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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第173話―調査隊の手続きを完了させる―

 次の日、俺はダイアン達、屋敷に居る冒険者たちを連れて、ギルドへと向かった。昨日、アヤメに頼まれた、調査隊への手続きを済ませるためだ。今日行ったら、全員分の手続きが済むので、丁度いいなと思っている。

 コモンは朝から仕事で天宝館に向かった。頼んでいる古龍ワイバーンと迷彩トカゲの素材を使った装備を作るとのことだ。今のところ、それ以外に仕事は無いらしい。ヴァルナと違い、その辺りの手際は良いようだ。


 昨晩、薬を飲んだ女中たちは、前にも増して、仕事に取り組んでいる。滋養強壮の効果もあったからな、あの薬。体も軽そうだから、分け与えて本当に良かったと思っている。


 薬の方はジゲン管理の下、これからも使っていく。黄金神薬だけでなく、依頼の支給品として貰ったが、使わずに大量に残っている薬も同様に大切に保存している。万一の際は、それを使おうということになった。


 さて、冒険者たちを連れて、花街を進んでいくと、そうは言ってもダイアンは立ち並ぶ妓楼の方をもの欲しそうな目で眺めている。昨晩言っていたこととは真逆の反応に、俺も、他の冒険者たちも頭を抱えた。

 まあ、あと四か月我慢すれば良いだけの話だ。それまでは頑張ってもらおう。


 あ、そういえば、今月の給金、まだだったな。そろそろ渡しておこう。一応、皆、今の生活に満足しているみたいだし、冒険者たちもそれぞれ依頼の報酬で充分な様だが、何事にもけじめはある。

 皆には家で働いてもらっている代わりに、俺は皆に金を払う義務がある。怠らないようにしておこう。


 ふと、高天ヶ原の前に着くと、やはり、目当てで来たのか、多くの男たちが看板を見て、がっくりとしているのが目に映る。今日は、コスケもいないようだ。いちいちああいうのを相手にするのも面倒だからな。

 だが、昨日と違うのは、多くの妓女たちが、窓から花街の道行く者たちに手を振っている。がっくりとしていた冒険者たちはパッと表情を明るくさせ、高天ヶ原を見上げた。道行く者たちも、足を止めて、妓女たちに手を振り返している。


 すると、中央の大窓がガラッと開かれる。そこには四天女のシュンカ、シュウメイ、トウリンがにこやかな表情をして立っていた。


「うお~! 四天女だ!」

「初めて見た! なんとお美しい!」


 などと言って、冒険者たちは喜んでいる。すると、四天女の中からシュンカが歩み出てきた。


「皆様、ご迷惑をおかけいたしますわ。ですが、三日後からは通常通り、店を開けますので、ぜひお越しください」


 シュンカはそう言って、冒険者たちに頭を下げる。他の四天女の二人も頭を下げると、冒険者たちから喝さいが送られた。


「もちろんだ~!必ず行くから待ってろよ~!」

「トウリン様~!絶対行きますからね~!」


 と、浮つく冒険者たちの声が聞こえる。


「うおお~! 四天女の皆さん! 必ず行くんで待っててくださ~い!」


 ……俺の隣でダイアンもそう叫んでいる。よく見ると、俺が連れている冒険者たちも、妓楼に寄って、妓女たちに手を振っていた。

 残された、俺と女の冒険者たちは頭を抱え、ため息をつく。今喜んだところで、あいつらが妓楼に行けるのは、少なくとも四か月後なのにな……。


 そんなことを思いながら、妓女たちを見ていくと、端の方、目立たないところにツバキとリンネがこちらを見て、手を振っていた。冒険者たちの目は四天女に集中している。誰も、二人には気づいていない。

 俺は二人に笑って手を振り返した。宴会とやらが終わったら、すぐに会いに行くからなと、頷くと、ツバキも微笑み、頷いてくれる。

 すると、俺の横に居た女の冒険者リアが、肘で脇を小突いてくる。


「あの人が、ツバキさん? 頭領も隅に置けないわね」

「……うるせえよ」


 からかってくるリアや他の冒険者たちに、そう言うと、皆は笑って、ツバキの方を見る。


「本当に、お綺麗ね。頭領にはもったいないくらいだわ……」

「ええ。早くお会いするのが楽しみです」

「リンネちゃんも、可愛いわね……」


 などと、惚れ惚れするように呟いている。屋敷に来ても、仲良くしてやってくれと、皆に言うと、分かりましたと頷く。


 その後、男たちが満足げな表情で戻ってきた。四天女に声をかけられたのが相当嬉しかったのか、皆少し顔を赤らめている。そんな奴らに、昨晩の約束はきちんと果たせよと、告げると、目を点にしてガクッと落ち込んだ。よし、これでいい……。


