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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第140話―高天ヶ原のもてなしを受ける―

 リンネに酒を注いでもらい、呑みながら、そして飯を食いながら、妓女の踊りを見ている。三人とも、他の女達とは一線を画すような感じだ。ふと、そんなことを思っていると、ツバキが横から説明してくれる。

 まず、真ん中で踊っている女がシュンカ、舞や詩など芸事にかけては、この高天ヶ原で一番の才を持つという。ということは、クレナ一の舞姫ということで、コイツの舞を少しでも見ようと、大金を払う客は後を絶たない。

 その右側で踊っている、胸元を大きく開き、あたかも強調させるように見せてくる女がシュウメイ、どちらかというと房中術の方が得意で、数々の男どもを虜にしてきたという。……見たまんまだな。時折、俺と視線を合わせようとチラチラと見てくるが、無視だ、無視。

 そして、最後に高天ヶ原一の才覚を持ち、貴族たちの話しの相手もこなすトウリン。キリっとした涼し気な顔立ちだ。何となく一番話が合いそうだな、と思った。

 舞をしている女たち三人と、もう一人合わせると、ナズナから聞いた高天ヶ原の四天女となるわけである。


「ん? そのもう一人は?」

「今は準備されている頃かと思いますよ」


 俺の問いにツバキは何かうずうずしたような感じで答えた。よほどの美姫なんだろうな。俺が驚くくらいに。少し、期待して、その最後の一人を待つとしよう。


 その後、舞を見ながら、ツバキたちに様子を聞いた。ツバキは明るく楽しそうにここ数日間を語る。最初は慣れないこともあるだろうと思っていたのだが、そんなことは無く、四天女の奴らも優しくツバキと接してくれているおかげで、毎日が楽しいという。

 リンネにも楽しいか、と聞くと、ニコリと笑って頷いた。


 そして、俺も現状を伝えた。下街の屋敷に住むこと、そして、たまとジゲンのことだ。二人のことを話すと、ツバキはニコッと笑って、


「それは、お会いするのが楽しみですね」


 と、言ってくれた。リンネにも遊び相手が出来たぞ、というと、リンネは嬉しそうにした。これなら、いつこいつらが帰ってきても大丈夫だな。


「でよ、お前らこれからは、俺の屋敷に住むか?」

「それは……どうでしょう。ここでの仕事が一区切りついてから、ということでよろしいですか?」


 ツバキによると、四天女の身の回りをするような新造は他に居ないらしい。だからこそ、ナズナはツバキにここで、住み込みで働かないか、と持ち掛けたという。


「なるほどな。では、お前たちはこれからもここに居るといい。まあ、定期的に様子は見に来るつもりだから、楽しみにしてろ」

「約束ですよ?」


 ツバキが俺の言葉にニコッと笑ってそう言ってきた。今日は化粧をしている分、いつもより感じが違うなと思い、顔を逸らしながら、頷いた。元が美人だから対応に困る……。

 さて、これでツバキたちの今後のことも決まったな。二人に、すぐに会わせられないのが残念だが仕方ない。とりあえずは俺達もツバキたちも一段落するまでそれはお預けとしよう。


 その後、舞が終わり、俺達が拍手していると、三人の妓女たちが俺の傍までやってきた。そして、シュンカが一礼し、口を開く。


「ようこそ、ムソウ様。高天ヶ原四天女の舞、堪能いたしましたか?」

「ああ、見事なもんだったよ」


 舞なんてわからないがな。とりあえずこう言っておけばいいだろう。俺がそう言うと、三人は顔を上げてニコッと笑う。


「……さ! 堅苦しい挨拶はこれまでとして、今日はムソウさんのこと色々聞いていくからね!」

「私達と一緒に楽しい夜にしていきましょ!」


 シュンカとシュウメイはそう言って、俺の傍に座った。急に態度が変わったもんで少々戸惑う。こいつら、今まで猫被ってやがったか……。


「まったく、二人とも。ムソウさん、戸惑っているじゃないの。ごめんなさいね」


 トウリンがそんな二人に呆れながら、俺に謝ってきた。良かった、こいつはやはり、まともそうだな、と思っていると、トウリンは俺の顔を見て、口を開く。


「ツバキちゃんから聞いて、ずっと興味があったの。ねえ、死神の鬼迫ってなに!?」


 トウリンは、興味深いという目をして、俺にグイっと近づく。……こいつもかよ、と思い、ツバキを見た。


「……おい、どういうことだ?」

「え~とですね、ムソウ様のことを皆さんにお話しすると、気になって仕方ないということで、こういう席を設け、もてなすついでにお三人のお相手をしてくださればな、と思いまして」


