばらばらになっていく。そして、ドシンと音を立てて、地面にずり落ちる迷彩龍の首なしの死骸。
迷彩龍が息絶えたことを確認した、牙の旅団は、ふう、と一息ついた。
「いやあ、何回見ても、ジロウの技はすげえな。一太刀しか確認できなかったぜ」
「一太刀でも見れたんならすげえって。俺には未だに何が何だか、分かってねえからな」
コウシとチョウエンが迷彩龍に絡みついている残りの鎖をほどきながら調子よくそう言った。
「ただ、やっぱり、殲滅とかには私や、ミドラが向いているよね。ミドラの千手、いつ見ても綺麗だし、凄まじいから、嫉妬しちゃいそう」
「む? それを言うなら、儂はタツミに嫉妬するな。いくら千手でも、兆の刃には敵わん」
「またまた~。僕の攻撃は力が無いですからね。ああやって、無差別広範囲攻撃で、相手の出鼻をくじくことしかできないですし、あの技って、結構魔力がもっていかれるんですよ……」
エンミとミドラの言葉に謙遜しながら、肩で息をするタツミ。大幅に魔力を失うというのは本当らしい。
「はいよ、回復薬。それでも、エンミもミドラもタツミも、私の拘束術があって真価を発揮するからね~。感謝しなさいよ」
タツミに魔力回復薬を渡しながらそう言って、笑うシズネの言葉に、返す言葉もないと、三人は笑う。
「やはり、一対一なら、俺か、ロウか、ジロウの方に軍配が上がりそうだな」
「何言ってんだよ、ソウマ。明らかに俺一択だろう。見ろよ、あれを。攻撃力なら、俺が随一だ」
ソウマの言葉にロウは、先ほど自らが攻撃を仕掛けた辺りを指さす。迷彩龍に当たらなかったロウの攻撃は、その後ろにある巨木に、真円の風穴を開けていた。誇らしげに、どこか自慢げに胸を張るロウに、サンチョが、回復薬を渡しながら呆れたように口を開く。
「当たればの話だろ。あの攻撃をよけられたロウは、今回一体何をしたんだ?」
サンチョが薄ら笑みを浮かべながらそう言うと、ロウはぐぬ、と黙り、他の皆は笑った。
「じゃあ、やっぱりこの部隊の個人最強はジロウだね。それか、サネマサか」
「いや、ジロウだろ。性格も入れたら、圧倒的にジロウだ。いやあ、俺は素晴らしい仲間を持って、本当に幸せだなあ~……」
シズネの言葉に続いて、コウシもジロウを称える。他の皆も納得したように、ジロウを見て、頷いた。ジロウは少し照れ臭くなり、一つ咳ばらいをして、頭を掻きだした。
「何言ってんだよ。今回は皆で奴を追い詰めたから、俺の技もビシッと決まったんだ。だから……まあ、何と言うか、俺もお前らが居てくれて本当にうれしく思っている。……これからも、その……よろしくな!」
顔を真っ赤にしながら、そう言うと、皆はそれを茶化しながら、笑って、ジロウの言葉に頷く。
今回みたいに、相手をしたことが無いような、強い敵にも、皆で挑めば何とかなるということが分かった。たとえこの先、ケリスに無理難題を押し付けられても、仲間たちが居れば、何の問題もないとジロウは確信した。
「……ん? 何だ、これ?」
ふと、迷彩龍を解体しているエンミから声が上がる。皆と共に、エンミの方へ向かうと、迷彩龍の中に黒い羽のようなものがあるのを確認した。何か、もやのようなもので覆われており、邪悪な感じがしている。
「何だろうな……これ……」
「ああ。見たことないな……」
牙の旅団は不思議そうにそれを眺めていた。ジロウも、こんなの見たことがないと思い、不審がっている。だが、次の瞬間……
「ぐあっ!? が、があああ~~~ッッッ!」