 ふと、もう一度ツバキを見ると、俺達のやり取りを見て、リンネと共に笑っていた。声は聞こえていないはずだが、俺が何をしているのかわかるようだ。

 恐ろしい奴、と思いながら、再度二人に手を振って、高天ヶ原を後にした。


「頭領、誰に手を振っているっすか?」


 俺が、皆とは全く違う方向に手を振っているのを見て、不思議がったダイアンがそう聞いてくる。


「内緒だ」


 そう言って、笑うと、女の冒険者たちもクスっと笑った。頭をひねるダイアンや他の男たち。こいつらに言ったら、騒ぎそうだからな。それだと、ツバキのことが、そこらの者達にもバレてしまう。今日の所は内緒にしておいて、屋敷に二人が来たときにどれだけ驚くか、期待しておこう……。


 その後、ギルドへ着くと、入る前に、皆に、恐らく中にケリス卿と闘宴会の長が居るだろうけど、無視しろと忠告しておいた。

 花街の浮浪者であった以上、こいつらにも何かしら思うところはあるようだからな。揉め事は起こしたくないと伝えると、皆は頷く。

 それが功を奏し、中に入って、相変わらずきょろきょろと、女装した俺を探しているケリスと、その横で、俺に気付き睨んでくるバークが居たが、皆無視し、俺に着いてきた。

 だが、ギルドに入って、いつもと違う光景に驚く。冒険者の数が多い。それも、身に着けている装備から、相当腕利きの者たちが揃っているような感じがした。

 そいつらは、酒場で呑んでいたり、お互いに情報交換していたり、依頼票を眺めたりしている。


「何かあったんすかね?」

「さてな……取りあえず、アヤメの所に行くか……」


 いつもとは違うギルド内の様子に、俺も、ダイアン達も驚きつつ、調査隊の登録をするために、アヤメのいる執務室に直行し、戸を叩いた。


「居るか? アヤメ。冒険者のムソウだ。昨日登録した以外の闘鬼神の者たちを連れてきた」

「お、来たか。入れよ」


 俺の問いかけに中に居たアヤメが応じる。その言葉を聞いて、部屋の戸を開けようとしたが、辞める。

 ……ここ最近、ここを訪れる度にアヤメに奇襲されるからな。今日は俺の方から仕掛けてやろっと。 俺はすぐ後ろに居たダイアンの耳元で小さく囁く。


「なあ、ダイアン」

「何すか? 頭領」

「今日はお前から先に入ってくれ。闘鬼神の冒険者を管轄する者として、紹介しておきたいからな」

「ん? ああ、良いっすよ」


 不思議そうな顔をするも、ダイアンは俺の言葉に頷き、戸を開けた。だが、いつもと違い、アヤメは部屋の中央の長椅子に座り、昨日の書類をすでに並べて、俺達を待っているようだった。戸が開かれ、俺が入ってくると思っていたアヤメはダイアンの姿を見て、きょとんとする。


「ん? お前は、ムソウんとこのダイアンだったか? ムソウはどうした?」

「え、いや、ここに――」


 俺は、ダイアンが横にずれると同時に、駆け出し、アヤメの前の卓に足を置き、アヤメの襟を掴んだ。ぐえっ! と驚くアヤメの首筋にクナイを突き付ける。


「な、な、な、急に何すんだ!」


 両手を上げて降参の仕草をするアヤメ。驚きつつ、怒った表情で俺に怒鳴ってきた。


「いや……お前がいつも俺にやってきてるから、こうやった方が良いのかなと思って、今日は先に対策しておいた」

「何時もやってるだろ、対策! それに昨日怒られたばかりで、今日はやる気が起きなかったんだよ!」


 俺の言葉にアヤメは怒鳴り返す。ああ、なるほど。昨日俺だけでなく、闘鬼神の奴らにも怒られたということで結構反省したようだな。だから、ああいうことはもうしないというわけか。いい心がけだなと感心し、クナイを引っ込めると、後ろからリアの声が聞こえる。