 ツバキは楽しそうに語った。普通、妓楼って逆じゃないのか? 俺の相手を妓女がするんだよな? なんで俺がこいつらの相手をしないといけないんだよ……。

 そう思いながらも、興味津々という感じで見てくる四天女。シュウメイなんかは、俺の体を舐めまわすように見て、時折舌なめずりしている。……辞めてくれ。

 どうしたものか、と思ったが、豪華な料理や、舞などここまでやってくれたからには俺もこのまま帰るわけにはいかないと思い、ツバキたちの言うことに従った。


「分かったよ。……で、何だっけか?」

「だからあ~、死神の鬼迫っていうんだっけ? 殺意で気絶させるってやつ。どうなってるの?」


 トウリンは真剣な目でそう言ってきた。ああ、トウリンはこういう奴なんだろうな。知りたいことがあったらとことん追求するような。

 その結果、高天ヶ原一の才女と呼ばれるようになったって訳か。納得。


「どうって言われてもな……まあ、いい。やってみるか……」


 ―死神の鬼迫―


 ジッと見てくるトウリンに軽く殺意を向ける。トウリンはビクッとして硬直した。すぐに解いてやると、青い顔をしながら、肩で息をしている。他の四天女が、何事かという顔で、目を丸くしている中、段々と呼吸を落ち着かせてきたトウリンは、何か納得したような顔つきになる。


「はぁ、はぁ、はぁ……なるほど、これね……。確かに聞いただけじゃ分からないかも……」


 そう言いながらも何故か、ありがとうと言われ、更に戸惑う俺。死神の鬼迫を受けたいと言ってきて、やったら礼を言われたは初めてだったからな。

 そして、トウリンは俺に酒を勧める。


「ありがとうございました。これで私の知恵がまた一つ増えたわ……」

「あ、ああ。それは何よりだ……」


 何か納得したようなトウリンが注ぐ酒を盃で受け取る。そして、それを口に運んだ。ふと、他の四天女やツバキを見ると、俺のことをジッと見ている。これはまた何かする気だな、と思いながら酒を呑んだ。

 ……すると、あることに気が付き、盃を置いた。


「……何、飲ませてんだ」

「あら、やはり分かったのですね。お見事です」


 媚薬が入っていることを見抜くと、シュウメイがそう言って手を叩く。他の皆も、お~とか言いながら、拍手している。


「これで、この後も楽しみですわ……」


 シュウメイはそう言って、俺にすり寄ってくる。デカい胸が腕に当たって窮屈だ。俺はシュウメイを払いのけた。


「……言っとくが、媚薬の類は俺に効かねえぞ」


 そう言うと、またもトウリンが口を開く。


「やっぱり……これもツバキちゃんに聞いた通りね……確か、毒も効かないんだっけ?」

「ああ。昔散々、仲間に盛られたからな。慣れちまった。毒のことはツバキからも聞いてると思うが、薬で俺を眠らせたかったら、普通の奴らを十人殺せる量でようやく俺が眠くなるくらいだ。

 媚薬を盛ろうと思ったら、それこそ、もう大変なことになるくらい入れねえと駄目だからな」


 まあ、今はEXスキルもあるから一切無駄だがな。やりたいとは思わないが、毒をそのまま食っても恐らく大丈夫だろう。

 というか、先ほどから、俺の力を試そうと色々してくるこいつらを見て、仮に、コイツ等が俺の敵だったら、すでに俺の怒りは心頭だな、と呆れてしまう。そうしていると、ツバキが口を開いた。


「そう言えば、ムソウ様に毒を盛っていた方……確か、ナツメ様でしたっけ?

 どんな方だったんですか?」

「何だよ、急に……」

「いえ、その方も遊女だったらしいじゃないですか。何となくこちらの三人と雰囲気が似ているってことは……?」


 ……ああ、そう言えば似ているな。俺の体で遊んだり、ミサキの言うところのえっちい恰好したりと、確かにナツメを思い出す。まあ、妓女だからな……。

 だが、どんな人だったかと言われるとなあ。そう頭を抱えていると、三人の妓女たちは俺の顔を覗き込んでくる。


「ムソウさんのお仲間の遊女ね……。確かに気になるかも」

「どんな人でしたの? 私より美しかったのですか?」

「どんなことされたの? すごく気になるわ……」


 三人は俺に思い思いにナツメのことを尋ねてくる。流石妓女。やはり遊女だったナツメのことは気になるか……。これは、まあ仕方ないだろうと思い、特に思い入れのある思い出を話してやることにした。