突如、ジロウの頭が割れるように痛みだす。ジロウは頭を押さえながら、その場に突っ伏した。牙の旅団の皆はジロウの様子に驚きだす。
「お、おい! ジロウ! どうした!?」
「ジロウ! しっかりして!」
仲間たちは声をかけるが、ジロウには聞こえなかった。今まで体験したことがない激しい頭痛に、転げまわりながら耐えるジロウ。すると、頭の中に声が響く。
―コロセ……コロセ……コロセ……―
「な、何だ……て、テメエ……」
ジロウは聞こえてくる言葉に、怒鳴りつける。急に声を荒げる、ジロウの様子にさらに困惑していく、牙の旅団の仲間たち。
「ジロウ! しっかりしろ!」
「どうしちまったんだよ!」
必死に声をかけるが、ジロウは依然、怒鳴るのを辞めなかった。
―コロセ……コロセ……コロセ……―
「うるせえってんだ! だ、黙ってろッ!」
―コロセ……コロセ……コロセ……―
なおも響く頭の声と、激しい頭痛に、必死になるジロウ。だが声も、痛みも、だんだんと激しさを増していく。
「ガハッ! グああああ~~~ッッッ!」
「ジロウッ! しっかりしろって!」
「ジロウさんっ!」
激しくのたうち回るジロウに、何が何だか分からない様子の牙の旅団の皆。だが、諦めるわけにはいかないと何度もジロウを呼び続ける。
「しっかりしろ! ジロウ! お前は強い男だろ!? そんなのに負けんじゃねえ!」
コウシがそう叫ぶと、ジロウは歯を食いしばり、痛みに耐えていく。そして、片膝をつき、辺りを伺った。
自分達以外にこの辺りには人がいないということを確認し、声の主は近くには居ないと判明する。このままでは埒が明かないと思ったジロウは、何かないかと更に周囲を伺った。
すると、先ほど確認した迷彩龍の腹の中にあった羽のもやが強くなっているということに気付く。もやが強くなるたびに、脈動するように、ズキンズキンと頭の痛みと声が、大きくなっていく。
―コロセ……コロセ……コロセ……―
「チッ! て、テメエが正体かッッッ! オラアッッッ!!!」
頭の痛みに耐えきったジロウは渾身の力で、刀を抜き、黒い羽を斬った。これで、ようやく、痛みから解放される。変な声も聞こえなくなると思ったジロウ。
……だが……
「ッ! ……何だ!? グアアアァァァ~~~ッッッ!!!」
次の瞬間、今までよりもさらに強い痛みが全身を襲う。たまらずうずくまるジロウ。すると、羽を纏っていた、黒いもやが、ジロウの体を包んでいった。
「何だ!? これ!」
「くそっ! タツミ! 風でこれを払え!」
「だ、駄目です! さっきからやっているんですが、一向に払われる気配がありません!というか、手ごたえすら感じません!」
何とか、黒いもやを払おうとする牙の旅団。だが、手で払おうとも、武器で払おうとも、魔法で払おうとも、もやは関係なく、ジロウを包んでいく。ジロウは更に苦しみの絶叫を上げる。
「ぐ……グアアアァァァ~~~ッッッ!!!」
ジロウは叫びながら、辺りに気を拡散させる。その衝撃で、そばにいたコウシ達は吹っ飛ばされ、木に激突した。
「グハッ!」
「クッ……なんて力だ……」
身をかがめながら、今なお苦しみ、雄たけびを上げるジロウに成すすべもなく、ただただ、その経過を見守る牙の旅団。
そして、ひとしきり雄たけびを上げ続けたジロウに、絡みついていた黒いもやは晴れていき、それと同時にジロウもおとなしくなってくる。
「ギッ……ぐはっ……」
フラッとジロウはその場に倒れこみ、動かなくなった。それを見た、仲間たちは、ジロウにゆっくりと歩み寄っていく。薬師サンチョがそばに行き、ジロウの脈を確認する。少し弱いが、確かに脈が動いていることを確認したサンチョは、顔を上げる。