「嘘は駄目よ、領主様。直接来ないにしても、罠を仕掛けていたあたり、襲う気満々だったみたいね」


 リアは、右手で何故だか短い矢を持って、それをくるくると遊ばせながら、ため息をついている。あ、という顔をするアヤメ。

 見ると、戸の反対側に、引き金を引くと矢が飛び出す、弩を台の上に置き、そこから、戸の方に向かって糸が伸びていた。

 どうやら、一歩この部屋に入ると、糸が足に引っ掛かり、弩から矢が発射される仕組みになっていたらしい。

 俺は再度アヤメを睨むと、アヤメは視線を泳がせる。


「い、いや~、これはだな~……」

「……アヤメ?」

「あれだよ! 侵入者対策ってやつだ! 仮にも俺は領主だからな! これは仕方ないことだ!」

「……」

「そ、それよりもお前! 何でムソウじゃないのに、俺の罠を対処できているんだよ!」

「私は元々斥候だったからね。罠の解除や、対処なんて、軽いものよ。……はい、頭領」


 リアはそう言って、ポイっと手に持っていた矢を俺に投げ渡す。


「ありがとう、リア」


 俺はそれを受け取り、アヤメの首に突き付けた。アヤメは汗を流し始め、荒く呼吸をする。俺はこいつが謝るまで待っていた。

 だが、突然のことで、何もできないように固まるアヤメ。すると、俺の肩を闘鬼神の中から出てきた一人の女冒険者がポンポンと叩く。


「頭領、そろそろご勘弁を。頭領がアヤメ様を襲っているようにしか見えないです……」


 そう言われて、皆の顔を見ると、コクっと頷く。確かにこの光景は、俺が武器を持って脅し、アヤメの胸元をはだけさせ、襲っているような絵面にしか見えない。俺はため息をつき、アヤメから矢を引っ込めて、解放した。

 アヤメはだらんと力を抜き、椅子にもたれる。


「はあ~……危うく、ムソウに殺されるところだった……そこのお前、感謝するぞ」


 アヤメはニコリと笑って、俺のそばに居た先ほどの冒険者を見ながらそういった。すると、その冒険者はため息をつき、


「イミカです。これは……アヤメ様が悪いですね」


 と、言った。すると、イミカの言葉に他の奴らも頷き、昨日と同じく、闘鬼神からアヤメへの説教が始まる。


「頭領を罠にはめること、それは死を意味します。もう少しご自身の身を案じてください」

「言い訳も駄目っすよ。命が危ないと感じた頭領に、命を狙ってきた敵の命乞いを聞くという耳は無いっすから」

「“死神”に喧嘩を売る人間が居ますか? アヤメ様もお強いですが、頭領の前では唯人の一人だということを忘れてはいけませんよ」

「あと、こんな罠で頭領を狙うというのは間違いね。頭領の命を本当に狙うというなら、天災級を相手にしている時と同じ心構えで居なくっちゃ」


 ……説教というよりも、俺への対応策になってくる闘鬼神の言葉。アヤメは目を点にして、それらを聞いていた。

 仮にも、領主で、ギルド支部長であるアヤメは、やはりこういうことは最近なかったようで、二日続けてこういうこともあるんだなと、頭を抱えている。

 そして、俺の方をじろっと見てきた。


「お前も大変だな……」

「テメエが言うな」


 この状況を作ったのはお前なんだぞ、と言うと、アヤメはガクッと項垂れる。その後も闘鬼神は俺とうまくやっていくにはどうすればいいかをアヤメに説いていく。


 段々、本当にこいつらは俺に慣れてきているみたいだな。ほとんど、俺もそれは違うとは言えないようなものだった。本当にいい仲間たちになってきたなと、複雑な思いながらも、俺は喜んでいた。


 しばらく皆からの説教が続き、アヤメはぐったりとしだした。埒が明かねえと思って、皆を黙らせる。その後、調査隊への手続きが進んでいく。


 全ての手続きが終わり、俺もアヤメも一息つく。これで、依頼の詳細が、より正確になると、喜んだ。俺とアヤメは屋敷で統率を採っているということで、調査隊の隊長候補に、ダイアンを指名。ダイアンは快く引き受けてくれた。