「仕方ない。では、話すとしよう。あれは、確か……」


 俺は、ナツメとゴウキの祝言を祝い、それからしばらくして、ゴウキに新築の家に遊びに来てくれ、と言われ、久しぶりに会いに行ったときのことを話した。


 ◇◇◇


 ナツメとゴウキの家は、タカナリの居る王都から離れた、元玲邦領にあった。ゴウキが玲邦を任されている分それは仕方のないことだったが、ナツメの方は大丈夫だったのかと聞くと、自分の管轄する医療機関をこちらに移したので問題ないとのことだった。

 それに、その時はアキラもすでにエイキと結婚し、興那に住んでいたからな。そちらも問題は無かった。


 そして、俺が家に行くと立派な屋敷だった。大きな庭があり、そこではゴウキと部下が鍛錬する場所でもあった。建物は母屋の他にもう一つ大きな建物があり、そこではナツメが仕事をする場所だった。

 俺はいつも通り、ゴウキと手合わせという名の遊びをしたあと、ナツメの仕事場へと向かった。そこは、行く度に、大陸から集められた薬が置かれており、薬屋特有の独特な臭い立ち込める場所だったのをよく覚えている。


 俺が仕事場をのぞくと、せっせと仕事をしていたナツメは手を止めて俺を迎えてくれた。


「あら、ザンキさん。主人との遊びはもうよろしいのですか?」

「アイツ、馬鹿力だからな。殴られたところが痛い痛い……」

「それは……まあ、お二人とも好きでやっていることですからね。……少々お待ちください」


 ナツメはそう言って、白い布にドロッとした緑色の軟膏を塗る。そして、それがさすっていた場所へと貼った。


「これでよし、と。ザンキさんなら三日もすれば痛みも張れもなくなると思いますよ」

「おう。いつもすまないな」

「いえいえ……」


 そう言って、ツバキは俺に茶を差し出した。俺は茶を飲みながら、ナツメとゴウキを見ていて思っていたことを率直に聞いてみた。


「いやしかし、お前らが結婚するとは思わなかったな。最後の闘いの時はそんなこと微塵も感じなかったが……」

「だって三か月も求婚されれば流石に……ね」

「にしては、まんざらでもないようだが?」

「フフ、そう見えます? まあ、確かに私のことを一番に大切にしてくださるのは本当にありがたいことですからね……」


 ナツメは、窓の外に見える、鍛錬中のゴウキを、笑みを浮かべて見ていた。皆から聞いた話だと、ナツメは人に尽くしている分、自分に最大限尽くしてくれるゴウキのことを知らず知らずのうちに好きになっていたと言う。

 いい形で結婚したもんだと思い、二人を祝ってやったが、その時に言っていたのが、薬の実験にちょうどいいだっただけに少し不安だった。ナツメならやりかねないと思ったからな。

 まあ、それでもこれだけ幸せそうなら、俺の方からは何も言うまいな……。


「幸せそうで何よりだ。俺もお前らを護るために頑張らねえとな」

「はい。そこはお願いしますよ、“無双の傭兵”さん!」


 ナツメはこちらを振り向いてにこりと笑う。その異名、なかなか使われることがその時はまだ無かったので、少し恥ずかしくなり、茶をすすった。


「そう言えば、ザンキさんは再婚などは?」


 ナツメは少し言いづらそうにそう言った。俺はしばらく考え込み、きっぱりとした口調で口を開く。


「いや、全く考えていない。俺が愛しているのはサヤだけ。昔も今も、これから先もな」

「そうですか……」


 俺の言葉にナツメは残念そうに、だが、どこか納得した様子で頷く。俺が今やっているのは大陸中を回る傭兵だ。何かあったときに傍に家族が居ないというのはやはり辛い。

 もう、あんな思いはしたくないからな。それに俺に恨みを持っている人間は多い。俺に家族を持つっていうこと自体が少し間違いかも知れないと、その時はそう思っていた。


「だがまあ、なんと言うか、今はお前たちが家族みたいなものだからな。寂しいことは何も無いし、お前たちを護るために大陸中を回っていると考えたら、辛いことも無い。

 だから、今のままでも充分幸せなんだよ」


 そう言うと、ナツメの表情は徐々に明るくなる。俺にとってはタカナリもハルマサもナツメもアキラもトウヤもツバキも、他の皆も大事な仲間であり、家族同然だ。今はこいつらを護っていることを実感するだけで、俺が生きているということを実感できる。

 皆がそうしてくれたんだ。そのことに何時までも感謝しようと思っている。


 俺はさらに茶をすすりながら、


「幸せの形ってのは人それぞれだ。次はお前らのガキが出来た頃にでもまた祝いに行ってやるよ」

「……ふふっ、そうですね。その時はお願いします。そうとなれば、私も頑張らないとね!」


 子作りをか? とは聞かない。それは、何となく駄目だと直感で思った。だが、俺の考えを察したのか、ナツメはこちらを見てにやにやとしている。こいつ、こういう時は遊女っぽくなるの本当にやめて欲しい。