「生きてはいるようだ……」
「そうか。しかし、何だったんだ?」
サンチョの言葉を聞いて、ひとまず胸を撫でおろす仲間達。そして、ジロウに何が起こったのかを考察し出した。
「取りあえず、さっきの変な羽が、原因なのは確かよね」
「ああ、それはそうだろうが、あんなのは見たことないな……」
「一応、サネマサさんに報告しておきますか?」
タツミがそう言うと、皆、頷く。今では、人界の頂点に立ち、他の十二星天たちと行動を主にしているサネマサ。彼が知らなくても、他の十二星天の偉人たちなら何か知っているかも知れない。早速、タツミは魔法を発動させる。
「お、それは、“魔法帝”の嬢ちゃんに教えて貰ったていう、伝令魔法か?」
「ええ、結構便利ですよ、これ」
タツミはニコッと笑い、魔法を打ち上げた。光は空へと昇り、ウィニアの方に飛んでいく。
「取りあえず、この状況と、場所だけをサネマサさんに伝えておきました。ジロウさんの為ならと、すぐにここへ来ると思いますよ」
「そうだねえ。なんだかんだ言っても、一番の親友同士だからね、サネマサとジロウは」
実は、サネマサが、牙の旅団を離れ、王都ウィニアで活動すると言った時、皆は反対した。これまでずっと一緒に居たのに、急に離れるなんて辛いと。
だが、そんな中、ジロウだけが、サネマサの意志を尊重した。生まれも育ちも全て共に過ごしたジロウは、サネマサの背中を押し、皆を説得した。皆はジロウが言うならと、サネマサの王都行きに納得し、あいつがいつ帰ってきても良いようにと、クレナを守り続けてきた。
そんなジロウが、現在苦しんでいる。サネマサならきっとすぐに来て、力を貸してくれるだろうと、皆は空を見上げた。
「……ぐっ……」
「お、気が付いたみたいだな! ジロウ!」
ふと、サンチョが声を上げる。コウシ達がジロウに目を向けると、ジロウが頭を抱えながら起き上がるのが目についた。
「ジロウ! 大丈夫か! 何があったんだ!?」
起きしなに、まくしたてるコウシ。それを、エンミとチョウエンが止める。
「ちょっと、コウシ! 起きたばかりで、大きな声出しちゃダメでしょ!」
「気持ちはわかるが、少し落ち着けよ」
二人の言葉にハッとしたコウシは、すまねえと言って、下がる。起き上がったジロウは頭を抱えながら、ずっと俯いていた。
「と、取りあえず、野営地に戻りますか!」
「だな。ここでくだ捲いててもらちが明かん。それに魔物たちの気配もだんだんと多くなっているからな。いったん、戻ろう」
タツミとサンチョの言葉に頷く、牙の旅団の皆。そして、シズネとロウが、ジゲンを立たせようと近づいてくる。
「ほら、ジロウ、私につかまんなって。さっさとここから離れるよ」
「……」
ジロウは黙ったまま、シズネに肩を預け、立ち上がる。だが、力が入らないのか、フラッとシズネに体を預ける体勢になったジロウ。シズネはジロウを抱えながら、赤面し、慌て始める。
「ちょ、ちょいと、ジロウってば! きゅ、急にこんな大胆なこと」
顔を赤らめながらも、どこか嬉しそうなシズネ。歳は食ってもそういう心は持っているんだなと、コウシは頭を掻いた。
しかし、突如、ロウが声を上げる。
「シズっ!」
「……へ?」
皆はロウの声に驚き、そこに目をやった。ロウはシズネの腹を指さしている。何のことかとシズネは自らの腹に視線をやった。
そこで、牙の旅団が目にしたのは、シズネの腹に深々と突きささった、ジロウの刀だった……。