 闘鬼神の中でも、冒険者としての経験も長い方だからな。適任だろう。そう思っていると、何人かの冒険者が口を開く。


「あれ? 頭領は調査隊に加わらないんですか?」

「ああ。ムソウが調査に出た段階で、その依頼は終わってしまうからな。他の冒険者たちの為にも、依頼は残しておかねえと」


 冒険者の疑問にアヤメが答える。何か強大な魔物の報告があった場合、俺が調査隊として、調査に行けば、俺の方で処理してしまうことになる。そうなると、強い魔物の素材は俺が独占することになってしまう。それだけは避けたいとのことらしい。

 俺としても、雑魚の相手はしたくないからな。やるなら超級以上と思っている。じゃないと、クレナの冒険者たちがますます駄目になってしまう。俺だけに任せてしまいそうだから、その辺りはきちんとしておきたい。


「さて、これで手続きの方は終わりだ。各々、何かあった際にはよろしく頼む」


 アヤメの言葉に、皆は頷く。こういうところは、先ほどまでと違って、ギルド支部長らしいというか、威厳があって良いなあと思った。

 そして、今日からこなす依頼を確認しようと、闘鬼神の皆は部屋を出ていく。俺もその後を追おうとしたが、アヤメに止められた。


「あ、ムソウ。少し残ってくれ。確認したいことがある」

「ん? 何だよ」


 俺は再度アヤメの正面に座り、冒険者たちを見送った。部屋に俺とアヤメが二人になったことを確認すると、アヤメは口を開く。


「話したいことというのは二つあるんだが、まず最初に、こちらを見てくれ……」


 アヤメはパサッと、何枚かの書類を俺に見せてきた。それは何かの名簿らしい。多くの人間の名前が表になっていて並べられているようだった。


「何だ、これ?」

「それは、ここ、クレナに居た傭兵部隊とそれぞれに所属していた者たちの名簿だ。ほれ、ここにはサネマサの爺いや、ジロウの名前があるだろ?」


 アヤメが指さしたところには、「牙の旅団」と書かれている。そして、その枠の中には、サネマサやジロウ他数名の名前があった。

 その他にも、当時の傭兵部隊と、そこに与していたすべての者が記されているみたいだ。

 聞けば、これはアヤメの祖父の代から冒険者ギルド設立までに、ここクレナにいた傭兵部隊を把握するために使われていたものらしい。つい、こないだアヤメが書類の整理をしているときに偶然見つけたものだという。


「で、これが何だというんだ?」


 俺は名簿を指さしながら、聞いてみた。いきなり渡されてもよく分からないからな。すると、少し気まずそうな顔をして、アヤメが答える。


「……それには、「ジゲン」という名は無かった。ジロウと同じ時代を生きていた傭兵というのなら、あるはずなんだがな……」


 アヤメの言葉に驚き、再度名簿を見てみる。確かに隅から隅まで見てみたが、「ジゲン」という名は無かった。


 ジゲンは昔傭兵をやっていたと自分で言っていた。その分の知識もあるようだったし、力もあるようなので、そのことは特に疑っていなかった。ただ、ここに名前がない以上、ジゲンは傭兵をやっていなかったということになる。

 俺が名簿を見ながら、目を白黒させていると、アヤメが口を開いた。


「なあ、ムソウが言うその爺さんって、本当に何もんなんだ? サネマサの爺いのことは知っているみたいだし、ジロウとも会ったことあるような口ぶりだったが」

「正直、俺もよく分からない。その二人とも知り合いというのは本人から聞いたというだけのものだからな。確証はないが、何でそんなこと知ってるんだよ、ということを知っていたからな。疑いようもないだろう」


 特に、ジロウの刀精を知っているというのは大きい。ジロウは、後継ぎのシロウにもそれを見せていないのだからな。

  それに、サネマサの生家での口ぶりでも、ジゲンはあいつに詳しかったみたいだし、二人の知り合いというのは間違いないだろう。

 あと、実際に見たわけではないが、ジゲンも刀の腕は達者のようだった。それゆえ、元傭兵という話も信じ切っていた。

 だが、この名簿に名前は無い以上、傭兵をしていたという話は嘘だったわけだ。


 ……ただ、まあ……


「……フッ」

「ん? どうした、ムソウ?」

「いやな、別にジゲンが俺に嘘をついていたことに関してはどうでも良いと思ってしまってな。確かに、あいつは昔のことをあまり話さない、謎の多い爺さんだ。今更こういうのを見せられても、どうとも思わない」