 ……ふと、茶をすすっていると、何か、違和感に気付く。体が少し熱を帯びたように熱くなり、ジトっと汗をかきだした。

 その時、ナツメは俺の様子を見て、わずかだがハッとした。その一瞬を俺は見逃さなかった。


 ……こいつ、やったな? と思い、ひとまず……


 ―死神の鬼迫―


 俺は殺気を向けつつも笑顔でナツメに寄っていく。ナツメはビクッとし、半笑いの表情で俺を見ていた。


「……何か……したか?」

「い、いえ……別に……」

「……そんなわけないよな? 俺の体……今おかしいぞ?」

「それは……」

「ナツメ……今の気分だと……俺はお前を襲っちまいそうだぞ? ……そっちの意味じゃなく、本当の意味で……」

「ど、どっちの意味かしら……って、ザンキさん? 拳をしまってはいただけませんか?」

「ん? ……ああ、悪い悪い、癖なんだ……気にすんな。……それで……何入れたんだ?」


 怯えるナツメに近づきながら詰問する俺。正直症状で大体答えは出ているが、確認のためだ。

 それに仲間であり、家族同然でもあるナツメならごまかさずにきちんと言ってくれることを信じていたからな。

 だが、ナツメは口を割らない。このままだと仕方ないので、更に殺意を強める。


「ゔ……ざ、ザンキさん? あ、あの~?」

「最後の質問だ……何入れた?」


 ナツメの顔にグイっと近づいて問いただした。すると、ナツメは震えながら、観念したように口を開く。


「び、媚薬をお茶の中に……薄めるものを原液で――」


 ゴツン!


 ナツメの答えが言い終わらないうちに、俺は鉄拳制裁を加える。そして、殺気を解くと、ナツメは、あ~……と言いながら殴られたところをさすっていた。


「……ったく。ゴウキにはしてないみたいだが、俺に毒を盛るなんて相変わらずだな」

「うぅ……ひどいですよ、ザンキさん」

「さっきの軟膏でも塗っておけ」


 そう言うと、ナツメはケロッと笑って、は~いと頷く。そして、頭を氷で冷やしながら口を開いた。


「……ふう、こうやってザンキさんに怒られるのもなんだか、久しぶりな感じがしますね」


 確かになあ、と俺も納得する。それだけ、ナツメとも会っていなかったわけだからな。

 ナツメだけではなく、その時は、ハルマサ達にも当分会っていなかった時だった。あれだけ、いつも一緒に居た時は、毒を盛ってくるナツメ、事あるごとに喧嘩を売ってくるハルマサ、トウガをけしかけてくるアキラ、いつの間にか、俺の側に居るツバキに、頭を抱えていたものだが、それも無くなると少しだけ寂しくも感じて、苦笑いした。


「……フッ……ああ、そうだな。何となく懐かしいや。

 ……だからと言って、今後はもうするなよ!」


 ナツメの言葉に笑っていると、ますますニヤニヤしだしたので最後にそう言っておく。だが、ナツメは、は~いといつも通りの気の抜けた返事をした。

 こりゃ、またやる気だなと思いながらも、久しぶりの仲間とのやり取りはやはり嬉しかった、俺だった。


 ◇◇◇


「……まあ、その後も俺が家に遊びに行く度に飯を出しては、毒を盛ってきて楽しんでいたな。俺は怒ったが、そのおかげで俺はさらに毒に強くなり、ナツメは薬の効果を測ることが出来て良かったと、何とも微妙な感じになっていったよ」


 と、言いながら媚薬入りの酒をグイっと飲み干す。……うん、これくらいの量ならスキルが無くても、何の問題も無いな。少し甘みが増して美味いくらいか。

 ツバキや妓女たちは呆気に取られて俺を見ていた。


「……ムソウ様への悪戯にしては過激ですね、その方」


 ツバキがぽつりと呟く。旅の間中いつも悪戯してきたこいつでも流石に何も言えないようだ。

 そりゃそうだ。俺じゃなかったら国が傾く勢いで人が死んでいるからな。そういった意味でのナツメは、「傾国の美姫」ってやつだな。……まあ、その分傷を治してくれていたから、良しとしていたが。