 正直なところ、ジゲンに関してはそう思っている。今、ジゲンは俺のために、そして、屋敷のために働いている。屋敷の為というよりは、たまの為だがな。それだけで俺は充分だ。特に何も言うことは無い。


「お前の隣に居て、お前を騙しているのにか?」

「ああ。それでもジゲンはよくやってくれている。領主としては、過去何をしていたか分からない者を住まわせることに抵抗があるかも知れないが、それは俺が責任を持つ。だから、安心してくれ」


 仮にジゲンがアヤメや俺に謀反を企てているのだとしたら、全力で俺が止め、諭そうと思ってる。そんな心配は確実に無いという確信はあるがな。万が一そうなったら、俺が全責任を持とう。そう言うと、アヤメは笑った。


「はあ、分かった。ただ、取りあえずどこかの機会でその、ジゲンという男には会ってみたい。その時はよろしくな」

「了解だ……ただ、一応この後、ジゲンと話してみるよ。そこで、色々と決着をつけるとする」


 アヤメの頼みに頷き、そう答えると、分かったと頷いた。今日は、依頼をこなさずに、このまま帰って、ジゲンとゆっくり話してみよう。何かわかるかも知れない。

 ただ、アヤメもジゲンという男に関しては、特に悪い印象は持っていないようだ。単純に昔を知る老人の一人として、あいつに会いたいと考えていると感じる。そうやって直接会って、ジゲンの人となりを知って欲しいなと俺は思っている。取りあえずジゲンに関してはそういうことで話を終えた。


「で、もう一つの話というのは?」

「これはナズナからの伝言なんだが、お前んトコの女騎士と妖狐、高天ヶ原から返すのは、あと二週間後ってことだったが、ケリスの宴会が終わったら、もう良いという話になった」

「また、急だな……こちらとしては嬉しい話だが、何かあったのか?」

「ああ。花街の様子がどうにもおかしいとのことだ……」


 アヤメは重々しく口を開く。具体的には、以前から俺が気にしていたように、往来で、男女が仲睦まじく、接しているということ。まだ、日が暮れた後ならわかるが、日の高いうちにそういうことをしている者が増えている。中には、人目のつかないところで乳繰り合っているという目撃情報もあるくらいだ。……俺も見たな、それ。


「それは、でも場所柄よくあることではなかったのか?」

「いや、そういった者たちの中には、妓女もいるらしい。それも高天ヶ原の妓女もだ。店の中ならまだしも、報酬も得ずに、そういうことを外でやっているというのが問題だ。

 花街を訪れる冒険者の多くも、以前は流石にそんなことをしていなかったが、ここ最近、女を路地裏に連れ込んだり、かどわかしたりして、行為に走るというものも出ている。以前ならありえなかったことだ」


 言い換えれば、金を払わずに、花街で満足しているということは、高天ヶ原はまだしも、闘宴会管理の妓楼にとっては、大きな痛手となる。それはそのまま貴族たちに金が行かないということになるので、冒険者たちは、貴族たちに恨まれるということになるわけだ。だから、以前はそのようなことは無かったとアヤメは語る。

 それでも、闘宴会は動いていないらしい。そこが、花街の様子がおかしいという結果に結びついたというわけである。まあ、俺が最初花街を通った時も、金を使わなかったってだけで立ちふさがっていたわけだからな。

 確かにおかしい……浮浪者もごっそり俺が屋敷に連れて行ったことだし、花街からの金は少なくなっているはずだ。それでもそう言った者たちを止めないというのは引っかかるな……。

 で、そのおかしな影響が、今のところ噂の域を出ないにしても、高天ヶ原の妓女にも影響が出ているということで、そこにツバキを置いておくのは危険と判断し、ツバキとリンネを返してくれるのが早くなったということだ。


「わかった。そういうことなら、俺の方は問題ない」

「おう。花街については俺やナズナでまた詳しく調査してみるよ」


 取りあえずは、ツバキを安全にしたいから、俺は関わらず、この問題については経過を見るということになり、話を終えた。アヤメと別れる際に一つ思い出したことがあったので聞いてみた。