「それで、ナツメって人はどれくらい美人だったの?」


 シュウメイがグイっと俺を引っ張ってそう聞いてきた。こいつはナツメの容姿くらいしか興味が無いらしい。少々鬱陶しいので、正直に答えることにした。


「……正直アンタよりは美人だったよ。更に言えば煽情的な面でもあいつの方が上だな。

 口では言えないような、どことなく不気味な妖しい色気を漂わせていたからな。

 まあ、身近にそんな奴が居たこともあるし、妻も居たからな。悪いがそういう手は俺に通用しないし、好かん」


 俺の手を握り、いつの間にか俺の胸のあたりに手を伸ばしてきたシュウメイを払いのけながらそう言った。シュウメイは、ああん、とか言いながら俺から離れる。

 俺は落ち着いて酒を呑んだ。すると、今度はシュンカがグイっと顔を近づけてきた。


「じゃあ、ツバキちゃんとその、ムソウさんの奥さんとでしたら、どちらが好みかしら?」

「ゴフッ!!!」


 シュンカの質問に思わず咽てしまった。急に何聞いてんだ、こいつは。何で今、こいつとサヤなんだよ……。

 ふと、ツバキを見ると、優しく微笑みながら、俺の顔を覗き込んでいる。


 これは……外見だけで決めても良いんだよな……。

 しかし、サヤとツバキか……。何て答えれば良いのだろうか。サヤは愛くるしいというう意味で可愛かった。大人になってからも少女のようなあどけなさは抜けず、思わず抱きしめたくなるようなそんな印象だ。

 ただ、ツバキの方も似たような感じか。普段は真面目そうなのに、悪戯したり、からかったりするとき、まさに今なんかは、どちらかと言えば、お姉さん、という雰囲気を纏っている……俺の方が年上なのに……。


 ああ……そう考えたら似てんな、雰囲気は。

 そして、考えれば考えるほど、妙に恥ずかしい気持ちになってくる。早くこの場を切り上げたいと思い、一つため息をついて、口を開いた。


「……お前らは桜と梅を比べてどちらが綺麗か判断すような人間か?」

「……と、言いますと?」

「甲乙つけがたいってことだ。サヤも可愛かったし、ツバキも同じくらい……美人だ。比べることなんて出来ねえよ」


 そう言うと、シュンカはニヤッとして、なあ~んだ、と頷く。シュウメイもトウリンも悪戯っぽい笑み浮かべている。

 ……はあ……満足かよ、お前ら……。そう思いながらツバキをチラッと見ると、変わらずこちらを見ながらニコッと笑った。


「……最上のお言葉です」


 ツバキはそう言って、俺に酒を注ぐ。少なくともツバキは満足したようだ。


 ……比べられねえって。サヤとツバキなんて……誰か俺を斬ってくれ……。そんなことを思いながら項垂れていると、袖を引っ張る感覚がした。

 ふと顔を上げるとリンネが心配するような顔でこちらを見ていた。シュンカをどかせ、リンネを横に座らせ、頭を撫でる。リンネはニコッと笑って、部屋の隅の方に引いて、また、ちょこんと座った。


 もうリンネが一番で良いよ……。


 そう思いながら、また、飯を食い始めた。


 ◇◇◇


 その後も妓女たちの質問責めが続く。ツバキは一体こいつらに俺の何を話したのか……。

 そして、先ほどの話もあってか、サヤに関する質問も出始めて、正直参っている。

 ……あれ? これ、もてなされてんだよな。何で疲れが溜まっていくのだろうか……。

 とりあえず、俺が迷い人であるということは知っているらしい。だが、EXスキルについては知らないようだ。その辺りはツバキに感謝しながら、何とかごまかしながら答えていく。

 特に質問が多いのはトウリンだ。知識欲だけは、ここに居る奴らの中でもすさまじい……。


「それで依頼はどうやったの? 噴滅龍とか破山大猿とか……」

「……まあ、倒せたのは運が良かったと考えているな」


 正直、余裕だったがな。ただ、それも神人化や、すべてをきるものあってのことだ。黙っておこっと。

 トウリンは、ああそう、というように納得しないような顔で頷いている。流石に他の客に俺のことを話すとは思えないが、万一のこともあるからな。スキルについては隠すことにした。


 シュンカは俺とツバキの関係についての質問が多い。数は少ないが、トウリンよりも参っている。どう答えればいいのか分からない質問ばかりだからな。


「ムソウさんは旅の間中ツバキちゃんと一緒だったのよね? 何にも思わなかったの?」

「いや……まあ……特には……」


 チラッとツバキを見ると、はあ、とため息をしている。ほらな、こういうことになるから嫌なんだよ……。


「それで、ムソウさんがどういう子が好みなの~?」

「好みというか……サヤの時は、気が付いたら好きになってたって感じだよなあ」


 シュウメイは主に、俺の好みについて聞いてきたりする。俺がそう言うと、素敵~とか言いながら体を振り、頬に手を当てている。少し甘い強めの香水の匂いが鼻をつく。

 ……ちなみに何度も言うが、こういう女は苦手だ。見境なく色目を使う女は好かない。まあ、こいつは妓女だからそのあたりは仕方ないがな。


「じゃあさ、四天女の中だと誰が一番好み?」


 シュンカはそう言って、シュウメイ、トウリンと共に俺の正面に並んで座った。値踏みしろってか……。

 ああ、こうしてみると、シュウメイがやはり人気なんだろうなと思う。ゴウキなんぞはすぐに飛びつきそうだな。欲望猛々しい男どもは、地味にお金を貯めてはこの女と一夜過ごすことを夢見るのだろう。

 シュンカもシュウメイには劣るものの、やはり綺麗な体をしている。先ほどの舞も素晴らしいものだったが、あれを見るためなら皆も頑張っても仕方がないとは思うな。

 そして、トウリンの方は、そこまでの色欲も感じないし、本当に知識欲の塊みたいな女だ。見た目も二人には多少劣るものの、どこか貴人のような雰囲気と知的な雰囲気もあり、充分美人だなとは思う。アキラには悪いがエイキの隣に似合いそうだ。


 正直、この中だと……って……


「そういや、四天女のもう一人は? そいつも居ねえと比べようがないだろ」


 そう言うと、それもそうね、とシュンカは立ち上がり部屋を出て行った。しばらくすると、他の四天女に比べて、いやに豪華な着物とかんざしを付け、眼鏡を外したナズナがシュンカの後ろに続いていた。化粧を施したナズナは俺と目が合うと、ニコッと笑い、


「お待たせいたしました」


 と、言ってナズナは一礼する。

 ああ、やっぱり四天女の最後の一人はこいつだったか。高天ヶ原のことを任されているから客取ってるんだろうな、とは思っていたが、確かに四天女としてやってれば、そこまで客を取ることも無いか……納得。


 しかし、こいつは眼鏡外しただけでここまで色気が増すんだな。しかもやたらきらびやかな恰好の所為でさらに美人に見える。

 しばらく眺めていたが、ずっと立たせるわけにもいかないと思い、ナズナに手招きした。


「おう。突っ立ってねえで、お前もこっち来いよ。ナズナ」


 そう言うと、ナズナは頷いてこちらに来る。すると、他の四天女とツバキはパッと俺の顔を見てきた。


「ムソウ様? 四天女のお一人がナズナさんということご存じでしたか?」

「そんなわけねえだろ。俺ここに来るのは初めてだろ……」

「驚かれないんですか? ナズナさんですよ?」

「いや、特には……高天ヶ原の管理を任されてるんだから、実際妓女くらいはやるだろうとは思っていた」

「いえ、そうでは無くて……」


 ツバキの質問に答えるが、ツバキは俺の答えに満足していないようだ。更に何か聞こうとしているが、なんと言えばいいのかと悩んでいる。するとナズナがフフッと笑って、口を開いた。


「ムソウさん、これだけ美人になったのによく私だって気づきましたね?」


 自分で何、美人だって言ってんだろう、こいつ。まあ、いつもに比べるとだがだいぶ綺麗になったとは思うが。

 ふと、ツバキを見ると興味ありげにこちらを見ている。ああ、聞きたいこととはそういうことだったか。


「別に見てくれが変わっても分かるだろ。姿勢とか雰囲気とか……後は気配でな」


 外見が変わってはいたが、ナズナの少し急ぐような足元だったり目元はそのままだ。されに言えば声も。

 すぐにナズナだとは気づく。そう言うと、ナズナは微笑みながら頷いた。


「ふぅ、流石ですね……ところで今は何の話を?」


 ナズナが、俺達を不思議そうに眺めていると、シュンカ達が、俺に四天女で一番は誰かというのを決めて貰っているという話を説明しだす。

 ツバキは俺にどうやったら、そうやって人のことを見抜けるようになるのか、と聞いてきた。


「前にも仰っていましたよね。人の気配が分かるって。どうしたらそれが……」

「まあ、人の仕草ってのは、よく見たらその人にしかないものの方が多い。人間観察しっかりしてれば、いずれ出来るようになるさ」


 まあ、俺の場合は、周りはすべて敵だと思いながら、常に警戒を怠らなかった生活が続いたから、そうしていただけだがな。


「それから人の気配が分かる件については、小さい頃から戦場で育ったようなものだからな。人が俺の殺意に怯えるように、俺も人からの殺意を感じることが多々あった。

 最初は殺気だけだったが、それは段々と、人の殺意の他に、怯えるような感情や、闘いや殺しを楽しんでいる感情なども分かるようになっていったってわけだな。

 ……まあ、これに関してはほとんど正確じゃないから身に着ける必要はないが、死角からの奇襲には備えられることが出来るから、色々と便利だぞ」

「でしたら、身につけるには常に戦場に居ろと?」

「いや、恐らくマシロで騎士団と鍛錬した時に、俺がやらされていたように多人数を相手に鍛錬すれば出来るんじゃねえのか?