「そういや、下に居た冒険者たちは何者だ? やけに良い素材を使ったものを身に着けていたが」

「あれは、ケリスの宴会に招待された各地の腕利きの冒険者だ。近隣の領でそれなりに名を広めている奴らだ」


 ああ、なるほど。つまりは、闘宴会にとっての一番のカモというわけだな。今回の宴会で味を占めさせ、もっと搾り取ろうというわけか。聞けば、ケリスの宴会には、その冒険者達や、この街の貴族の多くが招待されているという。闘宴会の者達も加わり、大層なものになるとのことだ。


「それはまた、準備に苦労するわけだな」

「ああ。で、聞いたと思うが、コモンのガキも来るし、俺やショウブも行く予定だから、女騎士と、妖狐については任せてくれ」


 なんでも、ここまで来ると、その領の領主を呼ばないというのは流石に無礼と考えたのか、ケリスはアヤメも呼んだという。少し考えたが、高天ヶ原は元々アヤメのものだし、今回は俺の仲間がいるということで、参加することを承諾したらしい。


「ありがとう、アヤメ。苦労を掛けるな」

「気にすんな。ムソウには世話になっているからな」


 俺はアヤメに感謝して、握手をする。


 その後、アヤメと別れて、下へと降りた。そこではダイアン達がすでに取り組む依頼を決めて、ミオンの手続きを受けているようだった。


「よう、それぞれ依頼は決まったようだな」

「あ、頭領、話は終わったっすか?」

「まあな。……で、何の依頼に挑むんだ?」


 そう言うと、ダイアンは何枚かの依頼票を見せてくる。討伐依頼や、素材の採集依頼など、さまざまだが、よく見ると、場所は同じもののようだった。今回は30人以上今いる冒険者で重複して取り組むようだ。


「この人数だったら苦戦することも無いだろうし、依頼も完遂しやすいと思ってな」

「なるほど、懸命だ。ただ、お前はあまり無茶するなよ」


 前回のことがあるので、ダイアンにはそう伝えておいた。ダイアンは頷き、笑った。


「へへっ、やっぱり頭領は優しいな」

「茶化すなよ。お前が倒れたら、また、リアたちが困るだろう?」


 そう言うと、リアたちはホントよ~、と頷く。一応、支給品と共に持ち物の確認をすると、伝令魔法の魔道具はまだ残っていた。万一の時は必ず報告しろと伝えておく。それと共に、俺が持っていた回復薬や、活力剤を渡した。また、ダイアンが狂気スキルを使った時の為だ。