 周りは敵だけという状態だと、その分、神経は研ぎ澄まされるからな。その感覚を使えるようになるのが、最初の目標だな。

 次に足音やにおいなど、五感で感じられるもの全てを使って、人間を特定させることが出来れば、後はそいつらからの殺気などを感じるようになる、と思うんだがな……」


 正直な話、俺もこの特技をどうやって身に着けたのか分からない。だから、教えられることは何もないと思っているが、ツバキは、真剣にうんうんと頷きながら聞いてくれていた。


「なるほど……こうやって順序だてて説明されるとわかりやすいですね……。

 しかし、ムソウ様はやはりこういう手のお話の方が、よろしいようですね」


 まあな、とツバキの言葉に頷く。自分でもわかっている。今日一番饒舌になっているなと。ツバキは真剣に強くなろうとしているのはわかっている。熱心に話を聞いてくれるからな。そこまでされるとつい俺も喋ってしまうってものだ。


「そう言えばムソウ様はクナイなども使われていますよね? どこかで習ったのですか?」

「ああ。無間だけではどうにもならない時というのはあるからな。例えばこういう室内だったり、狭い場所は無理だ。更に今は斬波や気功スキルを使えば何とかなっている、離れた敵の対処などはどうしても、ああいったクナイや鉤縄が必要になってくる。

 無間を投げるわけにはいかないからな。そう思って、独学でやり始めたのがきっかけで、誰かに習ったと言えば、ツバキ相手によく練習していたな……」

「……あ、前の世界の、ですね。……すごいですね。ムソウ様に武器術を指南できるほどとは」

「ああ。だが、アイツの場合は手数は多いが、中途半端というところが問題だった。いわゆる、おけらの七つ道具って奴だな。戦では何とかなっていたが、それでも通用しないときは俺やハルマサ、ゴウキたちでツバキを援護していた。

 お前も刀以外の武器を使う気なら、刀と同じくらいに扱えるように鍛錬した方が良いぞ」

「はい、分かりました」


 ツバキは強く頷いている。コウカンも槍と剣の両方を使っていたし、ナズナもショウブも、自分の得物以外のものを使っていたくらいだ。周りにそんな奴らが居るのなら、ツバキにもきっと出来るだろう。


「あ……あの、ムソウさん?」


 ふとナズナが口を開く。ナズナは他の四天女と並んでこちらを見ていた。


「盛り上がっているところ申し訳ないのですが、そろそろ誰が好みかを教えてもらえませんか」

「ん? お前もそういうの、気にするのか?」

「あ、いえ、そういうわけでは……ただ、ここまで来ると私も気になってしまって……」


 俺は一つため息をつき、ナズナの言葉に頷いた。すると四天女は微笑み、改めて俺の顔をジッと見てくる。

 正直、早く決めてやらねえと、帰れそうにもないので、俺は率直な考えを口にした。


「……この中だと、トウリンだな。男に媚びねえ雰囲気はいいと思う」


 そう言うと、ナズナ、シュンカ、特にシュウメイはガクッと肩を落とし、トウリンはニコッと笑って、一礼した。ツバキは少し小声で、やはり、と呟いている。

 トウリンはここまで俺に色目を使ってこなかった。シュウメイやシュンカのように体を引き寄せたり、ナズナのように普段と違ってきらびやかな着物を着て自分を偽るような真似はしていない。まあ、それも花街とギルドを行き来する上では仕方のないことなんだがな。

 一方トウリンのやり方は、少しおかしいなと思うところはあるが、純粋に自分の知識欲を満たすために俺の話し相手をしてくれている。そこは、良いところだなと思った。


「ありがとうございます、ムソウさん。……さあ」


 そう言ってトウリンは俺に酒の入った水差しを向ける。


「飲まねえよ。どうせ媚薬入りだろ?」


 トウリンの酒を断り、ツバキに酒を注いでもらった。トウリンはクスっと微笑み、流石、と一礼した。


「はあ……私の舞も、シュウメイの体を見てもムソウさんはなびきませんか……」

「次からは内面を磨こうかしらね……」


 シュンカとシュウメイは肩を落としたままそう呟いている。ぜひ、そうしてくれと心の中で願った。

 次、俺がここに来ることがあれば、の話だがな。妓女としては申し分ないとは思っている。どちらもさすが、ここで頂点を張る妓女だなというのは納得しているからな。そのあたりは引き続き頑張って欲しいものだ。


「私は……どうしたら……」


 ナズナも畳に手をついて、ガクッとしている。こいつはそこまで一番になろうと思っていなかったよな、と思っていたが、内心そういう野心があったのかと呆れた。

 ただ、俺をもてなす宴会でそこまで気を落とされると俺が気を遣ってしまうので、取りあえずなぐさめてやった。


「お前は普段のままの方が良い。あまりきれいなものを着るとお前自身の美しさってもんが、霞んでしまうからな。

 まあ、他の客の手前、いつもはそうした方が良いかもしれないが、次、俺が来るときはそんな格好なんてしなくて良いからよ」

「わ、私が美しい!? わかりました! 以後気を付けますね! ムソウさん!」


 俺の言葉にガバっと身を起こして、表情を輝かせるナズナ。まあ、いつ来るかは分からないが、取りあえず、おう、とだけ返事をして、何とかこの場は落ち着いた。


 その後も宴会は続く。今度は先ほど踊らなかったナズナとツバキが前に出て舞を始める。内容は百年戦争を表現したもので、終戦のきっかけとなった冥界の王閻魔の娘、コウカの物語という内容である。

 ナズナの詩に合わせてツバキは踊っている。演奏の方は、なんとリンネがしている。相変わらずすげえ奴だなと思いながらしばし舞を見ていたが、やはりよく分からん。首を傾げていると、トウリンが説明してくれる。


 この舞は、序盤は暗い冥界で、大地で続いている争いで、死んでいった魂たちにコウカが祈りを捧げているところから始まる。

 その後、コウカは衰弱の末倒れてしまうが、その時、時の人界王、シンラに出会う。人族と鬼族は敵対同士、コウカはシンラに刃を向けるが、その時、コウカの、どうにかしてこの争いを止めたいという願いを聞き、二人で手を取り合うことになった。

 その後、二人の尽力で手を結んだ人族と鬼族は神族を天界に追い返し、封印。シンラとコウカは結ばれ、平和な時代が訪れる。

 二人は平和な世界で人々を導いていき、最後はお互いに天寿を全うした……というのが内容らしい。


 なるほど、内容を聞くと確かに見え方が変わってくるな。祈りを捧げるツバキの表情ははかなげでとてもきれいなものだった。そして終盤、シンラを看取ったコウカはやがてそこに膝をつき、手を合わせたところで、リンネの演奏とナズナの詩が終わり、舞は終わった。


「……ん、終わりか? なんで祈りが通じたのに、最後また祈って終わりなんだよ」

「あら、ムソウさんったら、女心が分からないのね~。コウカ様はいわば大地に住まう全ての者達の母になったの。

 子供たちや、その後も続くであろう私たち子孫たちのために、最期の時まで大地の平和を願っていたに決まっているじゃない」


 ああ、なるほど。中途半端な終わり方だったので驚いたが、そう言われて納得した。死してなお、先の未来のためにも祈るか。優しい奴だったんだろうな。

 そんな奴が妻だったんだ。シンラも幸せ者だよ。最後までそばに居てくれていたんだからな。同じ死でも、こういう夫婦の死に方というのは何となく良いな。……うちとは大違いだ。


 さて、舞を終えたツバキたちは俺の元に戻ってくる。ツバキとリンネは俺の横に座ってこちらを見てきた。


「どうでしたか?」

「……」

「ああ、綺麗だったよ、ツバキ。それにリンネも、上手だったぜ」


 そう言って、二人の頭を撫でてやった。リンネは嬉しそうにして俺に抱き着いてきて、ツバキはありがとうございます、と言って身を寄せてきた。


「ふう……本当に綺麗に舞うよね、ツバキちゃんは」

「そうそう。最初に見せられた時、驚いちゃったもんね。これじゃあ、ムソウさんから預かった子に確実に客がつくって言って、他の客の前では躍らせないようにしたんだから」

「リンネちゃんもよ。一度聞いただけなのに、すぐに演奏しだした時は驚いたわ~」


 シュンカ、シュウメイ、トウリンは口をそろえて二人を褒めている。舞をよくわからない俺が見ても綺麗だなと思ったツバキたちは、ここに来た初日にこれを皆の前でやったという。

 その舞を見た、ナズナ始め四天女の皆は、確実に客の目に留まるだろうと思い、ツバキを客の前に出すのを辞めたという。


「てことは、俺だけのもてなしってか?」

「そういうことになりますね。これは他の方には見せられません!」


 俺の問いかけにナズナはそう言って胸を張る。ツバキやリンネを他の客の目に留まらせないようにしてくれたことにも感謝するし、何より、俺にしか見せてくれない舞の披露。俺はさらにツバキとリンネの頭を撫でた。


「ありがとう、二人とも。最高のもてなしだったよ」

「はい……」

「……!」


 二人は俺の手の中でニコッと笑った。その様子を四天女は微笑ましく見ている。ふと、トウリンが、


「一番はやっぱりこの二人ね……」


 と、呟いていた。


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