 それと、チャブラで買ったミサキの結界魔法の魔道具も一つ渡しておく。強すぎる魔物が現れたらこれで、何とかしろと言うと、冒険者たちは目を開く。


「これ、結構高いものですよね? 大丈夫なんですか?」

「心配すんな。お前たちに給金を払うくらいはまだ、残っているし、お前たちが死ぬ方が、俺にとっては大損害だ……必ず生きて帰れよ」


 笑いながらそう言うと、皆頷く。良い奴らだよな、ホント。またこういう仲間たちが出来て、嬉しい限りだ。


「で、頭領は、今日は何の依頼を?」

「ああ、俺は今日は、何もしないことにしたよ。急用が出来たからな」

「そうっすか。まあ、旅から帰ってきても働きづめだったし、休んだ方が良いかも知れないっすね」

「まあ、頭領に休養がいるとは思えないけどね……」

「でも、その方がたまちゃんとかも喜ぶと思いますよ」


 などと言いながら、皆納得してくれた。リアの言うように、特に休養というものは必要ないが、毎日依頼に取り組むことは無いと思っている。

 前の世界では、ほとんど毎日仕事だったから、その分、サヤやカンナと一緒に居れる時間は無かったからな。今度は、休みたいと思ったら、休もうと思っている。

 ……まあ、今日に関しては今のところ、疲れる予定だがな。待ってろよ……ジゲン。


「てわけだ、ミオン。今日は依頼に行かねえから、俺が帰る度に慌てなくても良いぞ」

「本当ですか? 最近、ムソウさんに渡す報酬が重くて筋肉痛になっていたところなんです」

「え、そうなのか?」

「フフッ、冗談ですよ。ただ、明日何はかを受けるというのでしたら、今手続きを済ませておくというのも楽ですよ」


 ああ、なるほど。そうすれば明日の朝ここに来るという手間が省けるのか。ミオンの言葉に頷き、依頼票の貼りだされている前に立った。さて、どんな依頼があるかな……。


 ……


 デスニアの群れ討伐 報酬銀貨200枚(討伐数により変動) さらに素材の売却金 要戦闘向きスキル 可能ならば火、雷系魔法の行使者

 ナオリグサの採集 報酬銀貨100枚 要採集、鑑定スキル

 ゴブリンの討伐 報酬銀貨100枚 さらに素材の売却金 要戦闘向きスキル

 グレムリンの群れ討伐 報酬銀貨100枚(討伐数により変動) さらに素材の売却金 要戦闘向きスキル


 ……


 ……う~ん、どれも歯ごたえがなさそうだな。俺や闘鬼神のおかげで、依頼の数自体は減っているようだが、こうなると、少し悩んでしまうな。

 この中だと、一番金になりそうなのは、デスニアか。ソウブで一回取り組んだことがある。仔牛ほどの大きさで、鋭い牙を無数に持つ魚型の魔物だ。血の匂いや音に敏感で、デスニアが居る湖などでおぼれたら、一瞬で捕食されるというものだったな。あの時は船を出してもらい、ツバキとリンネと一緒に対処したが、今回は飛びながら、上から斬波を浴びせればいけるな。

 あとは、ゴブリンに、グレムリンか。両方とも、素材が残りそうにないというのが気になるからな。辞めとこ……。


 俺はデスニアの依頼票を持って、ミオンの所に向かう。そして、手続きを進ませていくと、横から闘鬼神の皆が覗き込んでくる。


「お、デスニアの群れか。ということはもう、殲滅で確定だな」

「ああ。デスニアは共食いもするからな。一匹斬ったら、その血の匂いで湖中のデスニアが集まってくるからな」


 ああ、そういう習性があったな、確か。以前は一気に大群が来たから、船員とツバキとリンネを護りながら闘ったので苦労したものだ。今回は一人だから、その心配も無いだろう。


「でも、デスニアの大群って、相当な数よね。何匹くらいいるんだろう」

「あ~……そういや、そうだな。前闘った時は500程だったが、ここではどうなんだろうか」


 リアの言葉にどのくらいの規模かということが気になってしまい、ミオンに聞いてみた。すると、ミオンは資料を取り出し確認する。すると、目がだんだんと開かれていった。


「え、え~っとですね、ここで確認できるだけでも1000は超えています……」


 うおっと……結構多いな。前の倍かよ。そこまで行くと、上級から超級の依頼になりそうだな。依頼の場所になっている湖の生態系はもう駄目だな、きっと。

 んで、今までの経験から、その数字も恐らく正確なものではないだろう。もっと多くいるか上位個体が居ると覚悟しておこう。少し、気合を入れようと思っていると、闘鬼神の奴らはなぜだか、余裕そうな表情だ。


「1000か。まあ、頭領なら、すぐに決着がつきそうね」

「だな。デスニア一匹当たりは下級から中級の魔物だ。たとえ1000集まっても、噴滅龍よりは弱い」

「古龍ワイバーンと比べても小石と月くらいの差はあるからね、余裕よ」


 と言って、俺に頑張ってください! とニコッと笑った。昨日も思ったが、俺を心配するという気持ちは、皆持ち合わせていないようだ。ツバキくらいだな、俺のことを心配してくれるのは。

 今日も複雑な思いだが、それだけ、俺の強さを信頼してくれているんだなと思い、苦笑しながら皆に頷く。


「では、ムソウさん、こちらを受注するということでよろしいですね」

「ああ。よろしく頼む」

「はい。ではこちらが、支給品となっております。……それでは皆さん、お気をつけて」


 ミオンが俺達に頭を下げると、俺含め闘鬼神の皆は強く頷いた。


 そして、ギルドを後にする。屋敷までの道中、ダイアン達と、依頼についての作戦を立てながら進んでいくが、高天ヶ原の前に来ると、未だ手を振っている何人かの妓女の方に男どもが寄ろうとする。それを女の冒険者たちが止めて、説教をしていた。


 これから依頼に取り組むのに、気を抜いてんじゃないよ、とのことだった。男どもはそれに渋々頷き、俺は大笑いした。“闘鬼神の女”はやはりこうでないとな。


 そして、屋敷の前まで来ると、皆と別れる。早くても二日後に帰るという皆の言葉に頷いて、見送った。その時にはツバキも居るから楽しみにしておけと心の中で思って、俺は屋敷に入る。


 庭では、ジゲンが一人、畑作業をしていた。さて、真偽のほどを確認しようか、俺なりの方法でな……。


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